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インハイ後。夏休み。清澄高校旧校舎。
咲「へー。優希ちゃんは、自分が京ちゃんに大事にされてないって思ってるんだー」
優希「だって。のどちゃんにはいつもでれでれしてるし、咲ちゃんはお姫様扱いだけど、私の扱いだけぞんざいなんだじぇ」
和「貴女の姿勢に問題があるのでは――」
優希「ぐはっ。のどちゃん、私との友情はなんだったんだじぇ」
和「はいはい須賀君が悪いですねなんて、不誠実なこたえはできません」
咲「和ちゃんはそう答えるよね」
優希(咲ちゃんとのどちゃんは仲が良いじょ…… ふたりは私より麻雀強いし、頭もいいし、京太郎との距離だって……)グスン
咲「ねえ、優希ちゃん。ちょっと私のうちに来ない? 京ちゃんのことで言いたいことがあるの」
優希(京太郎のこと。もしも身を引けって話なら……。咲ちゃんが強敵でも、不戦敗だけはしたくないじぇ)
和「咲さん、その話、私もうかがっていいですか?」
咲「和ちゃんも、京ちゃんの話に興味があるの?」
和「ありますよ。同じ部活の仲間なんですから」
優希(いまのフェイントはちびりそうだったじぇ。もしのどちゃんもあいつを好きだったら)
和「正直なところ、どういう風に接していいのか、いまだに戸惑っているんです。須賀君はまったく――いえ、あまり悪くはないのですが」
咲「京ちゃんがちょっとだけ悪いところはおっぱい属性かな」
和「はい」
優希(咲ちゃんや和ちゃん、あいつを好きかはわからないけど。ずいぶん信用してるんだな。胸に目が行く癖以外に悪いとこはないって言い切れちゃうくらい)
咲「それじゃあ、今日の部活後でいいかな。私の話はすぐ終わるから」
和「はい」
咲「優希ちゃんも? なんか黙り込んじゃったみたいだけど」
優希「お、おうっ。どんとこいだじぇっ」
宮永家前
和「ここが咲さんのおうちですか」
優希「これからは外で迷ってる咲ちゃんを見つけても安心だなっ!」
和「もう少し目立つように装飾してみたらどうでしょう」
咲「友達の家について、ほかになにかコメントはないのかな。それから、和ちゃんは、美人で優しくて物知りで頼りになる人だけど、ジョークのセンスだけはないと思うよ」
和「のどっちジョーク。ネット麻雀の掲示板ではバカ受けなのですが」
咲「インターネットの暗黒面はんたーい」
優希「バカ受けって表現もセンスないじぇ」
咲「うちにあがる前に、ちょっと寄り道に付き合ってくれるかな」
優希「咲ちゃん、大丈夫なのか?」
和「スマートフォンという便利なものがありますよ」
咲「心外だよ」
和「これはのどっちジョークではありません」
咲「ジョークであってほしかった」
優希(のどっちジョーク、のどちゃん気に入ってるのかな?)
咲「通りをずっと行った先に、ちょっと大きな家が見えるでしょう」
優希「なるほど。あれが京太郎のうちかっ」
和「さすがに見えるところで迷うわけがないですね」
咲「そうだよ。迷ったことはないよ」
(たんぼに落ちて半日這い上がれなかったことがあるだけで)
てくてくてく
和「これは旧家というものですか」
咲「庄屋さんだったみたいだよ」
和「農地解放とか大変だったでしょうに」
咲「さあ。不在地主以外はどうにでもできたんじゃない?」
優希(会話についていけないじょ…… 偏差値の差を感じる)
和「改装の形跡のある木造2階建て、規模は東京なら豪邸に入る部類ですね。周りは畑で、
塀とかはなくて、玄関前にはワンボックスカーと軽トラが1台ずつ停まっています」
優希「そののどっちジョークは、Youtuberごっこか?」
和(こくこく)
和「敷地の奥の方を見てみると、池がありますね。残念ながらカピパラさんはいまはいないようです。
それから、外の畑とは違う手作りっぽい吊り棚とかは、家庭菜園でしょうか」
咲「和ちゃん、気づいた?」
和「実がなっているのはトマト、ズッキーニ、かぼちゃ。どうやら夏野菜がメインのようですね。
すでに刈り取ってしまった部分も多いようですが、こちらに積んである茎や葉からすると、とうもろこしが植えられていたようです」
咲「京ちゃんトマトとかはよくおすそ分けしてくれるんだけど。
とうもろこしは、去年はなかったし、今年もくれなかったんだよね」
優希「咲ちゃん、それって……」
咲「ズッキーニ、京ちゃんから貰ったらピクルスにして、半分くらい京ちゃんちに返すの」
優希「入ってた。京太郎のタコス、ズッキーニのピクルス入ってたじぇっ。咲ちゃん、ありがと」
咲「京ちゃんにあげたものがどうなっても私は知らないけど。
優希ちゃん、ほかに感謝するべき人がいること、わかってるよね」
和「とうもろこしの生育期間は2~3ヶ月。5月に植えるとインハイに間に合う計算になります。
インハイ合わせで作ってたから、全て刈り取り済というわけですね」スマホポチポチ
優希「咲ちゃん、のどちゃん、恥ずかしいじぇ、にやけ顔が止まらない。
私、最高に大事にされてたんだ。勝手に嫉妬して、トゲトゲして、ごめんっ」
和「嫉妬ですか。私には、須賀君とゆーきはとても親しく見えますが。私も羨ましく思っているんですよ。
ゆーきみたいに須賀君と親しくなれたらって」
優希「のどちゃんも、京太郎のことが好きなのか?」
和「嫌いになんてなれません。私の大切な人たちを、こんなに想ってくれる人なんですから」
カン!