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  京太郎「AIR?」桃子「存在感が空気って意味っすね」  咲が入部したことで、念願の県大会団体の出場権を得たと盛り上がる清澄高校麻雀部。 久「咲が入部してくれたお陰で、ついに念願の県大会に出場できるわ!」  感慨深く、現実だと噛み締めるように呟いたのは、麻雀部部長の竹井久。  三年になるまで、まともに大会へ参加することもできなかっただけに、その感慨もひとしおだろう。 久(東場に限定されるとはいえ、壮絶な火力を誇る優希に全中王者の和、そして一度見た場なら対応できるまこ、そして……咲! 私をあわせてこれで五人……これなら県大会いいとこまでいけそう……ううん、いくわ!)  相槌を打ちながら、眼鏡の少女――染谷まこは顎を撫でながら同意する。 まこ「腕が鳴るのう」 優希「私達の強さ、長野のみんなに思い知らせてやるじぇ!」 和「頑張りましょうね、宮永さん」 咲「う、うん!」 久「大会まであと少し……さあ、みんなの気持ちを一つにして練習するわよ!」  狙うは県大会優勝。  野望に燃える久に、とある少年が水を刺したのは丁度その時。 京太郎「あのー、部長」 久「なーに、須賀君? あ、さては女子団体の練習ばかりで、自分が放っておかれないか心配してるのね?大丈夫よ!ちゃんと男子個人戦に向けての特訓メニューも考えてあるし、分からないところは私達でちゃんと教えてあげるから!!」 京太郎「あの、お気遣いはありがたいんですけど……すんません、バイト先から急にシフトに穴が空いたからヘルプに入ってくれ、って連絡が来ちゃいました」 久「え」 京太郎「……なんか、すみません」 久「……うぅん、大丈夫。私、別にショックとかじゃないから」 まこ(むちゃくちゃヘコんどるぞ、部長) 優希(そういえば昨日、これならイケるとかニヤニヤしながら練習メニュー作ってたじぇ……) 咲「ていうか京ちゃん、アルバイトなんてしてたんだ」 京太郎「…………先週始めたばっかだけどな」 まこ「なんじゃ、小遣いでも欲しかったんか?相談してくれれば、ウチの店で働いてもらったんじゃが」 京太郎「いやいや、染谷先輩のお家、初心者ご遠慮な雀荘じゃないですか。んなとこで俺が働いたら、代走で確実にタダ働きになりますって」 優希「言えてるじぇ! 京太郎はヘボヘボのど素人だもんな!」 京太郎「…………ああ、そだな」 まこ「これ、優希。代走で負けようがなにしよーが、ちゃんと払うもんは払うけん、次のバイトを探す時はわしに相談するんじゃぞ」 京太郎「はい、その時は是非」 和「そういえば、急にシフトに穴が空いたと言っていましたが、風邪でもひかれたんですか?その休まれた方」 京太郎「んー……なんか、店長の話だと『店で幽霊を見た。もうこんなところで働けるか、俺はもう仕事やめます!』、とかなんとか」 まこ「え」 優希「え」 咲「ゆ、幽霊!? 京ちゃん、そんなお店で働いて大丈夫なの!?」 和「幽霊なんて、そんなオカルトあり得ません。大方、疲れからきた幻覚かなにかです」 京太郎「まー、俺もそんなとこだろうって思うけど…………ちょっと時間ヤバイから、もう行くわ」 咲「あ、うん……じゃあね、京ちゃん。また明日」 和「アルバイトも大事ですけど、個人戦に向けての練習も忘れないでくださいね」 まこ「あんま頑張りすぎんようにな」 優希「バイト代出たらタコスおごれ!」 京太郎「へーへー。それじゃ、お先に失礼しまーす」 まこ「………………行ってもうたのー。もうすぐ県大会じゃいうのに、困ったもんじゃ」 和「シフトに穴が空いたのは、須賀君のせいじゃないですけど、ね」 優希「大会への情熱が足りないじぇ」 久「…………」 まこ「まだヘコんどるんか、お前さんは……」 久「男の子だから力仕事平気よね、って雑用やらせすぎちゃったのかな……」 咲「あ、地味に気にしてたんですね」 和「嬉々としてやらせてるものだと……」 久「……みんな、ヒドイじゃない」 まこ「普段の行いのせいじゃろ」  そんなこんなで、県大会が近い時期。  京太郎が、思うところあってアルバイトに勤しんでいたら……なんていう、くっだんねーもしもなお話。 京太郎「なんか部長に悪いことしたな……あれ、ケッコーへこんでたぞ」  バイト先へと急ぎながら、ガックリと肩を落としていた久を思い出して胸を痛める。  県大会も近付き、女子団体の練習メインで自分は暫く放置だろう、と考えて始めたアルバイトが裏目に出た。 京太郎「なんだかんだで、部長、俺をレベルアップさせようって思ってくれてたんだな」  毎度毎度の買い出しや雑用で、自分の立ち位置が便利な男子部員になっているものとばかり。 京太郎「まあ、みんなで教えてくれる言われてもなあ……」  部長にしろ染谷先輩にしろ、和にしろ優希にしろ咲にしろ……みんな、俺より格段に麻雀が強くて上手いので、高校から麻雀始めた初心者にはチンプンカンプンなのだ。 京太郎「牌効率を考えてとか、切り順で役とか聴牌臭を消せるのよ、とか言われても……メゲる」  正直、自分が麻雀部にいていいのかってぐらいに。 京太郎「でも、せっかく麻雀って面白いって思えるようになってきてんだし、ちょっとぐらい頑張ってみねーと」  県大会が近い時期、部活をサボってまでバイトに出るのは理由がある。 京太郎「……できれば、部長とかがなに言ってるのか理解できるぐらいになりてえなー、うん」  元プロ雀士が店長をやってる、商品を注文すれば自由に打っていい麻雀卓が置いてある喫茶店。  そこなら仕事しながらお客さんの対局を見れるし、たまに面子が足りないとこに代走で入って打つこともできる。 京太郎「咲達とやる時と違って、たまーに勝てたりするし……勝っても負けても、どうしてそうなったのか考えられるもんな……」  部活だと、なんで負けたのかすら分からん……。 京太郎「女の子に負けるのが嫌なんてことは言わねーけど、ちょっとぐらい見せ場が欲しい……なんて考えるのはカッコ悪いかな、やっぱ」  こんなこと言ったら、男の子ってバカねーと呆れられるな、間違いなく。 京太郎「………………っだー、ウダウダ考えても仕方ねーって!男の子は見栄っぱりなんですー!」 京太郎「さあ、バイトがんばろーぜ俺!」  駅近くの繁華街、その端に店を構えた喫茶店が見えた辺りで、ふと足を止める。 京太郎「…………幽霊、か。ホ、ホントに出たりするか?」  なんの心残りがあって、喫茶店なんかでウラメシヤをしてんだか……。 京太郎「これでその幽霊が、おもちの大きい美少女なら話ぐらいは聞いてあげるかも…………おはよーございまーす」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 桃子「――――今日も来てみたはいいんすけど、どうするっすかね……」  昨日は店員さんに声かけたら、「お化けー!?」とか悲鳴あげて逃げられましたし。 桃子「でもでも、ここの店長さんが作ってるケーキがまた絶品なんすよねー」  先輩達が一緒に来てくれたら、私の代わりに注文お願いできたんすけど……。 桃子「みんな都合が悪くて、昨日に引き続き一人でできるもん、というわけっす。いやぁ、ボッチは辛いっすねー」  誰かに聞かれる心配もないので、頭を抱えて大袈裟に嘆いてみる。  店の入り口前でそんなことをすれば、普通なら店員さんや他のお客さんに不審がられるんすけど……そうした心配は私には無用の長物。 桃子「我ながら感心してしまうっすね、自分の影の薄さには」  生まれつき、妙に人に気付かれにくい体質なんすよねー、と誰も聞いていないのに声に出す。  当然ながら、近くを歩く人が反応した様子はない。  ただ、無意識的に私を避けて歩き去っていく。 桃子「ぶつかられることさえ稀なのは、一体どーいうことなんすかね」  腕組みして、むむむと唸ってみる。  あれっすかね、コンビニで不良さんたちがたむろしないようにするモスキート音っぽいものを出してるとか? 桃子「ま、ここで悩んでてもしょーがないっすね!」  一度、食べたいと思ってしまうと、もう我慢が利かなくなるのが甘味の凄いところ。 桃子「私のお腹は今、ケーキを欲しているっすよ!」  故に、だからこそ、今日は店員さんに気付いてもらって、この喫茶店でしか食べられないバカウマケーキを食してみせる。 桃子「たのもー、っす」 ???「あ、いらっしゃいませー」  ベル付きの扉を開いてすぐ届く、店員さんの声。  ここまでは、どんなお店でも見かける光景。  でも、私の場合、ここからが違う。 ???「…………あれ、っかしいな、確かに戸が開く音したのに」 桃子「こーなるんすよねえ……」  ほんのちょっぴり、期待した分だけ肩を落とす。  いいっす、いいっす。店員さんは悪くないっすから。  悪いのは、ぜーんぶ存在感のウスウスな私っす。  キョロキョロと店内を見渡している金髪さんに笑いながら、とりあえず店の中を進む。 桃子「お、金髪さん代走してるっすね」  元麻雀プロの店長が趣味で置いてる麻雀卓を、近くにある学校の生徒さんと店のエプロンを着けた金髪さんが囲んでいるのを見て、傍へ寄ってみた。 ???「…………えーっと、どうすっかな」  他家三人がリーチした状態。そんな中で聴牌にこぎつけた金髪さんが、ツモった牌と手牌を見比べて悩んでいる。 桃子(どう考えても、ここはオリの一手っすよー)  こっそり覗いた感じ、無理に和了ろうとしたらどれ切っても直撃だし、現物で流局狙うべき。 さすがに助言はしないけど、「切っちゃダメっすー、切っちゃダメっすよー」と念を送っておくっす。 「ロン! 7700に3000ボーナス、っと」 ???「ああぁぁー……やっぱオリるとこだったよなー!」  結果は……華麗に放銃した金髪さんの跳びで対局は終了。 桃子「まあ、發・中・ドラ三暗刻は突っ張りたくなるっすよ、うん」 桃子「見た感じ、初心者さんっすかね」  馴染みのお客さんらしい人達にあれこれ教えてもらってる金髪さんに、どっちが店員さんか分からないと苦笑する。 「そいじゃ、俺ら今日はこれで帰るわ」 「またなー、須賀ちゃん」 「次来た時は、ちゃんとオリ覚えとくんだぜー」 ???「うーっす。ありがとうございましたー」  須賀ちゃん、と呼ばれた金髪さんはお客さんを見送った後、せっせと麻雀卓の周りを片付けていく。  その手際はなかなかのもの。  年期が入っているというか、手慣れたものを感じさせるっす。 須賀ちゃん「うーん、なんとなくヤバそうな牌はわかっても、張ってるとついなぁ」 桃子「気持ちはわかるけど、振り込んだらおしまいだから手を崩すが吉っすよー」 須賀ちゃん「ハアァ~、こんな調子じゃ……片付けは終わったし、給仕に戻るか。なんか対局やってた時、視界の端っこにチラチラーってブレザー着た女の子が見えた――――気がするし」 桃子「…………お?」 須賀ちゃん「えーっと、ど、どこだ……?」(ウロウロ 桃子(おお、偶然とはいえ私のことが視界に入ったんすね、この人。伝票持って探してもらえるなんて……ちょっと感激っす)(ウルウル 桃子「これはもう、思いきって声かけるしかないっすね……。済みませーん、店員さんコッチっす、コッチ!」(オーイ 須賀ちゃん「――――ん、あれ? なんか呼ばれた気がす………る」(オヤァ 桃子「えへへ、どもっす! 店員さん、注文いいっすか?」(ユラァ 須賀ちゃん「…………え」(ゴシゴシ 桃子「私のこと見えてるっすよね? いやー、店員さんに注文取ろうとして探してもらえたのは久しぶりで嬉しいっすよー」(ユラユラァ… 須賀ちゃん「み、見えてるっすよね……って」 桃子「言葉通りの意味っすよ?」(ユラーリ 須賀ちゃん「――――」(サーッ 桃子「もしもーし?」(ユラリィ 須賀ちゃん「う、うわあーーーーーーっ、で、出たぁっ!?」 桃子「ちょっと、人を幽霊みたいに言わないで欲しいっす!! 存在感はスッカスカかもしれませんけど、ちゃんと生きてるっすよ私!?」  そんな感じのボーイミーツガール、誰ぞ始めてみいひん?  

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