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「ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデートゥーユー♪
ハッピバースデーディアすっこやーん♪ ハッピバースデートゥーユー♪
すこやん誕生日おっめでとー! ついにアラフィフだね!」
「あ、ありがと……ってアラサーだよ! どんな年の取り方してるの!?」
11月7日は私、小鍛治健夜の誕生日である。
もう誕生日なんて喜ぶような年齢じゃないけど(むしろ恐れる年齢だけど)
こうして祝ってくれる人がいるのはやっぱり嬉しい。
「いやーでも京太郎君これなくて残念だったねー」
「平日だししょうがないよ。気軽にこれる距離でもないし」
実は私には高校生の恋人がいる。須賀京太郎といって、自分でいうのもなんだが結構恰好よくて優しい。
でも彼は長野に住んでおり、彼が学生であることや私が麻雀の大会で遠征がすることもあって中々会う機会がない。
今日も会えないのはちょっと残念だが、だからといって駄々を捏ねるほど子供ではない。
「でもわざわざホテルの部屋を借りる必要なかったんじゃない?
それに何か凄い大きな箱が見えてるし。
……もしかしてまた何か企んでない?」
「まあまあすこやん。たまにはこういうのもいいじゃん。
それにこれは私からの特別プレゼントだよ。中身は開けてからのお楽しみ♪
そうだ、プロの人達からもプレゼント色々預かって来たよ」
「本当?見せて見せて」
「えーっとまず藤田プロから膝掛け」
「おー」
「戒能プロからム○とかでよくある開運財布」
「こ、これは凄いね……」
「瑞原プロから磁気ネックレス」
「……」
「三尋木プロからお灸」
「なにこれイジメ!?」
「ねえ、なんというかプレゼントのチョイスが全体的に悪意を感じるんだけど
私何かしたかな……?」
「えっ」
「え何その『気づいてなかったの?』って顔」
「いやだってホラ、すこやんって結構他人に厳しいところあるじゃん」
「そ、そんなことないと思うけど……」
「ホラたとえばさ
『“打点は低いものの”和了率は驚異的ですね』(照に対して)とか
『“上手い下手はともかく”そこを得意としているようですね』(憧に対して)とか
いやーやっぱり元世界2位の国内無敗はレベルが違うよねーって……」
「いや別に他意とか悪気があったわけじゃないんだけど、え? ホント?
ホントに嫌われちゃってるのかな……」ブツブツ
(うわちゃーしまったー……ちょっとやりすぎたかも……)
「わ、私これから次の仕事の打ち合わせがあるから! そんじゃ!」ガチャン
聞いてしまった。うわぁショック~。
いや本当にショックだった。まさか誕生日にこんな思いにさせられるとは考えてもみなかった。
最悪の誕生日プレゼントを受けて、私は彼のことを考えていた。
「はぁ」
「会いたいな……京太郎君……」
会いたい。彼に会いたい。会ってどうという話ではない。ただ一緒にいて欲しかった。
それが難しいことだということはわかってる。距離は離れている。年齢も離れている。お互いの環境もかなり違う。
それでも、直接話したかった。直接触れたかった。
「飲もう……」
もうこうなったらお酒を飲んで何もかも忘れるしかない。私は缶チューハイを開けると恥ずかしげもなくゴクゴクとあおった。
3,4本ほど開けたところで、不意にこーこちゃんの用意したプレゼントが気になった。
「特別プレゼントって、一体何なんだろう」
私は覚束ない足取りで箱に向かうと、ゴソゴソと弄った。
年甲斐もない大きなぬいぐるみとかだろうと思いながら箱を開けると
「ど、どうも」
そこには私が会いたくてやまなかった人が入っていた。
パタン
(え!?ちょっと待って。なんで京太郎君がここにいるの!? 長野にいる筈じゃあ? それに学校は!?
もしかして会いたくて堪らなかったから幻覚見ちゃったとか? そうだ。そうに違いない。きっとお酒に酔って
京太郎君の幻を見ちゃったんだ)
パカッ
「いやーお酒飲みすぎちゃったよ。まさか京太郎君がいる筈ないもんね」
「いやいますよ」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「お、落ち着いてください!」
「え? え!? なんで? なんで京太郎君がここにいるの!?」
「いや実は恒子さんがですね……」
~以下回想~
『もしもし京太郎君?』
『あ、恒子さん? 実は健夜さんの誕生日で相談がありまして……』
『……ってことをやりたいんですけど、協力してくれますか?』
『ほうほう。京太郎君も中々粋なこと考えるね~
そうだ!もっと面白……素敵な誕生日になるよう私がプロデュースしてあげよう!』
『本当ですか!?』
『ふっふっふ。この愛の孔明こーこちゃんにおまかせあれ!』
~回想終了~
「という感じで、恒子さんに車で迎えに来てもらった後、
そのまま箱に入れられて待ってたんです」
「こーこちゃんめぇー……」
今分かった。これはこーこちゃんによるサプライズドッキリ誕生日会だ。
わざと私の気分を落として、そこから京太郎君登場によるサプライズでドッキリ大成功という手筈だったんだろう。
そのためにわざわざホテルの一室を借りて、こんな大きな箱まで用意して。
おそらくさっきのプロの人達からのプレゼントもこーこちゃんが企画したんだろう。
まったくなんて大がかりなことをしてくれたんだろう。というかいろんな人巻き込みすぎだよ。
「健夜さん」
「ふぁいっ!?」
「遅れましたけど、誕生日おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
「それと、誕生日プレゼントです」
そう言うや否や、京太郎君は私を抱きしめた。
「! きょきょ京太郎君!?」
「行きますから」
「え?」
「健夜さんが会いたいって言ってくれれば、どこへだって会いに行きます。
俺、健夜さんの支えになりたいですから。
それが俺の、今贈れる精一杯のプレゼントです」
その言葉が、この抱擁が、私の心を温かいもので満たした。
「うん……ありがとう」
「そういえば、お家には連絡したの?」
「はい。友達の家に泊まるって言っておきました」
「明日の学校はどうするの?」
「……まぁ、サボりになっちゃいますね」
「駄目だよー。まったくもう」
そういいつつ私は彼の背中に手を回し、体を彼の胸に預けた。
「健夜さん?」
「ねえ京太郎君。もう少しこうさせて貰っても、いいかな……?」
「はい、仰せのままに。お姫様」
たまには、こーこちゃんの企みに乗せられるのもありかもしれない。
だって、こんなに素晴らしい誕生日になったんだから。