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 他人のものほど欲しくなる。 「ふふ、ふふふ」  自分の中にこんな強欲な性があったなんて知りませんでした。 「ねえ、京太郎くん」  昨晩の荒々しかった姿と違い眠っている様子は可愛らしささえある。  後悔、いいえ。  そんな感情は微塵もありません。 「昨日は危険日だったんですよ。自然妊娠の確率は三割ほどでしょうか」  ああ、子宮が疼きます。  また逞しいあなたのもので激しく突いて欲しい。力強く抱き締めながら、私の名前を呼んで熱いものを吐き出して貰いたい。私は喜んで受け止めます。 「起きたらどんな顔をするんでしょうね?」  お酒に深く呑まれれば理性なんて消えてしまう。人の皮、知性の毛皮を剥けば獣のような本性が露になる。  激しかった。  怖いくらいに求められた。  背徳の悦びに萎えることなく立っていた。 「私、一応初めてだったんですよ」  シーツに残る赤い華。 「あなたは今まで何人の人と寝たんでしたっけ? 咲さんとはまだしてなかったそうですけど……優希とはしたことがありますもんね」  私の親友は興味本意から身体の関係を持っていた。  交際はしていないセックスフレンド。  相性は良くても性格がプラスとプラス、反発し合うのか何処かで掛け違えてしまうからか上手くいかなかった。 「自慢してましたよ。あなたの初めては自分だったとね。それに一時期は久先輩と付き合っていたじゃないですか」  だけど、捨てられた。  あの人は甘えてばかり、あなたは甘やかし過ぎていた。  両親の不倫、異性への不信。幸せだったから、どんどん満たされていくから、いつかそれが崩れてしまうのではないかと恐怖を覚え逃げてしまった。  壊れてしまう位なら自分の手でなくしてしまおう。 「馬鹿ですよね。幸せを真っ当に享受出来ないなんて捻くれ過ぎです。あの頃、傷心のあなたは何もかもを忘れるように麻雀にのめり込んでいましたね」  時が傷を癒す。痕は残る。  あなたは女性に対し臆病になった。  だから、昔から側にいただけの彼女に求められたとき受け入れた。トラウマから自ら手を伸ばせず、咲さんも焦ることなく待ち続けた。 「どっちもヘタレです。でも、そうだったからこそ私がつけ入る余地があった」  この部屋には隠しカメラが一杯あります。  あなたの裏切りを彼女に報せるのは実に簡単なこと。  私の胸へ赤ん坊のように吸い付き、溺れるように顔を埋め、形が変わり跡が残るほど強く握って捏ねくり回した。  肌の至る所に花咲いた赤い鬱血、キスマークの証。  あなたと私が名前を呼び合い、喘ぎ奏でる二重奏。ベッドが軋み跳ねるスプリングの音、粘膜が交合する水の調べ。  淫らに絡み合い、求め合い、溺れ合い、達し合い、一人の男と女の浅ましい姿。 「携帯で写真もたくさん撮りました。動画もバッチリ残っている。簡単な操作で送れてしまう」  亀裂を埋め込むのは簡単です。  まだそんなことはしませんし、出来ません。  赤ちゃんが出来てから、逃げ道を完全に塞いでから、勝負を決めてからじゃないと安心は出来ません。  昨晩のことで京太郎くんは負い目を感じてくれる。酒に溺れて私にしてしまったことを必ず悩み、後悔する。彼は優しくとても甘いから。  だからこそ、私を強く拒めない。  私が求めれば、ズルズル、ぐるぐるっと絡めとられるように身体を重ねる。間違っていると知りながらも、咲さんに謝りながらも、私を突き放せない。 「恋愛も計算で行うのかと以前に久先輩から尋ねられたことがありましたっけ。ええ、計算と情念、これが私」  咲さんはプロになり多忙です。  満足に彼と会える時間は限られている。  京太郎くんに違和感を感じても、原因を突き止めることも、顔を合わせて互いの腹を割ることも、間に合わない。互いに一歩引いて深い関係に到れていない臆病な二人だから。  気づいた時には手遅れですよ。  その頃には彼の心を蝕み、犯し、私へと傾け終えている。責任の証、愛の結晶、私と彼の赤ちゃんもこのお腹に宿っている公算が高い。 「ふふふ、それでも諦めないなら、記録を見せて心を折りにいきます」  最後に笑うのはこの私。  優希でも、久先輩でも、まこ先輩やムロにマホ、咲さんではない。勝つのはこの原村和です。 「愛してますよ京太郎くん」  もう誰にも渡しません。 カンッ!

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