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「京ちゃん……」
私の幼馴染。
親同士が友人で近所に住んでいたか赤ん坊の頃から知っている。
少しおっちょこちょい、京ちゃん曰くポンコツな私を何時も引っ張ってくれた。
何処に行くにも隣に居てくれて、引っ込み思案な私の手を取り皆の輪へと繋げてくれる。
「本当に……」
辛いとき。
悲しいとき。
苦しいとき。
落ち込んで荒んでしまっていたときも側にいて支えてくれた。
「東京に行っちゃうの?」
ハンドボール。
彼が熱中するスポーツ。
中学の大会で活躍した彼の下に東京の学校からスポーツ推薦の提案が来た。
「おう、悪いな咲。俺はやっぱりハンドボールが好きなんだよ」
彼は照れ臭そうに笑う。
「あの決勝で負けて燃え尽きたって思った、もうボールなんて見たくない、辞めようと考えた。俺のことが欲しいって言われて……ハンドボールをもっとやりたいって自覚した」
私は知っていた。
部活を引退したのに京ちゃんは走り込みなんかのトレーニングを自主的に続けていた。
以前よりも身体はガッチリしていて、40キロもある麻雀の自動卓だって運べてしまいそうなくらい作り込んでいた。
受験もあるんだから勉強に集中すべきなのにね。
だから、そんな彼を見ていたから京ちゃんの中にハンドボールへの情熱が消えていないことを知っていたんだ。
「そっか……」
残ってよ。
離れたくないよ。
「頑張って!」
そんな言葉を吐けるはずがない。
キラキラと輝く夢見る大好きな彼を見て我儘なんて言えないよ。
「おう!」
「あのね京ちゃん、私ね……京ちゃんのこと……」
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好き。
そんな二音さえ告げられない。
「本当に私ってダメだね……」
盛大なため息が零れた。
「嫌みかのぉ?」
「咲ちゃん酷いじぇ……」
「こんなオカルト、こんなオカルト……」
私の隣に幼馴染の彼はいない。
もう心配させないためにも、一人でも大丈夫なのだと示すためにも頑張らなくちゃいけない。
だから、ずっと逃げていた、心残りになっていた嫌いな麻雀に向き合うことを決め、高校では麻雀部に入った。
「ははは、今日は絶好調みたいね。噂の彼氏と昨日電話で話でもしたの?」
「彼氏違います! 幼馴染なだけです! ……電話はしましたけど」
恥ずかしさからくる反射的な否定と思わず付け加えてしまった事実に部室が賑やかになる。
華の女子高生。
彼氏もいない女子だけの部員。
そう言った話題に飢えているのか、京ちゃんの存在を知られてしまって以来、散々私は弄られ続けている。
「もう良いじゃないですか! 来週には県大会予選が始まるんですし、麻雀しましょうよ!」
「須賀京太郎だっけ? 咲ちゃんがお熱をあげるのも仕方ないじぇ、確かにイケメンだしな」
「おう、咲にはイケメンの幼馴染がいるのにわしにはおらんとか世の中不公平じゃ」
「愛しの京太郎くんはインターハイの都予選で大活躍したものね。咲は負けてられないわよね♪」
「これネットに上がっていた試合の動画ですけど皆さん見ますか?」
「皆!!」
京ちゃんは私よりも先に全国へのキップを掴んでみせた。
八月、東京に行けば京ちゃんにも、お姉ちゃんにも会える。私は負けるわけにはいかない。
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「京ちゃん勝ったよ!」
インターハイ。
真夏の東京へ向かえるチケットを私は勝ち取った。
『やったな咲! あの何をやらせてもダメだったお前が麻雀は強かったなんて意外すぎだ』
「もう、私はやれば出来る子なんだよ、ポンコツじゃないから!」
勝利の一報を誰よりも早く伝えた。
電話越しの声は相変わらずの調子で私たちはいつまでもお喋りを続けられる。
我がことのように喜んでくれている京ちゃん。
幸せだ。
嬉しくて頬が弛む。
そんな姿を皆に見られて弄りネタを提供してしまったけれど、気にならない。
「夏、会えるのが楽しみだね」
『体調崩さないように気をつけろよ。じゃあ、またな』
私は信じていた。
離れてしまっていたからこそ恋慕が募る。
東京で京ちゃんに再会したときは、この想いを伝えようと思っていた。
--馬鹿だよね。
「え?」
彼は何を言っているんだろうか。
「俺の彼女、明華だよ。綺麗だろう?」
「あなたが宮永さんですか、京くんから何時も聞いていますよ。私は雀明華、京くんの恋人です♪」
足元が崩れていく。
日傘を差した金色の髪、白い肌の外国人。
この女が京ちゃんの恋人?
京くん?
あはは、何言ってるの?
「明華、そんなにくっつくなよ、暑いし、恥ずかしいだろう」
「ふふ、昨晩は一つになっていたんですからこれくらい良いじゃないですか」
一つ、誰と誰が?
何で京ちゃん拒絶しないの?
だらしない顔しちゃっているの?
こんなのおかしいよ、間違ってる……ああ、きっと京ちゃんその女に騙されているんだ。
ふふふ、待ってて、今度は私が京ちゃんを助けてあげるから--
カンッ!