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 麻雀部の皆と伴に神社へと初詣にやって来た。長野の片田舎とは言え人混みでごった返す境内。案の定、お約束と言うべきか、咲とは何時の間にかはぐれてしまっていた。 「まったく年明け早々からそそっかしい奴じゃの」 「流石は咲ちゃんだじぇ」 「電話にも出ませんし、何処にいるんでしょうね?」  おそらく携帯は家に忘れてきたのだろう。肝心なときに持っていないとか、あいつは携帯を買った意味がないな。 「はあ、迷子の捜索ね。私とまこはあっちの方を探すから、優希と和はそっちの方をお願い。須賀くんは奥の方をよろしくね」  元部長の振り分けに従って俺たちはポンコツを探し始める。 「はあ、見つからねえな……」  人並みよりも立端のある俺が見る限りではどうにもこの辺りに咲はいないようだ。つまり、俺の探索は空振りであり、残念ながら徒労に終わったと言うわけか。  さて、それならどうしたものかと思案し、一先ず皆と別れた場所に一度戻ってみようと思った。  人波を逆行し、鳥居を潜った時、ナニかがずれた。 「な、……何だと?」  瞬間的に訪れた強烈な目眩に踏鞴を踏み、三半規管を揺すられたような気持ちの悪さが抜ければ、世界は一変していた。 「霧?」  真っ白な世界。  雑踏は消え失せ、静謐が満ちる。  俺以外に人の姿は見当たらず、背後には大きな鳥居がある。遠方には何かしらの建物の影が薄らと見えた。 「鳥居って言うのは神域と現世を分ける一種の結界だって話を聞いたことがある。もしかして俺は神様の領域にでも迷い混んじまったのか?」  神隠しと言う言葉が脳裏に浮かんだ。得たいの知れない、未知への畏れに身体がぶるりと震えた。  --ポーン。  --ポーン、ポーン。  一定のリズムで叩かれる太鼓の音が聞こえてくる。音を発しているのは何かの建物がある方角からだ。  進むか、退くか。  鬼が出るか蛇が出るか。  どの様に行動すれば戻れるのかは分からない。方針を決める指針もない。俺は祈るようにポケットへと手を伸ばした。 「ははは、やっぱり繋がらないか……」  文明の機器たるスマートフォンに電波は届かない。  それどころか、電池の残りはまだまだ十分にあったはずなのに、画面はプツンっとブラックアウトし、うんともすんとも反応しなくなる始末。 「腹を括るか」  石畳の上を歩き、音のする方へと歩を進める。  霧の向こうに見えた建物の正体は神楽殿、灯籠の火が舞台をライトアップし、その中央に紅白の服を纏った人が伏していた。  --ポーン、ピーヒャラ、カラカラ。  一際響く太鼓の轟、笛の音、鐘の調べが場を満たす。  それを合図に身を伏せ、頭を垂れていた女性の身体が跳ね起きる。  俺は思わず呼吸を忘れた。  たゆんと上下に揺れ、プルっと左右に流れる。  下着を一切纏うことなく、大きなおもちを露にし、それどころか女性の秘め所さえ晒してしまう危ない巫女服に身を包む。  何処か熱を帯び、上気し火照り桃色に染まりながら、はあはあと息を荒げて踊り狂う。  プルプル、揺れ動くおもち。  フリフリと扇情的に動く腰と桃。  淫らであるのに清らかな、背反する矛盾を孕んだエロティックなダンス。  爛々と輝く少女の瞳は蕩け、恋人以外には見せられない破廉恥な表情を浮かべながら、踊る躍る、淫靡にゆらゆら乱れ舞う。  それは世間に伝わる巫女神楽と似ても似つかない、けれども間違いなく神へと奉じられる舞だった。  --シャラーン。  鈴の音を合図に舞い終わる。  その時、一陣の強い風が吹いた。  颶風の中で立つことはままならない。  俺は迸る気流に身を伏せつつも、その風には幾つもの笑い声が乗っているような気がした。 「大丈夫ですか?」  頭上から声がした。  顔を上げた俺の眼前にはおもち。小さな蜜柑が乗ったそれはまさに鏡餅。和に負けず劣らない大質量を誇る突き立ての生おもちに俺はここが死後の世界ではないかと思った。  おもちの上を汗が伝い、仄かに赤み差し、熱と脳を揺さぶる女性の香りにクラクラする。 「私は神代小蒔です。あなたは誰ですか?」 「神代小蒔? ……インハイや国麻に出場していた、あの永水の神代さんですか?」  彼女は自分のことを俺が知っていたことが嬉しいのか、微笑み頷いた。  ここは九州なのか? 俺は長野にいたはずだよな? えっ? どういうことなんだ? 「俺は清澄の麻雀部に所属している一年の須賀京太郎って言います。麻雀部の皆と初詣に来ていて、気づいたらここにいたんですが、ここは何処なんですか?」 「あの清澄の方なんですか。えっと、ここは霧島神境ですよ」  霧島神境。  これで分かって貰えましたよねとばかりに神代さんはニコニコ笑っている。それで理解できるのは一部の関係者だけだと思うんですけど……。 「……すみません、俺は長野に帰れるんでしょうか?」 「はい、大丈夫です」  不安だ。  ほんわかと言うか、あのエッチな、それでいて全てを魅了してしまうような踊りを舞っていた人と同一人物とは思えないほどにのんびりな受け答え。  俺は彼女に幼馴染と似たどことなくポンコツな匂いを感じ取ってしまい心配になってくる。 「くしゅん………ううっ、寒いですね」  可愛らしい嚔をし、ブルブル震え出す。今は睦月の始め、ここは屋外、時間は一日で最も冷え込む夜の刻。寒いのは当然だ。  自分の格好を漸く思い出したのか、いそいそと服の前を閉じて帯を締める。薄らと頬がピンクに染まっていて、年上とは思えない可愛らしさに思わずドキリとなる。 「大丈夫ですか? 俺の上着を貸しましょうか?」 「それは申し訳ないです……くちゅんッ」 「「…………」」  小蒔さんは良い人だ。  短い時間だが、見ていると心配になってくる程にどこかずれている。そんな彼女のペースに乗せられて俺たちは少しばかり親しくなった。 「温かいですね京太郎さん」 「そ、そうですね」  互いに譲り合い、結局俺と彼女は双葉羽織のように一つの服で互いに身を包む格好に落ち着いた。落ち着いてしまった。  薄い服だから敏感に感じ取れてしまう柔肌、温もりや匂いはチェリーボーイの俺には毒が強すぎる。 「小蒔さん、俺は本当に帰れるんですよね?」 「はい。日の出と伴に結界は解かれますから。私がちゃんと長野までお送りします」  何の因果か、俺は霧島の特別な儀式に紛れ込んでしまったらしい。俺にはオカルトの知識もなく、彼女も説明上手ではなかったのでよくは分からない。  天宇受賣命がどうたら、天照大御神がなんたら、俺の血筋と参拝していた神社がうんたらかんたらでこうなってしまったらしい。 「あっ……えっと、京太郎さん、苦しいんでしょうか?」    俺も男だ。  なるべく別のことを考えるようにしたんだ。  だけど、無理だよ。  俺の好みのおもち少女と密着し、肌触りや良い香りとか、彼女のおもちや秘部は脳内にバッチリ保存済み。  この状況で猿並みと言われても否定できない男子高校生が性的興奮を覚えなかったら、そいつは不能さ、EDだ。 「男の人は、一度大きくさせてしまったら出さないとダメなんですよね? ……その、私の責任ですし、頑張ります!」  ナニを頑張ってくれるつもりなんですか!?  上目遣いで見詰めないで下さい。ヤメテ、キケン、貴女ノ身ガアブナイ。 「大丈夫です……堪えられますから気にしないでください小蒔さん」 「ですが、京太郎さんのここはこんなにはち切れそうな位になっていらっしゃるじゃないですか!」  ああああっぁぁぁぁ!  そんなに強く握らないで下さい。  や、ヤメテ、ダメ、お願いします! 「ふう、漸く朝になりましたね」 「本当に大丈夫ですか京太郎さん?」  最強の巫女様を前になんとか俺は堪えきり、人の道を踏み外さずに済んだ。天国って奴は天獄なのかもしれない。 「ははは、大丈夫です。……お迎えが来るんですよね?」 「そうですよ。霞ちゃんたち六女仙の皆が迎えに来てくれるのでもう少し待ってくださいね」  暫く待つと本当に迎えの人が現れた。しかし、平穏無事には済まなかった。  彼女たちから見れば不審な男が、大切な姫様と身体を寄せ合い、本来ならあり得ない場所にいたわけだ。  小柄な少女の飛び蹴り炸裂して吹き飛ばされ、笑顔の絶えないお姉さんに関節を決められ、眼鏡の少女に脅された。  小蒔さんが止めに入ってくれなければどうなっていたのだろうか。有明湾に沈められたか、桜島の火口に放り込まれたか、恐ろしい。  あの時の彼女たちの目は思い出したくもない。 「ハッハハハ……」 「京太郎さんはどのお弁当を食べたいですか?」  俺は今、長野への帰路を辿っている。九州霧島から電車の旅路だ。  今回の変事を俺の両親に説明するため小蒔さんと六女仙の皆さんが同行してくれているのだが、彼女たちの俺を見る目が怖くて震えそうです。 「俺はこっちの黒豚めしってのにします」 「それも美味しいですよ。私は炭火焼弁当にします。京太郎さんがよろしければ後で半分こしませんか?」  天真爛漫に笑う小蒔さんは本当に可愛いと思う。  だけど、背後にいる石戸さんの口元は笑みを浮かべているのに、瞳は笑っていない。それが見えているからこそ俺の頬は引き攣りそうだ。  断ったら危険。  頷いても危険。  右も左も危険が一杯。 「そうですね。俺もその駅弁を食べてみたいので半分こしましょうか」  そう選択すればすかさず、声が掛かる。 「ふふ、須賀くんがそんなに食べたいなら私のものをあげるわよ。私も姫様と同じお弁当だから」 「姫様、彼と同じのだから、私のと半分に」  石戸さんと滝見さんが横槍を入れた。どうやら、小蒔さんと俺に仲良くしてもらいたくないらしい。 「うーん、私は京太郎さんと交換したいので霞ちゃん、春、ごめんなさい」  彼女は知ってか知らずか、気にすることなく自由に振る舞い俺を追い詰める。  六女仙の皆さんからの視線がさらに厳しくなっていく。  俺は無事に長野まで帰れるのだろうか? カンッ! -オマケ- 咲「京ちゃんが迷子?」 優希「咲ちゃんの次はバカ犬か」 和「うーん、電話が通じませんね。電池切れでしょうか?」 まこ「どうするんじゃ?」 久「須賀くんなら男の子だし、心配しなくても大丈夫でしょう。その内ひょっこり現れるでしょうし、参拝しちゃおうか」 優希「はあ、ご主人様に迷惑を掛けて困った犬だじょ」 咲(良いのかな? 迷惑を掛けた私が口を挟むのも悪いかな……) 和「仕方ありませんね……」 まこ「あいつは背も高いしの、直ぐに見つかるじゃろ」 ~翌朝~ 久「はっ!? 九州にいる?」 和「SOA! SOA!」 まこ「意味が分からんのぉ」 咲「永水の人と一緒にいる!?」 優希「あのエロ犬、絶対発情しているじぇ!!」 もう一個カンッ!

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