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咲「あー、今年も駄目だった……」
テレビの前に張り付き、その後に崩れ落ちる咲に向かって呆れの入った声をかける
京太郎「いや、無理だろ。むしろ何の根拠があってノミネートされると思ったんだよ」
咲「そんなことないよ京ちゃん、私の小説は売れてるんだよ!」
京太郎「いやいや、売れてるってお前、ごく一部層にだけじゃないか。
しかもなんだよ『咲―saki―』って、主人公お前の本名だし、出てくる奴らも本名だし」
咲「それノンフィクションっていうの。京ちゃんはもの知らずなんだから」
京太郎「決勝で優勝した時に俺がプロポーズしたことになってるけど真っ赤な嘘じゃねえか。
いつお前さんは俺に告白されたんですかねぇ?」
咲「それはその、物語の展開的に山場と言いますか……」
目が泳いでやがる。図星突かれてしどろもどろだ
京太郎「それに照さんいつも妹の自慢しかしないじゃないか、あの営業スマイルで。
それが何で作中で『妹はいない』とか言ってるんですかね?」
咲「そ、それはほら、やっぱり目的もなしに全国行って優勝しましたー、とかだと盛り上がりが」
京太郎「しかもお前、大星の奴完全に被害者だろこれ。なんで姉妹喧嘩に巻き込まれて叩き潰されてるの?」
咲「うう、京ちゃんの意地悪……」
ねつ造した悪(作者)は倒れた。物語などと違って現実は平穏そのものである。
京太郎「さてと、そろそろ夕飯にするか。今日は唐揚げだぞ」
咲「京ちゃんが縁起を担いでカツにしてくれなかったから駄目だったんだ、そうに違いないよ」
京太郎「あほなこと言う子には唐揚げやらんぞ」
咲「あわわ、ごめんなさい、京ちゃんの作った唐揚げが食べたいです!」
今日も俺の嫁さんは俺の手料理を食べてご機嫌に戻る。何の変化もない、しかしかけがえのない日々。
それが幸せなんだと、気づいているんだかいないんだか。
カン