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「人生って奴はね、ほんの些細なボタンの掛け違いで大きく変わってしまうことがあるんですよ」  どこか厭世的な雰囲気を纏った青年はそう口にした。 「ホンマに見てきたみたいに言うんやな、京」 「ええ、見てきましたからね。もっとも、俺はあなたと違って便利な目を持っているわけじゃないんですけどね怜」  こいつは同じ大学に通う二つ年下の後輩、名前は須賀京太郎。私の出場した高校最後のインターハイで優勝した清澄高校の麻雀部員だった男や。  私と同じ麻雀サークルに所属し、その成績だけで見れば腕は素人に毛が生えた程度としか思えないお粗末な記録を残している。  これでもウチはあの強豪校千里山のエースを勤めとったわけで、それなりに強いんや。  実際は未来視がなければ弱いんやけど、それでも基礎はしっかり鍛えられているからこの学校ではやっぱり強い方やね。  せやから、サークル最弱で負けっぱなしの彼をちょっと可哀想に思って鍛えたろうとお節介を焼いたのが切っ掛けやった。 「便利な目か、京のそれに比べたらある意味そうかもしれへんね……」  京と初めて卓を囲み、私は気づかされた。  私の能力は一巡先を見る、頑張ればダブル、トリプルも無理やない。死ぬ気になればその先だって見れるだろう。  だからこそ、ウチだけが京の異常性に気づけたんや。 「生きてるの辛いんか?」  京の一巡先、二順先、無理して見た三順目、バカにしとるんかと思ったわ。  あいつは私の未来視で見えた未來を履行しない。最善を尽くすことなく、何時だって手を抜いて適当に牌を捨てていた。  放銃御礼、最良型から崩し、本来なら和了出来たのにそれをしない。 「辛いですよ。どうすれば終われるのか分からない。俺にとって死は始まりなんですから……」 「永遠に繰り返す命か……それだけ聞くと失敗せんで生きられそうやけどな」 「まあ、成功したこともありますよ。宝くじを当てたり、株や先物で稼いだり、悠々自適、それで幸せかと言われるとそうじゃないんです」  ふざけた奴やと思った。  真面目に打っとるウチをバカにしとるんかと怒鳴ったこともあった。私の見る未来、最善を尽くした京は誰にも負けないのだから。 「ウチにはよう分からん」 「そうでしょうね。きっと、誰も俺のことは真の意味では理解できない」  興味が湧いて、付きまとった。  鬱陶しがられ、邪険にされ、何度拒絶されたか分からへん。それでもウチは京に近づいた。 「俺は知っていて、相手は知らない。同じ存在なのに違う存在、出逢いと別れを永劫繰り返す」 「ウチのこともやっぱ知っとるん?」 「怜が俺の恋人になったのはこれで十二回目ですね」  京は優しい。  一杯傷ついている。  人と繋がれば別れが来る。繋がらなければ苦しまずに済む。それでも京は完全にそれを絶てない。  悲しい結末を幾つも見てきているから、親しかった友人と同じ存在が不幸に落ちる場面を知り過ぎている。  知っているからこそ、京は防げるものは手の届く限り守ろうとする。自らを傷つける行為と知りながらも。 「ウチそんなにも京と恋人になっとるんか」 「そうですよ。一番多いわけじゃありませんけどね」 「誰が一番多いん?」 「和ですかね。一番後悔して、一番夢中になっていた相手ですから。次いで咲や照、優希や久、淡や憧も案外多いかな。最近はずっと独り身だったんですけどね」 「ウチは諦めが悪いからな」  京が清澄の麻雀部に入らなければ、あのインターハイを制するのは十中八九で白糸台になるそうや。  麻雀部に京が入って、現在プロで猛威を振るっとる魔王を誘わな、原村和は転校し、悪ぶった竹井久は気落ちし、清澄麻雀部は暗い雰囲気になって、最終的には廃部らしいわ。  京の長い人生、その原初で最も後悔したことがそれらしくてな、必ず介入するそうや。 「京、好きやで」 「怜は酷い人ですよね……」 「せやね。それでもウチは京を愛してまったからな……ちなみに、病弱やからウチは長生きできへんのやろうか?」 「……残り十年」  十年か、案外持つもんなんやな。  もっと短いかと思っとったし、十分や。 「享年三十一才か、若死にやな」 「大丈夫ですよ」 「ん?」 「俺があなたを死なせないんで事故でもない限り八十までは絶対に生きられますから」 「ほうぇ!?」 「怜を死なせないために必死こいて医学を修めたことがあるので……」  ああ、アカン、そう言うのは反則や。  狡いで京、ほんまに卑怯や。 「大好きや京♪」  ウチは京を愛するよ。  きっと、何度でも、何回でも、一度でも私と京が卓を囲んだら、きっと好きになってしまうから。 カンッ!

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