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 清澄高校麻雀部。  旧校舎の最上階に部室を構えたこの麻雀部には誰が持ち込んだのか変なものが色々ある。  その中でも異彩を放っているものの筆頭はベッドの存在だろう。 「どうしてこの部屋にはベッドなんてものがあるんでしょうか?」  誰もが疑問に思いながらも突っ込まなかった点に切り込んだのは和であった。 「まあ疲れたときとか便利だから気にしてなかったけど、確かに不思議だじぇ」 「言われてみればそうだよな。保健室なら普通は一階に設置されるはずだし、何でベッドがあるんだ?」 「新校舎が建つまでは宿直室だったんじゃないのかのぉ? ここは旧校舎じゃし、そういうこともあると思うが」  答えを求めて部長であり、学生義会長でもある久へと視線が集まった。 「う~ん、その……」  飄々としていることが多い彼女が迷いのある表情を浮かべていた。歯切れが悪い態度に好奇心が擽られる。 「何か言い難いことなんですか?」  ベッドの上でごろごろと転がりながら読書に集中していた咲も視線を上げて尋ね出す。 「はあ、まあ、この部屋は元々麻雀部ではあったのよ。だけど、昔から強い子は風越や龍門渕に行くわけで、清澄で麻雀を本気で打とうとしている子なんていなかったの」  以前にも聞いた話である。  インターハイ本選への出場を決めるまでは麻雀部の存在を知っているものは学内でも殆どいなかった。 「活動自体も全くなくて、大会にも出ていない。だけど、部活としては存続し続けていたのよね」  存続するには部員がいなければならない。 「つまり、随分前までは麻雀部を隠れ蓑に好き勝手をやるやんちゃな子が一杯いて、その子達にとってベッドがあった方が都合が良かったの……」  尻すぼみに久は語り終えた。  恥ずかしいのか若干顔が赤い。察するには十分ではあるが、誰もが理解できるとは限らない。 「つまり、どういうことですか?」  和はラーメンさえ食べたことのなかった箱入りのお嬢様である。 「分かんないじぇ」  優希は計算が苦手、言動の節々から滲み出ているようにお馬鹿さんなのだ。 「えっと……」  久は助けを求めるように回りを見る。  まこは目を逸らし、咲はあわあわとベッドから這いずり落ち、京太郎は無理無理と手を振って拒絶する。 「……二人とも詳しくは須賀くんに聞いて頂戴!」 「ちょっ、部長!?」 「じゃあ、私は生徒議会の仕事があるから」  すたこらさっさと久は逃げ出した。 「わしも家の手伝いがあったんじゃった」  まこも手早く荷物を拾って去っていく。 「あっ、きょ、今日は新刊の発売日だったの思い出しちゃったな。じゃあ、先に帰るね」  如何にもわざとらしく、頼みの綱の咲まで逃亡してしまった。 「それで京太郎、どういうことなんだじぇ?」 「気になります。皆さんだけ分かっているなんて狡いですよ」  邪のない二人の眼差しを前に京太郎は内心で悪態を吐いた。男である彼が言ってはセクハラに捉われかねない。 「…………」 「早く言えよ、犬」  優希の煽りにどうにでもなれとばかりに京太郎は告げる。 「ベッドがあった方がヤるのに楽だから、誰かが持ち込んだんだよ、分かったか?」 「お、オマエ!!」  優希は顔を赤らめ、ベッドを見たり、京太郎を見たり、視線が交互に行きかう。 「ヤるって何をですか?」 「「…………」」  優希はお馬鹿でも常識はある。  和はお利口だが一般常識がちょっと通じない。どちらが賢いとは言えないが、どちらも少し残念であるかもしれない。 「のどちゃん……」 「な、何ですかその目は!?」  優希は可哀想なものを見る目で親友を見た。そして、京太郎を見て悪戯心が芽生えてくる。 「私もタコスが食べたいから帰ることにするじぇ、じゃあな二人とも!」 「ちょ、待てい、和に説明してから帰りやがれ!」  聞く耳持たず、優希は振り返ることなく駆けていった。 「…………」 「須賀くん、教えてください」  迫る和に京太郎はたじたじであった。素直に教えれば良いのだろうが、真面目な彼女に下ネタを振ることを彼は戸惑ってしまう。  しかし、そんな事情は知らないとばかりにじりじりと彼女は距離を詰めてくる。 「あれは……」 「あれは?」 「セックスをするために運び込まれたんだよ!!」  やけくそである。  和は部長たちが逃げ出した理由を理解し、色々な想像が喚起されて見る間に顔が赤らんでいく。 「じゃ、じゃあ、俺も帰るから」 「あっ、待って……!?」  慌てて横を通り抜けようとした彼へと反射的に和は手を伸ばす。接触によってバランスを崩した京太郎は倒れ込み、和を押し倒してしまった。 「いててっ……!?」  真っ赤な顔の少女が目と鼻の先にいる。足は絡み合い、手はなんと彼女の豊満な胸を掴んでいた。 (や、柔らか) 「ぁんっ……」  京太郎は無意識に指が閉まっては開き、一揉み、二揉み、モミモミ、モミモミと動いてしまう。 「須賀くんっ、止めぇ……ひゃぁッ」 「あっ、……ごめん和」  起き上がってもなお会話はない。 (触られました、揉まれました……ぅぅ、ちょっと感じてしまった自分がいました……) (和の胸、ヤバイな、あんなの凄すぎて……やっぱり、俺は……)  羞恥心と興奮、二人とも顔が熱い。互いにドキドキと心臓は高鳴っている。  京太郎の視線から逃げるように顔を横へと向ければベッドが視界に入ってしまった。 (あのベッドの上で、この部屋でたくさんの……) 「和」  名前を呼ばれ、反射的に振り返る。真剣な、熱情の猛った目が和を射ぬく。 「俺さ、ずっと和のことが好きなんだ、付き合ってくれ」  心臓は早鐘を打ち、ドキドキと身体が熱い。告白に対して、彼女を求める男に、和は自分が本当はどう思っているのか分からない。  これまでにも何度となく色々な男性から告白されてきたが、今のような状態になったことなどなかった。  それが答えなのかもしれない。 「はい」  その後、二人がかつてのヤリ部屋である部室を使ったかどうかは、シーツの染みだけが知っている。 カンッ!

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