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『--お休み、照さん』 「またね、京ちゃん」  長野と東京、近くて遠い距離。  新幹線に乗れば二時間も掛からないが、まだ学生である彼女には気軽に支払える金額ではない。  何よりも、故郷であるあの地にはなるべく踏み入れたくないと思ってもいた。 「再来年、プロになれば……」  麻雀競技人口は増加し続けている。そして人口が多いということは関連する市場規模が巨大であると言うことだ。  しかるに世界のトッププロであれば、賞金や契約金などを合算すると年数億、数十億を稼ぐのが普通であった。 「戒能さんが新人王を取れたから、私が取れないはずがない。お金は問題なくなるね」  プロになれば彼女が自由に扱えるお金は爆発的に増えるだろう。だからと言って彼と会える機会が多くなるとも言えないのだが。 「京ちゃんは学生、私はプロ。お金はあっても自由に過ごせる時間は多くないよね」  春から京太郎は長野の高校に通い始める。そして、照にとって不快だが妹も同じ学校に通うのだ。  高校生ともなれば性や恋も色濃くなるもので彼の近くに厄介な存在が現れる可能性も捨てきれない。 「はあ、いっそのこと此方の高校に決めてくれたら良かったのに……再来年、転校か中退してくれないかな」  傍にいて欲しいと照は思う。  不自由なく養ってあげれば問題ないだろうとポンコツ回路はグルグル回る。  中卒、高校中退の経歴を良しとするのか、一流のプロになるであろう彼女の伴侶がそれでは世間からどのように見られるか、恋は盲目である。 「京ちゃん、京ちゃん、会いたいよぉ……」  京太郎と照、アウトドア派とインドア派、年下と年上、小学校の学区すら異なる。  家庭内の不和、居心地の悪さ、苦しく悲しい、許せない出来事。  誰もいない、誰も彼女を知らない、そんな場所で一人になりたくて遠出し、出逢ったのだ。 「京ちゃんはお節介だから……」  多分、彼は余計なことを仕出かすと照には確信にも似た予感があった。  身体を動かすことが好きな少年が春から麻雀を始めるのだと言っていた。それはとてもおかしな話だ。  妹との仲を取りなそうとしている。 「そんなことしなくていいんだよ。私に妹はいない……それで良いのに……本当に余計なお世話……」  彼の優しさが嬉しい。  だけど、優しすぎる彼は嫌い。  誰にでも振り撒かれる八方美人な優しさはたくさんの子を勘違いさせてしまう。 「私だけを見てくれれば良いのに……」  照は望み。  照は願い。  照は求む。  燃え上がる恋、現れる恋敵、灼熱のインターハイまで後、半年-- カンッ!

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