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同じ相手を指名しあう姫同士の仲がいいことはとても少ない。まあ当たり前だろう、相手の一番になりたい人間が二人いれば一人は二番目になるのだから
そして、力を持つ人間ほど行動は大胆なものになりやすい。
和「京さん、そのチェリーあーんしてください。ふふ、やっぱりこの時間が一番自分に素直でいられます」
京太郎「和が俺に甘えてくれるのは嬉しいよ。和は無理しがちだから心配になる」
和「京さん、好きです……」
和の甘やかな時間は、一人の訪問者によって断ち切られた。
咲「京ちゃん、こんばんは。サプライズだよー……なんだ和ちゃん、こんなところに出入りしてたんだ?」
和「私は京さんがいるから来ているだけです。咲さんとは違います」
高校時代は親友だったはずなのに、冷たい空気が押し寄せる。
咲「ふうん、呼び方変えたんだ? それにドンペリの白ねえ。まあ、和ちゃんの選択じゃね。
あ、京ちゃん、私は『いつもの』で」
心の中でため息をつきながら、咲が頻繁に頼むクリュッグのロゼを注文する。ところでこいつら、何で俺をはさんで隣り合うのかな?
和「『いつも』ですか、ずいぶん頻繁に来てらっしゃるんですね。暇なんですか、プロは?」
咲「あーうん、結構暇かな。淡ちゃんも穏乃ちゃんも結局プロには来なかったし。楽だよ稼ぐの。弁護士先生は大変そうだね」
和の嫌味にも咲はさらりと毒を返す。どうしてこうなってしまったんだ、この二人は。高校時代の面影もない。
和「ええ、好きでもない人との縁談ばかり勧められるもので。私の好きな相手は決まってるのに。あ、ドンペリ追加で」
咲「ふーん、心変わり早いねー。前は見向きもしてなかったのに。私もいつもの2本プラスね」
注文が銃弾のように飛び交う。そんな中でもスタッフも他のホストも涼しい顔。
こんなことは日常茶飯事なのだ。俺もそれが旧友でなければ多少は気が楽なんだが。
咲「あ、これ京ちゃんにプレゼント。そのカフスちょっと趣味に合わないよ。トラディショナルすぎ」
和「伝統の何が悪いんです?」
和は自分が贈ったものにケチをつけられおこである。まあ、そうなるよな普通。
咲「いや別に伝統が悪いなんて言ってないよ。ただこういう場では堅物過ぎってだけ。堅物は裏道に入らずに正義の道でも歩んでたら?」
和「プロにはいろいろと黒いうわさもありますからね、咲さんは慣れているんですね。サヨリの様と最近よく言われません?」
火花が散り、また注文が飛ぶ。
和「ドンペリのピンクを!」
咲「クリュッグ・クロ・デュ・メニル。まあ、弁護士にしては頑張ったんじゃない?」
和の方は約3万、咲の方は10万以上がボトル一本の原価だ。
大概にして姫同士の争いなんてこういうものだ。値段で決まる、友情も愛もないむなしい世界。
咲「じゃ、京ちゃん、そろそろいこっか? 和ちゃんといるのも疲れちゃったでしょ」
和「っ!」
和は鞄をひったくるように持って、そのまま扉へと向かう。後のフォローは俺の仕事である。
咲「京ちゃん、私のことも楽しませてね」
そして当然、このお姫様に対する奉仕も俺の仕事である。
『ホスト京』 仁義なき元親友の争い、和&咲編 カン