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 私の名前は原村和。  インターミドルチャンピオンで高校一年生になったばかりの美少女です。  自分で美しい少女だなんて自称するのは自意識過剰だとか痛い子だと思う方もいるかもしれませんが、事実なのですから仕方ありません。 『原村さん付き合ってください』 『原村、俺と付き合わね?』 『可愛いよね和ちゃん、今度僕とデートしない?』  ……等々、多くの男性から告白されたり、デートのお誘いを受ければ自覚します。私は客観的に見て美少女であると疑いようがありません。  つまり私は顔も良く、胸も大きく、成績も素晴らしく、性格も真面目で通っており、家も裕福と当に完璧なわけですね。  まあ、運動が少々得意ではないことが欠点でしょうか。 「なあ、のどちゃんは誰かと付き合わないのか? モテるのに勿体ないじぇ」 「今の所は興味がありませんね、そう言う優希は好きな人とかいないんですか?」 「好きなものならあるけどな、好きな人はいないな」  口元をちょっとソースで汚しながら大好きなタコスを頬張る彼女が私の親友の片岡優希。  天真爛漫で自由すぎる可愛い元気な女の子です。 「おっ、ここが麻雀部みたいだじぇ、たのもー」  旧校舎の最上階。  この学校に麻雀部が存在するとの噂を聞き付けて私たちはやって来ました。  優希が勢い良く扉を開け放った部屋の中には麻雀部であることを示す雀卓があり、そして一人の男性がいました。 「ん? 二人とも新入生か? ここに来るってことは入部希望者だよな?」  私たちに気づいた彼はそう問いかけました。 「ふふーん、そうだじぇ! この優希様とのどちゃんがこの部に入るんだ喜ぶがいい!!」 「そうか、丁度良かったよ。俺を含めて三人しか部員がいないから同好会に格下げする話が出ていたらしいからさ」  三人と言う少なさに私は驚きました。だって、卓の面子さえ揃わない人数だったからです。 「つまり、私たちは救世主というわけなんだな!」 「そうなるな。あっ、俺は須賀京太郎、お前らと同じ一年生だよ。よろしくな"優希"と、"のどちゃん"?」 「何!? お前も一年だったのか、よろしくな"京太郎"!」  彼の口振りからてっきり上級生かと思っていましたので少しビックリしました。  そして同じ一年生と言うこともあり、優希は気安く彼に話しかけます。そこが彼女の凄いところで私にはちょっと真似できません。 「私は原村和です、こちらこそよろしくお願いします」 「おう、先輩は家の手伝いで休みだし、部長は遅くなるそうだから今日は四人で麻雀は打てないな。この入部届けに名前書いたら渡しておくし、優希と"のどちゃん"は帰っても良いんじゃないかな?」  のどちゃんですか。  初対面の男性に愛称で呼ばれるのは少々嫌ですね。まあ、優希がそう呼んでいたから流れでそうしたんでしょうけど。 「すみません、のどちゃんは辞めてもらえないでしょうか、"須賀くん"?」 「ああ、馴れ馴れしかったか? 何て呼べば良い?」  私が返事をするよりも早く優希が口を開きました。 「優希で良いじぇ! これから同じ部活の仲間だし、堅苦しいのは面倒だからな」  彼女の言葉を受け、彼は私に確認するように窺いました。  空気が読めないと言われることもありますが、大丈夫です読めていますから。 「好きに呼んでください」 「そうか、それで優希と和はどうする?」  まあ、のどちゃんよりはマシですからよしとしましょう。  それにしても、雀卓はありますし、時間もあります。麻雀部ですし、お互いに交流を深めるためにも麻雀は最適ではないでしょうか。 「そうですね、せっかくですから三麻でもしませんか?」 「三麻か、それも面白いじぇ!」  乗り気な優希を見て我ながら良い提案をしたと思いました。しかし、彼は申し訳なさそうに困り顔で頭を擦りながら答えました。 「ごめん、実は三麻知らないんだ。と言うよりも初心者で麻雀のルールもまだいまいち分からないんだよな」 「…………」  気まずいです。 「お前、初心者だったのか。なんならのどちゃんが手解きするじょ?」 「「…………」」  そこは自分が教えると言わないあたり、優希は自分が説明下手であることを自覚していたんですね。 「えっと、迷惑じゃないのか?」 「気にするな! 誰もが最初は下手っぴな初心者なんだじぇ! むしろ、京太郎は己の幸運を喜ぶが良い!!」 「何で優希が偉そうに言ってんだ?」  当然の指摘も受け流し、優希は舌をチッチっと鳴らしながら指を振ります。 「のどちゃんは昨年のインターミドルのチャンピオンなんだじょ! つまり、日本で一番麻雀が上手かった女子中学生、凄いだろう!」 「マジ?」  彼は優希の冗談だと思ったのか私に確認を取ります。  この反応には少し新鮮な気分を感じずにはいられませんでした。  インターミドルを制したことで私は有名になりました。見ず知らずの人でさえ私のことを知っている、見覚えがある。それが普通になっていたからです。  先日に初めて顔を会わせたクラスメートは誰もが私のことを知っていました。  だから、本当に私を知らない人と接するのは久方振りだったからです。 「ええ、本当ですよ」 「へえ、和は凄いな。優希も上手いのか?」 「おう、東場の私は最強だじぇ! それにのどちゃんは胸も凄いからな。大きくて、柔らかくて、まだ成長しているし」  優希がそんなことを口走ったせいで彼は私の胸をジロジロと見ました。全く、男の人は困ったものです。  その舐めるようなイヤらしい視線から逃げるように思わず手で胸を隠さずにはいられませんでした。 「須賀くん!?」 「あっ、ごめん。確かに凄いものだから、ついな……ああ、それで、麻雀教えて貰っても良いか?」 「ええ、それじゃあ始めましょうか-- -数ヵ月後-  人は一度意識してしまえばどうにもならないのかもしれません。 「なあ、犬は入る部活を間違えたんじゃないか?」 「京ちゃんは運動が得意だからね」  別のクラスの彼や咲さんとも体育の授業は合同に行われます。男女では別れているんですが、互いの授業風景を確認できる距離ですることも珍しくはありません。 「あいつ運動部の奴らよりも目立ってるんだけど?」 「ほら、京ちゃんは背も大きいし、中学の頃は運動部だったから」 「凄いですね」  本当に凄いと思います。  テニスの時間でも活躍していましたし、夏の水泳でも圧巻でした。今のバスケでは相手のマークを抜き、切り躱し、次々と得点を稼いでいきます。 「うわぁ、マジか? あいつダンクを決めやがったじぇ……」 「防ごうとした高久田くんが倒されてるね……」  な、何センチ飛んだんですか。  ありえません、おかしいです、ええ、本当に間違ってます。  見ていた女子たちの間から黄色い声援が飛んでいきます。 「チッ、犬め調子に乗りやがって……」 「デレデレな顔でみっともないよね……」  優希と咲さんは不満気です。  二人はおそらく彼のことが好きなんだと思います。確かに、客観的に見れば須賀くんは格好良い男の子です。  顔も整っていて、運動も出来、気配りも上手く、手先は器用で、誰とでも仲良くなれる優しい人。ええ、彼は誰にでも優しい、優しすぎるんです。  優希がタコスが食べたいと我儘を言えば、文句を言いながらも買ってきます。  咲さんが迷子になればすぐに探しに向かい、見つけて連れ帰ります。  染谷先輩に頼まれてroof-topで働いていますよね。  部長の無茶ぶりにも頷き、黙って従っている。 「狡い……」 「ん? 何か言ったかのどちゃん?」 「いえ、何も」 「…………」  本当に狡いのは私かもしれませんね。  彼に見られて嬉しいくせに、彼の姿にときめいているくせに、声を聞くだけで、心臓の高鳴りにも気づいている。  私は踏み込まない、踏み込ませないように澄ました態度ばかり。  どうしようもない。  そのくせ、彼が他の人へと目移りしないように思わせ振りな態度も時には取る。  友人を裏切りたくないから。  彼が誰かに取られるのも嫌だから。  どっちつかず、卑怯ですよね。自分の本性がこんなにも浅ましい人間だとは知りませんでした。 「そろそろ私たちも出番ですから頑張りましょうか」 「そうだね、優希ちゃん頑張ってね」 「いやいや、咲ちゃんも頑張れよな。のどちゃんだって下手なりに一生懸命にやっているんだからさ」 「あはは、私は文学少女だから運動は………」 「はあ……」  あの日、初めて彼に麻雀の手解きをした。  あの日、県予選の個人戦で負けて教えを乞われた。  あの日、インターハイが終わり真剣な顔でより求められた。  変遷を遂ていく彼の姿に私は-- カンッ!

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