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「ふえ、ふええええええええええっ」ヒックヒック  薄い金髪をした小学校高学年程度の少女があちこちを泥で汚し、尻もちをついた格好で泣いていた。  周りを囲むようにしていた少年少女たちがマズイことをしたとばかりに眉を顰め口元を歪め、誰ともなく駆け去って行く。  一人残された少女はひりつく喉に力をこめ、口を手で押さえてどうにか泣き止もうと必死だ。  図らずも音は少女のしゃくり上げようとするくぐもった声だけ。  そんな状況だからこそ、去って行くパタパタと乾いた足音達とは違う、軽やかに踏み出された足が砂を蹴る擦過音が少女の耳に届いた。  その音に警戒し、両目が涙に歪む視界を向けた。 「どうしてないてるの?」  そう問いかけるのは、10歳にもなっていないだろう金髪の少年だ。  手足のところどころに絆創膏やかさぶたが見え、腕白坊主という言葉が似合う。  少女が答えられないでいると、それでも少年は勝手に頷いて言葉を吐く。 「おれ知ってる。“さふぁいあ”っていうんだろそれ!」  少年が指を突きつけたのは、少女の右目。彼女のコンプレックス、他人との相違点……イジメの原因。  思わず少女は顔を背け、目をギュッと閉じようとする。しかし不躾な少年はそれを許さなかった。 「あっ! もっと見せてよ。おれこんなキレイな色見たのはじめてなんだ!」  ぐいっと身を乗り出し、少女の顔を小さな両手で掴んで正面に向ける。  それで足りないと思ったか、少年は触れるほどに顔を近づけ、指で閉ざされた瞼をこじ開けようとした。 「痛っ」 「えっ、あ、ごめん!」  痛みを訴えた少女に、少年は慌てて手を離し、ばっと頭を下げて謝意を示す。  それを見た少女は、恐る恐る、言葉を発した。 「こわくないの?」 「なにが? おねーさんビジンだしおっぱいもけっこーあるし、目もキレイだし! なにがこわいの?」  その言葉に、少女は再び止まりかけていた涙を目に湛えた。  慌てたのは少年である。 「ちょっ、なんでなくの!? えっと、えーと、あ! 『びじんになみだはにあわねーぜ。わらってたほうがおれの好みだ』だ!」  誰かの言葉を借りたのだろう、年齢に見合わぬセリフ。言った本人は意味が分かっていそうにない。  しかし、少女にはそれが無性に嬉しかったのだ。  おもむろに少年の頭を抱え、抱きしめた。溢れる涙は、決して哀しみからのものではなかった。 「ごめんね、ごめんね。…………ありがとうっ」  最初こそ戸惑い足掻いていた少年も、いつの間にかされるがまま。  少女は涙は嬉しくても流れるのだと、知った。 ――美穂子オリジン――   カンッ

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