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「何で邪魔するの?」  感情の消え去った顔、瞳には光もない。  それは私を映しながらも見ていない、虫を見るような、まるで路傍の小石が視界に入っただけのような。  決して人に向けて良いはずがない眼差しで彼女は私を捉えた。 「行かせないじぇ、咲ちゃん」 「退いてよ、優希ちゃん」  有無を言わせぬ圧力に身体の芯から震えてしまう。  本能的な恐怖。  目の前の少女が放つ意思、腹の内でドロドロに煮詰まった黒い感情がもたらす悍ましさに怯んでいるのだ。 「嫌だね」  彼女はきっと彼の邪魔をする。 「京ちゃんが取られちゃうよ?」  私に退く意思がないことを見抜いたのだろう。言葉で変心をもたらそうと口が開かれる。 「優希ちゃんも京ちゃんのことが好きなのに諦めるんだ。他の人に譲れちゃうくらいには軽い気持ちだったんだね」  私は京太郎が好きだ。  優しくて、格好よくて、ちょっとお調子者だけどノリが良いところなんて最高だよな。  素直になれない私の酷い我儘にも、何だかんだと言いながらも最後まで付き合ってくれるあいつを好きにならないはずがない。 「私は京ちゃんが他人のものになるのなんて黙って見ていられない。私は彼のことをずっと、ずっと、小さい頃から大好きなんだから」 「だから? 咲ちゃんの想いなんて知らないじょ。私はあいつが好きだから邪魔させないんだ!」  意味が分からない。  理解できないとばかりに彼女の能面が崩れた。 「分からないのか? ヘタレのあいつが漸く勇気を出して踏み出したんだぞ! 好きな相手に告白しようとしてるんだ、その邪魔をしようとする咲ちゃんを通すわけにはいかないんだ!」  ああ、本当に世話の掛かる犬だじぇ。  ご主人様を悲しませて、苦しませて、泣かせるバカ犬だ。だけど、だからこそ、私は愛犬の幸せを願うんだ。  あいつが私を選ばないことなんて最初から分かっていた。初めて会ったときから京太郎の目に映っているのは私じゃないって気づいてた。  それでも、振り向いて欲しかった。  何時までもこの曖昧な関係が、モラトリアムが終わらなければ良いと思ってった。  それはもしかしたら、万が一にでも私のことを好きになってくれるかもって心の内で願っていたからなんだろうな。 「退いてよ、京ちゃんが盗られちゃう!!」 「嫌だって言ってるじぇ!!」  私が背中を押したんだ。  絶対に上手く行く。  私の親友と世界で一番好きな人。  あの二人だから、諦められる。  だから、幸せにならないと許さないからなバカ犬、のどちゃん! カンッ!

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