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『バイクの免許が欲しい』  両親にそう告げれば危険だからと反対された。それでもどうしても欲しいのだと頼み込めば、金は一切ださないから勝手にしろと許可された。  俺の家はそれなりに裕福だ。  しかし、俺自身が自由に出来るお金が多いわけじゃない。お年玉も、毎月の小遣いも友人たちよりもちょっと多く貰っているみたいなんだが、もうそんなに残っちゃいない。  だから、お金を稼ぐためにアルバイトをすることを決心した。 「お金が必要でお仕事を探しているそうですね京太郎くん」  何処から聞きつけられたのか分からない。龍門渕の執事は優秀過ぎる。 「そうですけど、何で知ってるんですかハギヨシさん?」 「んふ、まあ良いじゃないですか」  いやいやいや、それってプライバシーもなにもあったもんじゃないですよ。 「それでですね、実は京太郎くんに幾つかのお仕事を斡旋しようかと思ったんですがどうでしょうか? いずれも割りの良いものだと思いますよ」  そう言ってハギヨシさんは俺に案件を提示した。  一つ目は龍門渕家での執事見習い。  受ければ、ハギヨシさんの部下として住み込みであの豪邸で働くことになる。学業と兼業しながらも平均的な新卒と同等の月給も支払われるそうだ。  ただし、俺は清澄から龍門渕へと転校しなければならない。 「転校はちょっと……」 「そうですか? 龍門渕は素晴らしい所ですよ。仕えがいのある主がいらっしゃいますし」  二つ目はゴーストスイーパー。 「ご、ゴーストスイーパー?」 「ええ、世の中には悪霊退治などを生業としている方々もおりまして、先方はインターハイの会場で見かけた京太郎くんに才能を見出だしたそうです」  この仕事は間違いなくヤバイ。  まず給与が固定制でない。一回の最低報酬ですら数万、働き次第では桁が一つ、二つ変わる。  高額報酬にみ合う分だけのリスクがあり、場合によっては後遺症や命が失われる可能性も低くないそうだ。 「北海道と鹿児島からオファーが来てますよ。もしも京太郎くんがお受けするなら南の方が良いかもしれませんね」 「??」  三つ目はプロ雀士のマネージャー。 「ん? 俺、麻雀弱いですし、マネージャーみたいなことしたことないですよ。何でこんなものが?」 「さあ? 私見としましては京太郎くんの能力面については求めていないのではないでしょうか?」  マネージャーは名目ということで別の目論みがあるってことか。 「……ちょっと怪しいですね」 「んふふ、他にも色々ありますよ」  ハギヨシさんはそれから幾つもの仕事を紹介してくれた。  旅館、和菓子屋に洋菓子店、ボーリング場やお好み焼き屋、麻雀喫茶、麻雀教室、農家や牧場、ペットの世話と変なものまで含めて多種多様。  そして、俺は一つを選んだ。 「ヨロシク!」 「はい、今日もよろしくお願いしますウィッシュアートさん」 「ウン、サッソクカキタイ、ヌイデ」 「はい……」  春先から美大生となる彼女の描く絵のモデルとなることが俺の仕事だ。指示通りのポーズを取り、動かない。  何もしない。  俺は見ているだけ。  真剣な顔で筆を動かし、キャンパスに描いている彼女の仰せのままに、それがどんなに恥ずかしい格好や無茶な要求でも聞き入れるのみだ。 「キョータロー、モット、アシヲヒラク」 「はい」  衣服を着ているときもあれば、今日のようにヌードの場合もある。オーダーによっては中々難しいが全てをさらけ出す必要もある。  描くものを深く知るためにと彼女が俺の身体を隈無く触れたり、舐めたり、そんなことまでする必要が本当にあるのか分からないようなこともされたっけな。  今では馴れたものだ。  部屋にはカリカリと筆を動かす音が響く。ガスストーブの燃える音さえ聞こえる静謐が満ちている。  俺と彼女、二人だけの時間はもう少しだけ続くだろう。雪が融ける春先まで-- カンッ!

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