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神代小蒔が須賀京太郎を見つけたのは全くの偶然だった。
インターハイ会場近くの公園である。たまたま、石戸霞を連れて散策に出ていたのだが、いかんせん都会の猛暑だ。
たまらぬとばかりに自動販売機を探してうろつく羽目になり──そうした矢先の遭遇だった。
衝撃的だった。十数年生きて、初めての感覚だ。逞しい体躯に輝くような金髪、幼げな部分を残した、それでいて大人びた面も覗かせる表情。
全てが小蒔に夏の暑さを忘れさせた。全てが小蒔の情念を燃やさせた。見せることのなかった、自覚すら持たなかった女としての激烈な感情が、今、胸中に吹き荒れていた。
彼はこちらに気付かず何処かへ去ろうとしていた。たくさんの荷物を抱えて辛そうにしている。
行かなくては。彼を支え、手伝い、取り入り、仲良くなるのだ。咄嗟に身が動く。彼が近づく。彼に触れられる。もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ。
しかし。
霞「あの、大丈夫ですか? 」
京太郎「えっ? って、永水の!」
霞「ご存知なのですか? 光栄です。私、永水女子3年の石戸霞と申します。……いくら殿方と言えど、あまりに大荷物かと思います。よろしければ、お手伝いさせていただけませんか?」
隣にいたはずの、石戸霞が彼の傍にいた。何故──考えるまでもなく、小蒔は悟った。
あれは自分だ。燃えるような瞳、濡れた微笑み、ほのかに染まる頬、親しい者なら誰でも気づく、いつにない、緊張した動き。
同じなのだ。霞もまた、あの、雷よりも圧倒的な衝撃に撃たれたのだ。
そして動いた。自分より早く、自分より強かに。
彼はあわてて強がり、そして笑っている。その瞳には霞が、霞だけが写っている。自分は写っていない。本当ならそこにいるのは自分なのに。
暗い篝火が灯る。渦を巻く嫉妬が小蒔を焼く。
──渡さない。
一歩踏み出す。そうだ、渡すものか。渡してなるものか。彼は私のものだ。私が愛し、私が愛され、私と共に、彼と共に歩むのだ。これからの全ての時を常に共にするのだ。生きても死んでも共にあるのだ。
小蒔「……私もお手伝いしますよ」
霞「……小蒔ちゃん?」
霞の表情が僅かに変わった。小蒔の宣戦布告である。
彼の方は、新たに現れた小蒔に困惑しつつ、やはり笑顔で受け入れた。
京太郎「じ、神代選手まで……いや、いや、大丈夫です、大丈夫です」
小蒔「遠慮なさらないでください。困った時は助け合うのが人の道です。ねえ、霞ちゃん?」
霞「……そう、ですね。ええ、そうです。だから、私たちに助けさせてくださいませんか? ええと……」
京太郎「あ、俺、長野の清澄高校一年の、須賀京太郎です!」
霞「須賀京太郎さん……素敵なお名前ですね」
小蒔「素敵な貴方にぴったりだと思います!」
京太郎「す、素敵……俺が。え、へへへへ、いやあ、照れちゃうなあははは」
ここからだ。小蒔は思う。ここから、彼を振り向かせるのだ。どんなことをしても。たとえ大切な友人を失おうとも。
小蒔「よろしくお願いしますね、京太郎さん!」
──この恋だけは実らせる。
カン