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見えてるのにいない者扱いされるのと、見えないからいない者扱いされるの、どっちが辛いのだろうか。 京太郎「ハアッハアッ……部長、荷物持ってきました! ん? なんだこのメモ。なっ、あれで終わりじゃなかったのかよッ」 彼を見たのは偶然だったのかもしれない。いや、清澄と合宿という話を受けたからには必然だったのかもしれない。 誰からも労いの言葉一つかけられず炎天下の坂道をとんぼ返りしていく彼の姿。それが私の見た最初の姿だった。 京太郎「なんだってんだよ。急に必要だからって牌譜持ってこさせて、いざ持ってったらやっぱり要らないもうあるから、とか」 電気より早く動けってのか。そう独り言ちる彼の目には紛れもなく涙が浮かんでいた。 清澄の部長やおっぱいさん、風越の池田さんや細目さん、うちでも先輩やかおりん先輩は彼のことを汚いものでも見るような目で見ていた。 彼が何か質問をしても無視されるか、下手をすればその目とともに虫でも払うように手を振られて終わり。 ショックだった。 清澄の人達はそういう冷徹な空気があったから普段からそう扱われているのだろう。 風越も、麻雀特待生などがいる学校だ。弱い男子を見下すなんてことは昨今珍しくも無い。 でも、先輩が。私を救ってくれたゆみ先輩までもがあんな目をするとは……。 あの目を私が向けられないのは、みんなに見えないから。 私は誰からも見えないことを初めて天に感謝した。 「あれ、あの髪の毛って……金髪さんがなんで――ってこれはまずいっすね。  熱は、ヤバイっすね。でも汗は全然出てない。熱中症? とにかく日陰に寝かせて冷やさないと」 彼の体は見かけによらず、いや見かけ通りというか、とにかくだいぶ重かった。 背負うことなどできるはずもなく、やむを得ず引き摺ることにした。その際に掴んだ体はがっしりとした筋肉を感じさせた。 お互いの服は砂利で汚れてしまったが恩人ということで許してもらおう。ついでにクリーニング代も毟り取ってやろうか。 自販機でスポーツドリンクを数本買いながらそんなことを思う。 どうしてこんなに必死になっているのだろう。合宿所からそう離れていない場所だ。他の人に応援を頼めば良かったのではないか。 昼食後の食休み時間なのだから、暇をしている人は絶対にいるはずなのに。自分がそうなのだから確実だ。 「同情……っすかね。偉くなったもんっす、私も」 知らず知らず両の拳に力がこもる。浮かれていた自分自身にも、人を虐げて気にもしない周りの女達も。 私はこの人に何をしてあげられるだろうか。 何にせよこの日この時、私の目は覚めてしまった。あの日々はもう――――まぼろし。 カンッ

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