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 インターハイまで残り一ヶ月。  多くの人にとって蒸し暑く寝苦しい日々が続いていた。 「何だか眠そうだね京ちゃん。疲れているようにも見えるし、余り眠れてないの?」  ちょっと、否、かなりポンコツな幼馴染みに見抜かれてしまうほど、最近の俺は深い睡眠を取れなくなっていた。 「まあな、クーラーつけているんだけどな」 「そのクーラーが体に合ってないんじゃないのかな?」 「そんなことないと思うけど……」  睡眠不足の原因は分かっている。  夢見が悪い。  毎晩、繰り返し同じ夢を見る。  完璧に同じだとは言い難く、細部は異なるけれどほぼ同一の内容だ。 「むっ、何か私に隠してない?」  無駄に鋭いな。 「はあ、ちょっと変な夢を連日見ているだけさ……」 「夢?」 「夢だ。だから、気にしたって仕方ないだろう? それより、何時もよりちょっと家を出るのが遅かったし、朝練に遅れるから急ぐぞ!」 「あっ、待ってよ、京ちゃん」  夢は夢でも淫夢だけどな--  --ああ、またこの夢か。  夢の中にいるのに夢だと分かるのは妙な感じだ。自分の意思で体は殆ど動かせないが、感覚は不思議と起きているときよりもはっきりしていた。 「あんたは、誰なんだ?」  黒髪を二つに結んだ胸の大きな少女。  もしも、実際に会ったことがあれば、忘れることは決してない整った顔立ちと強烈な雰囲気を身に纏っている。  しかし、俺は彼女を知らず、記憶には欠片もない。 「んっぁ、んんっ……」  質問に返る言葉はなく、返事の代わりに口づけされた。  絡まり合う舌が、混ざり合う唾液が、溶け合うような気持ちよさに脳が痺れていく。  乱れた息、上気して染まる頬、理性の薄れたトロンと濁った瞳、少女の甘い匂いに溺れていく。  より深く、もっと長く、彼女は求めてくる。  後ろへ伸びた手が俺の後頭部をしっかりと押さえ、貪るように二枚の舌が互いの口の中で交歓する。 「っぁ、ぁぁはぁ……」  時も忘れる接吻から解放され、二唇の間には透明な糸が引いている。彼女の赤い舌がぺろりと一舐めした。  するすると伸ばされた手が俺の衣服を一枚一枚剥いでいく。俺の体も意思に反して少女を包む巫女服から裸体を暴き出す。  見惚れてしまうほどに美しく、淫らな女の香りが立つ。淫靡に、それでいて清廉に。  名も知らない少女は俺の上に乗り、天を穿つ欲望の象徴を自らの中へと招き入れる。 「あっ、ああ、んっぁぁ……」  紡がれる艶やかな声。  何も考えられなくなる極上の快楽。  交ざり合い、溶け合い、そして-- 「うわぁぁああああッ!」  果てが訪れ、目が覚めた。  周囲の状況を見て恥ずかしさに身悶えしそうになった。十の目が俺を見ている。 「犬、いきなり叫ぶとかビックリだじぇ」 「そうですよ、どうしたんですか?」  部活中に寝落ちしてしまったらしい。 「さては、寝とったんじゃなぁ?」 「京ちゃん、大丈夫?」 「須賀くん、寝るならベッドを使いなさい。ん? ん? 何か変な臭い?」  最悪だ。  本当に勘弁してくれ。 「すみません、ちょっと顔洗ってきます」  頼むからバレないでくれよ。  そう願いつつ、最悪な気分で部室から一時逃げ出した。目的地はもちろんトイレであり、汚れたパンツの清掃だ。  惨めな気分だ。  毎日同じ夢を見るなんて欲求不満なのだろうか。どうしてこうなのか分からない。 「自分でするより無茶苦茶気持ち良いけど……困るよな……一度病院で調べて貰った方が良いのかな?」  そんな不安を抱えながらも月日は流れ、衝撃のインターハイを迎えた。  一目見た瞬間に彼女が夢の中の少女だと気づいた。 「ようやく会えましたね。私の旦那様」  俺に飛び込んできた少女の名前は神代小蒔。鹿児島県代表、シード校である永水の先鋒を務めるエースだった。  夢とは異なる清らかな雰囲気、おしとやかそうな見た目に俺は完全に油断していた。 「末長くよろしくお願いします」  人目の溢れるインターハイの会場で、公衆監視の中、唇が重なる。  音さえ漏れ聞こえ、留学生のフランス人さえ呆れる濃厚なフレンチキスは間違いなく淫夢と同じ舌使いだった。 「っはぁ、ちょ、ちょっといきなり何するんですか?」 「ふふふ、御馳走様です♪ また後で逢い引きしましょうね」  そう告げて、彼女は去っていった。  残された俺は当然ながら詰問責めである。 「京ちゃん、あの女誰?」 「どこを大きくしてるんだ発情犬?」 「……最低です」 「あれ、神代小蒔じゃろぉ? 知り合いじゃったんか?」 「旦那様とか言ってたわよね……どういう関係なわけ?」  部内の立場は困ったが、もっと最悪なのが周囲から聞こえてくる噂話の数々。キス写真がネットにもアップされ、悪い意味で俺は時の人となっていた。 「針の筵だ……」  遠く離れた長野の友人、誠たちからも鬱陶しいお問い合わせが多数寄せられている。  神代さんのファンらしき方々に宿泊しているホテルを突き止められた模様で軽い嫌がらせまである始末。  冗談じゃないぜ、本当に困ったもんだ。 「……気づいてますか京太郎くん?」 「何がっすかハギヨシさん?」 「(あなたの頬、弛みっぱなしですよ)」 カンッ!

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