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 須賀京太郎が中学生に上がった年の頃のことだ。 「は? 俺に婚約者!?」  両親から告げられた驚きの真実、まさに寝耳に水であった。義務教育も終えていない反抗期もまっさかりな思春期の少年が大いに反発したのはさもありなんである。  親が勝手に決めた見ず知らずの女の子と一生を添い遂げなければならないなんて時代錯誤だと思うのも仕方ないだろう。 「ふざけんな!」  京太郎は自分の容姿がそれなりに整っていることを自覚していた。バレンタインには毎年少なからずのチョコを貰っていたし、告白されたこともある。  女の子、否、女体には興味あるが、特定の誰かと付き合う気はまだない。始めたばかりのハンドボールに打ち込むことや男友達とバカをしていたいのである。  婚約や結婚なんて想像できない夢物語。 「冗談じゃない!」  もしかしたら、相手の子が目も当てられない不細工な可能性すらある。好みのタイプなら良いが、顔がどんなに整った美少女だろうと譲れない一線もある。  受け入れてしまえば、恋愛への憧れは道を閉ざす。胸の大きい家庭的な女性を嫁にする夢も潰えるのだ。  壁は断固拒否すると京太郎は叫んだ。  鉄拳制裁。  慎ましい胸を持つ母親の拳に打ちのめされた。その拳には胸なき女たちの怨念が宿っていた。 「くそ、あのババア本気で殴りやがって……しかも、婚約者と顔会わせるまで帰ってくるなとかあり得ねえ……」  悪態を吐きながら、京太郎は東京行きの新幹線に乗っていた。羽田から空を渡って婚約者の待つ鹿児島へ、一泊二日の週末旅行である。 「は、初めまして、神代小蒔です。えっと、不束者ですがお願いします」  霧島の地で出会った婚約者を前に京太郎は固まった。 「ぱぁ……」 「はい、ぱぁ?」  PERFECT!!  一つ年上の彼女。姉さん女房。  ふんわりとした優しげな雰囲気、凛とした佇まい、何よりも中学生にして既に大きな胸。  おっぱいである。  おもちである。  大きいのである。 「初めまして須賀京太郎です。こちらこそ若輩な未熟者ですがよろしくお願いします」  キリッとした顔でそう告げた。  小蒔を見るまでやさぐれていた態度は遥か彼方に飛んでいったのだ。 「はい」 「小蒔さんと呼んでも良いですか?」 「結婚するんですから小蒔で良いですよ、京太郎さん」  小蒔は何事にも精一杯真剣に取り組む頑張り屋さんである。両親に将来の婿の存在を教えられた時点で覚悟が決まっていた。  見た目は少し怖そうだったが、話してみれば気さくであり、緊張は解けていき、会話が弾んでいく。  朗らかに笑い会う二人を六女仙は襖の向こうから覗いていた。 「うぅ、小蒔ちゃん……あの男のものになってしまうというの……まだ早いわ……ああ、そんな楽しそうな顔して……騙されちゃダメよ小蒔ちゃん……」 「霞さん、姫様のあの態度を見る限り、彼なら大丈夫ですよ」  ギラっと怨敵を見るかのように霞は巴を睨んだ。過保護な小姑間違いなしである。 「どうしてそんなことが言えるの? あの男のだらしない締まりのない顔を見なさい! ふしだらに厭らしい穢れたxxxを小蒔ちゃんにxxxもxxxxxもxxxxさえもするに決まってるわ!!」 「(そんなことを考えている方がよっぽど……)」  熱くなる霞を春は冷めた目で見ていた。黒糖美味しい、パクパクポリポリ、黒糖最高。食べる手が止まらない。 「まあまあ、霞も少し落ち着くのですよー」  恥女もとい同い年の巫女に言われて霞は賛同を得られるかと期待を込める。 「あの雄が姫様に相応しいか試せば良いのです」 「流石、初美ちゃん。良い考えね……ふふふふ……」  京太郎は霞の試練を乗り越えておもち少女の婿になれるのか、はたまた魔王な幼馴染み姉妹のヤンに囚われ壁を愛でるのか。嗚呼、伏魔殿の夏が来る。 カンッ!

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