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 咏健京のssの二年前くらいの前日譚、京ユキ 前編  司会「それじゃあ、皆さんまた来週~。お元気で~」   お笑い芸人の中心核の司会が番組の終了を告げる。   二年前に咏さんと交わした約束通り、俺は麻雀プロの道へ進んだ。   つらい道を歩む途中でも、共に戦う仲間がいるのは心強い。   大学を卒業してから4年かけて、今の位置まで自力でたどり着いた。   国内ランキング117位、これが今の俺の立ち位置だ。  ネリー「キョータロー、さっさと帰ろうよ~」  京太郎「今日はオフだし、試合もないしな」  京太郎「よし、帰って寝るとするか」  ネリー「てぃっ!」  ネリー「ネリーにご飯おごる約束でしょ?」  京太郎「そんな約束していません」  ネリー「京太郎のケチ」   同じチームのネリーとは違い、俺はタレント兼業雀士だ。   ロードスターズに選手登録はされているが、あくまでも育成枠であり  給料はチームからびた一銭も出ていない。   それでもこうして俺がつつがなく芸能界と麻雀界で過ごせるのは、  咏さんや高校、大学で培った人脈と処世術のおかげである。  ネリー「ほら、キョータロー。タクシー呼ぶから早く来なよ」      ネリーに教わったことを思いだしながら夜の帳が降りた秋の道を  俺達は一緒に歩いて行く。   缶コーヒーに口をつけながら、タクシーを呼んだネリーがさっさと  運転手に行き先を告げて、暖房の効いた車に乗り込んだ。  京太郎「よっこら...「あっ、京太郎君じゃない」  ネリー「ひぃッ」   俺の肩に親しげに置かれたその手の主は、小鍛治プロその人だった。    音もなく忍び寄ってきたかつての雇い主にネリーは一瞬で萎縮した。  すこやん「ネリーちゃんってば久しぶりだね。挨拶もないのかな?」  ネリー「ほほ、本日はお、お日柄もよく...」  すこやん「あっはっはっは、運転手さん、車出して」   身の危険を感じた俺は、とっさに助手席から逃げ出した。  ネリー「たすけてぇええええ、キョータローぉおおおお!!」   すまないネリー。俺のために犠牲になってくれ。   小鍛治さんの相方が二年前に結婚した事を受け、ショックで何かを  こじらせた彼女は、ほんの些細な行き違いで俺に対してストーカーを  始めた。   俺はただ、出演したテレビ番組で、隣の席にいた小鍛治さんに当然のように  おはようございますって挨拶をしただけなんだ。   一緒に料理をして、それを試食するだけの企画だった。それだけなんだ  すこやん「一目惚れって信じる?」   喪女の執念の恐ろしさを実感した瞬間だった。     タクシーの運転手が車を出した後、俺はこの後ネリーにどうやって  許しを請うべきなのかを考えようとした。   しかし、  由暉子「ううっ、えっぐ...うっ、うっ」   ネリーの事を考える前に、もう一人の顔なじみが俺のそばを通り過ぎた。  京太郎「ユキ?」   そこには小さな体を更に萎縮させて一人で震えるかつての同級生がいた。  由暉子「あっ...あっ、あああ...京太郎、くん」      涙でぐしゃぐしゃになった顔の彼女を、俺は何も言わずに抱きしめた。  ユキ「ご、ごめんなさい...迷惑かけちゃって」  京太郎「気にすんなよ。俺もユキに会えて嬉しかったからさ」   テレビ局で偶然であった俺とユキは場所を変えて、俺の家に比較的近い  横浜駅の近くにある安いビジネスホテルにいた。   明日は夜から三部リーグの試合で、俺の二部昇格がかかっている試合がある。   だから、午前中は比較的時間は空いている。  京太郎「卒業してから四年かぁ...あまり会えなかったな、俺達」  ユキ「私は大学中退しちゃいましたからね...」  京太郎「皆元気にしてるか?爽さんや揺杏さんとか」  ユキ「ええ、皆...みんな、元気にお仕事、頑張っていますよ」   なにか触れてはいけない所にふれてしまったようだ。   打倒はやりんを掲げた有珠山高校麻雀部の面々に一体何があったんだ?    京太郎「ところで、ユキは明日...その仕事はどうなんだ?」  京太郎「考えなしに横浜まで連れてきちゃったんだけど...」  ユキ「...お休みです。試合も、お仕事も」   大粒の涙を流しながらユキは予想だにしないことを俺に告げた。  ユキ「契約、打ち切られちゃったんです...」  京太郎「な、なんだって...?だってお前」   虚ろな目で虚空をにらむユキには、おおよそ精気というものが失われていた。    信じられないことを聞いてしまった。   だって、俺よりも麻雀が上手で、人に誇ることができる夢に邁進する  彼女の、一体何が悪かったんだ??  京太郎「だってお前、ハートビーツの看板娘でポストはやりんに...」    ユキ「あの人の名前を呼ばないで!!!」     ユキの耳をつんざく絶叫が、俺の鼓膜にたたき込まれる。   自殺一歩手前の半狂乱状態に陥ったユキを宥める言葉もなく、俺は  呆然と彼女の荒れ狂う感情に飲み込まれていた。   京太郎の目の前には、かつてアイドルになるという夢を追いかけた  少女のなれの果てがあった。    ユキ「アイドルになるなんて夢なんか、見なければよかった!!」   嗚咽と後悔が決壊したダムのように由暉子の心からあふれ出した。   才能があまりないが故に、大切なプライドを失った事のない京太郎が  由暉子のその心の痛みに踏み込むことはとうてい許されなかった。   きっと咏の庇護下に置かれている自分とは比較にならないほどの痛みと  絶望を味わったのだろう。   だけど、それでも...        ユキ「私が何も知らなかったから、皆傷ついていなくなっちゃった!」  京太郎「ユキ」  ユキ「いつまでたってもチャンスも夢なんか来なかった!」  ユキ「挙げ句の果てには夢も私を裏切って..裏切って笑ったんです!!」     せめて彼女の心に呼びかけることくらいはできるはずだ。     京太郎「ユキ、好きなだけ泣けよ」  ユキ「ごめんなさい...爽先輩、皆...はやり、さん...」  ユキ「もういや...どうしてこんなことになっちゃったんですか...?」  ユキ「そんなの、信じられない...だって、男の人はそう言って...」  ユキ「わたっ、私、私は、なんて...馬鹿な、馬鹿なことを」   その一言を聞いたことで、京太郎は決断を下さなければならなくなった。   咏と由暉子を天秤にかけて、どちらかを選びとらなければならない。   自分の明るい未来と、他人の明るい未来。   京太郎も由暉子に関わったばかりに選択の岐路に立つ羽目になった。     咏との約束を果たす前に、とんでもない不義理を犯した自分を呪いながら、  それでも京太郎は夢を追いかける由暉子の心に賭けることにした。   確証はなかったが、確信だけは確かにあった。   だって...     京太郎「ユキ、俺が、またお前を笑えるようにしてやる」   夢を夢で終わらせないために、俺達はここにいるのだから。     ユキ「きょ、京太郎君...京太郎...君っ」  京太郎「お前が立ち直れるまで、俺がお前を支えてやる。約束だ」   それは、京太郎の打算も含まれていた精一杯の告白だった。   恋人でもない、友達と言うにも時間が経ちすぎている。   たとえるなら、それは杖と同じような在り方だろう。   使い方一つで、歩くこともできるし、魔法もかけられるのだから。    ユキ「だったら...貴方を信じさせてください」    ユキ「誰にも、何者にも裏切られないっていう、私だけが知ってる何かを」   そして、二人は一つに重なった。      すれ違った心のまま二人はお互いを受け入れ、歪に結ばれた。

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