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 暑い雨。  蒸したように高い気温の中、降り続けるそれは傘の下に隠れていてもべたりと張り付いてくる。高過ぎる湿度に服がまるで水気を帯びたように纏わりつく。 「京ちゃんはお腹を空かしているかな?」  不快なそれがまるで苦にならない。  除湿した部屋の中でのんびりとテレビを見るよりも彼のことを考えるだけで心が踊る。 「きっと喜んでくれるよね」  彼の両親がこの休日に家を留守にすることは知っていた。高校生の男子でありながら、京ちゃんは料理が得意だ。  私のお節介なんて余計なお世話なのかもしれない。それでもきっと彼は私に向けてはにかみながら言うだろう。 『ありがとうな、咲』  その笑顔と言葉を聞きたくて雨中を闊歩する。  利き手に傘を持ちながら、反対にはお昼の準備を携えてチャプチャプ、チャプチャプ水溜まりを渡っていく。  曇天から絶え間なく注がれる恵みの雨、晴れやかに澄みきった心は高鳴り止まず。 「うん、相変わらず京ちゃん家は大きいな」  ペットのカピーを飼うためのプールまであり、田舎に場違いな様式からご近所の界隈では須賀邸なんて呼ばれている。  玄関はオートロックで鍵が閉まり、防犯セキュリティーもしっかりきっちり。  だけど、私は幼馴染み。  勝手知ったるばかりにと家の秘密を聞いているのが特権なんだ。 「ここに予備のキーが隠されているんだよね」  開けゴマ、心の中で口ずさみ、錠が外れる音を耳にして家の中へと忍び込む。  リビングに彼の姿はない。 「全く、京ちゃんてばお寝坊さんなんだから」  今日が休みだからと夜遅くまで起きていたに違いない。人をポンコツとからかうくせに、自分の生活リズムは壊れているのだから。 「仕方ないね」  起こすのも忍びない。  日がな休日は誰だって惰眠を貪りたい。 「起きてきたら、ご飯の準備が出来上がっていたら嬉しいよね」  少し先の未来を空想し、お昼の準備に取りかかる。炊飯器の中を確認し、まな板包丁取り出して、持ち寄った材料と冷蔵庫がご相談。  献立を決定し、慣れた手つきで下拵え。  ちょっぴりドジな私でも小学生の頃から悪戦苦闘していた料理の腕だけは一人前。 「高校に入ってから本格的に料理を始めた京ちゃんと既にドッコイなのは納得いかないけどね」  彼の師が良いからだろうか。  そんなことを口走りながらも手は止めない。配膳の準備も整えつつ、後は盛り付ければ完成する所まで来た。  見れば時計の短針と長針が間もなく頂点で重なろうとしている。  だから、IHを保温に設定し、まだ寝ているであろう彼を起こしに向かうことにした。 「美味しいって言ってくれるかな?」  期待に胸を膨らませ、彼の自室がある二階へと足を伸ばす。  雨とは異なる調べが聞こえて来る。 「もう、起きているなら降りてくれば良いのに」  テレビにパソコン、小さな冷蔵庫まで完備している部屋では出不精になるのもしょうがないのかもしれない。  私は戸惑いなく開け放つ。 「京ちゃ、ん……」  扉の向こう側。  開けたことを後悔する。  目に入ってきた光景に固まってしまった。  ベッドの上で絡み合う肢体、夢中に腰を動かし打ち付け合う男と女。長い桃色の髪が白いシーツの上で散華する。  滑稽な姿を晒していた。  --私  --二人  --どちらが  卑猥な水音、充満した臭いと熱、響く嬌声。  暑い雨が降っている。  荒ぶる嵐が到来する。 「和、和……俺もう……」 「っぁ、んっ……私も、私もぉ……ぁぁ、あぁぁあんぅッ!」  絶頂を迎えた二人を呆然と眺めていた。乱れた息と雨音だけが響いていく。 「えっ?」  漸く私の存在に気づいた泥棒猫は驚愕の表情を浮かべた。だけれど、その色はすぐに消え、目の奥に嘲りの光が灯る。  そして勝ち誇るように、唇はゆっくりと曲線を形作った。 「さ、き?」  彼が私の名を呼ぶ。  ああ、取り返さなきゃ。  隣にいて良いのは私だけなのだから-- カンッ!

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