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智葉(試合の出張で長野まで飛んだ私は、試合前日暇を持て余していた) 智葉(京太郎の実家に顔を出したのは今年の正月頃だったか、あの頃の長野はとても寒かった……しかし、今頃の季節だとむしろ……) 智葉「あつい……な」 智葉(避暑地なんてうたわれてるのをうたがってしまうな、この日差しの暑さ……こんなことならおとなしく宿で昼飯を済ませておけばよかった) 智葉(あるけどあるけど、田んぼばかりだな……もう、田植えしたのか) 智葉(……こんなところに、私の腹を満たせる飯屋が果たしてあるものか……うん?) 智葉「なんだこれは……そば集落?」 智葉(いかにも長野って感じの看板だな、少し行ってみるか) 智葉(おお、此処に並んでる家が全部蕎麦屋なのか……東京ではお目にかかれないぞ、水車付きの蕎麦屋) 智葉「ここにしようか……うわ」 智葉(すごい混んでるな……こんなに待てるほど私のお腹はおとなしくはないぞ) 智葉「……仕方がない」 智葉(この店よりも人の少ない店に行こう、こっちなら待たなくて済む……) 店員「ごゆっくりどうぞ」 智葉「うん……」 智葉(すごいな……こんな大きなお座敷とは)チラリ 智葉(左を見れば窓から緑がいっぱいに……窓際座りたかったなこれは) 客「ここの天ぷらそばが最高に美味いし!」 客「あら、そうなの。楽しみだわ」 智葉(天ぷら蕎麦……) 智葉「すいません、この天ザルそばを大盛り……それと、エビ天も」 店員「かしこまりました」 店員「おまたせしました」 智葉「……おぉ」 ザル蕎麦 大きなザルにツヤツヤのそばがたっぷり 大根おろし、ネギ、わさびの量が頼もしい 野菜の天ぷら かぼちゃ、あぶらぼう、たらの芽の天ぷらの盛り合わせに、見るからに食べ応えのあるかき揚げ 海老天 デカイ、そしてその割りに安い 智葉(想像よりもずっと豪華だ……よし、まずは蕎麦をそのままのつゆで)ズルッ 智葉(ん……これはうまい!) 智葉(やはり何度食べても本場のそばは違うが、これはその中でも別格だぞ、どんどん進む)ズルズルッ 智葉(おっと薬味も入れなければ……全部使ってしまおう)カチャカチャ 智葉(んん……当然、これもうまい) 智葉「このでっかいかき揚げも……浸して」ザク チャプ 智葉(んんんっ、過ごしボリュームだな、そばとのギャップで……おまけに、天ぷらの脂がつゆに滲み出て……またおいしく) 智葉(……蕎麦、か) 智葉(高校の頃京太郎が私たちに蕎麦を作ってくれたことがあったな、思えばあの時から京太郎は私に好意を抱いていた……というか、なんであれほど分かりやすいのに気がつかなかったんだろうな私は)ズルルッ 智葉「エビ天……」 智葉(プロだけあって、京太郎の作ったものよりも美味そうに揚がってる……でもなんだろう、京太郎のより美味しそうに見えない、自分で言っててわけがわからないぞ)サクッ 智葉「うん……うまい」クシャ シャク 智葉「ふぅ……食べた、お腹いっぱいだ」 店員「そば湯です」 智葉「おっと」 智葉(これを忘れちゃいけないよな……)トプトプトプ 智葉(んっ……そばつゆに、いろんなものが混ざって……堪らないな)ゴクッ 智葉(……しかし) 智葉(とても美味しかった、のに) 店員「ありがとうございましたー」 智葉(少し食べ過ぎたかもしれないな、宿まで少し遠いくらいがちょうどいい) 智葉(……昔のことを思い出すせいで、この蕎麦屋の味を中途半端に堪能してしまった) 智葉(……京太郎の飯が食いたいな) 智葉「もしもし、京太郎か。時間が空いたから電話を入れておきたかった」 智葉「ああ、ありがとう。それでな、今回のこの出張で私が総合一位をとったら、帰った時ご馳走で出迎えてほしい、やっぱり京太郎の飯が一番だからな」 智葉「……あぁ、期待していてくれ、そして、期待している。じゃあ」ピッ カンッ

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