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「んぅぅっぁーーぁぁ、ん、ンぅ」  部室から微かに聞こえてくる艶やかな声に扉を開けようとしたはずの手が止まってしまった。 「咲ちゃん?」  一緒にいた優希ちゃんは私が不自然に停止したことに疑問を感じたみたい。私は声を落とすように人差し指を唇に当てる。  ジェスチャーにより意思疏通し、私たちは聞き耳を立てて音を拾う。 「やぁ、ん、んっ、あぁぁ、気持ちいいですぅ」  圧し殺したようなくぐもった声が間違いなく部屋の中から聞こえてくる。 「さ、咲ちゃん、こ、これって!?」  この色めいた声を出しているのは和ちゃんだ。 「もっとぉ、もっとっぉ、してくださいぃぃッ、お願いしまぁす、京太郎くぅん」  普段とまるで異なり、甘えるように京ちゃんの名前を媚びながら呼んでいる。中でいったいナニをしているんだろう。 「そんなはずないよね?」 「でも、そうとしか思えないじぇ……」  隣にいる友達の顔は林檎のように赤く、私もきっと真っ赤に染まっているに違いない。 「ここが良いのか?」 「あ、ああ、っぁ、ンぅぅ、……そこが良いでぇす……」  まさか、学校でそんなことをしているはずがない。  常識的に考えれば当たり前。  二人が交際しているなんて話も聞いていないし、そんな雰囲気はないように思う。 「和ぁ、俺、……もう限界だぁ」 「ダメぇ、もう少し、あと少し我慢してください……」  だけど、聞こえてくる二人の荒い息づかいとベッドのギシギシと軋む音を前にすれば疑ってしまう。  きっと私の勘違い。  マッサージか何かをしているだけだ。 「のどちゃんと京太郎が? 咲ちゃん、どうしよう?」 「……覗いてみる?」  嬌声が聞こえる中で優希ちゃんが唾を飲む音がした。  信じたくない現実が扉の向こう側で行われているかもしれない。だけど、だからこそ、私たちは確認しなければならない。 「分かった、覗こう」  私たちはおそるおそるドアに隙間を作り、静かに覗き込んだ。  ベッドの上では和ちゃんにのし掛かっている京ちゃんの姿が見えた。  心臓の動きが変化する。  二人の様子に私たちは息を漏らさずにはいられなかった。  「二人とも何してるの?」  扉を開けて私は尋ねた。 「ん? 見て分かるだろう?」 「ふひぃ、ひゃぁぁ、ま、マッサージですよ?」  発情したみたいに真っ赤な顔で和ちゃんが答えた。 「はあ、紛らわしいんだじょ」 「お前ら何と勘違いしたんだ?」 「変な声が聞こえてくるから、私は二人がエッチな…って、何を言わせるの京ちゃん?」 「そんな声が漏れてましたか? 最近、肩が凝っていたので須賀くんにマッサージをしてもらっていただけなんですが……」  あの無駄に大きな胸を見れば納得してしまう。私は変化がないというのに、彼女のそれは出会った当初よりも大きくなっているのは確かめるまでもない。  まあ、何事もなくて良かったよ。  私は安堵した。 「のどちゃん、京太郎のマッサージってそんなに気持ち良いのか?」  あんな声を漏らすほどのマッサージ、気にならないと言えば嘘になる。 「気になるなら須賀くんに頼んでみてはどうですか?」  私と優希ちゃんは二人揃って骨抜きにされ、気持ち良すぎるあまりに淫らな声が自然と漏れてしまった。  それを聞きつけた染谷先輩と部長も京ちゃんの手で極楽へと旅立ったのだ。  京ちゃんのマッサージの虜となり、次第にエスカレートしていく行為。ストッパーとなる理性は快楽に消え、流されていく。  その様を見て口角を吊りあげていた和ちゃんに誰も気づかなかった。彼女が京ちゃんを名前で呼んでいたことに違和感を覚えていたなら……  私たちは堕ちることはなかったのかもしれない。 カンッ!

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