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「お帰りなさい京太郎さん」  家に帰ると大きな胸の美少女が出迎えてくれた。彼女は昨今では珍しい大和撫子という形容がよく似合う純和風な美しい女性だ。  少しうっかりしている点もあるが、何事にも頑張って取り組む良い子である。  ただ-- 「どうして家にいるんですか小蒔さん?」 「お腹を空かせて帰ってくる京太郎さんに料理を振る舞ってあげたかったからですけど?」  その言葉が示すように家の奥からは美味しそうな香りがした。空腹は事実であり、食欲に駆られ流されてしまいそうになる。  善意から彼女は尽くしてくれている。悪意の欠片もない。しかし、おかしなことを言っていた。  間違いなく今日も京太郎は家の鍵を閉めて出掛けたはずなのだから。 「どうやって家に入ったんですか? 昨夜から両親も不在だったはずなんですけど」 「玄関からです!」  頭が痛くなる。  彼女は鍵を持っていない。  最新の生体認証を用いた鍵、ホームセキュリティーへの加入、ガッチリと固めた全てが意味をなさない。監視カメラの記録を見れば、何事もなく彼の家へと入る彼女の姿が確認できるだろう。  現代科学技術を否定し、凌駕するオカルトの申し子である。 「ご飯よりも先にお風呂にしますか? そ、それとも私にしますか?」  可憐な少女の恥じらいながらの申し出にときめかないと言えば嘘になる。京太郎は思わず零れそうになる小蒔さんでっという言葉を呑み込んだ。 「……ご飯にします」 「分かりました」  顔を赤らめながらも、少し残念そうにしている。余計なことを吹き込んだのは初美か霞か、それとも巴だろうか。  手を出してしまえば引き返せない。彼女は霧島のお姫様であり、神に愛された特別な少女だ。  服を着替えに自室へと一人向かいながら京太郎は呟いた。 「どうしてこうなったんだ……」  出逢いは偶然、善意の親切、見初められたは奇態なり。  気づけば両親までも彼女を応援し、周囲の環境は全て少女の味方となっていく。いっそ観念してしまえば楽になるのだろうが、少しばかり気に入らない。  小蒔のことは嫌いじゃない。  むしろ、容姿も性格も好みのタイプである。しかし、十五才の身空で所帯を持つ気になれず、まだまだ遊びたかった。  小蒔以外にも気になる子だって数人いる。彼女たちと深い関係になれるかは不明であるが、将来を決めてしまうのは時期尚早に思えるのだ。  魅力的な少女であるが、手を出すならば相応の覚悟が必要だろう。婿養子、神職、その他の定められたレールの上を歩かなければならないのだから。  そこに希望はあれど夢はない。 「ああ、もう生殺しなんだよな……」  京太郎の理性が破れるか、神の采配から逃げ切るか、遠くない未来に結果は自ずと出るだろう。 カンッ!

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