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 何時からだろう。  彼女が彼を見る眼差しに特別な色が混ざり始めたのは、いったい何時からだったのだろうか。  そうなる前に動いていたのなら、違っていたのかは分からない。 「呼び出してごめんなさい、咲さん、ゆーき」  風に靡く桃色の髪、緊張と憂いを含みながらもはっきりと私たちを見据えていた。  話を切り出すタイミングを計り、開きかけては閉じられる唇。  沈黙に焦れたのか優希ちゃんが用件を問いただす。 「何の用だじぇ、のどちゃん?」  親友の問いに背中を押されたように、彼女は決意を込めて口を開いた。 「明日、私は須賀君に告白します」  ビシリっと空気に亀裂が走った気がした。  心の中を吹き荒れる嵐を前に、私は諦観を覚える。  この日が来ることを私は予感していた。  彼女の顔に恋慕の情が見え隠れしていることに気づいた時から、分かっていたことだ。  日に日に大きくなり、恋に溺れ、綺麗になっていく彼女を私はずっと見ていた。  美人で料理も上手く、お嫁さんになることが夢だったり、可愛らしい趣味を持つ女の子。  一目見たときから、私は彼女に勝てないと思っていた。 「の、どちゃんは、京太郎が……好きなのか?」  激しく動揺する優希ちゃんを打ち据える。 「はい」  その肯定の一言には、真摯な想いが込められている気がした。  私と優希ちゃんには負けない、譲る気はないのだと彼女の目は物語る。 「二人も彼のことが好きですよね?」 「昔からね」  私が彼女の想いに気づいたように、彼女も私の心の内が透けて見えていたのだろう。 「さ、咲ちゃんも!?」  この場で知らなかったのは唯一人だけだ。 「二人は大切な友達ですが、私は彼を選びます。だけど、彼のことを好きになったのは一番最後ですから……」 「だから、私たちに告白する機会をくれるんだね?」 「…………」  沈黙の肯定。  そして、彼女は踵を返して校舎の方へと歩いていく。  優希ちゃんは頭を抱えてその場で蹲り、どうすれば良いのかと悩み始める。  対して私は、去り行く和ちゃんの背中を眺めていた。  彼女は残酷だ。  優しくも甘いその心根は、私たちを打ちのめす。  何も報せずに、京ちゃんを奪っていけば良いのに、それを由としない。  そんな態度を取られては恨むことも難しい。  私たちには、このまま何もせずに恋を終えるか、玉砕するか二者択一の道しか残されていないのだから。 「咲ちゃんは、……どうするんだじぇ?」  捨てられた犬のように怯えながら、優希ちゃんは尋ねる。 「私は何もしないよ」 「……後悔はしないのか?」  私は和ちゃんに勝てない。  京ちゃんに私が告白しても、振られる未来が見えている。  悔しいよ、悲しいよ、それでも、私はきっとその感情を殺して、隠す。 「何度も苦しんで、何回も泣くと思う。だけど、私は京ちゃんが好きだから、この想いは口にしないよ」  私が好きだって言ったら、彼はきっと最初に驚きの表情を浮かべ、困惑し、申しわけなさそうに謝るのだろう。  暫くの間はギクシャクな関係に陥り、気まずい雰囲気に満ちるに違いない。  何時かは思い出の一頁に変えられる。  でも、そんな時間を過ごすくらいなら、今の幼馴染みの間柄を壊さずにいたいと思う。  そうすれば、気軽い関係はきっと二人が交際を初めても変わらない。  恋人にはなれなくても、少しでも彼の近くにいたいから。 「咲ちゃんは強いな……私は今からあいつに告白してくるじぇ! 振られたら、後でやけ食いに付き合ってくれるか?」 「もちろん」  優秀ちゃんが駆けていく、今日の夕飯はタコスかな。 カンッ!

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