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EXTRA拠点パート1」(2016/05/27 (金) 03:08:52) の最新版変更点

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―― とは言え、流石に毎日毎日、特訓しっぱなしでは色々と不具合も出てくる。 興奮した俺の興奮を沈める為に咲たちは常に俺の側にいてくれているのだから。 俺と共に部屋にずっと閉じこもりっぱなしと言うのはあまりにも不健全だ。 一ヶ月も経って進展もまったくないのだし、そろそろ休みと言うものを作った方が良い。 そう思って提案したそれは一度は恋人たちの猛反対により却下されそうになったけれど… ―― 京太郎「(折角、仲間を助け出せたって言うのに、ここ最近、俺にばっかり構いっぱなしってのがちょっとな)」 こうして俺の特訓が始まるまでは彼女達も見舞いに行っていた。 しかし、今は俺の特訓にばかり注力し、部屋から出る事さえ滅多になくなっている。 そもそも完全に魔物となった俺達は食事などしなくても生きていけるのだが…それでも今の状況を看過して良い訳じゃないだろう。 皆にも人付き合いというのがあるのだから、せめて週に一日だけでも休みがあった方が良い。 そんな説得に彼女たちも折れ、ここ数日は俺の特訓しない ―― 無論、夜は何時も以上に激しくやっているが ―― 平和な日々が続いていた。 穏乃「はー…」ホヘー 京太郎「んー?」 そんな平和な日々を過ごす俺達の部屋に高鴨さんがやって来た。 何でも今日は憧と一緒にお見舞いに行く予定だったが、待ちきれなくて先に来てしまったらしい。 とは言え、憧はついさっき美穂子と一緒に買物に出たばかりで、まだしばらくは帰らないだろう。 一応、メールは送ったが、部屋へと上がって待っていれば良い。 そんな風に部屋へと招き入れた彼女は、今、お茶を飲みながらテーブルに突っ伏していた。 京太郎「どうした?眠くなったのか? 穏乃「んー…眠いって訳じゃないんだけど…」ジィ 京太郎「ん?」 穏乃「…須賀くんって格好良いなーって思って」 京太郎「い、いきなりだな」 咲の言葉が正しければ高鴨さんにも咲の思い出が刷り込まれている。 つまり、俺の事を好きになりやすい状態だと言うのは俺も分かっていた。 しかし、何の気なしに会話が途切れたと思ったら、いきなり格好良いだなんて言われたらそりゃドキっとしてしまう。 ましてや、相手がそういうのとは無縁な風に見える高鴨さんなら尚の事。 京太郎「ま、まぁ、俺ほどのイケメンともなれば当然だけどな!!」 穏乃「…顔赤いよ?」 京太郎「うっせー。いきなり変な事言われてこっちも動揺してるんだよ」 穏乃「変な事って…本当の事なのになぁ」 …だから、余計に質が悪いんだよ。 これが冗談を言ってるような感じだったら俺も軽く流せるのにさ。 高鴨さんは結構、冗談言うタイプだけれど…こういうふうにからかってくるタイプじゃないし。 正直、結構、胸がドキドキしてる。 穏乃「まぁ…残念だけど格好良いって思ったのは顔の事じゃないよ?」 京太郎「じゃあ、何なんだ?」 穏乃「んー…色々?」 京太郎「色々って…漠然としすぎてないか?」 穏乃「私にも良く分かってないんだもん」 穏乃「こうして話してて、あぁ、格好良いなーってそんな風に思っただけだし」 京太郎「だからってそのまま口にされると流石に恥ずかしいぞ」 穏乃「えへへ。ごめんね」 …いや、まぁ、謝られる事じゃないんだけどさ。 そうやって『格好良い』って言ってくれたのは彼女なりの褒め言葉なのは分かっているし。 ただ、そうやって褒められるのに慣れていない所為か、どうにもこそばゆくて仕方がないんだよなぁ。 京太郎「(そんな日々の中、突然、淡がマージャン大会やりたいと言いだして…)」 以前、淡を助けた時の打ち上げ兼歓迎会のようなもの。 今度こそ咲と高鴨さんを前にして決着をつけると言い切ったそれを咲が和達の前で漏らしたのが全ての発端だった。 「それじゃ私も!」とばかりにアレよアレよと人が集まり、ちょっとした大会がインターハイのような大規模のようなものになっている。 いや、この場に集った雀士が殆どあのインターハイ出場者である事を考えれば、あの時の再来、と言うのが正しいだろう。 京太郎(「…で、肝心の淡はと言うと…)」 淡「うぅぅ…」 …初戦で負けていた。 無論、淡を倒せるような雀士なんて早々いないが…相手があの咲と高鴨さんだった。 その二人にリベンジするのが初戦だなんて運命的! そんな風に瞳を輝かせ、髪をウネウネさせながら挑んだ淡は数十分、半泣きになって帰ってきた 淡「なんであそこで振り込んじゃうのよ、馬鹿あああああああ!!」 京太郎「ご、ごめん…」 それもこれも同じ卓に俺がいたからである。 …が、一つ言わせて欲しい。 女教師憧に色々と手ほどきして貰っているとは言え、その回数は ―― 毎日、セックスに忙しいのもあって ―― それほど多くない。 未だ俺は初心者に毛が生えた程度のレベルであり、このような大会で戦い抜けるような実力はない。 そんな俺が初戦からインターハイ団体決勝の再現のような卓に突っ込まれたら、そりゃあ即飛びしてもおかしくはないだろう。 穏乃「あ、あんまり落ち込まないでね、アレはどうしようもないと思うから」 京太郎「…ありがとな」 …確かに高鴨さんが言う通り、カンから四槓子まで持って行かれ、責任払いで直撃なんてどうしようもない、と思う。 が、俺があの卓にいた所為でリベンジに燃える淡の気持ちに水を差したのは事実なのだ。 幾ら咲が相手だったとは言え…いや、相手だったからこそ、もっと慎重にいくべきだったかもしれない。 そんな風に反省する部分は俺にもあったのである。 京太郎「(せめて一位抜けのルールじゃなければ…いや、それじゃ今日だけで終わらないか)」 あくまでもコレはレクリエーションの一種なのである。 会場に詰めているのは全国でもトップクラスの女子高生雀士ばかりで、正直、金を取れるレベルだと思うけれど。 と言うか、本気になっている一部の参加者が打っている卓からギュルルとかゴゴゴとかゴッとか聞こえるけれど。 それでもこれはあくまでもお遊びなのだ。 流石に数日掛けて大会運営する、と言うのはこっちの負担が大きい。 京太郎「でも、高鴨さんも悪かったな」 京太郎「俺の所為で初戦敗退なんて事になっちまって」 穏乃「やだよ、おとーさん、それは言わないお約束だよっ」ニコ 穏乃「それに…こうしてここにいられるだけでも楽しいしね」 京太郎「…あぁ、そうだな」 そう言って会場を見渡す高鴨さんの顔はとてもキラキラしていた。 それはきっと高鴨さんが麻雀が本気で好きだからなのだろう。 本気で麻雀の事を楽しんでいるからこそ、見ているだけでも楽しんでいられる。 そんな彼女に思わず笑みを浮かばせながら、俺は小さく頷いた。 穏乃「まぁ、見てると私も麻雀したくてウズウズするんだけどっ」ニコ 京太郎「うぐ…」 淡「やっぱこれは罰ゲームよ罰ゲーム」 淡「ばいしょーせきにんって奴がキョータローにはあると思う!」 冗談めかした高鴨さんの言葉に我が意を得たりとばかりに淡が突っ込んでくる。 流石に罰ゲームはどうかと思うが…しかし、俺の所為で二人が負けてしまったのは事実だしなぁ。 東一局目であっさりと飛んでしまった所為で流石に不完全燃焼にもほどがあるだろうし…ここは淡の言う通り賠償責任って奴を果たすとしよう。 京太郎「あー…じゃあ、後で負けた皆と別の卓で麻雀打つか」 淡「それも良いけど…私はどっちかって言うと…」ギュゥ 京太郎「ちょぉ!?」ビクッ 穏乃「わわっ」 淡「こっちの方が嬉しい…かな?」スリスリ 瞬間、淡の身体が俺へと巻き付いてくる。 その蛇の身体から全部を使って俺を埋め尽くすような強くて長い抱擁。 蛇の魔物である淡だからこそ出来るその愛情表現に俺は思わず声をあげてしまった。 京太郎「やめろって…今はまずいから」 淡「えー…」 無論、俺だってそうやって淡に巻きつかれるのは嫌いじゃない。 身体全体で俺が好きだと表現してくれる彼女はとてもほほえましいものなのだから。 しかし、だからと言って、今は…いや、今だけはそんな彼女を受け入れてやる訳にはいかない。 俺は皆の献身的な特訓にも関わらず、成果をあげられてはいないのだから。 ここで興奮して触手を出してしまうと本当に大変な事になってしまう。 淡「じゃあ、部屋行こ?」 淡「そうすれば…二人っきりで色々出来るよ…?」 京太郎「う…」 …確かに負けてしまったからここで抜けても問題はないと言えば問題はないのだけれど…。 しかし、仮にもこちらが企画して実現した大会なのだ。 幾らお遊びとは言え、これだけの人数ともなれば運営も大変であるし…終わった後は手伝いに回ろうとそう思っていたのだけれど…。 穏乃「え、もう行っちゃうの?」 淡「うんっ?」 淡「キョータローに身体で一杯、償って貰わないといけないしね…♪」 京太郎「まだ確定じゃねぇって」 淡「えー。なんでー?」 京太郎「俺らは主催者なんだし、早々、抜けたりしちゃダメだって」 京太郎「それに手伝いとかも色々あるだろ?」 淡「うー…」 京太郎「そういうのはちゃんと夜にやってやるからさ」 淡「でも、夜は二人っきりになれないじゃん」 京太郎「う…まぁ、そうだけど」 …確かにそういう意味ではお詫びにはならないよなぁ。 そもそも淡が欲しがっているのは別に快楽と言う訳じゃないのだろう。 実際、俺を見上げる淡の目は欲情よりも、甘えるような色の方が強い。 恐らく淡は俺と二人っきりでイチャイチャする方法にセックスを選んだだけなのだ。 穏乃「…私は出来れば行ってほしくないかなぁ…」 京太郎「高鴨さん?」 穏乃「最近、会えなくて寂しかったのに…またすぐサヨナラは嫌だよ…」ポツ 淡「う…」 京太郎「ぐふ…」 そこで高鴨さんが追撃とばかりに俺の心を抉る。 彼女の言葉に思い出すのはここ一ヶ月ばかりの生活だった。 部屋に引きこもって恋人達とばかりヤりっぱなしだった俺の所為で高鴨さんは親友である憧にもろくに会えていない。 そんな彼女に寂しかったと言わせて、淡と一緒にドロンなど到底、出来るはずもなかった。 京太郎「…と、とりあえず淡、ここで出来る類のお詫びにしてくれないか?」 淡「うー…仕方ない…」 京太郎「ありがとな」 俺の言葉に淡もそれ以上のワガママを言ったりはしなかった。 巻き付いていた身体も俺から離したのは、流石にそのままじゃまずいと彼女も分かっているからなのだろう。 そんな淡に感謝を告げる俺の前で、彼女は首をひねり始める。 どうやったら俺を興奮させずイチャイチャ出来るのだろうかと必死で考えているであろう彼女はそのまま石のように固まった。 穏乃「あれ…淡さん?」 京太郎「あぁ、大丈夫。考え事してるだけだから」 穏乃「そう…なの?」 京太郎「あぁ。まぁ、ちょっと時間は掛かるけどすぐに再起動するはず」 まぁ、それが一体、どれくらい先になるかは分からないけれどさ。 基本的に淡はアホの子だけれど、麻雀やってるだけあって頭が悪い訳じゃないし。 きっと今頃は麻雀の時と変わらない強い集中力で一番、自分が満足出来る答えを探しているはずだ。 穏乃「…でも、ごめんね」 京太郎「え?」 穏乃「ほら、さっき行ってほしくないとか言っちゃって…」 京太郎「…あぁ」 高鴨さんは申し訳無さそうに言うが、さりとて、それは決して悪い事ではない。 と言うか、彼女の立場からすればごくごく当然の訴えであっただろう。 何より、淡がやろうとしていた事はこの会場にいる皆に対する不義理でもあったのだ。 負けた悔しさを発散しようとしているのは分かるし、共感も出来るが、さりとて、それに乗ってやる訳にはいかなった。 京太郎「(それに…淡が考えを改めたのも高鴨さんのお陰だしな)」 淡は基本的に空気を読まないし、容赦なくワガママも言うが、根は悪い奴ではない。 そんな淡が素直にワガママを取り下げたのは高鴨さんが寂しそうにしているからだろう。 なんだかんだ言って、以前のような刺がなくなり、他人に優しく出来るようになった淡には、彼女を見捨てる事が出来なかった。 それが分かっている俺にとって、高鴨さんの自己主張は決して謝られるような事ではない。 京太郎「謝る事なんてないって」 穏乃「でも…」 京太郎「そもそも高鴨さんを置いて途中抜けなんて不誠実な真似するつもりはなかったしさ」 京太郎「それに淡を止めてくれて感謝してるんだぜ?」 京太郎「コイツ、俺には結構、容赦しないからさ」 元々が悪友みたいな感じで顔合わせした弊害だろう。 淡が俺にぶつけるワガママは時に ―― 物理的な意味で ―― 動けなくなるくらい激しいものだった。 無論、仲良くなり始めてからは気遣うような仕草も見せるようになってはくれたが、基本的にコイツはゴーイングマイウェイなキャラである。 本気で嫌がっていないというのが淡にも分かっているだけに、俺が淡を離そうとするとかなり苦労していた事だろう。 穏乃「そっか…ありがと、須賀くん」ニコ 京太郎「いや、お礼を言うのはこっちの方だって」 穏乃「それでも私は今、言いたかったからっ」ニコー 京太郎「はは。それじゃ遠慮無く受け取っておくか」 別に気遣って言ったつもりはないんだけど…しかし、ここで意固地になるのも変な話だしな。 折角、高鴨さんがこうしてお礼を言ってくれているんだから素直にそれを受けておこう。 ただ、その代わり… ―― 京太郎「まぁ、だからって訳じゃないけど、高鴨さんも俺にワガママ言ってくれて良いんだぜ?」 穏乃「え?」 京太郎「俺の所為で負けたのは高鴨さんも同じだしさ」 彼女は気にしていない風には言ってくれていたけれど、それでも事実は変わらない。 高鴨さんもまた淡と同じように俺のミスで初戦敗退なんて成績になったのは事実なのだ。 それなのに淡だけに償う、と言うのは、あまりにもえこひいきが過ぎるだろう。 確かに淡は俺の恋人ではあるが、それでも差別のような対応の違いが肯定される訳じゃない。 穏乃「そ、そんなの良いよ」 穏乃「さっきはああ言ったけど別に本気で気にしてる訳じゃないし…」 穏乃「それに私は後で他の人と打たせて貰えるだけでも十分だよ」 京太郎「勿論、それはそれで通すけどさ」 こうして自分が負ける側に立って見ると思うが、やっぱり一回きりで敗退、と言うのは辛い。 ましてやこの会場には『牌に愛された子』だの『魔物』だの『魔王』だの言われている雀士がゾロゾロいるのだ。 そんな人達と運悪くあたってしまった人たちに対しての救済案は必要だろう。 流石に今から大会のシステムを変えるのは無理なので、敗者復活戦はないが…それでも別で自由に使える卓を用意するというのはそれほど悪い案ではない。 京太郎「それとは別に高鴨さんには色々としてやりたいんだよ」 穏乃「…なんで?」キョトン 京太郎「まぁ、親友を独占してるお詫びとか?」 穏乃「それこそ気にする事じゃないよ」 穏乃「須賀くんと一緒にいるのは憧が好きでやってる事なんだし」 穏乃「…そもそもたった一回探索に参加しただけですっごいお金もらえただけでこっちは須賀くんに頭があがらないんだからね」 京太郎「それは正当な報酬だしなー」 例え一回でも、俺が高鴨さんを命の危険に晒したのは事実なのだ。 何より、彼女は俺の指示にしたがって戦い、そして何度かその意識を失うほどの重体になったのである。 それほどまでに俺に尽くしてくれた高鴨さんと恋人たちの間に区別が必要だとは思わない。 彼女もまたそれだけの働きをしてくれたのだから、それは正当な報酬なのだ。 穏乃「…でも、私はホント、何もしてないよ」 穏乃「皆についていくので精一杯で…最後の戦いだって美穂子さんに守ってもらってばっかりだったし」 穏乃「その後も宮永さんにすぐ倒されちゃって…」 穏乃「憧や須賀くんの事、私が守りたいって思ってたのに…守られてばっかりで…」 穏乃「憧だって…私を守る為に一回…倒れちゃって…」 京太郎「…高鴨さん」 しかし、彼女にとって迷宮での成果は決して好ましいものではなかったのだろう。 大金星と言っても良いような成果をあげてくれてはいるが、それは周りのサポートあっての事。 それ以上に自分は守られてばかりで何の役にも立てなかった。 恐らく彼女はそんな風に悩んでいるのだろう。 そんな高鴨さんに俺は… ―― 下2 1…それが俺の指示だったからな 2初めてなんてそんなもんだよ 3でも、皆、生きて帰って来れたじゃないか 京太郎「でも、皆、生きて帰ってこれたじゃないか」 穏乃「…うん。でも…」 京太郎「…それじゃ足りないか?」 穏乃「ううん、足りなくないよ」 穏乃「すっごく嬉しい」 穏乃「…ただ…」 そこで言葉を区切る高鴨さんの表情は複雑そうなものだった。 皆で生還出来た事が嬉しい。 それに喜んでいるのは多分、嘘じゃないのだろう。 それでもそうやって何処か不安そうな、寂しそうな表情をするのは… ―― 穏乃「私が須賀くん達にしている事以上に、皆がしてくれているから…」 穏乃「だから…多分、不安になるんだと思う」 穏乃「何時か皆に嫌われるんじゃないかって」 穏乃「一人置いて行かれるんじゃないかって…」 穏乃「そんな風に…思っちゃってるんだと思う…」 京太郎「…」 …高鴨さんは阿知賀中学で親友達と離れ離れになって、一人孤立していた子だ。 一見、明るくその事を振りきったように見えるが、やっぱりその過去は彼女の中に深く根ざしているのだろう。 以前のように自分はまた一人ぼっちになってしまうんじゃないだろうか。 そんな風に彼女の思考を引っ張っていく過去に俺は… ―― 淡「よし…!決めた…!」バン 穏乃「ふぇ!?」ビクッ 淡「抱っこ!キョータロー、抱っこして!!」 京太郎「…うん、とりあえず空気を読もうか」 淡「え?」キョトン そこで今まで固まっていた淡が大声をあげて俺ヘと強い視線を向ける。 キラキラと期待混じりのそれはとても可愛らしく、思わず頭を撫でてやりたくなるくらいだ。 しかし、どれだけ淡が可愛くても、大事なところで思いっきり水を刺されたという事実には変わりはない。 …あんまりにも大声で抱っこなんて叫ぶもんだから、壁際に下がってるのに何事かと周りから視線が飛んでくるくらいだしな。 淡「…もしかして大事な話してた?」 穏乃「う、ううん。そんな事ないよ」 穏乃「ただの世間話だったから…」 淡「なんだ、そうなんじゃん」 淡「もうキョータローがいきなり空気読めとか言うからビックリしちゃった」 京太郎「お、おう」 …今の反応、バレバレだったと思うんだけどなぁ。 しかし、高鴨さんがああやって誤魔化している以上、俺がここで突っ込んだりするべきじゃないだろう。 少なくとも彼女がそれを淡に知られたくはないってそう思っているのは事実な訳だし…ここは話題を変えるためにも淡にのっかってやるべきだ。 京太郎「んで…抱っこだったっけ?」 淡「うん。後ろからギュってして!」 淡「それならキョータローも幾ら淡ちゃん様が相手だって言ってもはつじょーしないでしょ?」 京太郎「まぁ…すぐさまどうにかなるような事はないと思うけど…」 …しかし、後ろから抱っこするって事は淡の尻が丁度、股間に来るって事だよなぁ。 まぁ、美穂子達と比べてその尻がムッチリしてる訳じゃないからすぐさまどうにかなったりはしないと思うけど…。 しかし、抱っこってお前。 幾ら精神年齢は高1のまんまだって言っても…抱っこって。 淡「ふふーん。この淡ちゃん様を抱っこ出来るなんて滅多にないんだからね」 淡「こーえーに思うと良いよっ」ドヤァ 京太郎「まぁ、普段、抱っこどころか身体中グルグルだからなー」 …つか、滅多にないどころか、淡を抱っこするなんて初めてか。 蛇が寂しいと死んでしまうという淡の新説はさておいても、普段はずっと巻き付かれてるからなぁ。 まぁ、興奮したり嬉しくなったりするとろくに動けなくなるほど締め付けられたりもするが、概ね俺も嫌いではないし。 淡と密着するのが日常化しすぎて、それが初めてである事にようやく今、気づいたくらいだ。 淡「本当は今もグルグルにしたいんだけどね」 淡「でも、それじゃキョータローが発情するってワガママ言うし…」 京太郎「いや、ワガママって」 淡「ワガママでしょー」 淡「だって罰ゲームに注文つけるんだもん」 淡「ハル以上のワガママっぷりじゃん」 京太郎「俺には人権も拒否権もないのか…」 淡「そんなの淡ちゃん様の前ではりちあくたーに等しいからね!」 京太郎「塵芥な」 多分、天江さんの言葉に影響を受けたんだろうなーコイツ。 普段、そんな小難しい言葉なんて絶対、使いたがらないのに。 ホント変なところで素直というか影響されやすいというか。 …そんな所は可愛いと思ってるけど、ちゃんと訂正はしてやらないとな。 淡「わ、私がりちあくたーって言ったら、りちあくたーなの!」 淡「と言うか、折角、キョータローのワガママ聞いてじょーほしてあげたのにそんな意地悪しないでよ!!」 京太郎「意地悪してるつもりはないんだけどなー…」 淡「ともかく!!」 淡「この淡ちゃん様が優しくしてるんだからキョータローも私に優しくするべきだよ!!」 …まぁ、確かにそう言った面がない訳ではないのは確かなんだが…。 なんだろうな、このすげー理不尽な感じ。 そもそも俺の拒否権を認めるってだけで優しくしてるって言うのがまずおかしいんだけど…。 まぁ、それを淡に言っても混乱するだけか。 実際、本人は俺に対して優しくしてるつもりなのだろうし、ここは従っておいてやろう。 淡「ほら、早くぅ」クル 京太郎「…そういう事言うなよ」 淡「え?なんで?」キョトン 京太郎「あー…うん」 京太郎「いや、俺が悪かったわ」 淡「???」 …一応、エロい事をするようになったとは言っても淡は基本的にそういう知識に乏しい奴だからなー。 美穂子と一緒に色々と勉強してはいるみたいだけど、まだ男性の心理には疎いんだろう。 ぶっちゃけた話、男に対して背中を向けて、そんな事言ったらどんな風に受け止められるかコイツはまったく分かってない。 ……白糸台が女子校で良かったと割と本気で思う。 淡「それより…ね?」 京太郎「はいはい」ギュッ 淡「あわぁ…?」 瞬間、淡の口から心地よさそうな声が漏れる。 普段、俺に抱きついてる淡からすれば、俺に抱きしめられるなんて滅多にないからなぁ。 俺へと擦り寄ってくる蛇達も何時も以上に情熱的にあちこち這いまわっているし。 淡が嬉しがっているのは視覚どころか触覚でもはっきり分かった。 穏乃「…良いなぁ」ポツ 淡「え?」 穏乃「あ、う、ううんっなんでもないっ」カァァ 淡「そう?そっかー…えへへぇ?」 穏乃「ぅ…」 …コイツぜってー高鴨さんの返事聞いてないよな。 後ろから抱きしめてる所為で顔なんて分からないけど、すげぇデレデレしまくってるのは声で分かる。 正直、どれだけデレデレしてるのか見てやりたい気持ちはあるが…後ろからのハグが淡からの希望だったしなぁ。 とりあえずまだ淡が満足するには程遠いだろうし、このまま頭でも撫でといてやろう。 淡「あわぁぁ…?」ホワァ 穏乃「……ね、ねぇ」 京太郎「ん?」 穏乃「わ、私も…良い?」 京太郎「良いって…何を?」 穏乃「お、お詫び…大星さんみたいに…ギュってされたいなって…」 …え? 大星さんみたいにされたいって…。 これあすなろ抱きだぞ? されると恥ずかしいけれど一度は恋人にされたい抱かれ方No1のあすなろ抱きなんだぞ? …正直、恋人でもない男に強請るのには少しハードルが高いと思うのだけれど…。 京太郎「(…それに憧が怖い)」 憧も既に俺に対してデレデレとは言え、未だ親友が俺の手に掛かるんじゃないかと警戒しているからなぁ。 俺が高鴨さんをあすなろ抱きしたなんて言ったら、一体、どれだけ拗ねる事か。 ましてや今の俺は淡を抱きしめている真っ最中なのだ。 ここで下手な返答をすれば淡の気分も害してしまうだろう。 京太郎「(でも…高鴨さんは勇気を出してそう言ってくれている訳で…)」 モジモジと身体を揺する高鴨さんがその行為の意味をどれだけ理解しているかは分からない。 しかし、彼女は一度、必要ないと言った『お詫びの権利』までこうして持ち出してきているのだ。 そんな高鴨さんに対して、自己の保身ばかり考えて返事をするのは不誠実だろう。 だから、ここはじっくり考えて… 下1 1する 2しない 京太郎「…あー…良い…ぞ」 穏乃「ほ、ホント…!?」パァ 京太郎「あぁ。お詫びだしな」 淡「むー…」 淡が面白くなさそうに声を漏らすが…こればっかりはどうしてもな。 高鴨さんにとって、これはとても勇気を振り絞ったものだったのだろうし。 憧や淡には悪いが、その気持ちは出来るだけ尊重してやりたい。 淡「…私とギューしてるのにそんな約束しちゃうんだ…」 淡「へー」ジトー 京太郎「あ、淡…」 淡「ふーんだ…知らないっ」 京太郎「い、いててて」 全身から不機嫌オーラを出す淡の蛇達は攻撃的だった。 さっきまでは甘えるようにスリついてきていたそれらが今、俺の肌にカジカジと歯を立てている。 無論、それは決して俺を本気で傷つけるようなものではないが、それでもアマガミのような甘く優しいものではない。 ともすれば血が出てしまいそうなそれに思わず痛みの声が出る。 淡「…そんなうわきしょーなキョータローは好きにすれば良いじゃん」 京太郎「あ、淡…!?」 それだけであれば俺はまだ我慢出来ただろう。 しかし、俺の返答は淡と本気で傷つけたのか、彼女は逃げるように俺を手を振り解く。 そのままするするを器用に尾を動かす淡に俺は一歩踏み出した。 …が、そんな俺に淡の蛇は振り返り、舌を突き出すようにして威嚇している。 まるで身体が石になってしまったように竦む感覚は、恐らく淡の能力の所為だ。 穏乃「あ、あの…ごめん」 京太郎「…いや、今のは俺が悪かった」 …淡が拗ねるのも当然の事だ。 自分を抱きしめていると言うのに他の女にも同じ事をすると約束したのだから。 これが憧達恋人ならまだしも、高鴨さんはそうではない。 淡からすれば良い雰囲気に水を刺された以上に納得出来ない気持ちで一杯だろう 京太郎「ただ…悪いけど、お詫びはまた今度にしてくれるか?」 穏乃「…うん」 流石にそんな状態で高鴨さんをあすなろ抱きしたりは出来ない。 今、俺が優先するべきは本気で怒らせてしまった淡のケアなのだから。 無論、それは決して容易い事ではないが…しかし、俺の選択肢の責任としてやらなければならない。 穏乃「えっと…それじゃあ、私、須賀くんの分まで手伝いをしてくるから…」 京太郎「…悪い」 京太郎「この分のお礼はまとめて次にするからさ」 …本当はそれも俺がやらなきゃいけない事なんだけどな。 でも、ここは高鴨さんの気持ちに甘えておこう。 そう思って俺は淡を追いかけるようにしてその場を駆けだして… ―― System 高鴨穏乃の好感度が60になりました → <<余計な事してばっかでごめんね…>> 大星淡が不機嫌状態になりました ※不機嫌状態 次のコミュでの好感度変化が-5されます 放置し続けると… ―― 私は憧にもうちょっと落ち着きを持ちなさいってそう言われる事がけっこーある。 私自身、あんまり考えるのは苦手なタイプだと思う。 正直なところ、感じているままに動いている方だし、実際、麻雀なんかはそれで上手く行く事も結構あった。 致命的な失敗と言う奴は今までにした事がなくって…だからその憧の忠告もきっと本気で考えてはいなかったんだろう。 頭の中では憧が正しいとそう思いながらも、私は今までそれを本気で改めてはこなかったんだから。 穏乃「(…私、嫌な女だな)」 …そうやって親友の忠告を何処か受け流していた自分。 それに気づいただけでも自分が嫌いになりそうなのに…私は既に大きな失敗をした後なんだから。 大星さんが須賀くんに抱かれているのを見て…私もして欲しいってそう思って…。 それで…大星さんが怒って出て行った後に気づいても、もう遅い。 私の考えなしな行動で二人の仲がギクシャクしているのは事実なんだから。 穏乃「(…どうしよう)」 分かってる。 私にはどうしようもない。 私は須賀くんと一緒に迷宮に潜った事はあるが、それも一度だけ。 大星さんとだって数回麻雀を打った程度でそれほど仲良くもないし。 仲間と…そう認められるだけの活躍だってしてはこなかった。 穏乃「(…そもそも…厚かましいにもほどがあるよね…)」 大星さんは須賀くんの恋人だ。 そうやって彼に甘えているのだって恋人としての事。 そんな彼女と同じ事を私が要求したら、大星さんだって怒って当然だ。 きっと嫌な女だってそう思われている。 …私自身、自分の事をそう思うんだから、間違いなくそうだ。 穏乃「(…そんな私が大星さんと須賀くんの橋渡しになれたりしないし…)」 …そもそも下手に顔を合わせら、彼女の感情を逆に刺激してしまう可能性だってある。 だから…私が今、ここで出来る事は須賀くんが彼女を探しに出ていけるような環境を作る事。 そう思ってずっと大会運営を手伝っていたけれど…でも、何時も以上に身が入っていないのが分かる。 流石に致命的なミスはなかったけれど細やかなミスは幾つも発生させて周りの皆に迷惑をかけていた。 穏乃「(…私、ダメダメだなぁ…)」 何をやってもダメな日って言うのは稀に良くある。 それがきっと今日なんだ…なんて前向きに思うほどの気力は私の中にはなかった。 大星さんを怒らせてからこっち失敗ばかりで気分が落ち込む一方なんだから。 この気持ちを吹き飛ばす為にも走り回りたいけれど…でも、迷惑掛けただけで退場なんて出来ない。 自分のミスは自分で取り返す。 そんな風に思っても…私の気持ちはから回るだけでミスだけが積み重なっていっていた。 穏乃「(…須賀くん…もう仲直り出来たかな?)」 私は憧ほど須賀くんの事を知らない。 けれど、彼が七股している人とは思えないくらい誠実な人だって事くらいは知っている。 きっとちゃんと仲直りしたら電話かメールで連絡をくれるはず。 けれど、いつまで経っても須賀くんからの連絡はなくて…私の胸は自己嫌悪と不安でもやもやしっぱなしだった。 穏乃「はぁ」 智葉「…高鴨」 穏乃「あ…辻垣内さん」 そんな私に話しかけてきてくれたのは須賀くんの恋人の一人でもある辻垣内さんだった。 憧達の中で一番、最初に須賀くんの恋人になった彼女はとても格好良くて頼れる人。 迷宮で副リーダーみたいな役割をしてて、不慣れな私も沢山、フォローして貰った。 辻垣内さんがいなかったら、私はきっと最後の戦いにも参加出来なかったと思う。 智葉「さっきも言ったが、そんなに気になるなら彼の事を手伝ったらどうだ?」 智葉「ここはもう大分、人手が足りているし、高鴨が抜けたところで問題はないと思うぞ」 穏乃「う…でも…」 …辻垣内さんの言う通りだと思う。 そもそも私は皆に比べてまったくなんの役にも立っていないんだから。 ここで私がいなくなったところで全体の進行には何の関わりもない。 それは分かっているけれど… ―― 智葉「私と憧、そして春もそろそろ出ようと思ってるんだ」 穏乃「え?」 憧「もし、仲直り出来てないなら色々と面倒だしね」 春「…そう言いながら憧もソワソワしてた」 憧「か、勘違いしないでよね!」 憧「一人でどっか行った淡の事が心配なだけで…京太郎の事なんて心配してないし!」 春「…別に京太郎の事は何も言ってない」 憧「あうっ」カァァ …何時もながら憧は素直じゃないなぁ。 もう憧が須賀くんの事すっごい好きなのはバレバレだと思うんだけど。 そもそも左手の薬指に男の人から貰った指輪をつけてる時点で言い訳なんか効かない。 初めて二人と会った時だって一発で分かるくらい好き好きオーラ出てるのに…もういい加減諦めて良いんじゃないかなぁ。 穏乃「あれ?でも…福路さんは?」 美穂子「私は大会運営のお手伝いよ」 美穂子「塞さんがメインで回してくれているけれど…一応、主催者は私達だから」 美穂子「誰か一人は手伝っておかないと色々と体面も悪いしね」 穏乃「…そうですか」 やっぱり福路さんは大人だなぁ。 その辺の事、しっかり考えているなんて…。 私も福路さんみたいな大人の女の人になれれば、須賀くんともっとイチャイチャしたり…。 …わ、私…何を考えてるんだろ。 い、今のなし!なーし!! 智葉「…で、高鴨はどうする?」 憧「…しずだって二人の事、気にしてるんでしょ?」 穏乃「それは…」 憧「まったく…素直になりなさいよ」 憧「そういうのアンタは得意でしょ」 …憧には素直になれなんて言われたくないかなぁ…。 でも…実際、今の私は素直じゃないのかもしれない。 変に考え込もうとして気持ちがから回っているのは…私自身分かるから。 だけど… ―― 憧「あーもう!」 憧「…しず、携帯出しなさい」 穏乃「え?」 憧「良いから出しなさい」 穏乃「あ…う…はい」スッ な、なんか鬼気迫った様子で言われたから思わず出しちゃったけど…。 一体、憧は何するつもりなんだろう…? そもそも私の携帯電話よりも多機能で薄い奴 ―― 確かスマート電話ってのを持ってたはず。 とりあえずメールと電話だけ使えれば良いやってずっと前から同じの使ってる私のには用はないと思うんだけど…。 憧「えーっと…電話帳は…あった、よしよし」ピッピ 憧「はい」スッ 穏乃「え?」プルルル 憧「あ、それ京太郎に掛かってるから」 穏乃「えええええ!?」 ちょ、えっ…ええええええええ!? ま、待って…そんな…い、いきなり過ぎるよ!? まだ心の準備も出来てないのに…!! あぁ、でも、ここで切ったら絶対、須賀くんに失礼な子だって思われちゃうだろうし…!! あー…うー…ど、どうしたら良いんだろ…!? 京太郎「もしもし」 穏乃「あ…」 す、須賀くんだ…。 いや、彼の携帯に掛けてるから当然なんだけど…でも、須賀くんの声だ…。 やばい、どうしよう。頭回ってない。 何か言わなきゃいけないって言うのは分かってるのに…何を言えば良いのか分からなくて…。 って言うか…耳元で聞こえる須賀くんの声がなんか何時もより近くて凄いドキドキする…っ。 穏乃「須賀くん…」 京太郎「どうしたんだ?」 京太郎「もしかして、そっちに淡が帰ってきたとか…」 …ってドキドキしてる場合じゃない…! だって、須賀くんは今、大星さんを探している真っ最中なんだから。 こうして彼が確認しに来たって事はきっと須賀くんの方だって見つかっていないんだ。 なら…ここで私がやるべきはより多くの情報を須賀くんと交換する事。 ドキドキなんてしてる暇なんてないんだ。 穏乃「ううん。まだ見つかってない…」 京太郎「…そうか」 穏乃「…っ」 瞬間、電話越しに聞こえてきた声は私が思っていた以上に落胆していた。 まるで目の前で希望がなくなってしまったように声のトーンが弱々しくなっている。 ついさっきまで走っていたのか、その言葉の合間にハァハァという吐息の音が混じっているのもあって…とても苦しい。 胸の奥が締め付けられるように痛くて…一瞬、言葉がでなくなってしまうくらいに。 京太郎「悪い。ちょっと先走った」 京太郎「それで…何の用だ?」 穏乃「えっと…今、こっちも一段落して人手が足りるようになって来たからって辻垣内さん達がそっちの援軍に出るみたい」 京太郎「そっか…有り難い」 でも、次の瞬間にはその落胆が消えていた。 いや…より正確に言えば、彼はそれを誤魔化しているんだろう。 きっと…私が彼の恋人じゃないから…仲間とも言えないような微妙な立ち位置だから。 だから、きっと…彼が私に対して強がっている。 弱いところを…見せまいとしているんだ。 穏乃「それで、私も須賀くんの手助けしに行こうと思ってるんだけど…」 京太郎「嬉しいけど…良いのか?」 …そう思った瞬間、私の口から勝手に声が漏れていた。 今までずっと迷っていて…胸の内は決まっていなかったはずなのに。 須賀くんが私に対して強がっているってそう思ったら…無性に側に行きたくなって…。 何も出来なくても…手助けしたいって…また考えなしにモノを言っちゃった…。 穏乃「(て、撤回するなら…今…)」 でも…ここで撤回したら…きっと彼は落ち込む。 既に大星さんがまだ帰っていないってだけでも目に見えて落ち込んでいるのに。 私がやっぱりなしで…なんて言ったら、ただでさえ辛いであろう須賀くんを余計に追い込む事になる。 だから…ここは…もう勢いに任せて…!! 穏乃「うん。私もちゃんと謝りたいし…」 穏乃「それにこっちで皆の事手伝ってる間もそわそわしっぱなしで役に立たないって言われて」 穏乃「早く須賀くんの手伝いしに行けって何度も背中叩かれちゃってるから」 京太郎「…そっか」 その言葉は思った以上に言い訳っぽくなっちゃった。 でも…私の周りで憧や辻垣内さんが笑顔になっているから、多分、間違ってはいないんだと思う。 …まぁ、ちょっと生暖かいような気がしなくはないけれど、笑顔は笑顔であるし。 それよりも今はどうやって須賀くんの役に立てるかを考えなきゃ。 京太郎「ありがとうな、すげぇ助かる」 穏乃「ううん…私が原因みたいなもんだし」 京太郎「アイツが怒ったのは俺の所為だから、気にしなくて…も」クラ …あれ? 今、一瞬、声が遠くなったような…? この辺りは電波が良いし…変に遠くなる事はないはずなんだけど…。 それに終わり際の声は凄い弱々しくて…今にも消えちゃいそうだったから…もしかして…。 穏乃「須賀くん?」 京太郎「あ、いや、何でもねぇよ」 京太郎「それより…探す場所なんだけど」 穏乃「……今、何処?」 京太郎「え?」 …今の彼を放ってはおけない。 なんとなく直感的でそう思った。 それはさっきの考えなしの行動とは違う。 100%完全に勘に頼った推測だ。 けれど、今までそれに何度も助けられている私にはそれが正しいという自信があった。 穏乃「須賀くん、今、結構無理してるでしょ?」 京太郎「…大丈夫だって、これくらい」 穏乃「嘘…さっきから息ハァハァしてるもん」 穏乃「ホントはすっごく疲れてるんでしょ?」 京太郎「おいおい、俺を甘く見過ぎだぞ」 京太郎「ちょっとウォームアップして身体が温まってきたところだからな」 …でも、そんな私に須賀くんは弱音を吐いてはくれない。 多分、これが憧や大星さんだったら…きっと話は違うんだろう。 彼は素直に自分の弱いところを見せて…人に頼っていたはず。 でも…私はまだ彼から信頼を勝ち取れるような事は何もやっていなくて…。 だから…私だけ…こうやって須賀くんを強がらせてしまう…。 穏乃「…じゃあ、今、何処にいるかくらい言えるよね」 京太郎「だから、今、それどころじゃ…」 穏乃「それどころじゃないから聞いてるの」 京太郎「……」 私にそうやって彼に踏み込んでいく資格はない。 今の私は多分、大星さんに対してそうであったようにとても図々しい女なんだろう。 けれど…だからと言って、ここで引くような気持ちは私にはなかった。 須賀くんが弱っているなら…私が彼を助けたい。 彼に頼って貰えるくらい信頼して欲しい。 そんな欲求のまま十秒ほど待ち続けた私の耳に彼からの返答が届いた。 穏乃「うん。分かった」 京太郎「じゃあ…」 穏乃「今からそっち行くね、待ってて」ブツ 一方的に自分の要求を済ませて通話だけを切ったのは、今の私が一分一秒も惜しいからじゃない。 確かにすぐさま彼の元へといきたいのは事実だけれど…でも、それだけでこんな失礼な事をするほど私も馬鹿じゃないから。 それでもこんな失礼な事をしたのは彼がコレ以上、走り回って疲れないで良くする為。 誠実な彼が私が行くとなったら、そこで待ち続けてくれるとそう信じているからこそだ。 憧「…で、しず、どーすんの?」 穏乃「…須賀くんのところに行く」 憧「もう。最初っからそうしてれば良いのよ」 私の言葉に憧は少し呆れたように笑った。 …けれど、その奥に何処か複雑そうなものが混じっているのは…多分、私の気のせいじゃない。 でも、それが一体、どうしてなのか、私には分からなかった。 寂しいような、不満のような、そして何処か諦めたような…そんな色んな感情がごちゃまぜになっていたから。 憧「じゃ、とっとと行って来なさい」 憧「あいつに誑かされないように気をつけてね」 智葉「彼に会ったら私に連絡してくれと伝えておいてくれ」 春「…京太郎の事、任せた」 穏乃「うんっ」 でも…今は憧の事よりも須賀くんの事だ。 子どもの頃からの親友の事は気になるけれど…でも、憧は私の背中を押してくれているんだから。 自分の事は後回しで良いとそう言ってくれているのだし…ここはお言葉に甘えて須賀くんのところに行かせてもらおう…! 穏乃「じゃ…行ってきます…!」 瞬間、地面を蹴った力強さは今まで以上のものだった。 何時もこのホテルの周りを走り回ったり、山を登っている時とはまったく違う。 須賀くんのところに行くんだとそう思っただけで体中に力が溢れ、どんな山でも登れそうな気がする。 虫みたいな名前の魔物になってから初めて感じる圧倒的な力を思う存分発揮しながら私は須賀くんの元へと急いだ。 穏乃「(あった…!)」 その公園は思いの外、ホテルの近くにあった。 最初に場所を聞いた時はもっと時間が掛かるかと思っていたが、数分くらいで到着出来たんだから。 問題は須賀くんがまだそこにいるかという事だけど…それは大丈夫なはず。 だって、その公園の方からハッキリと須賀くんの匂いを感じるんだから。 ちょっと変な匂いも色々と混じっているけれど…彼がそこにいるのは確実だ。 穏乃「(それで…須賀くんは…)」 …いた。 公園のベンチに立って、誰かを話をしている。 その誰かは分からないけれど…でも、あんまり良い気分じゃない。 私がこうして彼のところに来ているのに…他の誰かと話していると思うと…なんだか心の中が余計にモヤモヤする。 穏乃「お待たせ…!」 京太郎「え?」 そんな気持ちを吹き飛ばすように私は大きな声をあげて彼の背中に立った。 それに須賀くんが見せてくれる顔は、驚き混じりのもの。 まるで私がこんなに早く彼の側に来るなんて想像もしていなかったようなその表情に胸の中が疼く。 一体、彼は電話の相手と何を話していたんだろう? そんな疑問が胸の中のモヤモヤを強くし、なんとなく私の気分を曲げさせる。 穏乃「須賀くん、大丈夫?」 京太郎「あぁ。大丈夫だって」 京太郎「高鴨さんのお陰でちょっとは休めたしな」 穏乃「休むって…ベンチもあるのに突っ立って電話してる事を言うの?」ジィ 京太郎「う…」 その所為か、私はそんな可愛らしくない言葉を言ってしまう。 また嫌な子になっちゃったようなその言葉に、ちょっと自己嫌悪。 折角、須賀くんが私のお陰って言ってくれていたんだから、素直に喜んでおけば良かった。 …でも… ―― 穏乃「…全然、大丈夫って顔じゃないよ」 穏乃「焦って…辛そうにしてるの…凄い分かる」 京太郎「……」 私は憧たちに比べれば彼との付き合いはそれほど長くない。 以前、インターハイ団体戦が終わった後、和からの紹介で多少話をしたとは言え…それはほんの短い期間。 迷宮から助けだして貰えたのも実質最後な私は、皆の中で一番、彼との関わりが薄い。 …だけど、そんな私でも…今の須賀くんが凄い辛そうな顔をしてるのが分かる。 顔だけじゃなくて身体もソワソワと落ち着きがなくて、今にも何処かに走り出してしまいそうになっていた。 京太郎「…辛いのは俺じゃなくて淡の方だしな」 京太郎「俺は淡を怒らせて…傷つけた側なんだ」 京太郎「多少、大丈夫じゃなくても動きまわってないとな」 …その気持は私も分からない訳じゃない。 私もどちらかと言えば、そうやって走り回っているのが好きなタイプだ。 何かムズムズしちゃうと脇目もふらず思いっきり走るのが殆ど日課になっている。 だから…今は下手に考えるより動きたいって言う須賀くんの気持ちは良く分かる。 穏乃「…でも、無闇に動きまわっていても疲れるだけだよ?」 穏乃「今はちょっとだけ休憩しよ?」 だけど…今の彼は大分、追い詰められている。 さっき私に大丈夫だって言った人とは思えないくらいに自己嫌悪を顔に浮かばせていた。 …きっと今も…ううん…今までずっと彼は自分を責め続けていたんだろう。 大星さんを傷つけたのは自分だから何とかしなきゃいけないって追い込み続けていたんだ。 穏乃「(…でも、それは身体が保たないよ)」 須賀くんの身体が思った以上に頑丈でタフなのは私も知っている。 殆ど小休止らしい小休止も取らず、私達と一緒に迷宮を踏破したんだから。 その体力は多分、私達とそう見劣りするものじゃない。 だけど…そんな彼が今、体中から汗を吹き出させて顔を辛そうに歪ませている。 通話を始めてから数分が経過しているはずなのに、未だ肩を揺らすように息をしているんだ。 …きっと彼は今まで苦しんでいたのと同じくらい走り回っていたんだと思う。 それなのに…コレ以上、まだ走ろうとしたら流石に身体の負担が大きすぎる。 京太郎「…いや…ダメだ」 穏乃「須賀くん…」 でも…そんな私の言葉を彼は受け入れてくれない。 きっと普段の須賀くんなら…休憩してくれていたはずだ。 迷宮での彼の指示を見る限り、須賀くんは目的の為には冷静になれる人なのだから。 あの宮永さんの魔力にだって歯を食いしばって耐えた彼が自分の状態に気づいていないはずがない。 …多分、彼はそそれでも構わないから大星さんを見つけて謝りたい…ってそう思っているんだろう。 穏乃「(羨ましい…な)」 …それは原因となった私が言って良い事ではないんだと思う。 でも…その瞬間、私の中に浮かんできた感情は間違いなく『羨ましい』だった。 あの須賀くんがこんなになるくらいに…大事に思っている大星さん。 すっごい自信家で、でも、京太郎には弱いところもたまに見せて…そんな女の子らしい女の子な彼女が…今の私にはとても羨ましかった。 穏乃「(…でも…羨ましがってはいられない…よね)」 これがごくごく普通の日常会話の中で惚気られたなら、それだけで済んだのかもしれない。 だけど、今の彼はもう限界に近い自分の身体をさらに押して大星さんを見つけ出そうとしているんだ。 流石にそんな彼を前にして何もせず棒立ちではいられない。 私は憧や大星さんみたいに女の子らしい女の子にはなれないけれど…でも、私が出来る事はしっかりとやらなきゃいけないんだ。 穏乃「……そっちがその気なら…私にだって考えがあるから…!ギュッ 京太郎「うぇ!?」 穏乃「これなら逃げられないでしょ?」 そう言いながら私は須賀くんの腕を取る。 両腕でガッチリ挟み込みながらぐっと足を踏ん張らせた。 須賀くんの方が身体はずっとずっと大きいけれど、でも、力だけは私の方が上。 幾ら彼が抜けだそうとしてもそこからは絶対に逃げられないはず。 穏乃「だから…そこのベンチで休憩しようよ」 穏乃「ジュースだって私が奢ってあげるからさ」 京太郎「……」 私の言葉に彼は迷っているような表情を見せた。 肩を小さく揺らしながら私の前で瞳を揺らす彼に…私は何も言わない。 須賀くんは決して物分かりの悪い人じゃないんだから…何も言わなくてもきっと分かってくれるはず。 穏乃「(それに…なんかちょっとドキドキして…)」 …おかしいな。 憧と買い物に行く時には別に手を繋ぐくらい普通なのに…。 なんで、私、須賀くんの腕を抱きしめているだけで…こんなにドキドキしちゃってるんだろう…。 と言うか…コレ思った以上に須賀くんが近くて…汗の匂いも間近で感じられて…なんだか…ちょっと幸せな気分…かも。 京太郎「…分かった」 穏乃「須賀くん…」 京太郎「…確かに俺は疲れてるし…冷静じゃない」 京太郎「だから…高鴨さんの言う通りにするよ」 ハッって…そんな事考えてる場合じゃない…! 折角、彼がようやく提案を受け入れてくれたんだから…今はともかく行動しないと!! えっと…でも、さっき私、何を言ってたんだっけ? あうぅ…なんだかドキドキして…全然、頭の中回らないよ…! 何時もだって憧みたいに色々計算出来てる訳じゃないけど…なんだか何時も以上に馬鹿になっちゃった気分…。 穏乃「(、お、思い出した…!)」 穏乃「じゃ、じゃあ、こっちね!」 と、とりあえず須賀くんをベンチに座らせて…っと。 後は…後は…えぇっと…どうすれば良いんだろ? そもそも男の人とベンチに座った事なんて全然ないし…。 どうやれば須賀くんを休ませてあげられるのかなぁ…。 穏乃「(…やっぱり膝枕?)」 穏乃「(…でも、私の太もも…憧みたいにプニプニじゃないし…)」 穏乃「(多分、寝心地すっごい悪いよね…)」 …もし、それで憧と比べられたりしたら…絶対に勝てない。 体つきだってどんどん女の子らしいものになってる憧の太ももには負けちゃう。 そもそも私は憧みたいに恋人じゃないし…ただの仲間ってだけで…。 仲間の膝枕よりも恋人の膝枕の方が良くって当然だと思う。 穏乃「(…う…うぅ…だから…ここは…!)」 穏乃「じゃあ…お邪魔しまーす」ギュッ …結局、私は無難な選択をする事になった。 それは決して須賀くんが嫌だって言う訳じゃない。 寧ろ、彼がして欲しいって言うなら喜んでやってあげたくなる程度には私は須賀くんの事が好きだ。 だけど…私の気持ちはさておいて…やっぱり憧達と比べられたらどうしようって言う気持ちは強い。 須賀くんの周りにいる女の子って皆、私よりもずっと綺麗で…そして可愛い人達ばっかりだから…どうしても気持ちが二の足を踏んじゃう。 京太郎「ぅ」 穏乃「……どうかした?」 京太郎「いや…なんつーか…」 京太郎「…ちょっと照れくさい」 穏乃「えー?でも、これくらい憧たちと何時もやってるでしょ?」 京太郎「まぁ、やっていると言えばやっているけどさ…」 そもそもコレさっき私がやってた事とそれほど変わりがないと思うんだけどなー。 ベンチに座っているだけで腕を抱きしめてるって言うのは同じだし。 でも…それが彼の中では違うのかも…? そういえば…ドラマや漫画の中だと公園のベンチに座る恋人って大抵、腕組んでたっけ。 そういうのと重ねあわせて…照れてくれているのかな? 穏乃「(でも…なんだか嬉しいな…)」 それってつまり私の事を女の子として見てくれてるって事だよね? 憧達みたいに色気がある訳じゃない私だって…彼はちゃんと意識してくれてる。 そう思うと…なんだか胸の奥がキュンってして…顔に笑顔が浮かび上がってくるのが分かる。 それもニコリって感じじゃなくて…デレデレって感じの締りのない笑顔。 あんまりこんなの須賀くんに見せたくないけれど…でも、一度、綻んだ顔の筋肉は中々、元には戻ってくれなかった。 京太郎「つーか…高鴨さんの方こそ良いのか?」 京太郎「俺はもう逃げるつもりはないし、腕離しても良いと思うんだけど」 穏乃「んー…でも、今の須賀くん、目を離したらすぐに走って行っちゃいそうで危なっかしいし…」 穏乃「それに私もこうして須賀くんの事捕まえておくの嫌じゃないみたいだから」 …でも、流石に嬉しい、とまでは言えなかった。 勿論、それは私の本心だけど…でも、須賀くんは今も焦っているんだから。 今も何処かで大星さんが怒っている事を思えば、原因を作った私が嬉しいなんて言うのはふき…ふきん…なんとか。 難しい言葉は良く分かんないけど…とりあえずダメだって言うのはなんとなく分かる。 京太郎「汗だくなのとか気にならないか?」 穏乃「うーん…私も結構、運動とかする方だからそんなに気にならないよ」 京太郎「そっか…それなら良いんだけど…」 ……それっきり須賀くんとの会話がなくなっちゃった。 い、いや…勿論、普段は一杯、話もしてるし…最近は逢えなかったから話したい事も一杯あるんだけど!! でも…こうやって須賀くんと腕組んでいると…さっきのドキドキが強くなって…頭の中が回らなくて…。 それに…今は決してにこやかに世間話をしてはしゃいでて良い時間じゃないんだ。 彼との雑談を楽しむのはまた後にするべきだろう。 「あ…?う…うぅうんっ♪♪」 「ひっきゅうううっ♪♪ひああぁああっ??」 「んおおぉおおっっ???」 穏乃「……」 …あ、うぅぅ…。 そうやって静かにすると…なんだか周りの音が凄く耳に入って来ちゃう…。 こ、コレ…アレ…だよね。 絶対にそこら中で…えっと…須賀くんが宮永さんにしてたような事…してるんだよ…ね。 こんな…外なのに…一杯一杯、エッチな声…あげて…。 すっごく…やらしい…。 京太郎「あー…高鴨さん」 穏乃「ひゃう」ビクッ 京太郎「…とりあえず移動しないか?」 穏乃「あ…う…い、いや…でも…」 京太郎「大丈夫。逃げたりしないって」 京太郎「ただ…ここだとほら…色々とうるさくて休めないだろ?」 穏乃「…う」 …確かにそうかも。 さっきまで須賀くんに意識が集中してたから殆ど聞こえてこなかったけど…。 でも…周りの茂みとかで…やらしい事してるのは確実なんだから。 流石にこの状況で須賀くんに休めって言うのはかなりの無茶難題だと私も思う。 京太郎「とりあえずここから離れようぜ」 穏乃「…うん」 …でも、それは本来なら私が言うべき事だったんだよね…。 大星さんの事で頭が一杯な須賀くんよりも…私の方が余裕あるはずなんだから。 なのに…私はこうやって気を遣わなきゃいけない人に気を遣わせちゃって…。 でも…そうやって気遣われるのが嬉しくって…。 穏乃「…ごめんね」 京太郎「なんで謝るんだよ」 穏乃「だって、私…全然、須賀くんの役に立ててない…」 …私がここにいるのは憧達の代わりだ。 本当は…ここに来るべきは憧達だったはずなのに…私が勝手に先走ってしまったから。 だから…来れなくなった皆の分まで私が須賀くんの事、ちゃんと気遣ってあげなきゃいけないのに…。 なのに、私の方が気遣われて…それで嬉しくなるなんて…ほんすえてんとーも良いところだ。 京太郎「…いや、十分、役に立っててくれてるぞ」 京太郎「少なくとも高鴨さんがいるお陰で気持ちも少し落ち着いているしな」 穏乃「…ホント?」 京太郎「あぁ。本当だって」 京太郎「そうじゃなかったら、こんな風に普通にはしてられないよ」 京太郎「高鴨さんだって、最初の俺の顔見てたんだから分かるだろ?」 穏乃「…うん」 確かに今の須賀くんの顔は最初よりも随分、マシになっている。 辛そうを通り越してキツイ顔立ちであった彼の顔が今は大分リラックスしているんだから。 それはまだ演技もあるんだろうけれど…それでもそうやって強がれる程度には回復してくれている。 それが私のお陰だとそう言ってくれる彼の言葉が…私はとても嬉しかった。 京太郎「高鴨さんが来てくれなかったら俺は絶対あのまま無茶やって倒れてたって」 京太郎「だから、胸を張ってくれても良いんだぞ」 穏乃「それは…まだ難しいかな」 須賀くんはフォローしてくれてはいるけれど…でも、私が実際に彼にやった事ってそれほど多くない。 それは今だけの事じゃなくて…出会ってからの事を含めて全部。 須賀くんが私にしてくれた事に対して…私が彼にしてあげられた事はあんまりにも小さすぎる。 一方的に私だけが支えてもらえるような…不平等な関係。 だけど… ―― 穏乃「(…やっぱり私は…須賀くんと一緒にいたい)」 …もう迷宮に探索しに行く必要はなくなった。 私が彼の側にいる理由も…もう殆どない。 パーティが解散した以上、私と須賀くんの関係はあくまでも友人兼親友の恋人なのだから。 元仲間だと胸を張って言えるだけの材料もない私には…それが精一杯。 今のようにたまに部屋から出て来た彼と少し話をする程度の関係なんだ。 穏乃「(…だけど…私は…)」 …どうしてだろう。 もっと…須賀くんと会いたい。 もっと須賀くんと話をしたい。 もっと須賀くんと触れ合っていたい。 会えなかった間、ずっと胸の中に募り続けていたその欲求は今、余計に大きくなっている。 それはいつの間にか憧に対するものよりもずっとずっと…大きくなっていて…。 穏乃「…でも…そんな私でも…側に居ても良い?」 京太郎「当然だろ」 穏乃「…ぁ」 …ついつい口から漏れてしまった弱音。 それに須賀くんが何でもないように即答してくれる。 本当に…それが当たり前であるかのような優しくも力強い応え。 大星さんの事で辛いはずなのに…私の為にくれたその言葉に私は… ―― 穏乃「…ぅ」ポロ 京太郎「うぇぇ?!」ビクッ …いつの間にか目尻に熱いものがこみ上げてきていた。 なんでだろ…別に全然、悲しくなんかないはずなのに…。 寧ろ…嬉しくて嬉しくて…仕方がないはずなのに…。 不安で不安で仕方がなかった気持ちを…解きほぐして貰えたはずなのに…。 なんで、私…彼の前で泣いちゃってるんだろ…。 京太郎「…ほら」スッ 穏乃「…え…?」 京太郎「拭いてやるからこっち見ろ」 穏乃「…ん」 そんな私の顔を須賀くんがハンカチで優しく拭ってくれる。 ポロポロと溢れる涙を一粒ずつ…丁寧に。 まるで私の肌が宝物であるかのようなその優しい手つきに私の心臓がトクントクンって強く脈打つ。 今までのドキドキとは違った甘い鼓動。 体中一杯に心地良いものを広げるそれに私を身を委ねながら…憧の言葉を思い出した。 ―― あいつに誑かされないように気をつけてね 穏乃「(…ごめん、憧…私…ダメかも…)」 私…須賀くんの事、普通の友人だってそう思ってたつもりだった。 この気持ちはあくまでも友達と疎遠になっていく寂しさなんだって…そう思い込んでいた。 でも…私…今ので分かっちゃった。 須賀くんの側にいられる事が…どれだけ嬉しい事かって…。 私は…彼の側にいたくて仕方がないんだって。 それは…多分、友達とかそんなんじゃない。 側に居ても良いって言われただけで…涙が浮かびそうになって…。 そして今も…彼に涙を拭かれる度に強くなっていくこの気持ちは…きっと…… ―― System 高鴨穏乃の好感度が70になりました → <<私…この気持ちをどうしたら良いのかな…?>> 拠点コミュ@2 下2 ―― それから俺は高鴨さんと喫茶店に入って少し休憩して…。 一時間も経った頃には身体も大分、回復していた。 乳酸が溜まっているような感覚もなく、走りだした時と同じく全力疾走出来るまでになっていたのである。 この辺りの回復力は流石、魔物の身体ってところだな。 これからまた走らなきゃいけない事を考えるとその回復力がすげぇ有り難い。 ―― で、喫茶店を出た後からは高鴨さんとも別れた。 智葉を始め、いろんな人達が淡の捜索に付き合ってくれているが未だ彼女は見つかっていない。 そんな状況で二人一組で行動し続けるのも非効率だろう。 高鴨さんは俺の事を心配してくれていたのか、あんまり離れたがらなかったけれど、俺の説得に根負けして頷いてくれた。 京太郎「(それでも高鴨さんは納得はしていなかったんだろう)」 彼女は頷きこそしたが、俺の事がどうしても心配なのだろう。 二手に別れる時にも高鴨さんは何度も振り向き、俺の事を見ていた。 まるで遠距離恋愛の恋人同士のように名残惜しげに去っていくその姿に俺は何度も『無理はしない』とそう約束したのである。 京太郎「(…だから、落ち着かないと…な)」 ここでさっきのように後先考えずに動きまわったら約束を破る事になる。 その上、俺の事を信じて頷いてくれた高鴨さんの気持ちにも思いっきり砂をかける事になるんだ。 逸る気持ちがなくなった訳はないが…それでもアレだけ俺の事を心配してくれていた彼女の気持ちを裏切れない。 高鴨さんと多少、話をしたお陰で気持ちも少しは落ち着いたし…ペースを考えて淡の事を探そう。 久「ごーしゅーじーんーさまっ?」ダキッ 京太郎「うわっ!?」 ってびっくりした…久か。 いきなり後ろから抱きつかれたから何事かと思ったぞ…。 ってか、そうやって抱きつかれると最近、ふっくらと大きくなってきた胸がですね!? 俺とスる時一々脱ぐの面倒だからって普段ブラもつけてないからその膨らみがしっかりと背中に…!! 久「どう?こういうのって男の夢なんでしょ?」 久「当ててんのよって言うんだったっけ?」フゥ 京太郎「ちょ、耳に息吹きかけんの止めろって」 元々、久はスタイルが抜群に良いって訳じゃないけれど、なんとなく色気を感じさせる人だった。 その色気は、彼女が魔物になってからさらに強力に、かつ抗いがたいものになっている。 そんな彼女に後ろから抱きつかれ、あまつさえ耳に息を吹きかけられると我慢が出来ない。 こっちも咲の一件以来、大分火がつきやすい体質になったからなぁ…。 久「もうつれないわね」 久「折角、ご主人様が困っているだろうと思って名案を持ってきてあげたのに」 京太郎「っ!本当か!?」 久は決して戦闘が得意と言う訳じゃない。 けれど、その能力は何度も俺たちの窮地 ―― 特に財政難 ―― を救ってくれたんだ。 そんな彼女が名案を持ってきたとなったら、強い期待を感じる。 久「えぇ。私に良い考えがあるわ」キリッ …でも…何故だろうな。 久自身、すげぇ頭が良くて、戦略とかもしっかり立てられる人で信頼もしてるんだけど…。 なんかそのセリフを聞いただけで凄いダメな気がしてきた。 具体的に言うと安心と信頼の失敗フラグが立ったというか…。 い、いや、気のせいだよな。 久に限ってそんな事あるはずないって。 久「皆、深刻に考え過ぎなのよ」 久「あの子が電話に出たり返信しないだけで携帯自体は持ってるし、恐らくメールも確認してはいるわ」 久「基本的に淡って甘えん坊で構ってちゃんっぽいしね」 京太郎「まぁ、確かに…」 我慢しなきゃいけない時は我慢してくれるがそれ以外の時は基本、俺にベッタリだ。 俺を独り占めしようとするようにその長い身体を思いっきり巻きつけて、体中ベタベタと触ってくる。 まったく飽きる気配もなく毎日、俺に甘えてくる淡は確かに甘えん坊で構ってちゃんなのだろう。 久「だから、まず動画サイトでアカウント取るでしょ」 久「で、生放送の枠を取るの」 久「そこで淡に対して後三十分いないに帰って来なかったらこっちにも考えがあるって呼びかけて」 久「あの子の携帯にもメール送って」 京太郎「ふんふむ」 久「帰って来なかったら私と生放送エッチするの」 京太郎「おい」 途中までは良い案だと思ったんだけどな!! なんでそこで生放送エッチなんて結論に達するんだ…!? そういうのはこう淡に対して熱いメッセージを送るとかじゃないのか…!? 久「えー…でも、これなら確実よ?」 久「流石のあの子も自分以外の相手とエッチしてるってなったら我慢出来ないだろうし」 久「淡が帰って来たら淡と、ついでに私とエッチすれば良いのよ」 久「どっちに転んでもご主人様には損はないと思うんだけどなぁ」 京太郎「損はないのは久の方だろ」 京太郎「ちゃっかり自分を相手の中に入れてるし」 久「それはほら、アイデア料って奴よ」ウィンク 京太郎「まったく…」 悪びれもせず、そうやって断言するんだからなぁ。 しかも、俺に抱きつきながらウィンクまでしてきて。 そういう小悪魔的な仕草がなんでか似合うんだから質が悪い。 いや、それだけならまだしも久なら別にそういうのでも良いか…なんて風に思わされるんだよなぁ。 …ある意味、すげぇ得なキャラしてるよな、久って。 久「で、本当にどうする?」 京太郎「折角、考えてもらって悪いが却下だ」 久「えー」 京太郎「えーじゃねぇよ」 京太郎「そもそもそれじゃ淡をさらに怒らせるだけだろ」 誰がどう見たって、悪いのは淡を怒らせた俺の方なのだ。 デリカシーがなく、淡の気持ちを軽く見ていた俺が全ての元凶なのである。 それなのにそんな開き直るような形で久とセックスしてたら、どう考えたって幻滅されるだろう。 基本的に怒ったりしない美穂子だってそんな事やったら本気でキレさせる自信がある。 久「ご主人様は我儘ねー」 久「じゃあ、第二案」 京太郎「まだあるのか?」 久「どっちかっていうとこっちが本命かしら」 って事はさっきのは前振りって事か。 流石の久もさっきのを俺が受け入れると思っていなかったのだろう。 …ただ、まぁ、久の事だから、俺が錯乱して受けたらラッキー、くらいには思ってたんだろうな。 さっきの「えー」も割りとマジな感じで落胆してたし。 京太郎「…分かった。じゃあ、その本命も聞かせてくれ」 久「うん。じゃあ言うけど…」 久「…とりあえずさ、諦めて帰らない?」 京太郎「…………え?」 あれ?今、久が諦めろって言ったような気がするんだけど…。 いや、流石に気のせいだよな。 だって、ここで諦めたら何の解決にもならないんだから。 淡に対して俺が謝罪し…それを受け入れて貰ってようやく一件落着と言えるんだ。 それを放棄するアイデアは決して本命とはいえないだろう。 久「私も大体の事情は聞かせてもらったけど…淡は本気で拗ねてるだけで怒ってないと思うわよ」 久「私も女だから分かるけど…本気で怒ってたら怒りの対象がご主人様じゃなく高鴨さんの方に向いてただろうから」 久「それをせずに自分が離れるという形で事態の収集を測ったのはまだ冷静な部分がある証拠よ」 久「きっと夜になってお腹が空いたらホテルに戻ってくるわ」 京太郎「……」 同じ女だからと、そう前置きする久の言葉には確かに真実味があった。 それは決して彼女が淡と同じ女性だから、ではなく、俺に分かりやすく分析を噛み砕いてくれているからだろう。 そもそも久は飄々としているように見えて意外と周りをしっかり見て、ところどころで皆の潤滑油になるタイプだ。 インターハイで戦い抜けたのもその分析力が大きく貢献してくれていた事を知っている俺にとって、彼女の言葉は信じるに値する。 久「後はそれを捕まえて、謝り倒したらそれで終了」 久「わざわざ探しまわったりせずにドンと構えておけば良いのよ」 京太郎「…だけど」 久「ご主人様だって分かってるんでしょ?」 久「もう何時間探しても見つからないって事は…淡にそのつもりがないって事よ」 久「それならこの広い東京中を探しまわるより、確実に帰ってくる場所で待ち構えてた方が確実でしょ」 …そして久の言葉は恐らく正しい。 既に俺がホテルを出てから結構な時間が経過しているんだ。 それなのに未だ誰からも淡を発見したという報告がない以上、無闇矢鱈に探しても無駄。 俺に協力してくれている智葉たちの事も考えれば、ここで諦めるというのは十分選択肢に入るだろう。 下2 1久の言葉に従う 2従わない 3無言 京太郎「(…だけど…)」 京太郎「…悪いな、久」 …確かに久の言葉は正しいんだと思う。 でも、それでは俺がどうしても納得出来ないんだ。 例え淡が怒っていなくても、その原因となったのは俺なのだから。 ここで彼女を探す足を止めて、楽な方向に進む訳にはいかない。 淡が見つかるその時まで探し続けるというのが…淡に対してじゃなく俺自身に対しての一つのけじめの付け方なんだ。 京太郎「久は正しいって分かってるけど…やっぱ俺が淡を探し続けるよ」 久「はー…まったく…ご主人様ったら頑固なんだから」 俺の言葉に呆れるように言いながら久はそっと離れた。 まるで俺に付き合ってられないと言わんばかりのその別離に俺は少しだけ不安になる。 もしかして今ので久にも失望されてしまったんじゃないだろうか。 そんな風な気持ちと共に振り返った俺に久の顔が視界に入って… ―― 久「ま、ご主人様がここでうんと言う訳ないって分かってたけどね」ニコ 京太郎「…久?」 久「私とご主人様の付き合いがいったい、どれくらいだと思ってるのよ?」 久「言っとくけど、智葉にだって負けないくらいなんだからね」フンス そこで自慢気に胸を張る久の顔は笑っていた。 まるでイタズラが成功した子どものような、それでいて何処か誇らしそうな表情。 自分が心底惚れ込んだオスはこんなに素晴らしいのだとそう周りに自慢するその顔には悪いものはまったくなかった。 久「…まぁ、ご主人様が少しでも迷う素振りを見せたら容赦なく拉致ろうと思ってたけど」 京太郎「おい」 久「迷いながらするくらいならすっぱり諦めさせた方が良いかなって」 久「無駄だと分かっていても従うのも優しさだけど…でも、それを無駄だって言うのも優しさだと思うしね」 …まったく…今日の久は本当に徹頭徹尾正しいな。 確かに誰も彼もが無条件で俺を手伝ってくれるって方がおかしい。 一人くらいは俺とは別の事を言ってくれる人がいる方が健全だ。 実際、今回は俺がやっている事が間違いで、久の言っている事が正しいのだから尚の事。 久「それに…そうやって何かを決める時のご主人様って格好良いしね♥」 京太郎「う…」 久「ふふ…さっきも凄い男の顔してて…ちょっと惚れ直しちゃった♥」ペロ いや…惚れなおしてくれるのは正直、すげぇ嬉しいんですけどね? …なんでそこで小さく唇舐めるんだろうな!? 惚れなおしただけで発情するとかちょっとチョロ過ぎませんか!? いや、久達がチョロいのは別にいまに始まった話じゃないけどさ!! 久「まぁ、今はそういう時じゃないから我慢するけど…」 久「ちゃんと後でご褒美頂戴ね♪」 京太郎「…あぁ。分かってる」 けど、その欲情は脇に置いておいてくれるらしい。 そんな久に内心、感謝を告げながら俺は小さく頷いた。 久がこうやって諦めろと言ってくれて…そしてそれを正しいと認めている以上、ここから先は俺の我儘になる。 出来れば淡が見つかるまで探し続けたいが、その間、久達の事を放置して良い訳じゃない。 日が堕ちたら捜索も切り上げて、ホテルに帰るべきだろう。 京太郎「日が落ちたら俺もホテルに帰るから…それまで待っててくれ」 久「んー…それなら一時間くらいかしら」 京太郎「そうだな…」 後一時間。 その間にこれまでずっと探しても手がかり一つない淡を見つけ出さなければいけない。 自分で設定したとは言え、明示されたタイムリミットに、一時は収まっていた焦燥感がザワつき始める。 それを理性で押しこめながら俺は小さく頷き、呼吸を整えた。 久「…ま、それくらいなら付き合ってあげても良いかな」 京太郎「え?」 久「どうせ帰っても美穂子の手伝いする事になるしね」 久「それだったらご主人様に恩を売っとくのが良いかなって」 京太郎「…まったく」 淡のことを色々言っているが、久だって素直じゃない。 本当は俺に恩を売るとかそういうのどうでも良い癖に…そんな事を言うんだから。 俺が断るの見越してあんな話を持ってきた事を考えれば、寧ろ、最初から俺の手伝いに来てくれたって方がまだそれらしく聞こえる。 京太郎「…美穂子に怒られるぞ?」 久「大丈夫よ。あの子、私とご主人様には特に甘いから」クス 京太郎「まぁ、確かにそうだけど…」 久「それにあの子だって本当はご主人様の助けになりたいのを我慢してるんだもの」 久「その分は私が代わりにやってあげないとね」 …そうだな。 俺が感謝しないといけないのは今、ここで俺の手助けをしてくれている久達だけじゃない。 俺達が外に出る為に大会運営を頑張ってくれている美穂子や臼沢さんだっているんだ。 彼女達にも後で改めてしっかりとお礼をしないといけない。 京太郎「…ありがとうな」 久「それは美穂子に言ってあげなさい」クス 京太郎「勿論、後で美穂子にも言うけど…久にも感謝してるからさ」 京太郎「久のお陰で気持ちも固まったし…ありがとうな」 久「も、もう…そんな真剣に感謝されると恥ずかしいわよ」 京太郎「うん、知ってる」 自信満々なように見えて実は結構、恥ずかしがり屋だったり、緊張しいだったりな。 小悪魔なように見えて、攻められるとされっぱなしになる姿とかは割りと普段から見ている。 なんだかんだ言って一番、エロとなると受け身になるのは多分、久だろうしな。 まぁ、そんなところも可愛くて良いんだけれど。 久「も、もぉ…意地悪…」 久「そういうのはベッドの上だけにしてよ…!」 京太郎「…本当にベッドの上なら意地悪しても良いのか?」 久「……や、やっぱりたまには手加減して欲しいかなって」メソラシ 京太郎「よし。じゃあ、今日も一杯、恥ずかしい事してやるからな」 久「う、うぅ…このベッドヤクザぁ…」 人聞きの悪い事を。 ただハーレムを維持する上で俺が受け身になってたらどうしようもないってだけだ。 それにまぁ…実際、久だってそうやって攻められるのかなり楽しんでいる節があるし。 自称Sってだけで実は結構なマゾだからなぁ…。 京太郎「じゃあ、ベッドヤクザはそろそろ退散するよ」 京太郎「後一時間後…また連絡する」 久「その前に着信拒否しといてやる」クス ま、それはともかく…だ。 明確にタイムリミットが決まった以上、あんまり久とイチャイチャしてはいられない。 こうしている今も智葉達は頑張ってくれているんだろうから。 後一時間…そうやって決めた期限もあるし…今はそれに全力を尽くそう。 そう思って俺は淡を探す為にまた駆けだして… ―― System 竹井久の好感度が60になりました → <<き、今日はどんな恥ずかしい事されちゃうのかしら…♥♥>> 拠点コミュ@1 直下 →淡 ケーキ使用 淡「…はぁ」 ……寂しい。 なんで私は一人でこんなところ歩いてるのかな。 …本当は今頃、キョータローとイチャイチャしてるはずだったのに…。 もしかしたらグッチョングッチョンになるまでエッチな事して貰えてたかもしれないのに…。 淡「(…でも…キョータローが悪いんだよ!!)」 私が折角、じょーほしてふつーにイチャイチャしようとしてたのに…高鴨さんもするなんて言っちゃうから…! キョータローは分かってないかもしれないけど…アレは特別なギューなんだよ!! 特別な女の子以外には絶対にやっちゃいけないハグなんだから!! それをやってる最中に…他の女の子にまでやるとか言ったら…私、惨めじゃん。 淡「(私は…キョータローの恋人なんだよ)」 淡「(高鴨さんは…そうじゃないんだよ?)」 私は…あの時、凄いドキドキしてた。 ドラマで見てからずっと憧れてて…一度、好きな人にされてみたかったギュー。 それをキョータローにしてもらえた瞬間…嬉しくて嬉しくて…顔が緩みっぱなしだったのに。 …なのに、それを恋人でも何でもない高鴨さんにするとかさ…。 私にとっては特別で…憧れてたギューが…彼にとってはそうではなくて。 高鴨さんに気軽にするなんて言っちゃえるような…なんでもないハグだったって気付かされて。 ……別にキョータローと何もかも価値観を共有出来てるとは思っていないけど…それでも…アレは酷い。 私の憧れとか…期待とか…そういうのを全部、台無しにされちゃったんだから。 淡「(うー…やっぱキョータローが悪い!)」 淡「(どう考えてもキョータローが悪い!!!)」 多分、世界中の女の子は皆、私の味方をしてくれると思う。 それくらいあの時のキョータローはデリカリーってのがなかった。 あれ?デリカピーだったっけ? …まぁ、ともかく、そういうのがまったく足りてなかった。 多分、アレは私だけじゃなくって他の人だって怒ると思う。 淡「(…だけど…すっごい…すっごい寂しいよ)」 キョータローとエッチしてから…基本的に私は皆と一緒だった。 順番でキョータローの側にいられない時だって、私は美穂子さんとか憧とかと一緒に買物に出てたし…。 菫先輩のところにキョータローとの事を惚気に行ったりしていた。 だけど…今の私の周りには誰もいない。 キョータローの恋人になってから…久しぶりに…本当の一人になっている。 淡「(…一人ってこんな寂しいものだったんだ…)」 …私はずっと一人だった。 友達と呼べるような人なんて殆どいなくて…それで良いって意地張って…。 本当は寂しいのを隠して…周りを遠ざけて。 テルーと出会ってボコボコにされて少しはマシになったけど…それでも私は可愛げのない子で…。 だから…一人なんて慣れているって…そう思ってたのに…。 淡「(…私、弱い子になっちゃった)」 淡「(ううん…弱い子に…されちゃった)」 最初はキョータローに対する怒りが強かった。 あんなデリカピーない奴なんて最悪だって…そう怒ってた。 けれど、時間が経って…自分が一人だって言うのに肌で感じてくるに連れて…どんどん寂しさが増してきて。 …私…それにもう耐えられなくなってる。 こうして一人でいるって言うのが…出来ないような弱い子に…されちゃった。 淡「(全部…全部、キョータローの所為だよ)」 淡「(キョータローがいなかったら…私、こんな風にはなってなかったもん)」 そう。 昔は私にとって…一人なんて当たり前だったのに。 それが耐え切れないようになっちゃったのは…キョータローの所為。 キョータローが私に手を差し伸べて…友達になってくれたから。 大事なものに気づかせてくれて…そしてそれ以上に一杯、素敵なものをくれたから。 だから…私…それから離れた今…凄く寂しくて…辛くて…。 今すぐキョータローに会いたくなってる…。 淡「(…キョータロー、怒ってるかな…?)」 淡「(い、いや…勿論…淡ちゃん様はぜんっぜん悪くないし!!)」 淡「(悪いのはキョータローなんだから、あっちが怒る方がおかしいよね…!!)」 淡「(怒ってるのは寧ろ、私の方なんだし!!)」 …でも…どうしてだろう。 キョータローに会いたいのに…会えない。 怒ってたらどうしようって…嫌われてたらどうしようって…。 寂しくて寂しくて…キョータローにハグされて堪らないのに。 そんな不安が脳裏を過って…どうしても決心がつかなかった。 淡「(…だけど…ちょっとだけ…)」 淡「(ちょっとだけ…やりすぎちゃった…かも…とは)」 淡「(思わなくも…なかったり…して…)」 …怒って離れた私をキョータローは追いかけようとしてくれてた。 多分、キョータローの事だから…それは謝ろうとしてくれてたんだと思う。 けど…あの時の私は胸の中がもうむしゃくしゃしてて…すっごい拗ねてて…。 だから…能力まで使って…京太郎を置いていっちゃった。 淡「(あの時、素直にキョータローに甘えておけば…)」 淡「(きっと…こんな寂しい思いをする事はなかったよね…)」 …認めたくはない。 認めたくないけど…今の私は後悔してた。 あそこで意地を張らなければ…きっと簡単に仲直り出来て…イチャイチャも出来ていたはずなのに。 それを思いっきり蹴ってしまった所為で…キョータローが怒っているんじゃないかって…そんな風に不安で仕方なくって…。 何度も何度も掛けてもらってる電話にだって出れないままだった。 淡「(だって…怒られたら…どうして良いか…分かんないもん…)」 多分、キョータローは怒ってないとは私も分かってる。 アイツはこういう時、自分の事を責めるタイプだから。 実際、キョータローに悪いところは沢山あったんだし、怒っていない。 何度も掛けてもらってる電話も…きっと私に謝りたいからだって…なんとなく分かってた。 淡「(…でも、もし怒ってたら?)」 淡「(もし…私が思ってる以上に…京太郎が傷ついてて…)」 淡「(私となんて話もしたくないなんて…そう思ってたら?)」 …そんなの絶対にない。 この淡ちゃん様と恋人にまでなっておいて話もしたくないなんてあり得るはずがない。 頭ではそう思ってるけれど…でも、どうしても心の方が納得しなかった。 それはきっと…私が一人じゃダメな子になってしまったからだろう。 こうして一人で歩いているだけでも寂しくて寂しくて仕方がなくて…。 怒っているはずなのに…キョータローに嫌われたくないって…そう心から思ってしまっているから。 だから、私はそれが不安で…確かめるのが怖くて…ついつい先延ばしにしてしまう。 淡「(…それに…仲直りの仕方なんて…知らないもん…)」 淡ちゃん様は今までここーの美少女だった。 友達なんて要らないってそう強がって、自分から周りを遠ざけて。 そんな人生をもう十年近く続けてきた私には『大事な人と喧嘩した時にどうすれば良いのか』という経験がない。 勿論、謝れば良いのは頭の中では分かっているんだど…それもすっごい癪に触って…。 そもそも私がここで謝るって言うのは何か違う気もするし…。 淡「(…こういう時、高鴨さんならどうするのかなぁ…)」 あのとってもちっちゃくて元気で可愛くて、何より素直な子なら…きっと自分から電話するだろう。 自分にも悪いところがあって…そして寂しいんだから、きっと彼女は迷わない。 最初は私と同じように怒るかもしれないけれど、途中で冷静になって自分から謝ると思う。 淡「(…キョータローもそういう子の方が良いよね…)」 私は多分、とっても分かりにくくて面倒くさい子なんだと思う。 勿論、淡ちゃん様はそれ以上に可愛くて、キュートで、ラブリーだけど…。 こうやって悩んで、ウジウジしてる自分が可愛くない事くらい自覚出来ている。 …『仲直りの仕方が分からない』なんて…そんな理由で電話の一つも取らない私よりも…きっと明確に好きな気持ちをアピールしてる高鴨さんの方が可愛い。 だから…あの時、キョータローも…私とイチャイチャしてるのに…高鴨さんにもやるって約束して… ―― 淡「(…もう二人はあのハグしちゃってるのかな…)」 ううん、そんな事はない。 キョータローは私を放っといて別の女の子とイチャイチャするような奴じゃないはず。 アイツは鈍感でヘタレだけど…それでもしっかり譲らない芯は持ってる熱い奴なんだから。 …でも…でも…もし…私なんか要らないって…そんな風に思って…高鴨さんとイチャイチャしてたら? 淡「(……やだ…凄い胸が苦しい…)」 淡「(辛くて…重くて…息も出来ないくらい…)」 …その想像だけで私は泣きそうになってた。 私がこんなに大好きで…側にいて欲しいキョータローが…私の事を見捨てたと思っただけで。 私の代わりに…高鴨さんと恋人同士のハグをしてるってだけで。 胸の奥で何かが詰まったように苦しくなって…ズシンって身体も重くなって…。 目尻から熱いものがジワッとこみ上げてくる。 淡「(…でもでも…どうすれば良いのよぉ…)」 こうやって意地を張る時間が長ければ長いほど、それが現実の光景に近づいていく。 そんな事は目尻に涙を浮かべた私でも分かっていた。 だけど、私はどうしても自分から電話をする気にはなれなくて…。 キョータローに会いたいけれど…会ってどうすれば良いのか分からなくて…。 もう何時間も延々と気持ちが同じところをグルグルと回ってる…。 淡「あ…」 そんな私の目に小さなケーキ屋さんが目に入った。 もう殆ど閉まっている店の並びの中、一つだけ営業中の札が掛かっている小さなお店。 外から見えるガラスケースには美味しそうなケーキが並び、こうして道を歩いている私の食欲を刺激する。 でも、私が目を引かれたのはそっちじゃなくって… ―― 淡「(…のぼりに…恋人専用ケーキ販売中って…)」 瞬間、私の脳裏に浮かぶのはたまにキョータロー達と食べるあの甘いケーキの味。 中にエッチになるオクスリが沢山入ったあのケーキは皆で食べると何時も以上にエロエロになっちゃう。 元々、ベッドでは意地悪なキョータローも何時も以上に激しくなって…皆をケダモノみたいに犯してた。 色々あって、変な触手みたいなのが生えるようになった今は危ないから食べてなかったけど…。 淡「(…これなら…仲直り…出来る?)」 そういうエッチなケーキじゃなくても…ここで売っているのは恋人専用のケーキ。 それを食べるのはやっぱりラブラブな二人じゃないとダメだろう。 だから…これをキョータローと食べれば…キョータローだって私の事が好きだって分かってくれるはず。 私が仲直りしたがっているのを…きっと伝わる…と思う。 淡「(うぅ…は、恥ずかしかった…)」 一時間後、私はまたさっきと同じように一人で道を歩いていた。 けれど、その手にさっきとは違って、小さな包がある。 あのケーキ屋さんで丁寧に包んでもらったそれの中身は勿論、仲直り用のケーキだ。 後でキョータローと一緒に食べる用の…とってもエッチなケーキなのである。 淡「(これ買うだけでどれだけ時間掛かったんだろ…)」 多分、店の中に入った私は淡ちゃん様らしくない酷い顔をしていたんだろう。 店員の女の人は優しく話しかけてくれて、その声音に弱っていたのか、私もついつい話しちゃって…。 それでからかわたり、励まされたり、羨ましがられたりしながら根掘り葉掘り聞かれて…。 結局、あのお店を出たのは結構な時間が過ぎた後だった。 淡「(…でも、これがあれば…キョータローと…)」 あの店員さんも太鼓判を押してくれていた。 これがあれば絶対に仲直り出来るって。 素直になる為には最高のアイテムだからって…そう背中を押してくれた。 後はこれをキョータローに見せれば良いだけ。 そうすれば…きっと彼と仲直り出来 ―― 淡「えへへ…♪」 ドンッ 淡「わきゃっ!?」 「うわっ」 な、何…!?何なの…!? …曲がり角曲がろうとしたらした瞬間、いきなり横から衝撃が来て…! いや…別にそれほど強いもんじゃなかったからビックリしただけでバランス崩した訳でもないし、痛いって訳じゃなかったけど…。 でも、突然、過ぎて変な声あげちゃった。 淡「(…って、違う、ケーキは…!?)」 そこで私が脳裏に浮かべのたは手に持ったケーキだった。 別にバランスを崩した訳ではないとは言っても、いきなりの不意打ちに腕が思いっきり揺れたのだから。 流石に包を手放したりはしなかったが、それでもこれだけ揺れたらきっと中身が崩れている。 折角…折角、キョータローと仲直りする為の秘密のアイテムが…きっとメチャクチャになってしまったんだ。 「す、すみません、俺急いでて…!」 淡「この…っ!」 横から聞こえてきた声に私は人とぶつかったのを理解した。 瞬間、頭の中に浮かんでくるのは強烈な怒り。 勿論…ケーキはまた買えば良いだけの話だけど…このケーキの中には私の気持ちが一杯詰まってたんだ。 それを台無しにされてしまって平然となんてしていられない。 せめて文句の一つでも言ってやらなきゃ気が済むはずもなく…私は語気を強くしてそっちへと振り返って… ―― 京太郎「…あ」 淡「あ」 ―― そこにあったのは私が今、一番、会いたくて仕方がない男の人の顔だった。 淡「な、ななななななななな!?」 なんでここに!? と言うか、なんで私、キョータローの匂いに気付かなかったの!? さっきまではそれに気づいてたから意図的にキョータローの方へと進むのを避けてたのに…。 …いや…思い返すと…ケーキ屋さんから出た時から鼻が甘い匂いで鈍ってたかも…。 淡「(…でも、これだけ近くにいたのに気づかないなんて変だし…)」 淡「(そもそも…曲がり角で偶然ぶつかるなんてどんな確率なのよ…!?)」 淡「(まるで…まるで身体が勝手にキョータローの方に引き寄せられてたみたいじゃん…!!)」 ロマンチックで乙女な淡ちゃん様はこれを運命だって思いたいけれど…でも、状況は最悪だった。 だって、私にとって唯一の勝算が今、目の前で見事にグチャグチャになったんだから。 キョータローと仲直りする唯一の手口を失った今、私は一体、どうすれば良いのか。 正直、まったく分からず…でも、身体はキョータローからもう逃げたくなくて…私はみっともなく首を振って焦っている姿を見せちゃう。 京太郎「…淡」 淡「あ…うぅ…」 京太郎「話があるんだ、良いか?」 でも…そんな私とは違ってキョータローはとっても真剣だった。 今どき少女漫画でも滅多にないような出会い方をしたっていうのに…全然、ビックリしていない。 まるでこうやって私と出会ったのが千載一遇のチャンスであるかのように…真正面からジッと見つめてくる。 迷宮が消えた今、滅多に見なくなったキョータローの真剣な表情に私の胸がドキンって甘く反応しちゃう。 淡「(って言うか…汗だくで…シャツも透けてて…)」 …多分、私の事をずっと探してくれてたんだろう。 私はこんなに汗だくになったキョータローをエッチの時くらいしか見たことがない。 それも始まってすぐとかじゃなくて…私達皆をイかせまくって…エッチそのものが終わりに入りかけている時くらい。 迷宮を冒険してる最中だって、こんなに汗だくになったキョータローの事なんて見た事がなかった。 淡「(すっごい…すっごい匂い…ぃ♥)」 今のキョータローから放たれる匂いはとっても強かった。 さっき気付かなかったのが嘘みたいに、プンプンと美味しそうな匂いをさせている。 正直…それを嗅いでいるだけで私の女の子の部分がキュゥンと反応して…エッチなお汁が漏れちゃう…♥ キョータローも大好きな…グチョマンになっていくのが…オマンコで…分かっちゃうぅ♪ 京太郎「ごめん!!」バッ 淡「あ…」 そんな私の前でキョータローは勢い良く頭を下げた。 腰から思いっきり折り曲げるようにして…ほぼ直角の形。 私の前では顔もあげられないと言わんばかりのその仕草に胸の疼きが強くなる。 それはさっきのエッチなトキメキとは違う…何処か後ろ暗い…嫌な感じの疼き。 多分、私はキョータローに謝って欲しかったけれど…でも、こんな姿が見たい訳じゃなかったんだ。 京太郎「俺…淡に甘えてた…」 京太郎「ハーレム許容してくれてるんだし、これくらい大丈夫だって」 京太郎「淡があの時どんな気持ちだったのかまったく考えてなくて…」 京太郎「その場のしのぎの最低な事をやってた…」 淡「…」 京太郎「だから…ごめん」 京太郎「これからは…淡の事をもっとちゃんと考えるようにする」 京太郎「いや…淡だけじゃなくて…皆の気持ちをもっと考えるようにする」 京太郎「もうあんな酷い真似はしないって…そう誓うから…」 淡「…もう良いよ」 京太郎「…でも」 淡「頭あげて」 淡「もう…別に怒ってないから」 …私が欲しかったのはきっと、『ごめん』の一言だけだったんだと思う。 ただ、それだけで…私はきっと自分の中にあった怒りを全て白紙にする事が出来た。 そんな私の前で…そこまで真剣に謝られると胸が痛い。 キョータローがそんな真剣に謝らなきゃいけないような事をしたのが私だって思うと…私の方が申し訳なくなっちゃうくらいだ。 京太郎「…あぁ。分かった」 淡「…ん」 そうやって顔をあげるキョータローはまだ申し訳無さそうにしていた。 きっとさっきの謝罪は口だけのものじゃなく、本気で私に最低な事をしたと思っているんだろう。 …まぁ、ちょっと気づくのは遅かったけれど、それは淡ちゃん様の広い心で許してあげるべきだ。 淡「はんせーした?」 京太郎「しました」 淡「淡ちゃん様の優しさと大事さが分かった?」 京太郎「身に沁みて理解出来ました」 淡「……私の事、まだ好き?」 京太郎「愛してるに決まってるんだろ」 淡「…えへへっ♥」 ふふ…そっか…そうかぁ…。 反省もして…私の優しさと大事さも分かって…それで愛してるのかぁー♥ …だったら…しょうがないよね♪ ここで許してあげるってだけじゃ…キョータローがまだ申し訳なさそうな顔をしてるだけだろうし…。 淡「…えい」ギュゥ 京太郎「ちょっ、淡…!?」 淡「仕方ないから…これで許してあげる♪」 ほんとーは…ほんとーは奴隷のようにこき使ってから許してあげたいんだけどさ。 でも…キョータローは私の優しさが分かったって言って…その上、私の事を一生愛し続けるってそう宣言してくれたんだから。 そんなキョータローに対してあんまり酷い仕打ちをするのも、なんか性格悪いみたいだし? …ここは仕方ないから普通のギューで許してあげよう…♥ 京太郎「…ありがとうな」 淡「ん…♥淡ちゃん様に感謝しなさいよ…♪」スリスリ 京太郎「あぁ。心の底から感謝してますよ、淡様」ギュゥ 淡「んあぁ…♥」 ふ…ぁ…♪ キョータローからも…ギューされると…やっぱり素敵…♥ 今まで寂しかった所為…かな…♪ 会いたくて会いたくて仕方がなかった身体が…キョータローのあったかさで満たされてくのが分かる…♥ ケーキなんかよりも遥かに美味しそうな匂いも…鼻先どころか顔全体で感じられてぇ…♪ やっぱり…キョータローの身体…すっごい…♥ すっごい幸せに…してくれるよぉ…♪♪ 京太郎「…あ、そういえばさ」 淡「んにゅ♥なぁに…?」スリスリ 京太郎「その手に何持ってたんだ?」 京太郎「何だか随分と大事そうにしてたけど…」 淡「はぅ…」 って忘れてた…。 そういえばこのケーキ…どうしよう…。 さっきキョータローとぶつかった所為できっと中身グチャグチャになってるだろうし…。 到底、見せられるような状況じゃない…よね。 だけど…… ―― 淡「(…だけど…)」 ……私は…今日、ちょっとだけ学んだんだ。 自分がどれだけ弱くて…そして可愛げのない女の子かって事。 実際、こうして仲直りするのだって殆どキョータロー任せだったし。 ここで終わってたら…今日の私は何も成長していない事になる。 それは淡ちゃん様的には…決して許せる事じゃない。 だから…ここは…少しだけ勇気を出して… ―― 淡「か、買ったの…」カァァ 京太郎「買った?」 淡「こ、恋人…同士のケーキ…」 淡「き、キョータローと…食べようと…思って…」 淡「そ、そうしたら…キョータローと…な、仲直り…出来る…かなって…」モジ 京太郎「……」 淡「…キョータロー?」 …あれ? 折角、勇気出して言ったのに…無反応はちょっとこわいよ? も、もしかして…ダメだった? 私がこういう事するの…キャラじゃなさすぎ…? それとも…面倒で重い女とか…そういうの思われちゃった…? 京太郎「…お前、可愛すぎ」ギュゥ 淡「きゅぅぅ♪」 京太郎「なんだよ…もう」 京太郎「んな事されたら…余計好きになっちまうだろ」 淡「あわぁぁ…♥」 えへへ…♪ なーんだ…それならそうと早く言いなさいよ…♥ まぁ、淡ちゃん様から直々に仲直りしたいって言われてるんだから当然だけどねっ♪ この私が許してあげるから…もっともっと好きになっても良いんだよ♥ どうせキョータローの好きじゃ…私の大好きにはぜえええっったい敵わないんだからねっ♥♥ 京太郎「…じゃあ…それ見せてくれるか?」 淡「え…でも…」 京太郎「もしかしたら無事かもしれないだろ?」 淡「……うん」 …本当はあんまり見られたくないんだけどなぁ。 確認するにしても…出来れば私一人の方が良いかなって…そう思わなくもないんだけど…。 でも、キョータローにこう言われて…見せない訳にもいかないし。 それに…私も確認したいから…ちょっと離れて…箱を開 ―― 淡「…あ」 ……やっぱりダメだった。 私が選んだ…お揃いのシフォンケーキ…。 ぶつかっちゃってグチャグチャになっちゃってる…。 これじゃ到底、食べられたもんじゃないよね…。 ちょっと…いや、かなり残念だけど…でも、仲直りは出来たし、仕方ない…。 京太郎「ん」スッ 淡「えっ?」 京太郎「」パク って食べた…!? だ、ダメだよ、キョータロー。 それグチャグチャになってて絶対美味しくないし…。 それにココ外だよ? それ食べたらエロエロな気持ちになっちゃってはつじょーしちゃうんだから…下手に食べちゃったら…。 京太郎「…ん。美味しい」 京太郎「流石、淡の選んでくれたケーキだな」 淡「…あ…♥」 …まったく…もう。 そんな当たり前の事言われても…全然、嬉しくないんだからね…っ♥ 私が一生懸命悩んで…キョータローの為に選んだ最高のケーキなんだから…っ♪ でも…そんな当たり前の事言う為に…わざわざ道端でこんなの食べちゃうなんて…私…知らないよ…? 淡「…ね、キョータロー…♥」 淡「私にも…食べさせて♪」 淡「京太郎の手で掬って…あーん…して♪♪」 だって…私…今のでスイッチ…入っちゃったもん…♥ ただでさえ…寂しかった身体が急速にキョータローで満たされて…グチョマンになっててるのに…♪ その上、目の前でこんな嬉しい事されたら…どうしても本気になっちゃうよ…っ♥ 例え外でも…何処でも…キョータローとエッチしたくて堪らなく…なる…♪ ケーキだけじゃなくて…キョータローのオチンポまで欲しくなる…エロエロメドューサになるぅ…♥♥ 京太郎「…仕方ないな」スッ 淡「あーん…♥」パク 淡「ちゅる…♪ぢゅるぅう…♥」 京太郎「淡…」ゴクッ えへへ…だから…キョータローも…エロエロにしたげるぅ…♪ ケーキだけじゃなくて…指まで一杯、ペロペロしてぇ…♥ 口全体を窄めて…指フェラ…してあげちゃう…♪ キョータローってば…こういうのも好きなんだよね…♪ 美穂子さんが教えてくれたから…私も知ってるんだよ…♥ 淡「…ちゅぱぁ♪」 淡「…えへ…♪キョータローぉ…♥」 淡「…知ってる?近くに…エッチなホテル…あるんだよ…♥」 淡「そこ…行こ…♪」 淡「一緒に…行こぉ…♥」 でも…先に私の方が我慢出来なくなっちゃったみたい…♥ キョータローの指にも一杯、汗がついてて…とっても美味しかったから…♪ 子宮がね…♪今、キュッゥウンってしてるんだよ…♥ エッチなお汁ドピュドピュさせながら汗じゃなくて精液欲しいって鳴いてるの…♥ キョータローのオチンポ我慢出来なくて…もう身体が…キョータローの事欲しくて堪らないからぁ…♪♪ ―― …だから、私はキョータローの返事も待たず、彼の身体を全身で巻き上げて…♥ ―― そのままラブホテルに拉致するように連れ込んだ後…♪ ―― 本気になったキョータローに一晩中、鳴かされ続けて…♥♥ ―― それでも収まらないキョータローに美穂子さん達への救援を出す羽目になっちゃった…♪♪ System 大星淡の好感度が5あがりました(不機嫌状態適用済み) 媚薬ケーキの効果によりさらに10上昇しました 現在の大星淡の好感度は100です → <<…仲直り出来て…本当に嬉しかった…♥>> おや…大星淡の様子が…?

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