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京太郎「女の子が積極的になりすぎた世界」1」(2016/03/30 (水) 22:54:19) の最新版変更点

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―― 世の中には絶対普遍のルールと言うものがある。 多くの人はまず真っ先に物理法則を挙げるだろう。 世界の動きをミクロからマクロまで説明するそれは今の人類には決して手放せないものだ。 或いは、自分の中の常識を挙げる人もいるかもしれない。 ごく一般的な人にとって自分の中の『常識』とは価値観の根底に根ざすものなのだから。 それを普遍と信じたい気持ちは俺にも分かる。 「そんなルールをこの石版は自由に決める事が出来るんだよ!!!!1111」 京太郎「そーなのかー」 ……だが、それを自由に決める事が出来る、なんて言うのはあまりにも眉唾が過ぎる。 確かに俺の親父は考古学者で、人並み以上にオカルトの知識なんかを持っているだろう。 しかし、だからと言って親父のお土産が『本物』だった事など一度もないのだ。 まぁ、そもそも親父が持って帰ってくるお土産なんて、大抵がそこらの露天で買った珍しいお守りなのだけれど。 「なんだよーノリが悪いなぁ」 京太郎「だって、これもどうせ露天で買ったんだろ?」 「あぁ。何ともミステリアスな美女から是非に、と言われてな」 京太郎「…母さんが怒るぞ」 「大丈夫だ。母さんは控えめな女だからな」 「ちゃんと後で可愛がってやれば機嫌も治してくれるよ」 …ったく、本当にこの夫婦は。 息子の前で惚気けるな、とは言わないが、そういうネタをもうちょっと自重しようとは思わないもんかな。 まぁ、夫婦仲が険悪になってるよりはマシだろうけれど…こっちは一応、色々と微妙な時期なんだぞ。 確かに親父も母さんも外見的には20代から殆ど変わってないが、『可愛がる』ところを想像したくはない。 「まぁ、それはともかく、今はこっちの石版だ」 「さっきはああいったが、俺も流石に世界のルールを決めるなんて話を信じちゃいない」 「まぁ、完全に否定するつもりはないんだが、精々が何処かの部族で使われていた法律発行用の石版だろうとな」 京太郎「…もしそうだとしたらこれ結構、重要な史料なんじゃね?」 それが本当なら割りと重要な発見じゃなかろうか。 考古学ならばともかく民俗学的には喉から手が出るほど欲しい一品だと思うのだけれど。 幾ら半年ぶりに出会った息子へのお土産とは言え、軽くプレゼントして良いものではないはずだ。 「いや、一応、何人か知り合いの学者にも尋ねてみたが、適当に作った石版だろうとさ」 「少なくとも、あの周辺の部族に石版で法律を発行するような習慣を持っていたものはいないらしいし…」 「世界中の何処を見渡しても、この石版に刻み込まえれている模様を使う部族はいなかったそうだ」 京太郎「へぇ…」 なんだ、一応、その辺りはちゃんと調べてから持ってきてくれてるのか。 それなら安心…は出来るんだけど、ちょっと微妙な気分と言うか。 親父には他意はないんだろうけれど、結果的に何の価値もないゴミを押し付けられている訳で。 ネットでは嫌なお土産、略してイヤゲモノなんて言葉があるが、確かにこれはイヤゲモノだと思う。 「まぁ、偽物だとしてもロマンは感じるだろう?」 「どうだ。お前の部屋のアクセントにでも置いてみては」 京太郎「…いや、流石にこんな石版が置いてある部屋はちょっとどうかなぁ」 石版のサイズは縦に120cm、横に80cmほど。 材質が何なのかは分からないが、黒鉛のような表面に文字が刻み込まれている。 一体、いつごろ作られたのかは分からないが、表面には傷一つないし、こうして見る限り新品同然だ。 …………しかし、だからと言って部屋に置く気がしないのは、その自己主張があまりにも大きすぎる所為だろう。 完全に洋風かつ男子高校生風の部屋には、その石版は異物過ぎる。 「…そうか。まぁ、確かに勢い任せで買ってしまった事は否定出来ないしな…」 「これは俺の部屋の物置にでも突っ込んでおく事にするよ…」シュン 京太郎「あー…」 …でもなぁ。 でも…半年ぶりに帰ってきた親父が、意気揚々と俺にプレゼントしてくれたものなのは確かなんだ。 それをこうして無碍にされたら、そりゃ落ち込むのも当然だろう。 …まぁ、もう30超えた男がそんなしょげかえった顔をするなと言いたい気持ちはあるが、メンタルが弱い以外は割りと立派な親父ではあるし。 ここは親父の顔を立てる為にも、素直に受け取っておくほうが良いだろう。 京太郎「…いや、折角だから貰うよ」 「…良いのか?」 京太郎「あぁ。ちょうど、漬物石になるものが欲しかったからな」 「そうか!」 …いや、どんな理由だよ。 確かに最近、タコス作りを勉強し始めたが、いくらなんでも漬物はねぇって。 ……そう胸中でツッコミを入れる自分はいるけど…でも、他の理由なんて特に思いつかないし。 少なくとも目の前で嬉しそうにしてる親父には疑われていないみたいだし、良しとしよう。 「じゃあ、これは今からお前のものだ!」スッ 「適当に自分の目標を書き込むなり、古代のロマンを感じて悦に浸るなり好きにしてくれ!」 京太郎「はいはい」 …って勢い任せに受け取ったけど、この石版案外軽いな。 大きさ的には10kgを超える事も予想してたんだが、まったく重くない。 つーか、殆ど重さなんて感じないくらいだ。 …これ書いてる内容よりも何で作られてるかって方が大事なんじゃないかな。 京太郎「(まぁ、流石にその辺は親父も理解してるだろうし)」 母さんと一緒に殆ど家を開けていて、たまーにしか帰ってこないとは言え、親父は立派な学者だ。 もう30半ばを超えていてもその身体に衰えはなく、また頭もバリバリに切れている。 未だに世界有数の考古学者として名前のあがる親父が、俺でも気づくような事に気づけないとは思えないし。 親父が何も言わなかったって事は、その辺の調べもとっくの昔についているんだろう。 京太郎「んじゃ、俺はこれを下手に持っていくついでに寝るわ」 「あぁ。明日も学校だもんな」 「話に付き合ってくれてありがとう」 京太郎「良いよ。久しぶりの家族団らんも楽しかったしさ」 ま、俺にとって重要な事は石版の材質よりも、明日の学校だわな。 高校に入ってから勉強もぐっとレベルアップしやがったが、それ以上にインターハイが近いんだから。 あいつらがインターハイに向けて集中出来るようにもっともっと精進しなければいけない。 まぁ、所詮、麻雀部だし、何より女の子ばっかりの中、男の俺に出来る事なんてたかが知れてる訳だけど ―― 京太郎「(せめてタコスくらい作れるようになっとかなきゃ…っと)」フゥ ようやく部屋についたか。 幾ら軽いつっても、コイツ結構大きいからなぁ。 リビングからここまで運ぶのも思ったより大変だった。 流石に元運動部だから疲れてるって程じゃないが、それでも一息ついてしまう程度には。 京太郎「(…しっかし、世界のルールを決める…ねぇ)」 ……もし、それが本当ならそれこそ世界中の美女に俺がモテモテ!とかそんなルールも決められるんだろうか。 いや、それだとおっぱいの小さい女の子にまで好かれちゃうし、やはりもうちょっと絞るべきだな。 範囲もそうだが時期も曖昧にして、途中で効果が切れたりするのも怖いし…。 俺が書き込むとしたら、やはり、おっぱいの大きい綺麗な女性に一生、好かれ続ける…ってところか。 京太郎「(…まぁ、書かないけどさ)」 ちょっとテンション上がりこそしたものの、これは本物な訳ないしなぁ。 本物ならちょっと…いや、かなり心惹かれるけど、学者である親父が偽物だと断定してる訳だし。 そんなものに欲望混じりのルールを書き込んでるのを見られたら、流石にダメージがでかすぎる。 正直、黒歴史なんて言葉では足りないくらいだ。 京太郎「(…でも、なんか書いとかないと勿体無いよなぁ)」 俺の目の前にある石版はほぼ白紙の状態だ。 俺の知らない言語で上の方に何かしら刻み込まれてしまっているだけ。 そんな石版をそのまま部屋に放置しておくと言うのは流石に勿体無い。 親父が家にいる期間中くらいは部屋の中に置いておいてやりたいし…何か書き込んでおいた方が親父も喜ぶだろう。 京太郎「(…ってそう言えば)」 …丁度、今日、女の子から相談を受けてたっけ。 確か高久田の奴が好きなんだけど、どうして近づけば良いのか分からないって話だったか。 とりあえず当り障りのないアドバイスをして彼女も納得してくれたけど…流石にそれだけで終わるのも可哀想だしな。 後でそれとなく二人が接近出来るようアシストしてやるつもりだったけれど…。 京太郎「(…うん。折角だし、それを書いておいてあげようか)」 友人とまでは言わないが、クラスメイトの背中を後押しする内容なんだ。 幾ら他人に見られたところで恥ずかしくはないだろう。 ただ…流石に個人名をあげるのは色々とプライバシーの問題もあるからな。 ここはさっきとは別に範囲を大きく広げておくべきだろう。 京太郎「(女が男に対して積極的になりますように…っと)」キュッキュ ……ぶっちゃけ、あの子、スレンダーだったけどかなりの美少女だったからな。 あんな子に積極的になられたら、高久田だってコロっと堕ちちゃうだろう。 そもそもあいつも俺と同じで年齢=彼女いない歴な訳で。 日頃から彼女欲しいと漏らしてるあいつを堕とすには積極的になるので十分だ。 京太郎「(まぁ、マジックで書いたおまじないみたいだから効果があるとは…)」 ―― パァァ 京太郎「…え?」 ……いや、ちょっと待て。 なんでこの石版、光ってるんだ!? つ、つーか…さっき俺がマジックで書き込んだ内容が消えて…中に刻み込まれていってる…!? まるでもう二度と訂正なんて出来ないって言うように…一瞬で…!? 京太郎「な…なんだよ、コレ」 ……もしかして本物? い、いや…流石に違うよな。 だって、これは親父が偽物だってそう言ってて…。 でも…さっき確実に俺の目の前で光って…何故か俺の書いた字が刻み込まれていて…。 京太郎「(あぁああ!もう…わっかんねぇよ!!)」 …ともかく、そういう事は全部、後回しにしよう。 親父も久しぶりの我が家でテンション上がって思いっきり酒飲んでるし。 今、ここで起こった事を説明しても、きっとろくに判断が出来ないだろう。 もうそろそろ日付が変わる時間だしオヤジの知り合い達に連絡するのも難しいだろうしな。 …だから、とりあえず明日だ!! 明日の朝、親父にこの石版を見せて色々と聞いてみれば良い。 ―― …そう逃げるようにして自分に言い聞かせた俺は…また事の重大さを分かっていなかった。 ―― 親父が気まぐれのように買ったそれが、一体、どれほどの力を持っているのかも。 ―― それを知った時、俺は絶望と居たたまれなさに胸が張り裂けそうになるのだけれど。 ―― この時の俺はただ目の前の理解できなさから逃げる事だけで頭の中が一杯だったのである。 ……… …… … 京太郎「ふあぁぁ…」 ……やっべぇ。 昨日はなんか寝る前に色々ありすぎた所為であんまり眠れなかった。 日付変わった時にはもうベッドの中に入ってたけど、眠気が来たのはもう三時過ぎだったんじゃねぇかなぁ…。 幾らか体力もあるとは言え、流石にこれは夜更かしし過ぎた…。 今日も部活があるし…早弁して昼休みは寝ておくかなぁ。 京太郎「おはよーっす…」ガチャ 「ん…っ♪ ちゅひゅぅ…?」 京太郎「…………は?」 ……いや、ちょっと待ってくれ。 なんで朝、扉を開けたら母さんがオヤジの膝の上に座ってるわけ? いや、百歩譲ってそれは良いにしても、思いっきり濃厚なべろちゅーしちゃってる訳なんですけれども!! 幾ら夫婦仲が良いつってもそれはやりすぎだろ!! つーか、ヤりすぎだろ!!! 京太郎「ちょ、あ、朝っぱらから何やってんだよ、母さん!!」 「ふ…ぅん…♪ 邪魔しないでぇ…?」 「私は今、この人と愛を確かめる…キスしてるんだからぁ…♪♪」 京太郎「いやいやいやいや…!」 こ、これが本当にうちの母さんなのか…? 確かに…親父と母さんは仲が良くて、年中、イチャイチャしてたけどさ。 でも、親父が昨日言ってた通り…基本的に母さんは控えめなタイプなんだ。 朝っぱらから息子の前で、濃厚なキスぶっつづけるなんて正直、想像もしていない。 「でも、母さん。このままじゃ京太郎が学校に行けないよ」 「まずは朝食の準備をしてあげないと」 「……はぁい」 …親父の言葉に不承不承って感じで、母さんは離れていく。 が、それは本当に仕方なくって感じで、その声にも不満さが現れていた。 …流石に今まで俺の事を内心、嫌ってて、準備もしたくない…って訳じゃないんだろうけれど。 でも…そんな風に動く母さんの姿は、内心、とてもショックだった。 京太郎「な、なぁ…親父。一体、母さん、どうしたんだ?」 「…どうしたって…アレが母さんの普通だろ?」 京太郎「はい?」 いや、その、まぁ、たしかにさ、たしかに俺と両親の交流って言うのは普通よりも薄いよ。 家族仲は決して悪くはないけれど、両親が帰ってくるのは一年の中で数ヶ月くらいだし。 その大半は海外で発掘とか遺跡調査とかやってる事を思えば、俺の知らない母さんがいてもおかしくはない。 でも、アレが普通って一体、何処の文化圏なんだよ!!! つーか、この前、帰ってきた時は普通だっただろ!!!! どう考えてもおかしいだろうが!!!!! 京太郎「い、いや、普通って…何処がだよ」 京太郎「明らかに過激過ぎるだろ」 「過激…?いや、母さんは控えめな方だぞ」 「友人の家庭なんてキスだけじゃ済まされなくてその先まで求められるそうだし」 京太郎「…」クラァ …………ダメだ、まったく理解出来ない。 これは本当に現実なのか? 本当は俺の身体は眠っていて…これも夢なんじゃないのか? ……いや、そうだ…そうに違いない。 だって、いきなり世界が変わったような光景を現実だなんて認められるはずが… ―― 京太郎「…あ」サァァ …………ま、まさか…い、いや……でも…。 たしかにそれなら…説明がつくかもしれない。 …昨日、俺がおまじないとして書き込んだあの石版が…正真正銘の本物で…。 その力が親父たちにも影響を及ぼしているのだとしたら…。 京太郎「(い、いや…そんな事あるはずがない)」 京太郎「(アレは…アレは偽物なんだ)」 久しぶりに家に帰ってきた親父が、俺を驚かせようとイタズラを仕込んでいたんだろう。 突然、光ったトリックなんかも、マジックがそのまま文字として彫り込まれたのも現代科学じゃ出来ない事じゃない。 …だから、こうして親父たちがおかしくなってしまったのも俺が原因じゃないんだ…。 そうだ…そんな事…あるはず…ない…。 「…どうした、京太郎」 「随分と顔色が悪いみたいだが…」 京太郎「い、いや、何でもねぇよ」 京太郎「そ、それより、俺、今日日直だったの忘れてたからもう出るわ!」 「あ、ちょ…!」 …そうだ、ともかく…外を確認しないと。 アレが親父の悪戯だとすれば…外はきっとマトモなはずなんだ。 俺が知っている通りの世界が、そこには広がっているはず。 だから、ここは嘘を吐いてでも…外に出なければ。 本当の事を…確かめなければいけないんだ。 ―― …でも、そこに広がっていたのは絶望以外の何物でもなかった。 京太郎「…なんだよ、コレ」 …街に出た俺の目に飛び込んできたのは、異様と言う他ない光景だった。 女の子が男に対して腕を組んで歩いているのはまだ良い。 だが、中には男に首輪をつけたり、手錠で自分たちの腕を結び付けてる子もいる。 明らかにファッションという領域を超えたそれらに、しかし、俺以外の人々は何の違和感も感じていないらしい。 むしろ、まるで犬の散歩のように首輪から伸びた鎖を引っ張る女の子に、仲睦まじいと、近所のおばさんらしき人が言っていて…。 京太郎「…おかしいだろ」 京太郎「こんなの…こんなの絶対におかしい…」 …あの石版に書き込んだ時、俺が考えていたのはほんのちょっぴり女の子が積極的になる世界だった。 好きな人に好きだって伝えられるような…そんな勇気を出せるような世界だったはずなのに…。 でも、今のこの世界は…勇気とかそんな領域をあっさりと突破してしまっている。 積極的どころか価値観が完全に書き換わったようなその光景に、俺は… ―― 咲「…京ちゃん?」 京太郎「っ!?」 瞬間、背後から掛けられた声に、俺の身体が反応する。 ビクンと肩が跳ねるようなそれと共に俺は悲鳴をあげそうになっていた。 それを何とか堪える事が出来たのは、俺の強靭な自制心のお陰…ではない。 ただ、ビックリし過ぎて、俺は声をあげる事すら出来なかったんだ。 咲「…って、どうしたの、そんなに驚いて」 京太郎「…あぁ、咲か…」ホッ だが、その声の主は俺の幼なじみである咲だった。 振り返ってそれを確認した俺は、内心、胸を撫で下ろす。 …これが咲も男に首輪をつけてたら、俺は立ち直れなかったかもしれないが、咲は今、一人だ。 何時も通り、清澄の制服に身を包んで両手でカバンを持っている。 京太郎「…咲は変わってないよな?」 咲「もう。いきなりどうしたの?」 咲「私は何時も通りだけど」 京太郎「…そっか。そうだよな…」 …分かっている。 このおかしくなってしまった世界で、以前の価値観を持っているのはきっと俺だけだ。 幾ら麻雀が強いとは言っても…あの石版からの影響力を遮断出来る訳ではないんだろう。 この世界への違和感を口にしない時点で、咲もまた親父たちと同じ。 …それが分かっていても、安堵してしまうのは幼なじみがあまりにも何時も通りだったからだ。 例えそれが錯覚であると分かっていても…俺の知る宮永咲の姿は俺に偽りの安心をくれる。 咲「(…やっぱり京ちゃん、フェロモンでっぱなしだなぁ…)」 咲「(あの鎖骨の辺りとかもう誘ってるとしか思えないよね)」 咲「(正直、ただの幼馴染としか思ってないけれど…)」 咲「(でも、あんな身体見せられたらどうにも我慢出来ないって言うか…)」 咲「(あの手を思い出しながら一体どれだけオナニーしたか分からないくらいだし…)」ムラッ 咲「(…って、そんな事思ってたらまたムラムラしてきた…)」 咲「(あぁ…もう…今日もちゃんと朝からオナニーしてきたのに…)」 咲「(顔見るだけでもムラムラしちゃうとか…もうホント、反則だよ)」 咲「(正直、幼馴染としては心配だなぁ…)」 咲「(女の子に対してあんまり警戒しないし…何時かレイプされそう)」 京太郎「…? どうしたんだ?」 咲「…ううん。何でもない」 咲「それより…今日も一緒に行こ?」 咲「(…京ちゃんは私が護ってあげなきゃいけないもんね)」 京太郎「まぁ、俺は構わないけど…」 咲「やった!じゃあ…」 和「あ、須賀君、咲さん」 京太郎「お、和、おはよう」 咲「和ちゃん、おはよう」 和「今日も一緒に登校ですか?」 和「本当に仲が良いですね」 咲「これでも一応、京ちゃんの幼馴染だからね」 和「…良いなぁ」ポソ 咲「ん?」 和「いえ、何でもありません」 和「それより…私もご一緒して良いですか?」 咲「私はオッケーだよ」 京太郎「あぁ。俺も問題ない」 京太郎「ってか、和ならこっちがお願いして一緒に来て欲しいくらいだぜ」 和「ふぇ…っ」カァァ 和「も、もう…!何を言うんですか、いきなり」 和「ダメですよ、女の子に軽々しくそんな事言ってしまったら」 和「誤解されたら大変な事になりますよ」 咲「…和ちゃん、無駄だよ」 咲「私もずっと言ってるけど、京ちゃん、まったくそういうところ治らないから」 和「…咲さんも苦労してるんですね」 咲「うん…ホント、気安い幼馴染を持つと大変だよ」フゥ 京太郎「…なんか扱いひどくねぇ?」 咲「残念だけど当然ですー」クス 和「そうですよ。須賀くんは女の子の怖さを理解していなさすぎです」 和「そんな事言ってたら襲われても文句言えないですよ」 京太郎「…襲う?」 咲「そうだよ。女の子は狼なんだから」 京太郎「い、いやいや、それはないだろ」 咲「えー。あるよー」 咲「この間だって、女の人が小学生男子襲って逮捕されたって報道されてたじゃない」 和「この間どころか日常茶飯事ですね」 京太郎「ま…マジかよ…」 咲「まぁ、京ちゃんは私と和ちゃんがいるから大丈夫だよ」 和「わ、私ですか…!?」ビックリ 咲「…和ちゃん、京ちゃんの事気になってるんでしょ?」ポソポソ 和「え…ち、違…!?」コソコソ 咲「大丈夫。私はちゃんと分かってるから」ポソポソ 咲「(ライバル多いかもしれないけど、しっかりサポートしてあげるからね!)」サムズアップ 和「で、ですから、誤解なんですってば…!」コソコソ 京太郎「(…何を話してるんだろうか…?)」 咲「ほら、折角、和ちゃんが来てくれたんだし、二人で並んで」 和「え、えぇぇ…」 咲「(…と言うか並んでくれないと私が無理)」 咲「(朝から京ちゃんの顔見てムラムラしちゃってる状態だし)」 咲「(これ以上、夏で薄着になった京ちゃんの隣にいるとトイレに駆け込みかねない)」 咲「(…それにまぁ、京ちゃんは無防備だけど、幼馴染としては良い子だし…)」 咲「(和ちゃんも私の大事な友だちで…二人が付き合うなら素直に祝福出来るもん)」 咲「(何より、擬似的なNTRが味わえるって言うのが良いよね)」ジュル 京太郎「(…何か咲が不穏な事を考えてる気配を感じる)」 和「(…何故でしょう)」 和「(誤解云々以前の前に素直に喜べないような気がするのは)」 和「(…と言うか、これどうすれば良いんですか!?)」 和「(ずっと麻雀オタクだった私には、この状況はあんまりにもあんまり過ぎると言うか…!)」 和「(須賀くんとはあくまでもお友達のつもりですが…で、でも、私は今まで男性の友達なんていなかった訳で…!?)」 和「(こうやって隣を並んで歩いた経験なんてまったくないんですよ!!)」 和「(それに…今日はちょっと日差しが強いんで、須賀くんの額に汗が浮かんでいますし…)」 和「(…これはヤバイです)」 和「(もうムンムンです)」 和「(無防備な男の子フェロモン出っぱなしじゃないですか…)」 和「(こんな男の人の隣にいたら…お、おかしくなっちゃいますよ…)」 和「(例え、私が須賀くんの事を友人としか思っていなくても…女の子である事には変わりがないんですから)」 和「(どうしても…ムラムラしちゃうに決まってます)」 和「(す、須賀くんの事、必要以上に意識しちゃうじゃないですか…)」モジ 京太郎「と、とりあえずさ」 和「ひゃいっ!?」ビクッ 京太郎「とりあえず三人揃った訳だし、学校に行こうぜ」 京太郎「割りと早い時間だけど、ノンビリし過ぎると遅刻するしさ」 和「そ、そうですね…」 咲「ふふふ…」ニコー 和「(…咲さん、そこでどや顔されても腹が立つだけです)」 和「(私が一体、どれだけ大変だと思ってるんですか…)」 和「(正直、朝から理性を思いっきり働かせる事になるなんて思ってませんでしたよ…!!)」 和「(…まぁ、でも…)」チラッ 京太郎「…ん?」 和「…いえ、何でもありません」 和「……こういうのもたまにはいいなとそう思っただけです」 京太郎「そ、そっか」カァァ 咲「…京ちゃん、照れてる?」ニマー 京太郎「う、うるせぇよ!」 咲「…って、どうしたの、そんなに驚いて」 京太郎「…あぁ、咲か…」ホッ だが、その声の主は俺の幼なじみである咲だった。 振り返ってそれを確認した俺は、内心、胸を撫で下ろす。 …これが咲も男に首輪をつけてたら、俺は立ち直れなかったかもしれないが、咲は今、一人だ。 何時も通り、清澄の制服に身を包んで両手でカバンを持っている。 京太郎「…咲は変わってないよな?」 咲「もう。いきなりどうしたの?」 咲「私は何時も通りだけど」 京太郎「…そっか。そうだよな…」 …分かっている。 このおかしくなってしまった世界で、以前の価値観を持っているのはきっと俺だけだ。 幾ら麻雀が強いとは言っても…あの石版からの影響力を遮断出来る訳ではないんだろう。 この世界への違和感を口にしない時点で、咲もまた親父たちと同じ。 …それが分かっていても、安堵してしまうのは幼なじみがあまりにも何時も通りだったからだ。 例えそれが錯覚であると分かっていても…俺の知る宮永咲の姿は俺に偽りの安心をくれる。 京太郎「(…それから学校に行ったけど…現実はまったく変わってくれなかった)」 京太郎「(つーか、余計にひどくなったって言うか…頭がいたいネタが増えたって言うか…)」 京太郎「(…クラスに入った瞬間、女の子達が男のグラビア広げてニヤついてた)」 京太郎「(比較的おとなしめの子はそんな事はなかったけど…)」 京太郎「(でも、聞こえてくる女の子たちの話題は、昨日のドラマが面白かったか、じゃなくて)」 京太郎「(どの場面がエロかったかとか男に魅力を感じたかとかそんなのばっかりだった)」 京太郎「(…で、逆に男の方は、そんな女の子達に若干、引き気味で)」 京太郎「(そういうのは家でやって欲しいとか、男の前で堂々と話す事じゃないだろ…とため息を吐いてたりした)」 京太郎「(…ここまでこれば馬鹿な俺にだってなんとなくわかってくる)」 京太郎「(女の子達はただ積極的になっただけじゃない)」 京太郎「(…男の位置と女の位置が完全に逆転してしまったんだって事)」 京太郎「(ひいては…朝に咲達が言ってたことが全部、本当なんだって事を…)」 京太郎「はぁぁぁぁ…」 京太郎「(…改めて考えるまでもなく…とんでもない事をしてしまった)」 京太郎「(まさかこんな事になるとは思わなかったとは言え…今の世界は本当に酷い)」 京太郎「(昔の意識を残してる俺としては…クラスの中にいるだけで頭がクラクラするくらいだった…)」 京太郎「(だからこそ、こうして高久田達の誘いも断って人気の少ない屋上にいる訳だけど…)」 久「……はい」ピト 京太郎「うひゃ!?」 久「ふふ。ドッキリ大成功ー」 京太郎「…って、部長。どうしたんですか?」 久「いやぁ、久しぶりに屋上でお弁当でも食べようと思ったら、なんか浮かない顔をした後輩がいるじゃない?」 久「だから、ちょっと驚かせてみようかと思って」ニッコリ 京太郎「…そこは励ますとかそういうんじゃないんですか」 久「私、それよりお弁当の方が大事だし」 京太郎「ひっでぇ…」 久「はいはい。そんなに落ち込まないの」 久「落ち込んでる京太郎くんにそれあげるから」 京太郎「…それって言われても、これ…」 久「美味しそうでしょ?『必殺!黒糖みかんジュース!』」 久「何が必殺なのかは分からないけど、ロマンは感じるわ」 京太郎「…感じるのはともかく、それを人に押し付けないで下さいよ」 久「お、上手いこと言うわね」 京太郎「洒落じゃないっす」 久「ふふ。まぁ…意外と評判悪くないみたいだし一回飲んでみたら?」 久「そうすれば少しは気持ちもマシになるかもしれないわよ」 京太郎「……そう言って俺に在庫処理させたいだけじゃないですか?」 久「まぁ、勢いで買ってまったく後悔しなかったとは言わないけど」 京太郎「そこは否定してくださいよ…」 京太郎「…」ゴク 京太郎「……ってアレ、普通に美味しい」 久「えー…本当に?」 京太郎「いや、マジですって」 京太郎「黒糖の甘みとミカンの風味が絶妙にマッチしてます」 京太郎「少なくとも思ってたより全然、美味しいです」 久「むー…それだったらあげなきゃ良かったわ」 京太郎「へへ、ゴチになりまーす」グビ 京太郎「…あ、そうだ」 久「ん?どうかした?」 京太郎「いや、これ思ってたのよりもずっとヌルかったんですけど…」 久「ふぇ…っ」カァァ 久「ち、違うわよ!?」 久「わ、私は別に落ち込んでる京太郎くんを見かけて、ここまで追いかけてきて…」 久「なんて声をかければ良いかわからなかったからずっと入り口で立ち尽くしてたなんて事してないから!!」 京太郎「そ、そうなんですか」 久「そ、そうよ!そんなストーカーみたいな事するはずないじゃない!!」 久「今の時代、そんな真似したら即お縄なんだからね!!」 久「…だ、だから、京太郎君もあんまりそういうのを気にしないように」 京太郎「…それ部長命令ですか?」 久「…いぢわる」ムスー 京太郎「いやぁ、だって、普段から部長には色々と悪戯されてますし」 久「可愛い先輩の素敵な愛情表現なのに…」 久「…あ、い、いや、愛情って言っても、別に変な意味がある訳じゃ…」ワタワタ 京太郎「大丈夫です。分かってますから」 久「…そ、そう」シュン 久「(…分かってくれても良いんだけどな)」 久「(私…結構、君の事好きなんだからね)」 久「(皆は君の事、遊んでそうだとか…ビッチっぽいとか言うけれど…私はそうは思わない)」 久「(何時だってひたむきに頑張って…私達の事を支えてくれてる良い子だって分かってる)」 久「(…だからこそ、あの咲が懐いて…和も京太郎君の事を意識してるんだろうし…)」 久「(きっと他にも京太郎君の事が好きな子がいるはず)」 久「(……でも、まだ好きだなんて言えない)」 久「(本当は他の子に負けない為にも…すぐに告白したいけど…)」 久「(でも、私達はもうすぐインターハイなんだから)」 久「(ここで下手に告白して…恋人になんてなってしまったら…私、きっと止まらない)」 久「(京太郎君の事を一杯一杯可愛がって麻雀の事が疎かになってしまうわ)」 久「(…だから、今はお預け)」 久「(インターハイが終わるまで…ううん、インターハイでいい結果を出せるまで)」 久「(…京太郎君の事は我慢しなきゃ…ね)」 久「(………………でも)」 久「…で、何があったの?」 京太郎「え?」 久「少しは気晴らしになったでしょうけど…まだ顔は暗いままよ?」 久「折角だから、抱えてるものを全部吐き出しちゃいなさいよ」 久「ここは今、私と君の二人っきりだし…誰にも漏らしたりしないから」 京太郎「…………じゃあ、一つ聞かせて貰って良いですか?」 久「えぇ」 京太郎「…もし、自分が世界を変える力を手に入れたとして」 京太郎「それを意図しない風に使ってしまったらどうすれば良いですか?」 久「(…なにそれ厨二…なんて言えないわよね)」 久「(京太郎君の顔、やたらと真剣なんだもの)」 久「(事の真偽はさておき、彼がそれに悩んでいるのは確かなんでしょう)」 久「(…だったら…)」 久「…その力は一体、どういうものなの?」 京太郎「えっと…すみません。良く分からないんです」 京太郎「でも…恐らくある程度は世界を自分の好きに出来るかかと…」 久「ふーん……なら、私のオススメはそれを封印する事かしら」 京太郎「封印…ですか?」 久「えぇ。だって、そんなもの本当にあったら危ないでしょ?」 久「そりゃ良い事に使えば凄いだろうけど…でも、それは意図しないように働いてしまった訳で」 久「そんなもの危なっかしくて放置なんて出来ないわよ」 久「だから、また悪さをする前に、それを二度と使えないように封印する」 久「世界を好きに出来るなら、それくらいは可能でしょうしね」 京太郎「なるほど…」 京太郎「(…封印、か)」 京太郎「(確かにそうだな)」 京太郎「(…アレはあまりにも危険過ぎる)」 京太郎「(善悪の区別もなく、またルールを曲解して適用してしまうんだから)」 京太郎「(どれだけ使用者に善意しかなくても、使う度に世界が滅茶苦茶になってしまう)」 京太郎「(そんなものが誰かの手に渡って悪用されてしまう可能性を考えれば、封印してしまった方が良いのかもしれない)」 久「…でもね、京太郎君、先輩として一つ忠告しておいてあげるけど」 京太郎「…はい?」 久「幾ら高校に入ったばかりとは言え、中二病はもう卒業した方が良いと思うの…」 久「じゃないと後で思い返して大変な事になってしまうわ」 京太郎「ちょ、違っ!?」 久「大丈夫よ。私は分かってるから」 久「…ちょっと君に甘えすぎてしまったのね」 久「今日は部活を休んで、一緒に気晴らしにでも行きましょう?」 京太郎「い、いや、気晴らしは嬉しいですけど、なんか勘違いしてないですか!?」 久「大丈夫よ。私は良いお医者さんも知っているから」 久「きっとその病も治してくれるわ」ナマアタタカイメ 京太郎「だから、違うんですってば…!!」 久「(分かってるわよ)」 久「(京太郎くんが中二病なんかじゃないって事)」 久「(実際、世の中にはオカルトと呼ばれる力があるのは事実なんだしね)」 久「(荒唐無稽な話ではあるけれど、絶対にないとは言い切れないわ)」 久「(でも、ここは心の病気だって風にしておいた方が良いでしょう)」 久「(本当に京太郎君がそんな力を持っているのであれば、それこそ世界中から狙われる事になるでしょうし…)」 久「(自分の持つ力に対して、本気で悩んでた彼にとってそれはあまりにも辛い事)」 久「(…………ただ、まぁ)」 久「(役得として…気晴らしデートの約束を取り付けるくらいは良いわよね)」 久「(今は忙しいけれど…でも、インハイが終われば、私もノンビリ出来るようになるし)」 久「(それをモチベーションの糧に出来れば、きっと良い成績も残せるはず)」 久「(だから…)」 久「とりあえず休み明けに予約をとっておくから予定を開けておいてね」ニッコリ まこ「…なーにをやっとるんじゃ」 久「あら、まこ。どうしたの?」 まこ「どうしたの…?じゃありゃせんわ」 まこ「おんし、さっき副会長が探しとったぞ」 まこ「今日は昼休みに仕事進める予定だったんじゃろ?」 久「あっ…」 まこ「…まったく、おんしは京太郎が絡むと即座にダメになるの」 久「ち、ちちちちち違うわよ」 久「全然、ダメじゃないですー!」 久「何時も変わらず素敵でキュートな竹井久ですー!」 まこ「はいはい。分かったから早く行ったり」 まこ「おんしがおらんと色々と書類進まん言うて参っとったしな」 久「うぅぅ…行ってきまーす…」トボトボ まこ「ふぅ…まったくもう」 京太郎「はは」 まこ「ん?どうしたんじゃ?」 京太郎「いや、染谷先輩って部長のお母さんみたいだなって」 まこ「…そこまで老けとりゃせんわ」 京太郎「あ、いや、ごめんなさい。そういう意味じゃなくって…」 まこ「ふふ。分かっとるよ」クス まこ「まぁ、久はやるときはやる女じゃが、それ以外はまったくダメじゃからなぁ」 京太郎「うーん…俺はあんまりそういうイメージないんですけど」 まこ「京太郎の前じゃと普段以上に気を張ってるからじゃろ」 京太郎「あー…俺ってそんな信用ないですかね?」 まこ「逆じゃ逆」 まこ「心から信頼しとるからええとこ見せたいんじゃろ」 まこ「特にええ男の前では余計に…な」ニコ 京太郎「い、良い男だなんて…」テレッ まこ「ふふ。まぁ…アレはアレで結構、難儀な奴じゃけぇね」 まこ「出来るだけ京太郎にも支えてやって欲しいわ」 京太郎「…えぇ。勿論です」 京太郎「俺に出来る事なんて大したもんじゃないですけれど…」 京太郎「でも、俺だって、部長に色々と助けられていますから」 まこ「ん。それならええんじゃ」 まこ「…しかし、二人はどうしてここに?」 京太郎「いやぁ…ちょっと俺が一人になりたくて屋上に…」 まこ「…あぁ、なるほど。それで久が追いかけてきたっちゅう訳か」 京太郎「分かるんですか?」 まこ「これでも久とは一年以上の付き合いじゃけぇ、大体の行動パターンは読めとるよ」クス まこ「ま、何があったのかまでは深くは踏み込まん」 まこ「でも、これでもウチは京太郎の先輩じゃけぇ」 まこ「もし、悩み事があるなら、何時でも相談してくれて構わんよ」 京太郎「いえ、大丈夫です」 京太郎「部長のお陰で、大分、気持ちも楽になりましたから」 京太郎「そのお気持ちだけで十分です」ペコ まこ「そっか。あのヘタレが頑張ったか…」 京太郎「え?」 まこ「いや、何でもない」 まこ「まぁ、気持ちが軽くなったんなら、そろそろ食堂に行ったらどうじゃ?」 まこ「まだ休み時間が終わるって訳じゃないとは言え、ゆっくり食事が出来る時間でもなくなってきとーよ?」 京太郎「え…!?ってマジだ…!?」ビックリ まこ「(ふふ。そん様子じゃとよっぽど久と楽しくしとったんじゃな)」 まこ「(これは後で久の奴に謝らんといけんかもしれんね) 京太郎「…ちなみに食堂の様子はどうでした?」 まこ「んー…外からしか見とらんけぇ、うろ覚えじゃけど…」 まこ「今日は結構、空いてたし、ランチも幾つか残っとると思う」 京太郎「ですか。じゃあ、その残りが売り切れないうちに俺も食堂に行って来ます!」 まこ「ん。でも、下手に急いで怪我とかしたりせえへんようにな」 まこ「京太郎が怪我すると皆、心配するけぇね」 京太郎「分かってます。では…!」タッタッタ まこ「まったく…焦るなっちゅうとろうに…」 まこ「…弟のいる姉の心境って言うのはこういうもんなんかもしれへんな」クス 京太郎「(…と急いでやってきたものの…だ)」 京太郎「(流石にスタートで出遅れまくったら、選べるものなんて少ないよな)」 京太郎「(まさかこの俺がTランチ…通称タコスセットを食う事になろうとは…!)」 京太郎「(いや、まぁ、実際、あの優希が認めるくらいだから美味しくはあるんだけど…)」 優希「…ハッ!タコスの匂い…!」ヒョコ 京太郎「出やがったな、妖怪タコス置いてけ」 優希「なぁ、お前、タコスだろ!なぁ、タコスだろお前!!タコス置いてけ!!」 京太郎「誰がやるか!」 京太郎「(…コイツが湧くんだよなぁ)」 京太郎「(いや、まぁ、仮にも女の子相手に湧くなんて失礼な扱いだと思うんだけど)」 京太郎「(さっきまで気配がなかったはずなのに、俺のすぐとなりにいるんだから)」 京太郎「(割りとマジで湧いたとしか思えない光景だ)」 優希「えー…京太郎はケチだじぇ」 京太郎「ケチで結構」 京太郎「これは俺がやっとの思いで手に入れた昼食なんだ」 京太郎「妖怪タコス置いてけになんてやれるか」 優希「私の方がもっとタコスを上手く使えるのに…」 京太郎「タコスを上手く使えるってなんなんだ…」 優希「ふっ…タコス・ソウルを持たぬ者には分かるまい」 京太郎「…で、格好つけてるけど、良いのか?」 優希「ん?何がだ?」キョトン 京太郎「いや、お前、友達とかと一緒に食堂に来てるんじゃないのか?」 優希「んや、今日は一人の気分だったしな!」 優希「それにのどちゃんが咲ちゃんとイチャイチャしたいって言ってたし、お邪魔しちゃ悪いかなって」 京太郎「…あの二人、そういう関係なのか?」ドキドキ 優希「な訳ないだろ、この変態」ニッコリ 京太郎「ですよねー」 優希「まったく、そういうのは本の中だけのものなんだから本気にしないで欲しいじぇ」 優希「京太郎みたいなのがいるから漫画とかの規制が激しくなるんだ」 優希「私が読んでる漫画が完全に履いてないなのが治ったら、京太郎の所為だからな!」 京太郎「知らねぇよ」 京太郎「つーか、それは治すべきだろ、色々と」 優希「いやぁ…アレを治してしまったら日本の損失だじぇ」 優希「ギリギリに挑戦するあの姿勢には尊敬さえ覚えるレベルだからな」 京太郎「そういう漫画家の方が規制に一役買ってると思うんだがなぁ…」モグモグ 優希「ってああああああああ!!」 京太郎「ん?」 優希「わ、私のタコス~…」 京太郎「何時からお前のになったんだよ」 京太郎「俺はお前にやるだなんて一言も言ってねぇぞ」 優希「いや、京太郎は心の中では思ってるはずだ!!」 京太郎「お前はエスパーかよ」 優希「そしてお前の手に持っているそのタコスもまた私に食べられたがっている!!!!!」 優希「だから、京太郎は即刻、そのタコスを私に明け渡すべきだじぇ!!」 京太郎「代わりになる昼飯買ってきてくれたら別に良いぞ」 優希「…いや、今月はちょっと厳しいっていうか…」メソラシ 京太郎「またタコス食い過ぎたのか」 優希「ま、またってほど繰り返してないじぇ!」 京太郎「俺がお前と出会ってから毎月タコスの食い過ぎで金欠になってると思うんだが…」 優希「全ては秘書が一人でやった事です」キリッ 京太郎「お前の秘書は胃袋か何かなのか」 京太郎「つーか、ホント、自制を覚えろよ」 優希「善処します」キリリ 京太郎「まったく…」モグモグ 優希「……」ジィィ 京太郎「…そんなに見てもやらねぇぞ?」 優希「あ、ううん。そっちは冗談だったから別に良いんだけど…」 優希「…なんか京太郎がものを食べてるところってエロいって思って」 京太郎「…は?」 優希「い、いや、ご、ごめん!」 優希「な、ななな何でもないじぇ!」 優希「京太郎は気にせずタコスを食べてくれ!」 京太郎「いや、お前、そんなの聞かされて遠慮せず食べられるかよ」 優希「じゃあ、くれるのか!?」キラキラ 京太郎「…俺は今、意地でもタコスを食いきってやろうと心に決めた」モグモグ 優希「ぶー」 京太郎「ぶーじゃねぇよ」 京太郎「つーか、お前、もう昼飯にタコス食ったんだろ」 京太郎「これ以上食うと太るぞ」 優希「大丈夫!私のタコスは全て雀力に変換してるからな!!」 優希「どれだけ食べても脂肪にならないどころか、麻雀が強くなっていくんだじぇ!」ドヤァ 京太郎「…あぁ。だからか」ジィ 優希「ちょ…ば、馬鹿…!何処見てるんだじぇ!!」カァァ 京太郎「いや、まったく膨らみのない身体をな?」 優希「け、結構、気にしてる事を…!!」 優希「…と言うか、男がそういう事言うのやめた方が良いじぇ」 優希「ただでさえ京太郎はそういう風に見られがちなんだから」 京太郎「そういう風?」 優希「だから…その…無防備って言うか…エロいって言うか…」 優希「夜の街で遊んでそうって言うか…」 京太郎「…………は?」 優希「も、勿論、私は違うって分かってるじぇ!」 優希「京太郎は援交なんて出来る度胸なんてないもんな!」 京太郎「…安心して良いのか凹んで良いのか分かんないんだが」 優希「ま、まぁ、ともかくだ」 優希「援交やってる噂があるくらい注目されてるんだから、そういうのはもうちょっと控えろって事だじぇ」 京太郎「…あぁ、うん。気をつける」 京太郎「(…これってつまり俺の世界で言えば、派手めな女の子に援交やってるとかそういう噂が付き纏うようなものか)」 京太郎「(まったく根も葉もない噂ってだけでもキツイけど…自分が援交やってる扱いされるのも結構クるなぁ…)」 京太郎「(しかも、原因が見た目だから、ちょっとやそっとで噂がなくなったりしない)」 京太郎「(つーか、ここで下手にイメチェンなんかしたら余計に勢いが強まる可能性が高いだろう)」 京太郎「(だから、ここは優希の言うとおり、噂が沈静化するまで目立たず、大人しくしていた方が良い)」 京太郎「(…それは俺も分かってるんだけれど……)」 優希「…京太郎?」 京太郎「あぁ、悪ぃ」 優希「ううん。私は気にしてないじぇ」 優希「…ただ、そのタコス食べないなら私に…」 京太郎「…」パクッ 優希「あああああああっ!!」 ~部室~ 久「と言う訳で今日も部活を始めるわよ」バーン まこ「入って来て早々、何を言っとるんじゃ」 久「いやぁ…ちょっと改めて気合入れようと思ってね」チラッ 京太郎「?」 和「……まぁ、気合を入れてくれるのは喜ばしい事ではあるんですけれど」 優希「(なんとなく面白くなさそうなのどちゃん可愛い)」 咲「(多分、本能で京ちゃんと何かあった事を感じ取ってるんだろうなぁ)」 まこ「(よっぽどええ事があったんじゃなぁ…)」 まこ「(今日の帰りにでも何があったか聞いてみるか)」 京太郎「じゃあ、今日は俺、どうしましょう?」 京太郎「何か買いに行くものとかありますか?」 久「京太郎君はそういう事気にしなくても良いのよ」 咲「そうだよ。男の子なんだからゆっくりしてて」 京太郎「…あー…じゃあ、何か運んだりとか」 和「そういうのは女の子の仕事ですよ」 優希「京太郎がやるより私達がやった方が安全だじぇ」 京太郎「……えーっと、それじゃあ」 まこ「…まぁ、わしらの手助けがしたいっちゅうんじゃったらお茶くみとかでええじゃろ」 京太郎「…そんなので良いんですか?」 久「そんなのどころかそれが良いのよ」 咲「男の人が入れてくれたお茶ってだけでも何だか嬉しくなっちゃうしね」 優希「男の人が作るとタコスの味も何時もより良くなる気がするしな!」 和「…まぁ、メンタル面での影響は決して軽視出来るものではないですね」 京太郎「そ、そうなのか…」 久「さて、じゃあ、まず一年生から対局…と行きたいところなんだけれど」 久「その前に週末からの四校合宿の予定を確認しないとね」 咲「あぁ。もう場所とか決まったんですか?」 久「えぇ。バッチリよ」 久「ただ…京太郎君はその…」 京太郎「あー…女の子ばっかりですもんね」 久「えぇ。もし、京太郎君が襲われでもしたら責任取れないし…」 咲「(…と言うか、ひとつ屋根の下で数日過ごすとか私の方が襲っちゃいそう)」 和「(…湯上がり姿の須賀くんが見たかったんですが…)」 優希「(ぶっちゃけ、狼の群れの中に羊を放り込むようなものだからなぁ…)」 久「だから、悪いけれど、京太郎君はお留守番で良い?」 京太郎「えぇ。構いませんよ」 久「ありがとう。じゃあ、具体的な場所と時間の話を始めるわね」 京太郎「じゃあ、今日は俺、どうしましょう?」 京太郎「何か買いに行くものとかありますか?」 久「京太郎君はそういう事気にしなくても良いのよ」 咲「そうだよ。男の子なんだからゆっくりしてて」 京太郎「…あー…じゃあ、何か運んだりとか」 和「そういうのは女の子の仕事ですよ」 優希「京太郎がやるより私達がやった方が安全だじぇ」 京太郎「…いや、流石に俺の方が力が強いだろ」 久「まぁ、確かに私達は麻雀部であんまり運動が得意って訳じゃないけど」 優希「でも、どれだけ貧弱であっても男に負ける気はしないじぇ」フフーン 京太郎「これでも俺は元運動部なんだけどなぁ…」 和「…でしたら、腕相撲か何かで勝負してみればどうですか?」 和「それならどちらの力が強いかハッキリするでしょう」 京太郎「確かにな。…それじゃあ」 京太郎「じゃあ、和、頼む」 和「私ですか?」 京太郎「あぁ。この中じゃ和が一番、運動音痴っぽいし」 京太郎「(それに合法的に和と握手出来るのも役得だしな)」デヘヘ 久「…」ムー まこ「どうどう」 和「…思いっきり不本意ではありますが勝負を挑まれたのは事実です」 和「真正面からお受けする事で、その疑惑を晴らしましょう」 優希「と言う訳で机持ってきたじぇー」ガタンガタン 京太郎「よし。それじゃあ…和」ガシッ 和「…えぇ」ガシ 咲「それじゃあ…はじめー!」 京太郎「よいしょ…!!」グッ 和「…えい」グイ 京太郎「ほわあっ!?」ビタン 京太郎「…え?…………え?」 和「私の勝ちですね」ホコラシゲ 京太郎「ま、待って!もう一回!ワンモアプリーズ!!」 京太郎「い、今のは準備運動!ウォーミングアップだったから!!」 和「私は構いませんが…しかし、結果は変わらないと思いますよ?」 京太郎「それでも男の子には意地があるんだよ…!!」 咲「…男の子の意地って言っても…ねぇ」 優希「力じゃ男が女に勝てないのなんて今更、話し合う事でもないし…」 京太郎「…くっ!」 和「…まぁ、私は大丈夫ですから、気が済むまで勝負しましょう」 京太郎「…頼む。それじゃあ」ガシ 和「はい。何時でもどうぞ」グッ 京太郎「ふん!ぬぬぬぬぬぬ…!!!」グググ 和「…………」 和「(…須賀君、必死になってますね)」 和「(どうしてかは分かりませんが、よっぽど私に腕相撲で勝ちたいんでしょう)」 和「(…しかし、その力は悲しいくらいに弱々しいです)」 和「(勿論、須賀くんは男性の中では力が強い方なのかもしれませんが…)」 和「(だからと言って、それは女性の私に届くほどではありません)」 和「(実際、こんなに必死になって彼は力を込めていますが…私の腕は微動だにしなくて…)」 和「(流石にまた負けさせるのも可哀想ですし、早めに諦めてくれれば良いんですけれど)」 和「(……にしても)」ジィ 京太郎「ぐぬ…うぉおおおお!」 和「(…必死な須賀くんの顔ってちょっぴり可愛い…ですね)」 和「(元々、麻雀部にいるのが信じられないくらい顔が整ってますけれど…)」 和「(こうして間近で…しかも、必死なところを見ると余計にそれが際立って…)」 和「(…朝よりもドキドキが強くなっちゃいます)」 和「(須賀くんの顔からも目が離せなくなって私…)」 京太郎「ぜー…はー…」 和「…あの、大丈夫ですか?」 京太郎「…あぁ。大丈夫だ」 京太郎「ごめんな、和。長々と付きあわせて」 和「…いえ、私は構いませんよ」 京太郎「でも、ずっと俺と手を握ってた訳だし…」 和「気にしないでください」 和「私としても役得だったので」 京太郎「…役得?」キョトン 和「あ、えっと、その…」カァァ 久「はいはい!次、私!私ね!!」ハーイ まこ「阿呆。うちは麻雀部じゃ」 まこ「腕相撲の決着はついたんじゃから、麻雀するぞ」 久「…はーい」ショボン ~自室~ 京太郎「はー…」 京太郎「(…しかし、ショックだな)」 京太郎「(いや…まぁ、合宿に俺が参加出来ないのは最初から予想してたし仕方がないとは言え…)」 京太郎「(よもや和相手に腕相撲で負けてしまうとは…)」 京太郎「(実際…俺の力が弱くなってる訳じゃない)」 京太郎「(普段通り、ものは持ち上げられる)」 京太郎「(…ただ、それ以上に和達の力が強くなってるだけで…)」 京太郎「(…これじゃ本当に女の子に襲われるかも…って咲達の話を笑えないよな)」フゥ 京太郎「(…まぁ、俺にとって一番笑えないのは)」チラッ 石版「」ゴゴゴゴゴ 京太郎「(コイツが本物だって事だ)」 京太郎「(…この一日で十分過ぎるほど理解した)」 京太郎「(コイツは本物で…そして決して放置してはいけないものなんだって事を)」 京太郎「(だから、これは部長の言う通り、真っ先に封印するべきなんだ)」 京太郎「(…じゃなきゃ、俺はきっとコイツを悪用してしまう)」 京太郎「(俺だって別に聖人って訳じゃないんだから)」 京太郎「(世界のすべてを思い通りに出来る石版なんて手に入れたら…そりゃ悪い事の一つや2つ思い浮かんでしまう)」 京太郎「(一生遊んで暮らせるほどの大金が欲しいとか和みたいなおっぱい美少女から好かれるとかさ)」 京太郎「(それをずっと堪え続ける事なんて多分、出来ない)」 京太郎「(だから、もしかしたら良い風に使えるかもしれないなんて…そんな事すら考えるべきじゃないだろう)」 京太郎「(俺の決意が硬いうちに封印してこの存在を忘れてしまうべきだ)」 京太郎「(……ただ)」 京太郎「(…その前に俺にはやる事がある)」 京太郎「(この石版でおかしくなった世界を元に戻すって言うルール)」 京太郎「(それを書き込む前に封印しちゃいけない)」 京太郎「(たった一日でもう何度もめまいを覚えるほど、今の世界は滅茶苦茶なんだから)」 京太郎「(そんな世界にしてしまった責任は取らなきゃいけないだろう)」 京太郎「(だから…)」キュポ キュッキュ 【女が男に対して積極的になりますようにというルールを無効にする】 京太郎「(これできっと世界は元通りに…)」 【error】 京太郎「…はい?」 【一度、書き込んだ内容は無効に出来ません】 京太郎「……なん…だと…?」 京太郎「(…俺が書き込んだ文字が消えて、いきなり文字が石版の表面に浮かんできたとかはどうでも良い)」 京太郎「(それよりももっと大事なのは…一度、書き込んだ内容は無効に出来ないって事で…)」 京太郎「(…つまり俺はこの世界を元に戻す事なんて不可能なのか…?)」 京太郎「(…いや、諦めるな…!!)」グッ 京太郎「(こういうものは…必ず抜け道があるはずだ…!!)」 京太郎「(考えろ…考えろ考えろ考えろ…!!)」 京太郎「(じゃないと…俺は…!!!)」 一「うー…」 一「(…ちょっと失敗だったかなぁ…)」 一「(朝は別に体調が悪いって言うほどじゃなかったんだけど…)」 一「(今になって結構、フラフラしてる…)」 一「(やっぱり徹夜で美金髪フォルダの整理って言うのは無謀だったかなぁ…)」 一「(いや、でも、もうすぐインハイで、全国の美金髪とまた出会えるし…)」 一「(フォルダが未整理なままだとデータの管理も大変になる一方なんだから)」 一「(今日纏めてやったのは失敗だったかもしれないけれど…)」 一「(ボクはまったく後悔していない)」キリリ 一「(……ただ、まぁ、今日は何時もより日差しがキツくて…)」ジリリリ 一「(寝不足の身体には結構、クるなぁ…)」 一「(しかも、今日に限って、やたらと用事が多いし…)」 一「(もう身体中汗だくで気持ち悪いくら…)」フラァ 一「あ…」 京太郎「大丈夫ですか?」ガシ 一「…え?」 一「(だ、誰、この人…)」 一「(いや、そんな事は重要じゃない)」 一「(すごい…見事な金髪…)」 一「(透華や福路さんにも負けないくらいキラキラと輝いてる…)」 一「(男の人でこんなに綺麗な金髪をしている人を…ボク初めて見た…)」 京太郎「…あの」 一「あ、え、えっと…っ」ワタワタ 一「(って、そんな事考えてる場合じゃなかった…!?)」 一「(ボクは今、この人に倒れそうになったところを支えてもらってるんだから)」 一「(幾ら何でも汗だくのまま支え続けるのは大変だろうし、離れないと…)」 一「だ、だいじょ…」フラァ 一「…あう」 京太郎「…多分、完全に日射病ですね」 京太郎「無理しないでください」 一「…ごめんなさい」ショボン 京太郎「いえ、謝らないで下さい」 一「でも…服が汚れて」 京太郎「気にし過ぎですって」 京太郎「どのみち、制服ですし、家に戻れば洗うつもりでしたから」 一「(…あ、そう言えば、この人…清澄の制服着てる…)」 一「(…もしかして学校帰りか何かなのかな…?)」 京太郎「それより一人で立てないのは結構、深刻です」 京太郎「出来れば涼しいところで休んだほうが良いと思うんでそこの木陰にあるベンチに運んでも良いですか?」 一「は、はい…お願いします」カァァ 一「(うぅぅ…恥ずかしい…)」 一「(まさか男の子に自分の身体を運んでもらう事になるなんて…)」 一「(でも…)」ジィ 京太郎「よいしょっと…」 一「(…本当に綺麗だ)」 一「(髪だけじゃなくて顔も…)」 一「(キラキラと輝いてて…目が奪われちゃうみたい…)」 京太郎「じゃあ、そのまま横になっててください」 京太郎「俺、ちょっと体冷やす用の飲み物買ってきますから」 一「い、いや、でも…」 京太郎「困ったときはお互い様って奴ですよ」 京太郎「今の貴女は動けないですし、気にしないでください」 一「…ほ、本当にごめんなさい…」 一「(…しかも、顔や髪だけじゃなくて心まで綺麗だなんて…)」 一「(こんなのもう天使としか表現しようがないじゃないか…)」 一「(まさかメイドの仕事で外に出てる時にあんな素晴らしい人に会えるなんて…)」 一「(日射病独特の気持ち悪さも気にならないくらいに役得だったかも…)」 京太郎「お待たせしました」 一「あ…天使さん…」 京太郎「…天使?」 一「あ、い、いや、その…」カァァ 京太郎「はは。俺は天使なんかじゃないですよ」 京太郎「…寧ろ、どっちかって言うと悪魔って言われてもおかしくない側で」 一「え…?」 京太郎「…い、いや、何でもないです」 京太郎「それよりほら、スポーツ飲料買ってきたんで少しずつ飲んで下さい」 京太郎「一気に飲むと大変なんで一口ずつちびちび飲むのが良いと思います」 一「…ありがとうございます」 京太郎「いえいえ。後は…まぁ、大分、涼しい格好はされてるみたいですし」 京太郎「楽な姿勢のままそれ飲んでて下さい」 京太郎「俺はその間、団扇で仰いでますんで」パタパタ 一「(…あぁ、涼しい…)」 一「(金髪の天使さんにここまで尽くされるなんて…まるで天国みたいだ…)」 一「(…と言うか、これ夢じゃないよね?)」 一「(夢だったら嬉しいけど…でも、それ以上に嬉しくないって言うか…)」コクコク 京太郎「他に何かして欲しい事はないですか?」 京太郎「態勢を変えるのも今は一苦労でしょうし何でもお手伝いしますよ 一「(な、何でも…!?)」ゴクッ 一「(そ、それってもしかして…アレやこれもオッケーって事……!?)」ドキドキ 一「(い、いや、落ち着くんだ、国広一)」 一「(確かに見た目はビッチっぽいけど、この人がとても良い人なのはこれまでで分かっているし…)」 一「(そういう意図はまったくない………はず、だと思う多分)」 一「(だから、ここは落ち着いて…)」 一「…じゃあ、膝枕…」 京太郎「え?」 一「(ってボクは何を言ってるんだ…!?)」 一「(こんな汗だくなボクを膝枕させたらこの人の服がさらに汚れちゃうって言うのに…)」 一「(っと言うか、初対面の女の子に膝枕要求されたら普通に事案発生だよ!?)」 一「(即座に通報されても文句言えないレベルなのに…あぁぁああもう…ボクの馬鹿!!馬鹿あああ!!)」 京太郎「膝枕ですか?俺は構いませんけど…」 一「…え?」 京太郎「でも、俺なんかの膝枕で良いんですか?」 一「い、良いんです!最高です!!!」グッ 一「…あ」クラァ 京太郎「…って大丈夫ですか?」パタパタ 一「…ごめんなさい」 京太郎「もう。そんなに謝らなくても大丈夫ですよ」 京太郎「俺なんかの膝枕をそんなに欲しがって貰えて嬉しかったですし」 一「そ、それって…」ドキッ 一「(も、もしかして…俗に言うチョロインって奴…なの?)」 一「(ボクの世話をしてる間に堕ちちゃったとか…!?)」 一「(…………うん。流石にそれはないよね)」 一「(幾ら最近の漫画でも、そこまで突飛な展開はありえないでしょ)」 一「(Toloveるの男ヒロインだってここまでチョロくはないと思う)」 京太郎「じゃあ、ちょっと失礼しますね」 一「ん…」 京太郎「どうですか?」 一「…す、すっごく…良い…です…」ウットリ 一「(あぁぁぁ…念願の金髪美男子の膝枕あああああ!)」 一「(…ボクは今日の事を絶対に忘れないと思う)」 一「(ただ、夢が叶ってるだけじゃなくて…)」 一「(こうしてボクを見下ろすこの人の目は…とても優しいんだから)」 一「(いっそお父さんみたいなその目が…ボクにはとても心地良い)」 一「(膝枕の適度な硬さも相まって…このまま眠っちゃいそうなくらいだ…)」 一「(でも…ここで眠ってしまったらこの人に迷惑を掛けてしまうし…)」 一「(何より、そんな風に眠っている時間さえもボクにとっては勿体無い)」 一「(こういう機会なんてもうあり得ないかもしれないんだから…精一杯、堪能しないと…)」デヘヘ ~数十分後~ 一「…ふぅ」 京太郎「どうですか?」 一「…はい。大分、マシになりました」 京太郎「そうですか。それなら良かったです」ニッコリ 一「…はい。それで…あの、本当にありがとうございました」ペコリ 一「出来れば、お礼もしたいんですが…今はちょっと急ぎの用事もありまして」 京太郎「いえいえ。気にしないでください」 一「き、気にします!」 京太郎「え?」 一「あ、いや、その…」 一「(…こ、ここで縁が切れるのが絶対に嫌だったからなんて言えない…!!)」 一「と、ともかく…これ服のクリーニング代と飲み物代です」 一「それと…出来れば後日、改めてお礼がしたいので連絡先なんかを…」カァァ 京太郎「えぇ。構いませんよ」 一「っ!」パァァ 一「じゃ、じゃあ、赤外線通信で…!」シュバ 京太郎「はい。こっちはオッケーです」ポチポチ 一「それじゃあ…」ポチポチ 一「…………ってアレ?」 京太郎「どうかしました?」 一「…須賀京太郎…さん?」 一「(どこかで聞いた記憶があるような…)」 一「(…まさかこれは運命…!?前世からのアレコレだったり…!!?)」 京太郎「あ、自己紹介してなかったですね」 京太郎「清澄一年、麻雀部の須賀京太郎です」ニコ 一「(ですよねー…)」 一「…あ、ボク、龍門渕の国広一です」 京太郎「はい。存じあげております」クス 一「っ」ドキーン 一「(あぁぁ…もう冗談っぽく笑うところも可愛いよおおお!!)」 一「(っていうか…清澄って何時もこんな美男子と一緒にいるの?)」 一「(地味な…ってかあんまり日が当たる事のない麻雀部なのに?)」 一「(…正直、嫉妬が抑えられない…)」 一「(毎日、この金髪天使さんに…須賀くんに尽くされてるんだろうなぁ…)」 一「(…ボクも清澄の子になりたい…)」 京太郎「って時間、大丈夫ですか?」 一「ってあわわ…ちょっとまずいかも…っ」 京太郎「引き止めてごめんなさい」ペコリ 一「い、いえ、ぜんぜん大丈夫です!!」 一「そ、それよりまた後でLINEとかも送るので…」 京太郎「はい。お待ちしてます」 一「~~っ!」パァァ 一「じゃ、じゃあ、あの…また!」 一「また必ずお会いしましょうね!!」タッタッタ 京太郎「(ふぅ。まぁ…アレだけ国広さんが気合を入れてる理由は良く分からないけれども…)」 京太郎「(とりあえず国広さんが無事に回復してよかった)」 京太郎「(自分で立つ事も出来ないレベルってかなり深刻だからなぁ)」 京太郎「(アレから少しでも悪化する気配があったらすぐさま救急車を呼ばなきゃいけなかっただろうし…)」 京太郎「(そんな大事にならずに一安心…なんだけれど)」 モモ「…」ジィィィィ 京太郎「えーっと…モモ?」 モモ「…」ツーン 京太郎「(…なんでいるんだ、とかはもう愚問だよな)」 京太郎「(中学でハンドやってた時に、迷子になってたコイツを見つけて…)」 京太郎「(それから何が気に入ったのか、たまにストーキングされてるんだから)」 京太郎「(まぁ、ストーキングって言っても、適当に後をついてくる程度だし)」 京太郎「(何より、俺とモモは友人で、多少、こうしてストーキングされても気にしないんだけれど…)」 京太郎「(…いるならいるって言ってくれれば良いのになぁ)」 京太郎「(まぁ…俺はおっぱいの大きい美少女を見過ごす訳がないし…実際、ある程度、位置も分かるんだけれど…)」 京太郎「(こうして友達に無言で後をついて回られるとちょっと勿体無いっていうか)」 京太郎「どうせなら横に来れば良いのに」 モモ「っ」カァァァ 京太郎「…あ、悪い」 モモ「ふ、ふーんだ。そんな手には騙されないっすよ」 モモ「京さんがあの手この手で女の子を誑かしてる悪男だって私はもう知ってるッスから!」 モモ「そうやって私の事を褒めるのも、私から敦賀の情報を聞き出す為なんでしょう!?」 京太郎「なーんで、そんな疑心暗鬼な性格に育っちゃったかなぁ…」 京太郎「昔…つっても一年前だけど、もっと素直だったのにさ」 モモ「だ…だって…」 モモ「(…だって、私ッスよ?)」 モモ「(京さんとは違って…地味過ぎて見つけられる人の方が少ない私が…)」 モモ「(京さんにそんな優しい事言われるなんて絶対におかしいッス)」 モモ「(だから…きっと京さんは私の事、利用して、敦賀の情報を聞き出そうとしてるに決まってる…)」 モモ「(…そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃ…ダメなんッスよ)」 モモ「(そうやって心に予防線張らなきゃ…私、きっと京さんに依存しちゃう)」 モモ「(ううん…もう既に依存しちゃってるッスよ)」 モモ「(京さんに近づいたらダメだって分かってるのに…)」 モモ「(遠くから見てるだけでも…好きな気持が強くなっちゃうの知ってるのに…)」 モモ「(私…もう京さんのストーキングを止められないんですから)」 モモ「(こんな私が京さんに選ばえるはずないって分かってるのに…ずっと追い回して…)」 モモ「(そんなの…気持ち悪いだけッス)」 モモ「(どれだけ優しい京さんにだって…きっと心の中では嫌われてる…)」 モモ「(だから…私は…ダメな理由を沢山作らなきゃいけない…)」 モモ「(本当のストーカーになる前に…自分を抑えなきゃ…)」グッ 京太郎「…ま、いいや」 京太郎「こうして折角、俺の前に出てきたんだし、久しぶりに話そうぜ」 モモ「え…?」 京太郎「牛丼くらいだったら奢ってやるよ」ニコ モモ「…またそんな色気のない食べ物を」 京太郎「でも、モモも好きだろ?」 モモ「(…分かってないっすね、京さんは)」 モモ「(私が牛丼が好きなのは、京さんの所為なんッスよ)」 モモ「(あの日…迷子になった私を牛丼屋に連れて来てくれたから)」 モモ「(泣きじゃくる私の為に…京さんが牛丼を奢ってくれたから)」 モモ「(だから…別に牛丼なんてそんなに好きじゃないんっすよ)」 モモ「(それでもこうして好きになっちゃったのは…それだけ私が京さんに心奪われてしまってる証で…)」 京太郎「あ、それともハンバーガーとかの方が良いか?」 モモ「…京さんは」 京太郎「ん?」 モモ「…京さんはどうしてそんなに構ってくれるッスか?」 京太郎「…そんなに疑問か?」 モモ「…だって、変じゃないッスか」 モモ「私…今日も京さんの事付け回してたッスよ」 モモ「京さんが学校出てから…今の今までずっと」 京太郎「まぁ…うん。俺もそれは知ってたけど」 モモ「…なんで、それで通報しないッスか?」 京太郎「え…だって、モモ可愛いし」 モモ「…は?」 京太郎「いや、だってさ、冷静に考えてくれよ」 京太郎「おっぱい大きくて、何処か犬っぽくて、努力家で」 モモ「は、はわわ…」カァァァ 京太郎「おっぱい大きくて、照れ屋で、あんまり自分に自信が持てなくて…」 京太郎「何より…可愛い女の子が俺に興味持ってくれてるんだぞ」 モモ「か、かわ…っ」マッカ 京太郎「それで通報なんてできるはずないだろ」 京太郎「俺はそもそもモモの事を悪く思ってないんだし」 京太郎「まぁ…さっきも言ったけど、出来れば隣に来て欲しいけどさ」 モモ「そ、それは…」 京太郎「でも、それは無理なんだろ?」 京太郎「それくらい俺にだって分かってる」 京太郎「…だから、俺はまつよ」 モモ「え…?」 京太郎「モモが笑顔で俺の隣に来てくれるまでずっと待ってる」 京太郎「お前が自信を持って俺と一緒に歩けるまでずっとずっとな」 京太郎「だから、俺は通報なんてしないし、こうして出てきてくれたら遊びにだって誘う」 モモ「……京…さん…っ」 モモ「(だ…ダメ…っすよ…そんな事言ったら…)」 モモ「(私…誤解…しちゃうっす)」 モモ「(京さんもまた…私の事好きなんだって…) モモ「(私の事を想ってくれるんだって…そう想って…)」キュン モモ「(好きが…暴走…しちゃうッス…)」 モモ「(京さんの何もかもを…欲しく…なっちゃうぅ…)」ギュゥ 京太郎「…友達ってそういうもんだろ?」 モモ「……」 京太郎「アレ?」 モモ「…はぁあああああ」 京太郎「…アレ、そんなにダメだった?」 モモ「…いや、ダメじゃなかったッスよ」 モモ「(…ただ、私にとって最後の一言はいらなかったってだけで)」 モモ「(まぁ…おかげで正気に戻れたッスけどね)」 モモ「(あのままだったら多分、本気でストーカー化してたでしょうし…)」 京太郎「…なんかごめんな」 モモ「良いっすよ。京さんが何処か抜けてるのはもう分かってるッスから」 京太郎「ぐふ」 モモ「…まぁ、でも…お詫びくらいは期待して良いっすよね?」チラッ 京太郎「ん?そんなに牛丼食べたいのか?」 モモ「牛丼から離れて下さいッス」 京太郎「じゃあ、牛丼いらないのか?」 モモ「……いや、食べたいッスけど、好きですけどね、牛丼」 京太郎「じゃあ、早速、食べに行こうぜ」 モモ「…本当にもう」 モモ「京さんって時々、ビックリするくらい強引ッスよね」 京太郎「モモみたいな引っ込み思案タイプはゴリゴリ行ったほうが良いって経験上分かってるからな」 京太郎「まぁ、本気で嫌だったらやめるけど」 モモ「…………い、嫌とまでは言ってないじゃないッスか」 京太郎「じゃあ、嬉しい?」 モモ「もぉ…本当に意地悪ッスよね、京さんは」 京太郎「…そう言いながらも嬉しそうな顔をしてるよな」 モモ「し、してないっすよ、全然!!」ブンブン モモ「(……でも、こうやって京さんと一緒に並んで歩くのも久しぶりっすよね)」 モモ「(高校にあがってからはお互いに色々と忙しかったッスし…)」 モモ「(それに私が色々と理由をつけて京さんの前に出るのを避けてたッスから)」 モモ「(…だから…なんでしょうね)」 モモ「(久しぶりに京さんと一緒に並んで歩く私の顔はずっと緩んだままで…)」 モモ「(…あぁ、本当に…悔しいッス)」 モモ「(ダメだって分かってるのに…京さんには勝てない)」 モモ「(敵なんだって…仲良くなっちゃダメなんだって…そう理由を作っても…)」 モモ「(京さんはあっさりそれを乗り越えて…私のココロに触れてくるッス)」 モモ「(おかげで私の心はもう…京さんナシじゃ生きていけなくなってしまって…)」 モモ「(…このままじゃ責任取って貰うしかなくなるッスよ?)」 モモ「(私みたいな重くて面倒くさい女が…京さんの事を諦められる訳ないんですから)」 モモ「(例え何年掛かっても京さんの隣に…京さんの恋人になりたいって…)」 モモ「(地味で臆病な私の心が…そう叫んでるッス)」 モモ「(…だから)」 モモ「…京さん?」 京太郎「ん?」 モモ「…本当に待っててくださいね」 モモ「約束ッスよ?」 京太郎「おう。約束だ」 モモ「(…こんなちっぽけな約束を結ぶくらいは許してくれるッスよね?)」 ~駅のホーム~ 数絵「(…はぁ、今日も疲れた)」 数絵「(ほぼ一人での自主練だから、別にいくらでも手をぬく事はできるのだけれど…)」 数絵「(でも、そうやって手を抜いた先にあるのは、侮辱と不名誉なのよね…)」 数絵「(お祖父様の麻雀が最強だと…そう証明する為にも、決して手を抜けない)」 数絵「(…でも、一人で頑張り続けるのって思ったよりも大変ね…)」 数絵「(せめてもう一人切磋琢磨できる相手がいれば違うのだろうけれど…)」 数絵「(でも、部活にそんなレベルの人はいないし…)」 数絵「(私自身、あんまり社交的な方でもなくって…)」 数絵「(ライバルといえるような関係を構築できるはずもなく…)」 数絵「(……ダメね、疲れすぎてる)」 数絵「(何時もならこんな弱音なんて出てこないはずなのに…)」 数絵「(最初のインハイが終わって、色々と弱気になっているのかしら…)」 京太郎「っと間に合ったみたいだぞ」 数絵「…?」 京太郎「悪かった、悪かったって」 京太郎「でも、久しぶりにモモと話せて楽しかったんだ」 京太郎「仕方ないだろ?」 数絵「(…何、あの人…)」 数絵「(さっきからずっと独り言言ってる…?)」 数絵「(今の時代、目立たないサイズのマイクとイヤホンが売ってるって聞くけれど…)」 数絵「(…多分、あの人はそうじゃない)」 数絵「(それなら視線はまっすぐ前を向いているだろうし…)」 数絵「(でも、あの人の目は横にいる『誰か』に向かっていて…)」 数絵「(ただ、そこには誰かがいるようには見えないのだけれど…)」 京太郎「ん?あぁ、俺の方は大丈夫」 京太郎「そもそも俺、男だからそれほど門限とか厳しくないし」 京太郎「あー…うん。逆だな、ごめん」 京太郎「まぁ、でも、あんまり門限厳しくないのは事実だから気にすんなって」ポンポン モモ「っ」カァァ 数絵「え…?」 数絵「(い、今、いきなり人が現れ…って言うか…えぇぇえ…!?)」 数絵「(あ、あの人…い、一体、何を考えているの?)」 数絵「(人前で女の子の頭を触るとか…ちょっとはしたなさ過ぎるんじゃないかしら…)」 数絵「(そんなの…人によってはいきなりレイプしちゃうほど過激なアピールなのに…)」 数絵「(実際…いきなり現れたあの女の子の方、顔真っ赤になってる)」 数絵「(まぁ…人前で男の子にあんな事されたら当然と言えば当然だけど…)」 数絵「(…でも、嫌そうじゃない…わよね)」 数絵「(やっぱりあの二人…『そういう関係』なのかしら)」 数絵「(…って事は…きっとあぁいう事もやっている…のよね)」 数絵「(実際、あの男の子も見た目そのものが淫乱そうだし…)」 数絵「(きっとあの男の子も、あの子を上に跨がらせて思いっきり腰を振らせて…)」 数絵「(…………嘆かわしい)」 数絵「(そもそもそういうのは婚姻を結んだ男女がする事なのに)」 数絵「(それを一時の相手でしかない恋人相手に気軽にやるなんて…)」 数絵「(…ドン引きよ)」 数絵「(…いえ、別に嫉妬とかじゃないけれど)」 数絵「(えぇ。私は今の生活に満足してるし…)」 数絵「(一人で頑張るのに疲れてきたけれど…あくまでそれだけだから)」 数絵「(まったく嫉妬なんて感情はないけれど…でも…)」 京太郎「つーか、俺としてはモモの方が心配だけどな」 京太郎「家まで送っていこうか?」 モモ「ふぇ…えぇぇ…っ」ドキーン 数絵「(……あんな風に人前でいちゃつかれると目に毒)」 数絵「(ただでさえ部活で疲れているのに…これ以上疲れたくはないし)」 数絵「(なんだか負けたみたいで腹が立つけれど、ちょっと移動しましょう)」イソイソ 京太郎「」イチャイチャ モモ「」キャッキャ 数絵「(…はぁ)」 数絵「(人前でいちゃつくカップルなんて全滅すれば良いのに)」 咲「んー…」ホクホク 咲「(えへへ、今日は大収穫だなぁ)」 咲「(お気に入りの作家さんの本だけ買うつもりだったのに…面白そうな本が沢山あったし)」 咲「(特に…某書院の本は期待大だなぁ)」 咲「(知らない作家さんだけど、軽く流し読みしたらすっごくハードなレイプ描写だったし…)」 咲「(女の子が男の子の上に乗っかって、腰振りながら連続搾精してるところなんてもうトイレに駆け込みそうになったくらいだったよ)」ムフー 咲「(今日はこれを題材に京ちゃんでオナニーしよーっと)」 咲「(ふふ…楽しみだなぁ…)」トテトテ 京太郎「本当に良いのか?」 モモ「大丈夫っすよ」 咲「…アレ?」 咲「(…アレは京ちゃんと…敦賀の東横さん?)」 咲「(京ちゃんの家の前で一体、何を話してるんだろう?)」コソ 咲「(…ってなんで私、隠れてるのかな)」 咲「(まぁ…確かになんだかいい雰囲気だし…)」 京太郎「んー…でも、気をつけてくれよ」 京太郎「ここからモモの家までは結構、遠いからさ」 モモ「大丈夫ッス。私にはステルスがありますから」 京太郎「でも、それは完全じゃないだろ」 京太郎「実際、俺にはこうして見えてる訳だし」 モモ「ぶっちゃけ、京さんが少数派なんッスよ」 モモ「私は親にだって見つけられない事があるんッスから」 モモ「逃げ足だって早い方ですし、何かトラブルに巻き込まれてもスタコタサッサっす」グッ モモ「寧ろ、私が心配なのは京さんの方っすよ」 京太郎「俺?」 モモ「えぇ。こうして女の子を気軽に家にあげちゃって…」 モモ「送り狼になるとか考えなかったッスか?」 京太郎「だって、モモが俺の事襲ったりしないだろ」 京太郎「俺とモモは友達だしな」 モモ「…友達っすか」ムゥ 京太郎「それに幾ら何でも押し倒されてまったく抵抗出来ないほどひ弱じゃないつもりだし」 モモ「…そうやって無用な自信が、レイプ被害に繋がるッスよ」 京太郎「まぁ、そうかもしれないけどさ」 京太郎「でも、わざわざ家まで送ってくれた女の子にお茶の一つも出さないのは失礼だろ?」 モモ「それもそうかもしれないッスけど…」 モモ「(…私がこの一時間ちょっとでどれだけ理性を酷使したと思ってるッスか)」 モモ「(私、男の子の部屋にあがるとか始めてだったッスよ)」 モモ「(女の子の部屋とは違う良い匂いをあっちこっちから感じて…)」 モモ「(もう気が狂いそうだったッス)」 モモ「(多分、後一時間も部屋にいたら我慢できなくなって京さんの事犯してたッスよ)」フゥ 京太郎「???」 咲「(……京ちゃん、東横さんの事、部屋にあげたんだ…)」 咲「(…まぁ、元々、東横さんと京ちゃんが仲良くやってたのは私も知ってたけれど…)」 咲「(…………でも、どうしてだろう)」 咲「(すっごく…すっごく面白くない)」 咲「(胸の奥からムカムカして…私の大事な場所を穢されたような気がして…)」 咲「(…おかしいな、私、京ちゃんの事、ただの幼馴染としか思ってなかったはずなのに)」 咲「(だからこそ、和ちゃんの背中だって押せたはずなのに…どうして?)」 咲「(どうして…今になってこんなにも苛々しちゃうのかな)」 咲「(…東横さんが京ちゃん好みの巨乳だから?)」 咲「(…ううん。それは和ちゃんも同じだし関係ないはず)」 咲「(じゃあ…一体…)」 モモ「…ホント、京さんは仕方ないッスね」 京太郎「なんだよ、いきなり」 モモ「無防備過ぎて目が離せないって事ッスよ」クス 京太郎「そんなに無防備かなぁ…」 咲「( ―― …あぁ、そうか)」 咲「(…東横さん、被ってるんだ)」 咲「(私が京ちゃんに接する姿と…そっくり)」 咲「(口では仕方ないなって言いながらも、その実、京ちゃんの面倒を見ているのが嬉しくて…)」 咲「(本当は京ちゃんが居ないとダメなのは自分なのを笑顔の裏に隠して…)」 咲「(甘くとろけるようにして…依存…しちゃってる)」 咲「(そんな東横さんに…私はきっと自分の居場所を奪われるんじゃないかって思ったんだ)」 咲「(恋人とは違う…『宮永咲』と言う居場所を)」 咲「(…だから、私はこんなにも嫌で…胸の中がムカムカして…)」 咲「(…………嫌だ、渡したく…ない)」 咲「(和ちゃんだったら…まだ良かった)」 咲「(和ちゃんが恋人になっても、私は『宮永咲』のまま京ちゃんに接する事ができるから)」 咲「(…でも、東横さんは絶対にダメ)」 咲「(あの人は私の居場所を奪って…そして塗り替えてしまう)」 咲「(…だから…っ)」グッ 咲「アレ、京ちゃん…と東横さん」 京太郎「お、なんだ、咲か」 モモ「あ…ど、どうも」ペコ 咲「こんばんは。こんなところでどうしたの?」 モモ「えっと…」チラッ 京太郎「街中で偶然出会ってさ」 京太郎「一緒に牛丼屋行ったりして遊んでたら遅くなったから送ってもらったんだよ」 モモ「そ、そうッス」 咲「へぇ。そうなんだ」 咲「…でも、東横さん、夏とは言え、もう日が落ちる時期だから早めに帰った方が良いよ」 京太郎「あぁ、そうだな。ごめん、変に引き止めちゃって」 モモ「い、いや、私は大丈夫ッスよ」チラッ 咲「…」クス モモ「…」グッ 咲「それで…京ちゃん、実はお願いがあるんだけど…」 京太郎「…嫌な予感しかしないけどなんだ?」 咲「実は今日、結構、本買っちゃってさ」 咲「家まで待ちきれないから、部屋にあげて貰って良い?」 京太郎「お前の家、すぐそこだろ」 咲「えへへ。だって、待ちきれないんだもん」 咲「それに良いでしょ?『何時もの事』なんだから」 モモ「…」ピクッ 京太郎「まぁ、確かに何時もの事っちゃいつもの事だしな」 京太郎「良いぞ、別に見られて困るもんがある訳じゃないし」 京太郎「ただ、お茶菓子とかは期待されても困るからな」 咲「大丈夫だよ。流石にそこまで図々しくないし」 咲「寧ろ、お礼に今日は私がご飯作ってあげようか?」 咲「一応、これでも『須賀家の厨房を任せられてる』し、おばさまも楽が出来て喜ぶと思うから」 京太郎「あー…それも良いかもな」 咲「ふふ。じゃあ、今から一緒にスーパーに行こ?」 咲「早くしなきゃお肉とか売り切れちゃうよ」 モモ「……」ギリ 咲「あ、ごめんね。東横さん」 咲「こっちで勝手に盛り上がっちゃって」 モモ「…大丈夫ッスよ」 モモ「二人が『幼馴染』なのは私も良く知ってるッスから」 咲「うん。そうだよ、昔からずっと一緒だったんだ」 咲「…勿論、これからも…だけどね」 モモ「…」ゴゴゴ 咲「…」ゴゴゴ 京太郎「(…なんだろう、このプレッシャーは…)」 モモ「…………じゃあ、今日は帰るッス」 京太郎「お、おう。本当に気をつけてな」 モモ「心配ありがとうッスよ」 モモ「…京さんの方もどうか気をつけて」チラッ 咲「…さようなら、東横さん」ニッコリ モモ「…さようなら、宮永さん」ニコ 咲「…さてっと」ギュッ 京太郎「んお…」 咲「東横さんもいなくなったし…行こ?」 京太郎「…いや、それは良いんだけどさ」 咲「どうかしたの?」 京太郎「さ、流石に俺も腕組まれるのは恥ずかしいぞ」 咲「うん。知ってる」ニコ 咲「京ちゃん見た目ビッチだけど中身は清純だしヘタレだもんね」 京太郎「フォローしてるようでそれ以上に叩きのめしてないかその言葉」 咲「…でも、そんな京ちゃんが見たいから、今日はこのままスーパーね」 京太郎「聞けよってかマジかよ…」 咲「マジでーす」 咲「まぁ、その分、今日はリクエスト聞いてあげるからさ」 咲「何が良い?」 京太郎「…じゃあ、ハンバーグで」 咲「京ちゃん、ホント、子ども舌だよね」 京太郎「うっせーよ」カァァ 咲「(…あぁ、なんだ)」 咲「(…こうして腕組んだだけで…もう分かっちゃった)」 咲「(私、本当はずっと京ちゃんの事好きだったんだ)」 咲「(京ちゃん以外のオカズでイけなかったのも…京ちゃんの事好きで好きで好きすぎたから)」 咲「(…毎日、京ちゃんでオナニーしてたのは強すぎる気持ちに気づかないふりをする為だったんだ)」 咲「(………でも、もう無理)」 咲「(私、完全に気づいちゃったから)」 咲「(自分の気持ちにも…そして京ちゃんの重要性にも)」 咲「(東横さんだけじゃない…)」 咲「(親友であるはずの和ちゃんにだって…渡したくない)」 咲「(幼馴染だけじゃなくて…恋人も…妻の座も…)」 咲「(全部全部…欲しくなっちゃってる…)」 咲「(だから…良いよね)」 咲「(…私をこんなにしちゃったのは天然ビッチの京ちゃんなんだから)」 咲「(…ヘタレだけど私の事を何時も大事にしてくれてる京ちゃんなら…)」 咲「(…この燃えるような私の気持ちも…)」 咲「(そして…アソコが濡れちゃうほどの欲情も…)」グチュ 咲「(全部全部…受け止めてくれるよね…?)」 ~次の日~ 京太郎「(はー…今日は高久田の奴が休みか)」 京太郎「(この前、飯断った分、何か奢ってやろうと思ってたんだけどな)」 京太郎「(なんだか風邪だって話だけど…でも、LINEにもまったく返事がないし)」 京太郎「(よっぽど体調が悪いのかな?)」 京太郎「(なら学校帰りにでも見舞いに行って…あ、いや、待て)」 京太郎「(こういう時こそ、あの子に見舞いに行ってもらうベキじゃないか?)」 京太郎「(んで、看病してる間に好感度稼いで貰って……)」 京太郎「(…………うん、なんかそのまま逆レしてそうなのはきっと気のせいだよな)」 京太郎「(まぁ、何はともあれ、今日は一人飯でも楽しむとしようか)」 久「って京太郎君」 京太郎「おや、部長。今日も一人っすか?」 久「…何時も一人みたいな風に言わないでくれる?」 久「今日はちょっと人と予定が合わなかったの」ムー 京太郎「はは。大丈夫ですよ」 京太郎「部長が人気者なのは俺も良く知ってますから」 久「…ちなみに京太郎君的にはどうなの?」 京太郎「もうちょい悪戯控えてくれれば素直に慕う事もできるんですけどねーって感じです」 久「ダメよ。悪戯を控えるなんて私のアイデンティティに関わるわ」 京太郎「そんなレベルですか」 久「そうよ。だから、イラズラされる為に隣に来なさい」ポンポン 京太郎「んな事言われて近づくと思ってるんですか…」イソイソ 久「そう言いながらも隣に来てくれる京太郎君が好きよ」クス 京太郎「他に座れる場所もあんまり見当たらないですしね」 京太郎「べ、別に部長のために隣に来た訳じゃないんですから勘違いしないでくださいよ!」 久「見事なツンデレと感心するが何処もおかしくはないわね」 京太郎「ま、なので悪戯も控えてくれると…」 久「だが、断るわ」ニッコリ 京太郎「ですよねー…」 久「で、今日の京太郎君くんのお昼は…Aランチか」 京太郎「メインの唐揚げが嫌いな男なんて殆どいませんしね」 久「京太郎君も唐揚げ好きなんだ…」 京太郎「えぇ。まぁ、人並みに、ですけど」 久「ふーん……」 久「じゃ、じゃあ…ね。今度、作ってきてあげましょうか…?」 京太郎「お断りします」キッパリ 久「ちょ、そこは受け止めるところでしょ!?」 京太郎「この前、部長の料理にひどい目にあったのを忘れちゃいないんですよ」 久「あ、アレはちょっぴり失敗しちゃっただけだし…」 京太郎「勝手にアレンジして失敗したのはちょっぴりとは言わないんですよ」 久「そ、そんな事言うけど…京太郎君のタコスミタコスもひどかったじゃない!」 京太郎「ふ…甘いですね、部長」 久「何…!?」 京太郎「俺はあの一件から自分の料理センスがヤバイと知り、料理の勉強を始めました!」ドヤァ 久「な、なんですって…!!?」 久「じゃ、じゃあ、まさか…!」 京太郎「えぇ。もう砂糖と塩を間違えたりしません」 京太郎「得意料理だってあります」 久「と、得意料理…だと…!?」 京太郎「えぇ。しかも…肉じゃがです!!!」グッ 久「に、肉じゃが…!?」 久「あ、あのキングオブ得意料理…」 久「お見合いで聞かれて七割は出てくるっていう肉じゃがが作れるようになったって言うの…!?」 久「この短期間で…やはり天才か…」 京太郎「ふっ。常に成長し続ける男、須賀京太郎と呼んで下さい」ドヤァ 久「…………で、実際のところは?」 京太郎「まぁ、最近は簡単に肉じゃがの味付けができる調味料があるんでそれぶちこんで材料煮るだけですし」 京太郎「ぶっちゃけすっげー簡単ですね」 久「…夢が壊れるわね」 京太郎「まぁ、難しかったらキングオブ得意料理にはなれないでしょうしね」 久「しかし、そんな話を聞いてたらね」 京太郎「ん?」 久「…き、京太郎君のさ、料理…た、食べてみたいかなーって…」チラッ 京太郎「あざとい」 久「あ、あざとくなんかないわよ…っ」 京太郎「いやぁ…今のはあざといっすよ」 京太郎「多分、十人中八人はあざといって言うレベルで」 久「す、少なくとも計算はちょっぴりしかしてないからセーフよ!」 京太郎「計算してる時点でアウトっすよ」 久「…判定厳しすぎない?」 京太郎「部長がユルユルなんっすよ」 久「ゆ、ユルユルって…ち、違うわよ」カァァァ 久「こ、これでも処女なんだから、キツキツのミチミチなんだからね!!」 京太郎「そんな事言ってないです」 ザワザワワ 久「あぅ…」カァァ 京太郎「…まぁ、とりあえず食べましょ?」 久「そ、そうね…」 久「…でも、この埋め合わせは絶対にして貰うから」 京太郎「えー…」 久「誰のせいで大恥掻いたと思ってるの?」 京太郎「完全に部長の自爆じゃないっすか」 久「ゆ、ユルユルなんて不名誉な事言われたら誰だってああなります!」 京太郎「(不名誉な事なのか…)」 京太郎「(まぁ…男で言えば、短小扱いされるようなもんだしな)」 京太郎「(そりゃ思いっきり反論したくなるかもしれない)」 久「と言う訳で、京太郎君は今度、私のためにお弁当を作ってくるように」 京太郎「えー…」 久「…何、不満なの?」 京太郎「いや、まぁ、別に弁当そのものは良いんですけどね」 京太郎「(…ぶっちゃけ、以前までに比べて部活でやらせて貰える事が減ってしまったし)」 京太郎「(お茶くみや牌譜作るくらいしかやってないから作っても構わないんだけれど…)」 京太郎「…でも、ぶっちゃけ俺、まだ習い始めたばっかなんで味とか色々微妙っすよ」 久「…そんなの気にしないわよ」 久「私が食べてみたいのは美味しい料理じゃなくて」 久「貴方の…京太郎君が私のために作ってくれたお弁当なんだから」ニコ 京太郎「っ」 久「…あれ、どうかした?」 京太郎「……いや、部長ってホント、タラシだなぁって思って」 久「…もしかしてドキっとした?」 久「ドキドキってしちゃった?」ニマー 京太郎「あ、やっぱ気のせいでした」 久「えー…そこは正直になりなさいよ」 京太郎「正直になった結果、いじり倒されるのが目に見えてるんですが」 久「だって、それが私の愛情表現だしねー?」ニコニコ 京太郎「…くそぅ、なんかすっげー機嫌良くなってるし」 久「ふふ。今の私は超ハッピーモードだからね」 久「後でジュースくらいなら奢ってあげても良いわよ?」 京太郎「マジっすか!ゴチになります!!」 久「今度は『確殺!パインサラダジュース』ね」 京太郎「またゲテモノジュース押し付けるのやめて下さいよ…」 京太郎「(…で、そんな事やってる間に、夏休みになった)」 京太郎「(その間、一度も登校しなかった高久田が、何処かで監禁されてるなんて噂も出てたけれど…)」 京太郎「(それは根も葉もない噂だから信じる必要はない)」 京太郎「(あの日、俺に相談してきた子が、高久田が休み始めた時期からずっと休んでいるのも無関係だ)」 京太郎「(いや、関係あるのかもしれないが、きっとあの子が高久田の事を看病しにいってるって程度)」 京太郎「(見舞いに行っても、家にはおらず、親も行方を探してる最中らしいが…)」 京太郎「(あの殺しても死なないような高久田の事だ)」 京太郎「(きっと何処かで上手くやっている事だろう)」 京太郎「(…そう信じないとやってられねぇよ)」 京太郎「(一応、彼女と高久田の繋がりは警察にも言ったけれど、まったく信用して貰えなかったからな)」 京太郎「(…俺にできる事は…あいつが無事である事を祈る事だけ)」 京太郎「(それ以外にあいつの為にしてやれる事はあまりない)」 京太郎「(何せ、今、俺がいるのは…)」
―― 世の中には絶対普遍のルールと言うものがある。 多くの人はまず真っ先に物理法則を挙げるだろう。 世界の動きをミクロからマクロまで説明するそれは今の人類には決して手放せないものだ。 或いは、自分の中の常識を挙げる人もいるかもしれない。 ごく一般的な人にとって自分の中の『常識』とは価値観の根底に根ざすものなのだから。 それを普遍と信じたい気持ちは俺にも分かる。 「そんなルールをこの石版は自由に決める事が出来るんだよ!!!!1111」 京太郎「そーなのかー」 ……だが、それを自由に決める事が出来る、なんて言うのはあまりにも眉唾が過ぎる。 確かに俺の親父は考古学者で、人並み以上にオカルトの知識なんかを持っているだろう。 しかし、だからと言って親父のお土産が『本物』だった事など一度もないのだ。 まぁ、そもそも親父が持って帰ってくるお土産なんて、大抵がそこらの露天で買った珍しいお守りなのだけれど。 「なんだよーノリが悪いなぁ」 京太郎「だって、これもどうせ露天で買ったんだろ?」 「あぁ。何ともミステリアスな美女から是非に、と言われてな」 京太郎「…母さんが怒るぞ」 「大丈夫だ。母さんは控えめな女だからな」 「ちゃんと後で可愛がってやれば機嫌も治してくれるよ」 …ったく、本当にこの夫婦は。 息子の前で惚気けるな、とは言わないが、そういうネタをもうちょっと自重しようとは思わないもんかな。 まぁ、夫婦仲が険悪になってるよりはマシだろうけれど…こっちは一応、色々と微妙な時期なんだぞ。 確かに親父も母さんも外見的には20代から殆ど変わってないが、『可愛がる』ところを想像したくはない。 「まぁ、それはともかく、今はこっちの石版だ」 「さっきはああいったが、俺も流石に世界のルールを決めるなんて話を信じちゃいない」 「まぁ、完全に否定するつもりはないんだが、精々が何処かの部族で使われていた法律発行用の石版だろうとな」 京太郎「…もしそうだとしたらこれ結構、重要な史料なんじゃね?」 それが本当なら割りと重要な発見じゃなかろうか。 考古学ならばともかく民俗学的には喉から手が出るほど欲しい一品だと思うのだけれど。 幾ら半年ぶりに出会った息子へのお土産とは言え、軽くプレゼントして良いものではないはずだ。 「いや、一応、何人か知り合いの学者にも尋ねてみたが、適当に作った石版だろうとさ」 「少なくとも、あの周辺の部族に石版で法律を発行するような習慣を持っていたものはいないらしいし…」 「世界中の何処を見渡しても、この石版に刻み込まえれている模様を使う部族はいなかったそうだ」 京太郎「へぇ…」 なんだ、一応、その辺りはちゃんと調べてから持ってきてくれてるのか。 それなら安心…は出来るんだけど、ちょっと微妙な気分と言うか。 親父には他意はないんだろうけれど、結果的に何の価値もないゴミを押し付けられている訳で。 ネットでは嫌なお土産、略してイヤゲモノなんて言葉があるが、確かにこれはイヤゲモノだと思う。 「まぁ、偽物だとしてもロマンは感じるだろう?」 「どうだ。お前の部屋のアクセントにでも置いてみては」 京太郎「…いや、流石にこんな石版が置いてある部屋はちょっとどうかなぁ」 石版のサイズは縦に120cm、横に80cmほど。 材質が何なのかは分からないが、黒鉛のような表面に文字が刻み込まれている。 一体、いつごろ作られたのかは分からないが、表面には傷一つないし、こうして見る限り新品同然だ。 …………しかし、だからと言って部屋に置く気がしないのは、その自己主張があまりにも大きすぎる所為だろう。 完全に洋風かつ男子高校生風の部屋には、その石版は異物過ぎる。 「…そうか。まぁ、確かに勢い任せで買ってしまった事は否定出来ないしな…」 「これは俺の部屋の物置にでも突っ込んでおく事にするよ…」シュン 京太郎「あー…」 …でもなぁ。 でも…半年ぶりに帰ってきた親父が、意気揚々と俺にプレゼントしてくれたものなのは確かなんだ。 それをこうして無碍にされたら、そりゃ落ち込むのも当然だろう。 …まぁ、もう30超えた男がそんなしょげかえった顔をするなと言いたい気持ちはあるが、メンタルが弱い以外は割りと立派な親父ではあるし。 ここは親父の顔を立てる為にも、素直に受け取っておくほうが良いだろう。 京太郎「…いや、折角だから貰うよ」 「…良いのか?」 京太郎「あぁ。ちょうど、漬物石になるものが欲しかったからな」 「そうか!」 …いや、どんな理由だよ。 確かに最近、タコス作りを勉強し始めたが、いくらなんでも漬物はねぇって。 ……そう胸中でツッコミを入れる自分はいるけど…でも、他の理由なんて特に思いつかないし。 少なくとも目の前で嬉しそうにしてる親父には疑われていないみたいだし、良しとしよう。 「じゃあ、これは今からお前のものだ!」スッ 「適当に自分の目標を書き込むなり、古代のロマンを感じて悦に浸るなり好きにしてくれ!」 京太郎「はいはい」 …って勢い任せに受け取ったけど、この石版案外軽いな。 大きさ的には10kgを超える事も予想してたんだが、まったく重くない。 つーか、殆ど重さなんて感じないくらいだ。 …これ書いてる内容よりも何で作られてるかって方が大事なんじゃないかな。 京太郎「(まぁ、流石にその辺は親父も理解してるだろうし)」 母さんと一緒に殆ど家を開けていて、たまーにしか帰ってこないとは言え、親父は立派な学者だ。 もう30半ばを超えていてもその身体に衰えはなく、また頭もバリバリに切れている。 未だに世界有数の考古学者として名前のあがる親父が、俺でも気づくような事に気づけないとは思えないし。 親父が何も言わなかったって事は、その辺の調べもとっくの昔についているんだろう。 京太郎「んじゃ、俺はこれを下手に持っていくついでに寝るわ」 「あぁ。明日も学校だもんな」 「話に付き合ってくれてありがとう」 京太郎「良いよ。久しぶりの家族団らんも楽しかったしさ」 ま、俺にとって重要な事は石版の材質よりも、明日の学校だわな。 高校に入ってから勉強もぐっとレベルアップしやがったが、それ以上にインターハイが近いんだから。 あいつらがインターハイに向けて集中出来るようにもっともっと精進しなければいけない。 まぁ、所詮、麻雀部だし、何より女の子ばっかりの中、男の俺に出来る事なんてたかが知れてる訳だけど ―― 京太郎「(せめてタコスくらい作れるようになっとかなきゃ…っと)」フゥ ようやく部屋についたか。 幾ら軽いつっても、コイツ結構大きいからなぁ。 リビングからここまで運ぶのも思ったより大変だった。 流石に元運動部だから疲れてるって程じゃないが、それでも一息ついてしまう程度には。 京太郎「(…しっかし、世界のルールを決める…ねぇ)」 ……もし、それが本当ならそれこそ世界中の美女に俺がモテモテ!とかそんなルールも決められるんだろうか。 いや、それだとおっぱいの小さい女の子にまで好かれちゃうし、やはりもうちょっと絞るべきだな。 範囲もそうだが時期も曖昧にして、途中で効果が切れたりするのも怖いし…。 俺が書き込むとしたら、やはり、おっぱいの大きい綺麗な女性に一生、好かれ続ける…ってところか。 京太郎「(…まぁ、書かないけどさ)」 ちょっとテンション上がりこそしたものの、これは本物な訳ないしなぁ。 本物ならちょっと…いや、かなり心惹かれるけど、学者である親父が偽物だと断定してる訳だし。 そんなものに欲望混じりのルールを書き込んでるのを見られたら、流石にダメージがでかすぎる。 正直、黒歴史なんて言葉では足りないくらいだ。 京太郎「(…でも、なんか書いとかないと勿体無いよなぁ)」 俺の目の前にある石版はほぼ白紙の状態だ。 俺の知らない言語で上の方に何かしら刻み込まれてしまっているだけ。 そんな石版をそのまま部屋に放置しておくと言うのは流石に勿体無い。 親父が家にいる期間中くらいは部屋の中に置いておいてやりたいし…何か書き込んでおいた方が親父も喜ぶだろう。 京太郎「(…ってそう言えば)」 …丁度、今日、女の子から相談を受けてたっけ。 確か高久田の奴が好きなんだけど、どうして近づけば良いのか分からないって話だったか。 とりあえず当り障りのないアドバイスをして彼女も納得してくれたけど…流石にそれだけで終わるのも可哀想だしな。 後でそれとなく二人が接近出来るようアシストしてやるつもりだったけれど…。 京太郎「(…うん。折角だし、それを書いておいてあげようか)」 友人とまでは言わないが、クラスメイトの背中を後押しする内容なんだ。 幾ら他人に見られたところで恥ずかしくはないだろう。 ただ…流石に個人名をあげるのは色々とプライバシーの問題もあるからな。 ここはさっきとは別に範囲を大きく広げておくべきだろう。 京太郎「(女が男に対して積極的になりますように…っと)」キュッキュ ……ぶっちゃけ、あの子、スレンダーだったけどかなりの美少女だったからな。 あんな子に積極的になられたら、高久田だってコロっと堕ちちゃうだろう。 そもそもあいつも俺と同じで年齢=彼女いない歴な訳で。 日頃から彼女欲しいと漏らしてるあいつを堕とすには積極的になるので十分だ。 京太郎「(まぁ、マジックで書いたおまじないみたいだから効果があるとは…)」 ―― パァァ 京太郎「…え?」 ……いや、ちょっと待て。 なんでこの石版、光ってるんだ!? つ、つーか…さっき俺がマジックで書き込んだ内容が消えて…中に刻み込まれていってる…!? まるでもう二度と訂正なんて出来ないって言うように…一瞬で…!? 京太郎「な…なんだよ、コレ」 ……もしかして本物? い、いや…流石に違うよな。 だって、これは親父が偽物だってそう言ってて…。 でも…さっき確実に俺の目の前で光って…何故か俺の書いた字が刻み込まれていて…。 京太郎「(あぁああ!もう…わっかんねぇよ!!)」 …ともかく、そういう事は全部、後回しにしよう。 親父も久しぶりの我が家でテンション上がって思いっきり酒飲んでるし。 今、ここで起こった事を説明しても、きっとろくに判断が出来ないだろう。 もうそろそろ日付が変わる時間だしオヤジの知り合い達に連絡するのも難しいだろうしな。 …だから、とりあえず明日だ!! 明日の朝、親父にこの石版を見せて色々と聞いてみれば良い。 ―― …そう逃げるようにして自分に言い聞かせた俺は…また事の重大さを分かっていなかった。 ―― 親父が気まぐれのように買ったそれが、一体、どれほどの力を持っているのかも。 ―― それを知った時、俺は絶望と居たたまれなさに胸が張り裂けそうになるのだけれど。 ―― この時の俺はただ目の前の理解できなさから逃げる事だけで頭の中が一杯だったのである。 ……… …… … 京太郎「ふあぁぁ…」 ……やっべぇ。 昨日はなんか寝る前に色々ありすぎた所為であんまり眠れなかった。 日付変わった時にはもうベッドの中に入ってたけど、眠気が来たのはもう三時過ぎだったんじゃねぇかなぁ…。 幾らか体力もあるとは言え、流石にこれは夜更かしし過ぎた…。 今日も部活があるし…早弁して昼休みは寝ておくかなぁ。 京太郎「おはよーっす…」ガチャ 「ん…っ♪ ちゅひゅぅ…?」 京太郎「…………は?」 ……いや、ちょっと待ってくれ。 なんで朝、扉を開けたら母さんがオヤジの膝の上に座ってるわけ? いや、百歩譲ってそれは良いにしても、思いっきり濃厚なべろちゅーしちゃってる訳なんですけれども!! 幾ら夫婦仲が良いつってもそれはやりすぎだろ!! つーか、ヤりすぎだろ!!! 京太郎「ちょ、あ、朝っぱらから何やってんだよ、母さん!!」 「ふ…ぅん…♪ 邪魔しないでぇ…?」 「私は今、この人と愛を確かめる…キスしてるんだからぁ…♪♪」 京太郎「いやいやいやいや…!」 こ、これが本当にうちの母さんなのか…? 確かに…親父と母さんは仲が良くて、年中、イチャイチャしてたけどさ。 でも、親父が昨日言ってた通り…基本的に母さんは控えめなタイプなんだ。 朝っぱらから息子の前で、濃厚なキスぶっつづけるなんて正直、想像もしていない。 「でも、母さん。このままじゃ京太郎が学校に行けないよ」 「まずは朝食の準備をしてあげないと」 「……はぁい」 …親父の言葉に不承不承って感じで、母さんは離れていく。 が、それは本当に仕方なくって感じで、その声にも不満さが現れていた。 …流石に今まで俺の事を内心、嫌ってて、準備もしたくない…って訳じゃないんだろうけれど。 でも…そんな風に動く母さんの姿は、内心、とてもショックだった。 京太郎「な、なぁ…親父。一体、母さん、どうしたんだ?」 「…どうしたって…アレが母さんの普通だろ?」 京太郎「はい?」 いや、その、まぁ、たしかにさ、たしかに俺と両親の交流って言うのは普通よりも薄いよ。 家族仲は決して悪くはないけれど、両親が帰ってくるのは一年の中で数ヶ月くらいだし。 その大半は海外で発掘とか遺跡調査とかやってる事を思えば、俺の知らない母さんがいてもおかしくはない。 でも、アレが普通って一体、何処の文化圏なんだよ!!! つーか、この前、帰ってきた時は普通だっただろ!!!! どう考えてもおかしいだろうが!!!!! 京太郎「い、いや、普通って…何処がだよ」 京太郎「明らかに過激過ぎるだろ」 「過激…?いや、母さんは控えめな方だぞ」 「友人の家庭なんてキスだけじゃ済まされなくてその先まで求められるそうだし」 京太郎「…」クラァ …………ダメだ、まったく理解出来ない。 これは本当に現実なのか? 本当は俺の身体は眠っていて…これも夢なんじゃないのか? ……いや、そうだ…そうに違いない。 だって、いきなり世界が変わったような光景を現実だなんて認められるはずが… ―― 京太郎「…あ」サァァ …………ま、まさか…い、いや……でも…。 たしかにそれなら…説明がつくかもしれない。 …昨日、俺がおまじないとして書き込んだあの石版が…正真正銘の本物で…。 その力が親父たちにも影響を及ぼしているのだとしたら…。 京太郎「(い、いや…そんな事あるはずがない)」 京太郎「(アレは…アレは偽物なんだ)」 久しぶりに家に帰ってきた親父が、俺を驚かせようとイタズラを仕込んでいたんだろう。 突然、光ったトリックなんかも、マジックがそのまま文字として彫り込まれたのも現代科学じゃ出来ない事じゃない。 …だから、こうして親父たちがおかしくなってしまったのも俺が原因じゃないんだ…。 そうだ…そんな事…あるはず…ない…。 「…どうした、京太郎」 「随分と顔色が悪いみたいだが…」 京太郎「い、いや、何でもねぇよ」 京太郎「そ、それより、俺、今日日直だったの忘れてたからもう出るわ!」 「あ、ちょ…!」 …そうだ、ともかく…外を確認しないと。 アレが親父の悪戯だとすれば…外はきっとマトモなはずなんだ。 俺が知っている通りの世界が、そこには広がっているはず。 だから、ここは嘘を吐いてでも…外に出なければ。 本当の事を…確かめなければいけないんだ。 ―― …でも、そこに広がっていたのは絶望以外の何物でもなかった。 京太郎「…なんだよ、コレ」 …街に出た俺の目に飛び込んできたのは、異様と言う他ない光景だった。 女の子が男に対して腕を組んで歩いているのはまだ良い。 だが、中には男に首輪をつけたり、手錠で自分たちの腕を結び付けてる子もいる。 明らかにファッションという領域を超えたそれらに、しかし、俺以外の人々は何の違和感も感じていないらしい。 むしろ、まるで犬の散歩のように首輪から伸びた鎖を引っ張る女の子に、仲睦まじいと、近所のおばさんらしき人が言っていて…。 京太郎「…おかしいだろ」 京太郎「こんなの…こんなの絶対におかしい…」 …あの石版に書き込んだ時、俺が考えていたのはほんのちょっぴり女の子が積極的になる世界だった。 好きな人に好きだって伝えられるような…そんな勇気を出せるような世界だったはずなのに…。 でも、今のこの世界は…勇気とかそんな領域をあっさりと突破してしまっている。 積極的どころか価値観が完全に書き換わったようなその光景に、俺は… ―― 咲「…京ちゃん?」 京太郎「っ!?」 瞬間、背後から掛けられた声に、俺の身体が反応する。 ビクンと肩が跳ねるようなそれと共に俺は悲鳴をあげそうになっていた。 それを何とか堪える事が出来たのは、俺の強靭な自制心のお陰…ではない。 ただ、ビックリし過ぎて、俺は声をあげる事すら出来なかったんだ。 咲「…って、どうしたの、そんなに驚いて」 京太郎「…あぁ、咲か…」ホッ だが、その声の主は俺の幼なじみである咲だった。 振り返ってそれを確認した俺は、内心、胸を撫で下ろす。 …これが咲も男に首輪をつけてたら、俺は立ち直れなかったかもしれないが、咲は今、一人だ。 何時も通り、清澄の制服に身を包んで両手でカバンを持っている。 京太郎「…咲は変わってないよな?」 咲「もう。いきなりどうしたの?」 咲「私は何時も通りだけど」 京太郎「…そっか。そうだよな…」 …分かっている。 このおかしくなってしまった世界で、以前の価値観を持っているのはきっと俺だけだ。 幾ら麻雀が強いとは言っても…あの石版からの影響力を遮断出来る訳ではないんだろう。 この世界への違和感を口にしない時点で、咲もまた親父たちと同じ。 …それが分かっていても、安堵してしまうのは幼なじみがあまりにも何時も通りだったからだ。 例えそれが錯覚であると分かっていても…俺の知る宮永咲の姿は俺に偽りの安心をくれる。 咲「(…やっぱり京ちゃん、フェロモンでっぱなしだなぁ…)」 咲「(あの鎖骨の辺りとかもう誘ってるとしか思えないよね)」 咲「(正直、ただの幼馴染としか思ってないけれど…)」 咲「(でも、あんな身体見せられたらどうにも我慢出来ないって言うか…)」 咲「(あの手を思い出しながら一体どれだけオナニーしたか分からないくらいだし…)」ムラッ 咲「(…って、そんな事思ってたらまたムラムラしてきた…)」 咲「(あぁ…もう…今日もちゃんと朝からオナニーしてきたのに…)」 咲「(顔見るだけでもムラムラしちゃうとか…もうホント、反則だよ)」 咲「(正直、幼馴染としては心配だなぁ…)」 咲「(女の子に対してあんまり警戒しないし…何時かレイプされそう)」 京太郎「…? どうしたんだ?」 咲「…ううん。何でもない」 咲「それより…今日も一緒に行こ?」 咲「(…京ちゃんは私が護ってあげなきゃいけないもんね)」 京太郎「まぁ、俺は構わないけど…」 咲「やった!じゃあ…」 和「あ、須賀君、咲さん」 京太郎「お、和、おはよう」 咲「和ちゃん、おはよう」 和「今日も一緒に登校ですか?」 和「本当に仲が良いですね」 咲「これでも一応、京ちゃんの幼馴染だからね」 和「…良いなぁ」ポソ 咲「ん?」 和「いえ、何でもありません」 和「それより…私もご一緒して良いですか?」 咲「私はオッケーだよ」 京太郎「あぁ。俺も問題ない」 京太郎「ってか、和ならこっちがお願いして一緒に来て欲しいくらいだぜ」 和「ふぇ…っ」カァァ 和「も、もう…!何を言うんですか、いきなり」 和「ダメですよ、女の子に軽々しくそんな事言ってしまったら」 和「誤解されたら大変な事になりますよ」 咲「…和ちゃん、無駄だよ」 咲「私もずっと言ってるけど、京ちゃん、まったくそういうところ治らないから」 和「…咲さんも苦労してるんですね」 咲「うん…ホント、気安い幼馴染を持つと大変だよ」フゥ 京太郎「…なんか扱いひどくねぇ?」 咲「残念だけど当然ですー」クス 和「そうですよ。須賀くんは女の子の怖さを理解していなさすぎです」 和「そんな事言ってたら襲われても文句言えないですよ」 京太郎「…襲う?」 咲「そうだよ。女の子は狼なんだから」 京太郎「い、いやいや、それはないだろ」 咲「えー。あるよー」 咲「この間だって、女の人が小学生男子襲って逮捕されたって報道されてたじゃない」 和「この間どころか日常茶飯事ですね」 京太郎「ま…マジかよ…」 咲「まぁ、京ちゃんは私と和ちゃんがいるから大丈夫だよ」 和「わ、私ですか…!?」ビックリ 咲「…和ちゃん、京ちゃんの事気になってるんでしょ?」ポソポソ 和「え…ち、違…!?」コソコソ 咲「大丈夫。私はちゃんと分かってるから」ポソポソ 咲「(ライバル多いかもしれないけど、しっかりサポートしてあげるからね!)」サムズアップ 和「で、ですから、誤解なんですってば…!」コソコソ 京太郎「(…何を話してるんだろうか…?)」 咲「ほら、折角、和ちゃんが来てくれたんだし、二人で並んで」 和「え、えぇぇ…」 咲「(…と言うか並んでくれないと私が無理)」 咲「(朝から京ちゃんの顔見てムラムラしちゃってる状態だし)」 咲「(これ以上、夏で薄着になった京ちゃんの隣にいるとトイレに駆け込みかねない)」 咲「(…それにまぁ、京ちゃんは無防備だけど、幼馴染としては良い子だし…)」 咲「(和ちゃんも私の大事な友だちで…二人が付き合うなら素直に祝福出来るもん)」 咲「(何より、擬似的なNTRが味わえるって言うのが良いよね)」ジュル 京太郎「(…何か咲が不穏な事を考えてる気配を感じる)」 和「(…何故でしょう)」 和「(誤解云々以前の前に素直に喜べないような気がするのは)」 和「(…と言うか、これどうすれば良いんですか!?)」 和「(ずっと麻雀オタクだった私には、この状況はあんまりにもあんまり過ぎると言うか…!)」 和「(須賀くんとはあくまでもお友達のつもりですが…で、でも、私は今まで男性の友達なんていなかった訳で…!?)」 和「(こうやって隣を並んで歩いた経験なんてまったくないんですよ!!)」 和「(それに…今日はちょっと日差しが強いんで、須賀くんの額に汗が浮かんでいますし…)」 和「(…これはヤバイです)」 和「(もうムンムンです)」 和「(無防備な男の子フェロモン出っぱなしじゃないですか…)」 和「(こんな男の人の隣にいたら…お、おかしくなっちゃいますよ…)」 和「(例え、私が須賀くんの事を友人としか思っていなくても…女の子である事には変わりがないんですから)」 和「(どうしても…ムラムラしちゃうに決まってます)」 和「(す、須賀くんの事、必要以上に意識しちゃうじゃないですか…)」モジ 京太郎「と、とりあえずさ」 和「ひゃいっ!?」ビクッ 京太郎「とりあえず三人揃った訳だし、学校に行こうぜ」 京太郎「割りと早い時間だけど、ノンビリし過ぎると遅刻するしさ」 和「そ、そうですね…」 咲「ふふふ…」ニコー 和「(…咲さん、そこでどや顔されても腹が立つだけです)」 和「(私が一体、どれだけ大変だと思ってるんですか…)」 和「(正直、朝から理性を思いっきり働かせる事になるなんて思ってませんでしたよ…!!)」 和「(…まぁ、でも…)」チラッ 京太郎「…ん?」 和「…いえ、何でもありません」 和「……こういうのもたまにはいいなとそう思っただけです」 京太郎「そ、そっか」カァァ 咲「…京ちゃん、照れてる?」ニマー 京太郎「う、うるせぇよ!」 京太郎「(…それから学校に行ったけど…現実はまったく変わってくれなかった)」 京太郎「(つーか、余計にひどくなったって言うか…頭がいたいネタが増えたって言うか…)」 京太郎「(…クラスに入った瞬間、女の子達が男のグラビア広げてニヤついてた)」 京太郎「(比較的おとなしめの子はそんな事はなかったけど…)」 京太郎「(でも、聞こえてくる女の子たちの話題は、昨日のドラマが面白かったか、じゃなくて)」 京太郎「(どの場面がエロかったかとか男に魅力を感じたかとかそんなのばっかりだった)」 京太郎「(…で、逆に男の方は、そんな女の子達に若干、引き気味で)」 京太郎「(そういうのは家でやって欲しいとか、男の前で堂々と話す事じゃないだろ…とため息を吐いてたりした)」 京太郎「(…ここまでこれば馬鹿な俺にだってなんとなくわかってくる)」 京太郎「(女の子達はただ積極的になっただけじゃない)」 京太郎「(…男の位置と女の位置が完全に逆転してしまったんだって事)」 京太郎「(ひいては…朝に咲達が言ってたことが全部、本当なんだって事を…)」 京太郎「はぁぁぁぁ…」 京太郎「(…改めて考えるまでもなく…とんでもない事をしてしまった)」 京太郎「(まさかこんな事になるとは思わなかったとは言え…今の世界は本当に酷い)」 京太郎「(昔の意識を残してる俺としては…クラスの中にいるだけで頭がクラクラするくらいだった…)」 京太郎「(だからこそ、こうして高久田達の誘いも断って人気の少ない屋上にいる訳だけど…)」 久「……はい」ピト 京太郎「うひゃ!?」 久「ふふ。ドッキリ大成功ー」 京太郎「…って、部長。どうしたんですか?」 久「いやぁ、久しぶりに屋上でお弁当でも食べようと思ったら、なんか浮かない顔をした後輩がいるじゃない?」 久「だから、ちょっと驚かせてみようかと思って」ニッコリ 京太郎「…そこは励ますとかそういうんじゃないんですか」 久「私、それよりお弁当の方が大事だし」 京太郎「ひっでぇ…」 久「はいはい。そんなに落ち込まないの」 久「落ち込んでる京太郎くんにそれあげるから」 京太郎「…それって言われても、これ…」 久「美味しそうでしょ?『必殺!黒糖みかんジュース!』」 久「何が必殺なのかは分からないけど、ロマンは感じるわ」 京太郎「…感じるのはともかく、それを人に押し付けないで下さいよ」 久「お、上手いこと言うわね」 京太郎「洒落じゃないっす」 久「ふふ。まぁ…意外と評判悪くないみたいだし一回飲んでみたら?」 久「そうすれば少しは気持ちもマシになるかもしれないわよ」 京太郎「……そう言って俺に在庫処理させたいだけじゃないですか?」 久「まぁ、勢いで買ってまったく後悔しなかったとは言わないけど」 京太郎「そこは否定してくださいよ…」 京太郎「…」ゴク 京太郎「……ってアレ、普通に美味しい」 久「えー…本当に?」 京太郎「いや、マジですって」 京太郎「黒糖の甘みとミカンの風味が絶妙にマッチしてます」 京太郎「少なくとも思ってたより全然、美味しいです」 久「むー…それだったらあげなきゃ良かったわ」 京太郎「へへ、ゴチになりまーす」グビ 京太郎「…あ、そうだ」 久「ん?どうかした?」 京太郎「いや、これ思ってたのよりもずっとヌルかったんですけど…」 久「ふぇ…っ」カァァ 久「ち、違うわよ!?」 久「わ、私は別に落ち込んでる京太郎くんを見かけて、ここまで追いかけてきて…」 久「なんて声をかければ良いかわからなかったからずっと入り口で立ち尽くしてたなんて事してないから!!」 京太郎「そ、そうなんですか」 久「そ、そうよ!そんなストーカーみたいな事するはずないじゃない!!」 久「今の時代、そんな真似したら即お縄なんだからね!!」 久「…だ、だから、京太郎君もあんまりそういうのを気にしないように」 京太郎「…それ部長命令ですか?」 久「…いぢわる」ムスー 京太郎「いやぁ、だって、普段から部長には色々と悪戯されてますし」 久「可愛い先輩の素敵な愛情表現なのに…」 久「…あ、い、いや、愛情って言っても、別に変な意味がある訳じゃ…」ワタワタ 京太郎「大丈夫です。分かってますから」 久「…そ、そう」シュン 久「(…分かってくれても良いんだけどな)」 久「(私…結構、君の事好きなんだからね)」 久「(皆は君の事、遊んでそうだとか…ビッチっぽいとか言うけれど…私はそうは思わない)」 久「(何時だってひたむきに頑張って…私達の事を支えてくれてる良い子だって分かってる)」 久「(…だからこそ、あの咲が懐いて…和も京太郎君の事を意識してるんだろうし…)」 久「(きっと他にも京太郎君の事が好きな子がいるはず)」 久「(……でも、まだ好きだなんて言えない)」 久「(本当は他の子に負けない為にも…すぐに告白したいけど…)」 久「(でも、私達はもうすぐインターハイなんだから)」 久「(ここで下手に告白して…恋人になんてなってしまったら…私、きっと止まらない)」 久「(京太郎君の事を一杯一杯可愛がって麻雀の事が疎かになってしまうわ)」 久「(…だから、今はお預け)」 久「(インターハイが終わるまで…ううん、インターハイでいい結果を出せるまで)」 久「(…京太郎君の事は我慢しなきゃ…ね)」 久「(………………でも)」 久「…で、何があったの?」 京太郎「え?」 久「少しは気晴らしになったでしょうけど…まだ顔は暗いままよ?」 久「折角だから、抱えてるものを全部吐き出しちゃいなさいよ」 久「ここは今、私と君の二人っきりだし…誰にも漏らしたりしないから」 京太郎「…………じゃあ、一つ聞かせて貰って良いですか?」 久「えぇ」 京太郎「…もし、自分が世界を変える力を手に入れたとして」 京太郎「それを意図しない風に使ってしまったらどうすれば良いですか?」 久「(…なにそれ厨二…なんて言えないわよね)」 久「(京太郎君の顔、やたらと真剣なんだもの)」 久「(事の真偽はさておき、彼がそれに悩んでいるのは確かなんでしょう)」 久「(…だったら…)」 久「…その力は一体、どういうものなの?」 京太郎「えっと…すみません。良く分からないんです」 京太郎「でも…恐らくある程度は世界を自分の好きに出来るかかと…」 久「ふーん……なら、私のオススメはそれを封印する事かしら」 京太郎「封印…ですか?」 久「えぇ。だって、そんなもの本当にあったら危ないでしょ?」 久「そりゃ良い事に使えば凄いだろうけど…でも、それは意図しないように働いてしまった訳で」 久「そんなもの危なっかしくて放置なんて出来ないわよ」 久「だから、また悪さをする前に、それを二度と使えないように封印する」 久「世界を好きに出来るなら、それくらいは可能でしょうしね」 京太郎「なるほど…」 京太郎「(…封印、か)」 京太郎「(確かにそうだな)」 京太郎「(…アレはあまりにも危険過ぎる)」 京太郎「(善悪の区別もなく、またルールを曲解して適用してしまうんだから)」 京太郎「(どれだけ使用者に善意しかなくても、使う度に世界が滅茶苦茶になってしまう)」 京太郎「(そんなものが誰かの手に渡って悪用されてしまう可能性を考えれば、封印してしまった方が良いのかもしれない)」 久「…でもね、京太郎君、先輩として一つ忠告しておいてあげるけど」 京太郎「…はい?」 久「幾ら高校に入ったばかりとは言え、中二病はもう卒業した方が良いと思うの…」 久「じゃないと後で思い返して大変な事になってしまうわ」 京太郎「ちょ、違っ!?」 久「大丈夫よ。私は分かってるから」 久「…ちょっと君に甘えすぎてしまったのね」 久「今日は部活を休んで、一緒に気晴らしにでも行きましょう?」 京太郎「い、いや、気晴らしは嬉しいですけど、なんか勘違いしてないですか!?」 久「大丈夫よ。私は良いお医者さんも知っているから」 久「きっとその病も治してくれるわ」ナマアタタカイメ 京太郎「だから、違うんですってば…!!」 久「(分かってるわよ)」 久「(京太郎くんが中二病なんかじゃないって事)」 久「(実際、世の中にはオカルトと呼ばれる力があるのは事実なんだしね)」 久「(荒唐無稽な話ではあるけれど、絶対にないとは言い切れないわ)」 久「(でも、ここは心の病気だって風にしておいた方が良いでしょう)」 久「(本当に京太郎君がそんな力を持っているのであれば、それこそ世界中から狙われる事になるでしょうし…)」 久「(自分の持つ力に対して、本気で悩んでた彼にとってそれはあまりにも辛い事)」 久「(…………ただ、まぁ)」 久「(役得として…気晴らしデートの約束を取り付けるくらいは良いわよね)」 久「(今は忙しいけれど…でも、インハイが終われば、私もノンビリ出来るようになるし)」 久「(それをモチベーションの糧に出来れば、きっと良い成績も残せるはず)」 久「(だから…)」 久「とりあえず休み明けに予約をとっておくから予定を開けておいてね」ニッコリ まこ「…なーにをやっとるんじゃ」 久「あら、まこ。どうしたの?」 まこ「どうしたの…?じゃありゃせんわ」 まこ「おんし、さっき副会長が探しとったぞ」 まこ「今日は昼休みに仕事進める予定だったんじゃろ?」 久「あっ…」 まこ「…まったく、おんしは京太郎が絡むと即座にダメになるの」 久「ち、ちちちちち違うわよ」 久「全然、ダメじゃないですー!」 久「何時も変わらず素敵でキュートな竹井久ですー!」 まこ「はいはい。分かったから早く行ったり」 まこ「おんしがおらんと色々と書類進まん言うて参っとったしな」 久「うぅぅ…行ってきまーす…」トボトボ まこ「ふぅ…まったくもう」 京太郎「はは」 まこ「ん?どうしたんじゃ?」 京太郎「いや、染谷先輩って部長のお母さんみたいだなって」 まこ「…そこまで老けとりゃせんわ」 京太郎「あ、いや、ごめんなさい。そういう意味じゃなくって…」 まこ「ふふ。分かっとるよ」クス まこ「まぁ、久はやるときはやる女じゃが、それ以外はまったくダメじゃからなぁ」 京太郎「うーん…俺はあんまりそういうイメージないんですけど」 まこ「京太郎の前じゃと普段以上に気を張ってるからじゃろ」 京太郎「あー…俺ってそんな信用ないですかね?」 まこ「逆じゃ逆」 まこ「心から信頼しとるからええとこ見せたいんじゃろ」 まこ「特にええ男の前では余計に…な」ニコ 京太郎「い、良い男だなんて…」テレッ まこ「ふふ。まぁ…アレはアレで結構、難儀な奴じゃけぇね」 まこ「出来るだけ京太郎にも支えてやって欲しいわ」 京太郎「…えぇ。勿論です」 京太郎「俺に出来る事なんて大したもんじゃないですけれど…」 京太郎「でも、俺だって、部長に色々と助けられていますから」 まこ「ん。それならええんじゃ」 まこ「…しかし、二人はどうしてここに?」 京太郎「いやぁ…ちょっと俺が一人になりたくて屋上に…」 まこ「…あぁ、なるほど。それで久が追いかけてきたっちゅう訳か」 京太郎「分かるんですか?」 まこ「これでも久とは一年以上の付き合いじゃけぇ、大体の行動パターンは読めとるよ」クス まこ「ま、何があったのかまでは深くは踏み込まん」 まこ「でも、これでもウチは京太郎の先輩じゃけぇ」 まこ「もし、悩み事があるなら、何時でも相談してくれて構わんよ」 京太郎「いえ、大丈夫です」 京太郎「部長のお陰で、大分、気持ちも楽になりましたから」 京太郎「そのお気持ちだけで十分です」ペコ まこ「そっか。あのヘタレが頑張ったか…」 京太郎「え?」 まこ「いや、何でもない」 まこ「まぁ、気持ちが軽くなったんなら、そろそろ食堂に行ったらどうじゃ?」 まこ「まだ休み時間が終わるって訳じゃないとは言え、ゆっくり食事が出来る時間でもなくなってきとーよ?」 京太郎「え…!?ってマジだ…!?」ビックリ まこ「(ふふ。そん様子じゃとよっぽど久と楽しくしとったんじゃな)」 まこ「(これは後で久の奴に謝らんといけんかもしれんね) 京太郎「…ちなみに食堂の様子はどうでした?」 まこ「んー…外からしか見とらんけぇ、うろ覚えじゃけど…」 まこ「今日は結構、空いてたし、ランチも幾つか残っとると思う」 京太郎「ですか。じゃあ、その残りが売り切れないうちに俺も食堂に行って来ます!」 まこ「ん。でも、下手に急いで怪我とかしたりせえへんようにな」 まこ「京太郎が怪我すると皆、心配するけぇね」 京太郎「分かってます。では…!」タッタッタ まこ「まったく…焦るなっちゅうとろうに…」 まこ「…弟のいる姉の心境って言うのはこういうもんなんかもしれへんな」クス 京太郎「(…と急いでやってきたものの…だ)」 京太郎「(流石にスタートで出遅れまくったら、選べるものなんて少ないよな)」 京太郎「(まさかこの俺がTランチ…通称タコスセットを食う事になろうとは…!)」 京太郎「(いや、まぁ、実際、あの優希が認めるくらいだから美味しくはあるんだけど…)」 優希「…ハッ!タコスの匂い…!」ヒョコ 京太郎「出やがったな、妖怪タコス置いてけ」 優希「なぁ、お前、タコスだろ!なぁ、タコスだろお前!!タコス置いてけ!!」 京太郎「誰がやるか!」 京太郎「(…コイツが湧くんだよなぁ)」 京太郎「(いや、まぁ、仮にも女の子相手に湧くなんて失礼な扱いだと思うんだけど)」 京太郎「(さっきまで気配がなかったはずなのに、俺のすぐとなりにいるんだから)」 京太郎「(割りとマジで湧いたとしか思えない光景だ)」 優希「えー…京太郎はケチだじぇ」 京太郎「ケチで結構」 京太郎「これは俺がやっとの思いで手に入れた昼食なんだ」 京太郎「妖怪タコス置いてけになんてやれるか」 優希「私の方がもっとタコスを上手く使えるのに…」 京太郎「タコスを上手く使えるってなんなんだ…」 優希「ふっ…タコス・ソウルを持たぬ者には分かるまい」 京太郎「…で、格好つけてるけど、良いのか?」 優希「ん?何がだ?」キョトン 京太郎「いや、お前、友達とかと一緒に食堂に来てるんじゃないのか?」 優希「んや、今日は一人の気分だったしな!」 優希「それにのどちゃんが咲ちゃんとイチャイチャしたいって言ってたし、お邪魔しちゃ悪いかなって」 京太郎「…あの二人、そういう関係なのか?」ドキドキ 優希「な訳ないだろ、この変態」ニッコリ 京太郎「ですよねー」 優希「まったく、そういうのは本の中だけのものなんだから本気にしないで欲しいじぇ」 優希「京太郎みたいなのがいるから漫画とかの規制が激しくなるんだ」 優希「私が読んでる漫画が完全に履いてないなのが治ったら、京太郎の所為だからな!」 京太郎「知らねぇよ」 京太郎「つーか、それは治すべきだろ、色々と」 優希「いやぁ…アレを治してしまったら日本の損失だじぇ」 優希「ギリギリに挑戦するあの姿勢には尊敬さえ覚えるレベルだからな」 京太郎「そういう漫画家の方が規制に一役買ってると思うんだがなぁ…」モグモグ 優希「ってああああああああ!!」 京太郎「ん?」 優希「わ、私のタコス~…」 京太郎「何時からお前のになったんだよ」 京太郎「俺はお前にやるだなんて一言も言ってねぇぞ」 優希「いや、京太郎は心の中では思ってるはずだ!!」 京太郎「お前はエスパーかよ」 優希「そしてお前の手に持っているそのタコスもまた私に食べられたがっている!!!!!」 優希「だから、京太郎は即刻、そのタコスを私に明け渡すべきだじぇ!!」 京太郎「代わりになる昼飯買ってきてくれたら別に良いぞ」 優希「…いや、今月はちょっと厳しいっていうか…」メソラシ 京太郎「またタコス食い過ぎたのか」 優希「ま、またってほど繰り返してないじぇ!」 京太郎「俺がお前と出会ってから毎月タコスの食い過ぎで金欠になってると思うんだが…」 優希「全ては秘書が一人でやった事です」キリッ 京太郎「お前の秘書は胃袋か何かなのか」 京太郎「つーか、ホント、自制を覚えろよ」 優希「善処します」キリリ 京太郎「まったく…」モグモグ 優希「……」ジィィ 京太郎「…そんなに見てもやらねぇぞ?」 優希「あ、ううん。そっちは冗談だったから別に良いんだけど…」 優希「…なんか京太郎がものを食べてるところってエロいって思って」 京太郎「…は?」 優希「い、いや、ご、ごめん!」 優希「な、ななな何でもないじぇ!」 優希「京太郎は気にせずタコスを食べてくれ!」 京太郎「いや、お前、そんなの聞かされて遠慮せず食べられるかよ」 優希「じゃあ、くれるのか!?」キラキラ 京太郎「…俺は今、意地でもタコスを食いきってやろうと心に決めた」モグモグ 優希「ぶー」 京太郎「ぶーじゃねぇよ」 京太郎「つーか、お前、もう昼飯にタコス食ったんだろ」 京太郎「これ以上食うと太るぞ」 優希「大丈夫!私のタコスは全て雀力に変換してるからな!!」 優希「どれだけ食べても脂肪にならないどころか、麻雀が強くなっていくんだじぇ!」ドヤァ 京太郎「…あぁ。だからか」ジィ 優希「ちょ…ば、馬鹿…!何処見てるんだじぇ!!」カァァ 京太郎「いや、まったく膨らみのない身体をな?」 優希「け、結構、気にしてる事を…!!」 優希「…と言うか、男がそういう事言うのやめた方が良いじぇ」 優希「ただでさえ京太郎はそういう風に見られがちなんだから」 京太郎「そういう風?」 優希「だから…その…無防備って言うか…エロいって言うか…」 優希「夜の街で遊んでそうって言うか…」 京太郎「…………は?」 優希「も、勿論、私は違うって分かってるじぇ!」 優希「京太郎は援交なんて出来る度胸なんてないもんな!」 京太郎「…安心して良いのか凹んで良いのか分かんないんだが」 優希「ま、まぁ、ともかくだ」 優希「援交やってる噂があるくらい注目されてるんだから、そういうのはもうちょっと控えろって事だじぇ」 京太郎「…あぁ、うん。気をつける」 京太郎「(…これってつまり俺の世界で言えば、派手めな女の子に援交やってるとかそういう噂が付き纏うようなものか)」 京太郎「(まったく根も葉もない噂ってだけでもキツイけど…自分が援交やってる扱いされるのも結構クるなぁ…)」 京太郎「(しかも、原因が見た目だから、ちょっとやそっとで噂がなくなったりしない)」 京太郎「(つーか、ここで下手にイメチェンなんかしたら余計に勢いが強まる可能性が高いだろう)」 京太郎「(だから、ここは優希の言うとおり、噂が沈静化するまで目立たず、大人しくしていた方が良い)」 京太郎「(…それは俺も分かってるんだけれど……)」 優希「…京太郎?」 京太郎「あぁ、悪ぃ」 優希「ううん。私は気にしてないじぇ」 優希「…ただ、そのタコス食べないなら私に…」 京太郎「…」パクッ 優希「あああああああっ!!」 ~部室~ 久「と言う訳で今日も部活を始めるわよ」バーン まこ「入って来て早々、何を言っとるんじゃ」 久「いやぁ…ちょっと改めて気合入れようと思ってね」チラッ 京太郎「?」 和「……まぁ、気合を入れてくれるのは喜ばしい事ではあるんですけれど」 優希「(なんとなく面白くなさそうなのどちゃん可愛い)」 咲「(多分、本能で京ちゃんと何かあった事を感じ取ってるんだろうなぁ)」 まこ「(よっぽどええ事があったんじゃなぁ…)」 まこ「(今日の帰りにでも何があったか聞いてみるか)」 京太郎「じゃあ、今日は俺、どうしましょう?」 京太郎「何か買いに行くものとかありますか?」 久「京太郎君はそういう事気にしなくても良いのよ」 咲「そうだよ。男の子なんだからゆっくりしてて」 京太郎「…あー…じゃあ、何か運んだりとか」 和「そういうのは女の子の仕事ですよ」 優希「京太郎がやるより私達がやった方が安全だじぇ」 京太郎「……えーっと、それじゃあ」 まこ「…まぁ、わしらの手助けがしたいっちゅうんじゃったらお茶くみとかでええじゃろ」 京太郎「…そんなので良いんですか?」 久「そんなのどころかそれが良いのよ」 咲「男の人が入れてくれたお茶ってだけでも何だか嬉しくなっちゃうしね」 優希「男の人が作るとタコスの味も何時もより良くなる気がするしな!」 和「…まぁ、メンタル面での影響は決して軽視出来るものではないですね」 京太郎「そ、そうなのか…」 久「さて、じゃあ、まず一年生から対局…と行きたいところなんだけれど」 久「その前に週末からの四校合宿の予定を確認しないとね」 咲「あぁ。もう場所とか決まったんですか?」 久「えぇ。バッチリよ」 久「ただ…京太郎君はその…」 京太郎「あー…女の子ばっかりですもんね」 久「えぇ。もし、京太郎君が襲われでもしたら責任取れないし…」 咲「(…と言うか、ひとつ屋根の下で数日過ごすとか私の方が襲っちゃいそう)」 和「(…湯上がり姿の須賀くんが見たかったんですが…)」 優希「(ぶっちゃけ、狼の群れの中に羊を放り込むようなものだからなぁ…)」 久「だから、悪いけれど、京太郎君はお留守番で良い?」 京太郎「えぇ。構いませんよ」 久「ありがとう。じゃあ、具体的な場所と時間の話を始めるわね」 京太郎「じゃあ、今日は俺、どうしましょう?」 京太郎「何か買いに行くものとかありますか?」 久「京太郎君はそういう事気にしなくても良いのよ」 咲「そうだよ。男の子なんだからゆっくりしてて」 京太郎「…あー…じゃあ、何か運んだりとか」 和「そういうのは女の子の仕事ですよ」 優希「京太郎がやるより私達がやった方が安全だじぇ」 京太郎「…いや、流石に俺の方が力が強いだろ」 久「まぁ、確かに私達は麻雀部であんまり運動が得意って訳じゃないけど」 優希「でも、どれだけ貧弱であっても男に負ける気はしないじぇ」フフーン 京太郎「これでも俺は元運動部なんだけどなぁ…」 和「…でしたら、腕相撲か何かで勝負してみればどうですか?」 和「それならどちらの力が強いかハッキリするでしょう」 京太郎「確かにな。…それじゃあ」 京太郎「じゃあ、和、頼む」 和「私ですか?」 京太郎「あぁ。この中じゃ和が一番、運動音痴っぽいし」 京太郎「(それに合法的に和と握手出来るのも役得だしな)」デヘヘ 久「…」ムー まこ「どうどう」 和「…思いっきり不本意ではありますが勝負を挑まれたのは事実です」 和「真正面からお受けする事で、その疑惑を晴らしましょう」 優希「と言う訳で机持ってきたじぇー」ガタンガタン 京太郎「よし。それじゃあ…和」ガシッ 和「…えぇ」ガシ 咲「それじゃあ…はじめー!」 京太郎「よいしょ…!!」グッ 和「…えい」グイ 京太郎「ほわあっ!?」ビタン 京太郎「…え?…………え?」 和「私の勝ちですね」ホコラシゲ 京太郎「ま、待って!もう一回!ワンモアプリーズ!!」 京太郎「い、今のは準備運動!ウォーミングアップだったから!!」 和「私は構いませんが…しかし、結果は変わらないと思いますよ?」 京太郎「それでも男の子には意地があるんだよ…!!」 咲「…男の子の意地って言っても…ねぇ」 優希「力じゃ男が女に勝てないのなんて今更、話し合う事でもないし…」 京太郎「…くっ!」 和「…まぁ、私は大丈夫ですから、気が済むまで勝負しましょう」 京太郎「…頼む。それじゃあ」ガシ 和「はい。何時でもどうぞ」グッ 京太郎「ふん!ぬぬぬぬぬぬ…!!!」グググ 和「…………」 和「(…須賀君、必死になってますね)」 和「(どうしてかは分かりませんが、よっぽど私に腕相撲で勝ちたいんでしょう)」 和「(…しかし、その力は悲しいくらいに弱々しいです)」 和「(勿論、須賀くんは男性の中では力が強い方なのかもしれませんが…)」 和「(だからと言って、それは女性の私に届くほどではありません)」 和「(実際、こんなに必死になって彼は力を込めていますが…私の腕は微動だにしなくて…)」 和「(流石にまた負けさせるのも可哀想ですし、早めに諦めてくれれば良いんですけれど)」 和「(……にしても)」ジィ 京太郎「ぐぬ…うぉおおおお!」 和「(…必死な須賀くんの顔ってちょっぴり可愛い…ですね)」 和「(元々、麻雀部にいるのが信じられないくらい顔が整ってますけれど…)」 和「(こうして間近で…しかも、必死なところを見ると余計にそれが際立って…)」 和「(…朝よりもドキドキが強くなっちゃいます)」 和「(須賀くんの顔からも目が離せなくなって私…)」 京太郎「ぜー…はー…」 和「…あの、大丈夫ですか?」 京太郎「…あぁ。大丈夫だ」 京太郎「ごめんな、和。長々と付きあわせて」 和「…いえ、私は構いませんよ」 京太郎「でも、ずっと俺と手を握ってた訳だし…」 和「気にしないでください」 和「私としても役得だったので」 京太郎「…役得?」キョトン 和「あ、えっと、その…」カァァ 久「はいはい!次、私!私ね!!」ハーイ まこ「阿呆。うちは麻雀部じゃ」 まこ「腕相撲の決着はついたんじゃから、麻雀するぞ」 久「…はーい」ショボン ~自室~ 京太郎「はー…」 京太郎「(…しかし、ショックだな)」 京太郎「(いや…まぁ、合宿に俺が参加出来ないのは最初から予想してたし仕方がないとは言え…)」 京太郎「(よもや和相手に腕相撲で負けてしまうとは…)」 京太郎「(実際…俺の力が弱くなってる訳じゃない)」 京太郎「(普段通り、ものは持ち上げられる)」 京太郎「(…ただ、それ以上に和達の力が強くなってるだけで…)」 京太郎「(…これじゃ本当に女の子に襲われるかも…って咲達の話を笑えないよな)」フゥ 京太郎「(…まぁ、俺にとって一番笑えないのは)」チラッ 石版「」ゴゴゴゴゴ 京太郎「(コイツが本物だって事だ)」 京太郎「(…この一日で十分過ぎるほど理解した)」 京太郎「(コイツは本物で…そして決して放置してはいけないものなんだって事を)」 京太郎「(だから、これは部長の言う通り、真っ先に封印するべきなんだ)」 京太郎「(…じゃなきゃ、俺はきっとコイツを悪用してしまう)」 京太郎「(俺だって別に聖人って訳じゃないんだから)」 京太郎「(世界のすべてを思い通りに出来る石版なんて手に入れたら…そりゃ悪い事の一つや2つ思い浮かんでしまう)」 京太郎「(一生遊んで暮らせるほどの大金が欲しいとか和みたいなおっぱい美少女から好かれるとかさ)」 京太郎「(それをずっと堪え続ける事なんて多分、出来ない)」 京太郎「(だから、もしかしたら良い風に使えるかもしれないなんて…そんな事すら考えるべきじゃないだろう)」 京太郎「(俺の決意が硬いうちに封印してこの存在を忘れてしまうべきだ)」 京太郎「(……ただ)」 京太郎「(…その前に俺にはやる事がある)」 京太郎「(この石版でおかしくなった世界を元に戻すって言うルール)」 京太郎「(それを書き込む前に封印しちゃいけない)」 京太郎「(たった一日でもう何度もめまいを覚えるほど、今の世界は滅茶苦茶なんだから)」 京太郎「(そんな世界にしてしまった責任は取らなきゃいけないだろう)」 京太郎「(だから…)」キュポ キュッキュ 【女が男に対して積極的になりますようにというルールを無効にする】 京太郎「(これできっと世界は元通りに…)」 【error】 京太郎「…はい?」 【一度、書き込んだ内容は無効に出来ません】 京太郎「……なん…だと…?」 京太郎「(…俺が書き込んだ文字が消えて、いきなり文字が石版の表面に浮かんできたとかはどうでも良い)」 京太郎「(それよりももっと大事なのは…一度、書き込んだ内容は無効に出来ないって事で…)」 京太郎「(…つまり俺はこの世界を元に戻す事なんて不可能なのか…?)」 京太郎「(…いや、諦めるな…!!)」グッ 京太郎「(こういうものは…必ず抜け道があるはずだ…!!)」 京太郎「(考えろ…考えろ考えろ考えろ…!!)」 京太郎「(じゃないと…俺は…!!!)」 一「うー…」 一「(…ちょっと失敗だったかなぁ…)」 一「(朝は別に体調が悪いって言うほどじゃなかったんだけど…)」 一「(今になって結構、フラフラしてる…)」 一「(やっぱり徹夜で美金髪フォルダの整理って言うのは無謀だったかなぁ…)」 一「(いや、でも、もうすぐインハイで、全国の美金髪とまた出会えるし…)」 一「(フォルダが未整理なままだとデータの管理も大変になる一方なんだから)」 一「(今日纏めてやったのは失敗だったかもしれないけれど…)」 一「(ボクはまったく後悔していない)」キリリ 一「(……ただ、まぁ、今日は何時もより日差しがキツくて…)」ジリリリ 一「(寝不足の身体には結構、クるなぁ…)」 一「(しかも、今日に限って、やたらと用事が多いし…)」 一「(もう身体中汗だくで気持ち悪いくら…)」フラァ 一「あ…」 京太郎「大丈夫ですか?」ガシ 一「…え?」 一「(だ、誰、この人…)」 一「(いや、そんな事は重要じゃない)」 一「(すごい…見事な金髪…)」 一「(透華や福路さんにも負けないくらいキラキラと輝いてる…)」 一「(男の人でこんなに綺麗な金髪をしている人を…ボク初めて見た…)」 京太郎「…あの」 一「あ、え、えっと…っ」ワタワタ 一「(って、そんな事考えてる場合じゃなかった…!?)」 一「(ボクは今、この人に倒れそうになったところを支えてもらってるんだから)」 一「(幾ら何でも汗だくのまま支え続けるのは大変だろうし、離れないと…)」 一「だ、だいじょ…」フラァ 一「…あう」 京太郎「…多分、完全に日射病ですね」 京太郎「無理しないでください」 一「…ごめんなさい」ショボン 京太郎「いえ、謝らないで下さい」 一「でも…服が汚れて」 京太郎「気にし過ぎですって」 京太郎「どのみち、制服ですし、家に戻れば洗うつもりでしたから」 一「(…あ、そう言えば、この人…清澄の制服着てる…)」 一「(…もしかして学校帰りか何かなのかな…?)」 京太郎「それより一人で立てないのは結構、深刻です」 京太郎「出来れば涼しいところで休んだほうが良いと思うんでそこの木陰にあるベンチに運んでも良いですか?」 一「は、はい…お願いします」カァァ 一「(うぅぅ…恥ずかしい…)」 一「(まさか男の子に自分の身体を運んでもらう事になるなんて…)」 一「(でも…)」ジィ 京太郎「よいしょっと…」 一「(…本当に綺麗だ)」 一「(髪だけじゃなくて顔も…)」 一「(キラキラと輝いてて…目が奪われちゃうみたい…)」 京太郎「じゃあ、そのまま横になっててください」 京太郎「俺、ちょっと体冷やす用の飲み物買ってきますから」 一「い、いや、でも…」 京太郎「困ったときはお互い様って奴ですよ」 京太郎「今の貴女は動けないですし、気にしないでください」 一「…ほ、本当にごめんなさい…」 一「(…しかも、顔や髪だけじゃなくて心まで綺麗だなんて…)」 一「(こんなのもう天使としか表現しようがないじゃないか…)」 一「(まさかメイドの仕事で外に出てる時にあんな素晴らしい人に会えるなんて…)」 一「(日射病独特の気持ち悪さも気にならないくらいに役得だったかも…)」 京太郎「お待たせしました」 一「あ…天使さん…」 京太郎「…天使?」 一「あ、い、いや、その…」カァァ 京太郎「はは。俺は天使なんかじゃないですよ」 京太郎「…寧ろ、どっちかって言うと悪魔って言われてもおかしくない側で」 一「え…?」 京太郎「…い、いや、何でもないです」 京太郎「それよりほら、スポーツ飲料買ってきたんで少しずつ飲んで下さい」 京太郎「一気に飲むと大変なんで一口ずつちびちび飲むのが良いと思います」 一「…ありがとうございます」 京太郎「いえいえ。後は…まぁ、大分、涼しい格好はされてるみたいですし」 京太郎「楽な姿勢のままそれ飲んでて下さい」 京太郎「俺はその間、団扇で仰いでますんで」パタパタ 一「(…あぁ、涼しい…)」 一「(金髪の天使さんにここまで尽くされるなんて…まるで天国みたいだ…)」 一「(…と言うか、これ夢じゃないよね?)」 一「(夢だったら嬉しいけど…でも、それ以上に嬉しくないって言うか…)」コクコク 京太郎「他に何かして欲しい事はないですか?」 京太郎「態勢を変えるのも今は一苦労でしょうし何でもお手伝いしますよ 一「(な、何でも…!?)」ゴクッ 一「(そ、それってもしかして…アレやこれもオッケーって事……!?)」ドキドキ 一「(い、いや、落ち着くんだ、国広一)」 一「(確かに見た目はビッチっぽいけど、この人がとても良い人なのはこれまでで分かっているし…)」 一「(そういう意図はまったくない………はず、だと思う多分)」 一「(だから、ここは落ち着いて…)」 一「…じゃあ、膝枕…」 京太郎「え?」 一「(ってボクは何を言ってるんだ…!?)」 一「(こんな汗だくなボクを膝枕させたらこの人の服がさらに汚れちゃうって言うのに…)」 一「(っと言うか、初対面の女の子に膝枕要求されたら普通に事案発生だよ!?)」 一「(即座に通報されても文句言えないレベルなのに…あぁぁああもう…ボクの馬鹿!!馬鹿あああ!!)」 京太郎「膝枕ですか?俺は構いませんけど…」 一「…え?」 京太郎「でも、俺なんかの膝枕で良いんですか?」 一「い、良いんです!最高です!!!」グッ 一「…あ」クラァ 京太郎「…って大丈夫ですか?」パタパタ 一「…ごめんなさい」 京太郎「もう。そんなに謝らなくても大丈夫ですよ」 京太郎「俺なんかの膝枕をそんなに欲しがって貰えて嬉しかったですし」 一「そ、それって…」ドキッ 一「(も、もしかして…俗に言うチョロインって奴…なの?)」 一「(ボクの世話をしてる間に堕ちちゃったとか…!?)」 一「(…………うん。流石にそれはないよね)」 一「(幾ら最近の漫画でも、そこまで突飛な展開はありえないでしょ)」 一「(Toloveるの男ヒロインだってここまでチョロくはないと思う)」 京太郎「じゃあ、ちょっと失礼しますね」 一「ん…」 京太郎「どうですか?」 一「…す、すっごく…良い…です…」ウットリ 一「(あぁぁぁ…念願の金髪美男子の膝枕あああああ!)」 一「(…ボクは今日の事を絶対に忘れないと思う)」 一「(ただ、夢が叶ってるだけじゃなくて…)」 一「(こうしてボクを見下ろすこの人の目は…とても優しいんだから)」 一「(いっそお父さんみたいなその目が…ボクにはとても心地良い)」 一「(膝枕の適度な硬さも相まって…このまま眠っちゃいそうなくらいだ…)」 一「(でも…ここで眠ってしまったらこの人に迷惑を掛けてしまうし…)」 一「(何より、そんな風に眠っている時間さえもボクにとっては勿体無い)」 一「(こういう機会なんてもうあり得ないかもしれないんだから…精一杯、堪能しないと…)」デヘヘ ~数十分後~ 一「…ふぅ」 京太郎「どうですか?」 一「…はい。大分、マシになりました」 京太郎「そうですか。それなら良かったです」ニッコリ 一「…はい。それで…あの、本当にありがとうございました」ペコリ 一「出来れば、お礼もしたいんですが…今はちょっと急ぎの用事もありまして」 京太郎「いえいえ。気にしないでください」 一「き、気にします!」 京太郎「え?」 一「あ、いや、その…」 一「(…こ、ここで縁が切れるのが絶対に嫌だったからなんて言えない…!!)」 一「と、ともかく…これ服のクリーニング代と飲み物代です」 一「それと…出来れば後日、改めてお礼がしたいので連絡先なんかを…」カァァ 京太郎「えぇ。構いませんよ」 一「っ!」パァァ 一「じゃ、じゃあ、赤外線通信で…!」シュバ 京太郎「はい。こっちはオッケーです」ポチポチ 一「それじゃあ…」ポチポチ 一「…………ってアレ?」 京太郎「どうかしました?」 一「…須賀京太郎…さん?」 一「(どこかで聞いた記憶があるような…)」 一「(…まさかこれは運命…!?前世からのアレコレだったり…!!?)」 京太郎「あ、自己紹介してなかったですね」 京太郎「清澄一年、麻雀部の須賀京太郎です」ニコ 一「(ですよねー…)」 一「…あ、ボク、龍門渕の国広一です」 京太郎「はい。存じあげております」クス 一「っ」ドキーン 一「(あぁぁ…もう冗談っぽく笑うところも可愛いよおおお!!)」 一「(っていうか…清澄って何時もこんな美男子と一緒にいるの?)」 一「(地味な…ってかあんまり日が当たる事のない麻雀部なのに?)」 一「(…正直、嫉妬が抑えられない…)」 一「(毎日、この金髪天使さんに…須賀くんに尽くされてるんだろうなぁ…)」 一「(…ボクも清澄の子になりたい…)」 京太郎「って時間、大丈夫ですか?」 一「ってあわわ…ちょっとまずいかも…っ」 京太郎「引き止めてごめんなさい」ペコリ 一「い、いえ、ぜんぜん大丈夫です!!」 一「そ、それよりまた後でLINEとかも送るので…」 京太郎「はい。お待ちしてます」 一「~~っ!」パァァ 一「じゃ、じゃあ、あの…また!」 一「また必ずお会いしましょうね!!」タッタッタ 京太郎「(ふぅ。まぁ…アレだけ国広さんが気合を入れてる理由は良く分からないけれども…)」 京太郎「(とりあえず国広さんが無事に回復してよかった)」 京太郎「(自分で立つ事も出来ないレベルってかなり深刻だからなぁ)」 京太郎「(アレから少しでも悪化する気配があったらすぐさま救急車を呼ばなきゃいけなかっただろうし…)」 京太郎「(そんな大事にならずに一安心…なんだけれど)」 モモ「…」ジィィィィ 京太郎「えーっと…モモ?」 モモ「…」ツーン 京太郎「(…なんでいるんだ、とかはもう愚問だよな)」 京太郎「(中学でハンドやってた時に、迷子になってたコイツを見つけて…)」 京太郎「(それから何が気に入ったのか、たまにストーキングされてるんだから)」 京太郎「(まぁ、ストーキングって言っても、適当に後をついてくる程度だし)」 京太郎「(何より、俺とモモは友人で、多少、こうしてストーキングされても気にしないんだけれど…)」 京太郎「(…いるならいるって言ってくれれば良いのになぁ)」 京太郎「(まぁ…俺はおっぱいの大きい美少女を見過ごす訳がないし…実際、ある程度、位置も分かるんだけれど…)」 京太郎「(こうして友達に無言で後をついて回られるとちょっと勿体無いっていうか)」 京太郎「どうせなら横に来れば良いのに」 モモ「っ」カァァァ 京太郎「…あ、悪い」 モモ「ふ、ふーんだ。そんな手には騙されないっすよ」 モモ「京さんがあの手この手で女の子を誑かしてる悪男だって私はもう知ってるッスから!」 モモ「そうやって私の事を褒めるのも、私から敦賀の情報を聞き出す為なんでしょう!?」 京太郎「なーんで、そんな疑心暗鬼な性格に育っちゃったかなぁ…」 京太郎「昔…つっても一年前だけど、もっと素直だったのにさ」 モモ「だ…だって…」 モモ「(…だって、私ッスよ?)」 モモ「(京さんとは違って…地味過ぎて見つけられる人の方が少ない私が…)」 モモ「(京さんにそんな優しい事言われるなんて絶対におかしいッス)」 モモ「(だから…きっと京さんは私の事、利用して、敦賀の情報を聞き出そうとしてるに決まってる…)」 モモ「(…そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃ…ダメなんッスよ)」 モモ「(そうやって心に予防線張らなきゃ…私、きっと京さんに依存しちゃう)」 モモ「(ううん…もう既に依存しちゃってるッスよ)」 モモ「(京さんに近づいたらダメだって分かってるのに…)」 モモ「(遠くから見てるだけでも…好きな気持が強くなっちゃうの知ってるのに…)」 モモ「(私…もう京さんのストーキングを止められないんですから)」 モモ「(こんな私が京さんに選ばえるはずないって分かってるのに…ずっと追い回して…)」 モモ「(そんなの…気持ち悪いだけッス)」 モモ「(どれだけ優しい京さんにだって…きっと心の中では嫌われてる…)」 モモ「(だから…私は…ダメな理由を沢山作らなきゃいけない…)」 モモ「(本当のストーカーになる前に…自分を抑えなきゃ…)」グッ 京太郎「…ま、いいや」 京太郎「こうして折角、俺の前に出てきたんだし、久しぶりに話そうぜ」 モモ「え…?」 京太郎「牛丼くらいだったら奢ってやるよ」ニコ モモ「…またそんな色気のない食べ物を」 京太郎「でも、モモも好きだろ?」 モモ「(…分かってないっすね、京さんは)」 モモ「(私が牛丼が好きなのは、京さんの所為なんッスよ)」 モモ「(あの日…迷子になった私を牛丼屋に連れて来てくれたから)」 モモ「(泣きじゃくる私の為に…京さんが牛丼を奢ってくれたから)」 モモ「(だから…別に牛丼なんてそんなに好きじゃないんっすよ)」 モモ「(それでもこうして好きになっちゃったのは…それだけ私が京さんに心奪われてしまってる証で…)」 京太郎「あ、それともハンバーガーとかの方が良いか?」 モモ「…京さんは」 京太郎「ん?」 モモ「…京さんはどうしてそんなに構ってくれるッスか?」 京太郎「…そんなに疑問か?」 モモ「…だって、変じゃないッスか」 モモ「私…今日も京さんの事付け回してたッスよ」 モモ「京さんが学校出てから…今の今までずっと」 京太郎「まぁ…うん。俺もそれは知ってたけど」 モモ「…なんで、それで通報しないッスか?」 京太郎「え…だって、モモ可愛いし」 モモ「…は?」 京太郎「いや、だってさ、冷静に考えてくれよ」 京太郎「おっぱい大きくて、何処か犬っぽくて、努力家で」 モモ「は、はわわ…」カァァァ 京太郎「おっぱい大きくて、照れ屋で、あんまり自分に自信が持てなくて…」 京太郎「何より…可愛い女の子が俺に興味持ってくれてるんだぞ」 モモ「か、かわ…っ」マッカ 京太郎「それで通報なんてできるはずないだろ」 京太郎「俺はそもそもモモの事を悪く思ってないんだし」 京太郎「まぁ…さっきも言ったけど、出来れば隣に来て欲しいけどさ」 モモ「そ、それは…」 京太郎「でも、それは無理なんだろ?」 京太郎「それくらい俺にだって分かってる」 京太郎「…だから、俺はまつよ」 モモ「え…?」 京太郎「モモが笑顔で俺の隣に来てくれるまでずっと待ってる」 京太郎「お前が自信を持って俺と一緒に歩けるまでずっとずっとな」 京太郎「だから、俺は通報なんてしないし、こうして出てきてくれたら遊びにだって誘う」 モモ「……京…さん…っ」 モモ「(だ…ダメ…っすよ…そんな事言ったら…)」 モモ「(私…誤解…しちゃうっす)」 モモ「(京さんもまた…私の事好きなんだって…) モモ「(私の事を想ってくれるんだって…そう想って…)」キュン モモ「(好きが…暴走…しちゃうッス…)」 モモ「(京さんの何もかもを…欲しく…なっちゃうぅ…)」ギュゥ 京太郎「…友達ってそういうもんだろ?」 モモ「……」 京太郎「アレ?」 モモ「…はぁあああああ」 京太郎「…アレ、そんなにダメだった?」 モモ「…いや、ダメじゃなかったッスよ」 モモ「(…ただ、私にとって最後の一言はいらなかったってだけで)」 モモ「(まぁ…おかげで正気に戻れたッスけどね)」 モモ「(あのままだったら多分、本気でストーカー化してたでしょうし…)」 京太郎「…なんかごめんな」 モモ「良いっすよ。京さんが何処か抜けてるのはもう分かってるッスから」 京太郎「ぐふ」 モモ「…まぁ、でも…お詫びくらいは期待して良いっすよね?」チラッ 京太郎「ん?そんなに牛丼食べたいのか?」 モモ「牛丼から離れて下さいッス」 京太郎「じゃあ、牛丼いらないのか?」 モモ「……いや、食べたいッスけど、好きですけどね、牛丼」 京太郎「じゃあ、早速、食べに行こうぜ」 モモ「…本当にもう」 モモ「京さんって時々、ビックリするくらい強引ッスよね」 京太郎「モモみたいな引っ込み思案タイプはゴリゴリ行ったほうが良いって経験上分かってるからな」 京太郎「まぁ、本気で嫌だったらやめるけど」 モモ「…………い、嫌とまでは言ってないじゃないッスか」 京太郎「じゃあ、嬉しい?」 モモ「もぉ…本当に意地悪ッスよね、京さんは」 京太郎「…そう言いながらも嬉しそうな顔をしてるよな」 モモ「し、してないっすよ、全然!!」ブンブン モモ「(……でも、こうやって京さんと一緒に並んで歩くのも久しぶりっすよね)」 モモ「(高校にあがってからはお互いに色々と忙しかったッスし…)」 モモ「(それに私が色々と理由をつけて京さんの前に出るのを避けてたッスから)」 モモ「(…だから…なんでしょうね)」 モモ「(久しぶりに京さんと一緒に並んで歩く私の顔はずっと緩んだままで…)」 モモ「(…あぁ、本当に…悔しいッス)」 モモ「(ダメだって分かってるのに…京さんには勝てない)」 モモ「(敵なんだって…仲良くなっちゃダメなんだって…そう理由を作っても…)」 モモ「(京さんはあっさりそれを乗り越えて…私のココロに触れてくるッス)」 モモ「(おかげで私の心はもう…京さんナシじゃ生きていけなくなってしまって…)」 モモ「(…このままじゃ責任取って貰うしかなくなるッスよ?)」 モモ「(私みたいな重くて面倒くさい女が…京さんの事を諦められる訳ないんですから)」 モモ「(例え何年掛かっても京さんの隣に…京さんの恋人になりたいって…)」 モモ「(地味で臆病な私の心が…そう叫んでるッス)」 モモ「(…だから)」 モモ「…京さん?」 京太郎「ん?」 モモ「…本当に待っててくださいね」 モモ「約束ッスよ?」 京太郎「おう。約束だ」 モモ「(…こんなちっぽけな約束を結ぶくらいは許してくれるッスよね?)」 ~駅のホーム~ 数絵「(…はぁ、今日も疲れた)」 数絵「(ほぼ一人での自主練だから、別にいくらでも手をぬく事はできるのだけれど…)」 数絵「(でも、そうやって手を抜いた先にあるのは、侮辱と不名誉なのよね…)」 数絵「(お祖父様の麻雀が最強だと…そう証明する為にも、決して手を抜けない)」 数絵「(…でも、一人で頑張り続けるのって思ったよりも大変ね…)」 数絵「(せめてもう一人切磋琢磨できる相手がいれば違うのだろうけれど…)」 数絵「(でも、部活にそんなレベルの人はいないし…)」 数絵「(私自身、あんまり社交的な方でもなくって…)」 数絵「(ライバルといえるような関係を構築できるはずもなく…)」 数絵「(……ダメね、疲れすぎてる)」 数絵「(何時もならこんな弱音なんて出てこないはずなのに…)」 数絵「(最初のインハイが終わって、色々と弱気になっているのかしら…)」 京太郎「っと間に合ったみたいだぞ」 数絵「…?」 京太郎「悪かった、悪かったって」 京太郎「でも、久しぶりにモモと話せて楽しかったんだ」 京太郎「仕方ないだろ?」 数絵「(…何、あの人…)」 数絵「(さっきからずっと独り言言ってる…?)」 数絵「(今の時代、目立たないサイズのマイクとイヤホンが売ってるって聞くけれど…)」 数絵「(…多分、あの人はそうじゃない)」 数絵「(それなら視線はまっすぐ前を向いているだろうし…)」 数絵「(でも、あの人の目は横にいる『誰か』に向かっていて…)」 数絵「(ただ、そこには誰かがいるようには見えないのだけれど…)」 京太郎「ん?あぁ、俺の方は大丈夫」 京太郎「そもそも俺、男だからそれほど門限とか厳しくないし」 京太郎「あー…うん。逆だな、ごめん」 京太郎「まぁ、でも、あんまり門限厳しくないのは事実だから気にすんなって」ポンポン モモ「っ」カァァ 数絵「え…?」 数絵「(い、今、いきなり人が現れ…って言うか…えぇぇえ…!?)」 数絵「(あ、あの人…い、一体、何を考えているの?)」 数絵「(人前で女の子の頭を触るとか…ちょっとはしたなさ過ぎるんじゃないかしら…)」 数絵「(そんなの…人によってはいきなりレイプしちゃうほど過激なアピールなのに…)」 数絵「(実際…いきなり現れたあの女の子の方、顔真っ赤になってる)」 数絵「(まぁ…人前で男の子にあんな事されたら当然と言えば当然だけど…)」 数絵「(…でも、嫌そうじゃない…わよね)」 数絵「(やっぱりあの二人…『そういう関係』なのかしら)」 数絵「(…って事は…きっとあぁいう事もやっている…のよね)」 数絵「(実際、あの男の子も見た目そのものが淫乱そうだし…)」 数絵「(きっとあの男の子も、あの子を上に跨がらせて思いっきり腰を振らせて…)」 数絵「(…………嘆かわしい)」 数絵「(そもそもそういうのは婚姻を結んだ男女がする事なのに)」 数絵「(それを一時の相手でしかない恋人相手に気軽にやるなんて…)」 数絵「(…ドン引きよ)」 数絵「(…いえ、別に嫉妬とかじゃないけれど)」 数絵「(えぇ。私は今の生活に満足してるし…)」 数絵「(一人で頑張るのに疲れてきたけれど…あくまでそれだけだから)」 数絵「(まったく嫉妬なんて感情はないけれど…でも…)」 京太郎「つーか、俺としてはモモの方が心配だけどな」 京太郎「家まで送っていこうか?」 モモ「ふぇ…えぇぇ…っ」ドキーン 数絵「(……あんな風に人前でいちゃつかれると目に毒)」 数絵「(ただでさえ部活で疲れているのに…これ以上疲れたくはないし)」 数絵「(なんだか負けたみたいで腹が立つけれど、ちょっと移動しましょう)」イソイソ 京太郎「」イチャイチャ モモ「」キャッキャ 数絵「(…はぁ)」 数絵「(人前でいちゃつくカップルなんて全滅すれば良いのに)」 咲「んー…」ホクホク 咲「(えへへ、今日は大収穫だなぁ)」 咲「(お気に入りの作家さんの本だけ買うつもりだったのに…面白そうな本が沢山あったし)」 咲「(特に…某書院の本は期待大だなぁ)」 咲「(知らない作家さんだけど、軽く流し読みしたらすっごくハードなレイプ描写だったし…)」 咲「(女の子が男の子の上に乗っかって、腰振りながら連続搾精してるところなんてもうトイレに駆け込みそうになったくらいだったよ)」ムフー 咲「(今日はこれを題材に京ちゃんでオナニーしよーっと)」 咲「(ふふ…楽しみだなぁ…)」トテトテ 京太郎「本当に良いのか?」 モモ「大丈夫っすよ」 咲「…アレ?」 咲「(…アレは京ちゃんと…敦賀の東横さん?)」 咲「(京ちゃんの家の前で一体、何を話してるんだろう?)」コソ 咲「(…ってなんで私、隠れてるのかな)」 咲「(まぁ…確かになんだかいい雰囲気だし…)」 京太郎「んー…でも、気をつけてくれよ」 京太郎「ここからモモの家までは結構、遠いからさ」 モモ「大丈夫ッス。私にはステルスがありますから」 京太郎「でも、それは完全じゃないだろ」 京太郎「実際、俺にはこうして見えてる訳だし」 モモ「ぶっちゃけ、京さんが少数派なんッスよ」 モモ「私は親にだって見つけられない事があるんッスから」 モモ「逃げ足だって早い方ですし、何かトラブルに巻き込まれてもスタコタサッサっす」グッ モモ「寧ろ、私が心配なのは京さんの方っすよ」 京太郎「俺?」 モモ「えぇ。こうして女の子を気軽に家にあげちゃって…」 モモ「送り狼になるとか考えなかったッスか?」 京太郎「だって、モモが俺の事襲ったりしないだろ」 京太郎「俺とモモは友達だしな」 モモ「…友達っすか」ムゥ 京太郎「それに幾ら何でも押し倒されてまったく抵抗出来ないほどひ弱じゃないつもりだし」 モモ「…そうやって無用な自信が、レイプ被害に繋がるッスよ」 京太郎「まぁ、そうかもしれないけどさ」 京太郎「でも、わざわざ家まで送ってくれた女の子にお茶の一つも出さないのは失礼だろ?」 モモ「それもそうかもしれないッスけど…」 モモ「(…私がこの一時間ちょっとでどれだけ理性を酷使したと思ってるッスか)」 モモ「(私、男の子の部屋にあがるとか始めてだったッスよ)」 モモ「(女の子の部屋とは違う良い匂いをあっちこっちから感じて…)」 モモ「(もう気が狂いそうだったッス)」 モモ「(多分、後一時間も部屋にいたら我慢できなくなって京さんの事犯してたッスよ)」フゥ 京太郎「???」 咲「(……京ちゃん、東横さんの事、部屋にあげたんだ…)」 咲「(…まぁ、元々、東横さんと京ちゃんが仲良くやってたのは私も知ってたけれど…)」 咲「(…………でも、どうしてだろう)」 咲「(すっごく…すっごく面白くない)」 咲「(胸の奥からムカムカして…私の大事な場所を穢されたような気がして…)」 咲「(…おかしいな、私、京ちゃんの事、ただの幼馴染としか思ってなかったはずなのに)」 咲「(だからこそ、和ちゃんの背中だって押せたはずなのに…どうして?)」 咲「(どうして…今になってこんなにも苛々しちゃうのかな)」 咲「(…東横さんが京ちゃん好みの巨乳だから?)」 咲「(…ううん。それは和ちゃんも同じだし関係ないはず)」 咲「(じゃあ…一体…)」 モモ「…ホント、京さんは仕方ないッスね」 京太郎「なんだよ、いきなり」 モモ「無防備過ぎて目が離せないって事ッスよ」クス 京太郎「そんなに無防備かなぁ…」 咲「( ―― …あぁ、そうか)」 咲「(…東横さん、被ってるんだ)」 咲「(私が京ちゃんに接する姿と…そっくり)」 咲「(口では仕方ないなって言いながらも、その実、京ちゃんの面倒を見ているのが嬉しくて…)」 咲「(本当は京ちゃんが居ないとダメなのは自分なのを笑顔の裏に隠して…)」 咲「(甘くとろけるようにして…依存…しちゃってる)」 咲「(そんな東横さんに…私はきっと自分の居場所を奪われるんじゃないかって思ったんだ)」 咲「(恋人とは違う…『宮永咲』と言う居場所を)」 咲「(…だから、私はこんなにも嫌で…胸の中がムカムカして…)」 咲「(…………嫌だ、渡したく…ない)」 咲「(和ちゃんだったら…まだ良かった)」 咲「(和ちゃんが恋人になっても、私は『宮永咲』のまま京ちゃんに接する事ができるから)」 咲「(…でも、東横さんは絶対にダメ)」 咲「(あの人は私の居場所を奪って…そして塗り替えてしまう)」 咲「(…だから…っ)」グッ 咲「アレ、京ちゃん…と東横さん」 京太郎「お、なんだ、咲か」 モモ「あ…ど、どうも」ペコ 咲「こんばんは。こんなところでどうしたの?」 モモ「えっと…」チラッ 京太郎「街中で偶然出会ってさ」 京太郎「一緒に牛丼屋行ったりして遊んでたら遅くなったから送ってもらったんだよ」 モモ「そ、そうッス」 咲「へぇ。そうなんだ」 咲「…でも、東横さん、夏とは言え、もう日が落ちる時期だから早めに帰った方が良いよ」 京太郎「あぁ、そうだな。ごめん、変に引き止めちゃって」 モモ「い、いや、私は大丈夫ッスよ」チラッ 咲「…」クス モモ「…」グッ 咲「それで…京ちゃん、実はお願いがあるんだけど…」 京太郎「…嫌な予感しかしないけどなんだ?」 咲「実は今日、結構、本買っちゃってさ」 咲「家まで待ちきれないから、部屋にあげて貰って良い?」 京太郎「お前の家、すぐそこだろ」 咲「えへへ。だって、待ちきれないんだもん」 咲「それに良いでしょ?『何時もの事』なんだから」 モモ「…」ピクッ 京太郎「まぁ、確かに何時もの事っちゃいつもの事だしな」 京太郎「良いぞ、別に見られて困るもんがある訳じゃないし」 京太郎「ただ、お茶菓子とかは期待されても困るからな」 咲「大丈夫だよ。流石にそこまで図々しくないし」 咲「寧ろ、お礼に今日は私がご飯作ってあげようか?」 咲「一応、これでも『須賀家の厨房を任せられてる』し、おばさまも楽が出来て喜ぶと思うから」 京太郎「あー…それも良いかもな」 咲「ふふ。じゃあ、今から一緒にスーパーに行こ?」 咲「早くしなきゃお肉とか売り切れちゃうよ」 モモ「……」ギリ 咲「あ、ごめんね。東横さん」 咲「こっちで勝手に盛り上がっちゃって」 モモ「…大丈夫ッスよ」 モモ「二人が『幼馴染』なのは私も良く知ってるッスから」 咲「うん。そうだよ、昔からずっと一緒だったんだ」 咲「…勿論、これからも…だけどね」 モモ「…」ゴゴゴ 咲「…」ゴゴゴ 京太郎「(…なんだろう、このプレッシャーは…)」 モモ「…………じゃあ、今日は帰るッス」 京太郎「お、おう。本当に気をつけてな」 モモ「心配ありがとうッスよ」 モモ「…京さんの方もどうか気をつけて」チラッ 咲「…さようなら、東横さん」ニッコリ モモ「…さようなら、宮永さん」ニコ 咲「…さてっと」ギュッ 京太郎「んお…」 咲「東横さんもいなくなったし…行こ?」 京太郎「…いや、それは良いんだけどさ」 咲「どうかしたの?」 京太郎「さ、流石に俺も腕組まれるのは恥ずかしいぞ」 咲「うん。知ってる」ニコ 咲「京ちゃん見た目ビッチだけど中身は清純だしヘタレだもんね」 京太郎「フォローしてるようでそれ以上に叩きのめしてないかその言葉」 咲「…でも、そんな京ちゃんが見たいから、今日はこのままスーパーね」 京太郎「聞けよってかマジかよ…」 咲「マジでーす」 咲「まぁ、その分、今日はリクエスト聞いてあげるからさ」 咲「何が良い?」 京太郎「…じゃあ、ハンバーグで」 咲「京ちゃん、ホント、子ども舌だよね」 京太郎「うっせーよ」カァァ 咲「(…あぁ、なんだ)」 咲「(…こうして腕組んだだけで…もう分かっちゃった)」 咲「(私、本当はずっと京ちゃんの事好きだったんだ)」 咲「(京ちゃん以外のオカズでイけなかったのも…京ちゃんの事好きで好きで好きすぎたから)」 咲「(…毎日、京ちゃんでオナニーしてたのは強すぎる気持ちに気づかないふりをする為だったんだ)」 咲「(………でも、もう無理)」 咲「(私、完全に気づいちゃったから)」 咲「(自分の気持ちにも…そして京ちゃんの重要性にも)」 咲「(東横さんだけじゃない…)」 咲「(親友であるはずの和ちゃんにだって…渡したくない)」 咲「(幼馴染だけじゃなくて…恋人も…妻の座も…)」 咲「(全部全部…欲しくなっちゃってる…)」 咲「(だから…良いよね)」 咲「(…私をこんなにしちゃったのは天然ビッチの京ちゃんなんだから)」 咲「(…ヘタレだけど私の事を何時も大事にしてくれてる京ちゃんなら…)」 咲「(…この燃えるような私の気持ちも…)」 咲「(そして…アソコが濡れちゃうほどの欲情も…)」グチュ 咲「(全部全部…受け止めてくれるよね…?)」 ~次の日~ 京太郎「(はー…今日は高久田の奴が休みか)」 京太郎「(この前、飯断った分、何か奢ってやろうと思ってたんだけどな)」 京太郎「(なんだか風邪だって話だけど…でも、LINEにもまったく返事がないし)」 京太郎「(よっぽど体調が悪いのかな?)」 京太郎「(なら学校帰りにでも見舞いに行って…あ、いや、待て)」 京太郎「(こういう時こそ、あの子に見舞いに行ってもらうベキじゃないか?)」 京太郎「(んで、看病してる間に好感度稼いで貰って……)」 京太郎「(…………うん、なんかそのまま逆レしてそうなのはきっと気のせいだよな)」 京太郎「(まぁ、何はともあれ、今日は一人飯でも楽しむとしようか)」 久「って京太郎君」 京太郎「おや、部長。今日も一人っすか?」 久「…何時も一人みたいな風に言わないでくれる?」 久「今日はちょっと人と予定が合わなかったの」ムー 京太郎「はは。大丈夫ですよ」 京太郎「部長が人気者なのは俺も良く知ってますから」 久「…ちなみに京太郎君的にはどうなの?」 京太郎「もうちょい悪戯控えてくれれば素直に慕う事もできるんですけどねーって感じです」 久「ダメよ。悪戯を控えるなんて私のアイデンティティに関わるわ」 京太郎「そんなレベルですか」 久「そうよ。だから、イラズラされる為に隣に来なさい」ポンポン 京太郎「んな事言われて近づくと思ってるんですか…」イソイソ 久「そう言いながらも隣に来てくれる京太郎君が好きよ」クス 京太郎「他に座れる場所もあんまり見当たらないですしね」 京太郎「べ、別に部長のために隣に来た訳じゃないんですから勘違いしないでくださいよ!」 久「見事なツンデレと感心するが何処もおかしくはないわね」 京太郎「ま、なので悪戯も控えてくれると…」 久「だが、断るわ」ニッコリ 京太郎「ですよねー…」 久「で、今日の京太郎君くんのお昼は…Aランチか」 京太郎「メインの唐揚げが嫌いな男なんて殆どいませんしね」 久「京太郎君も唐揚げ好きなんだ…」 京太郎「えぇ。まぁ、人並みに、ですけど」 久「ふーん……」 久「じゃ、じゃあ…ね。今度、作ってきてあげましょうか…?」 京太郎「お断りします」キッパリ 久「ちょ、そこは受け止めるところでしょ!?」 京太郎「この前、部長の料理にひどい目にあったのを忘れちゃいないんですよ」 久「あ、アレはちょっぴり失敗しちゃっただけだし…」 京太郎「勝手にアレンジして失敗したのはちょっぴりとは言わないんですよ」 久「そ、そんな事言うけど…京太郎君のタコスミタコスもひどかったじゃない!」 京太郎「ふ…甘いですね、部長」 久「何…!?」 京太郎「俺はあの一件から自分の料理センスがヤバイと知り、料理の勉強を始めました!」ドヤァ 久「な、なんですって…!!?」 久「じゃ、じゃあ、まさか…!」 京太郎「えぇ。もう砂糖と塩を間違えたりしません」 京太郎「得意料理だってあります」 久「と、得意料理…だと…!?」 京太郎「えぇ。しかも…肉じゃがです!!!」グッ 久「に、肉じゃが…!?」 久「あ、あのキングオブ得意料理…」 久「お見合いで聞かれて七割は出てくるっていう肉じゃがが作れるようになったって言うの…!?」 久「この短期間で…やはり天才か…」 京太郎「ふっ。常に成長し続ける男、須賀京太郎と呼んで下さい」ドヤァ 久「…………で、実際のところは?」 京太郎「まぁ、最近は簡単に肉じゃがの味付けができる調味料があるんでそれぶちこんで材料煮るだけですし」 京太郎「ぶっちゃけすっげー簡単ですね」 久「…夢が壊れるわね」 京太郎「まぁ、難しかったらキングオブ得意料理にはなれないでしょうしね」 久「しかし、そんな話を聞いてたらね」 京太郎「ん?」 久「…き、京太郎君のさ、料理…た、食べてみたいかなーって…」チラッ 京太郎「あざとい」 久「あ、あざとくなんかないわよ…っ」 京太郎「いやぁ…今のはあざといっすよ」 京太郎「多分、十人中八人はあざといって言うレベルで」 久「す、少なくとも計算はちょっぴりしかしてないからセーフよ!」 京太郎「計算してる時点でアウトっすよ」 久「…判定厳しすぎない?」 京太郎「部長がユルユルなんっすよ」 久「ゆ、ユルユルって…ち、違うわよ」カァァァ 久「こ、これでも処女なんだから、キツキツのミチミチなんだからね!!」 京太郎「そんな事言ってないです」 ザワザワワ 久「あぅ…」カァァ 京太郎「…まぁ、とりあえず食べましょ?」 久「そ、そうね…」 久「…でも、この埋め合わせは絶対にして貰うから」 京太郎「えー…」 久「誰のせいで大恥掻いたと思ってるの?」 京太郎「完全に部長の自爆じゃないっすか」 久「ゆ、ユルユルなんて不名誉な事言われたら誰だってああなります!」 京太郎「(不名誉な事なのか…)」 京太郎「(まぁ…男で言えば、短小扱いされるようなもんだしな)」 京太郎「(そりゃ思いっきり反論したくなるかもしれない)」 久「と言う訳で、京太郎君は今度、私のためにお弁当を作ってくるように」 京太郎「えー…」 久「…何、不満なの?」 京太郎「いや、まぁ、別に弁当そのものは良いんですけどね」 京太郎「(…ぶっちゃけ、以前までに比べて部活でやらせて貰える事が減ってしまったし)」 京太郎「(お茶くみや牌譜作るくらいしかやってないから作っても構わないんだけれど…)」 京太郎「…でも、ぶっちゃけ俺、まだ習い始めたばっかなんで味とか色々微妙っすよ」 久「…そんなの気にしないわよ」 久「私が食べてみたいのは美味しい料理じゃなくて」 久「貴方の…京太郎君が私のために作ってくれたお弁当なんだから」ニコ 京太郎「っ」 久「…あれ、どうかした?」 京太郎「……いや、部長ってホント、タラシだなぁって思って」 久「…もしかしてドキっとした?」 久「ドキドキってしちゃった?」ニマー 京太郎「あ、やっぱ気のせいでした」 久「えー…そこは正直になりなさいよ」 京太郎「正直になった結果、いじり倒されるのが目に見えてるんですが」 久「だって、それが私の愛情表現だしねー?」ニコニコ 京太郎「…くそぅ、なんかすっげー機嫌良くなってるし」 久「ふふ。今の私は超ハッピーモードだからね」 久「後でジュースくらいなら奢ってあげても良いわよ?」 京太郎「マジっすか!ゴチになります!!」 久「今度は『確殺!パインサラダジュース』ね」 京太郎「またゲテモノジュース押し付けるのやめて下さいよ…」 京太郎「(…で、そんな事やってる間に、夏休みになった)」 京太郎「(その間、一度も登校しなかった高久田が、何処かで監禁されてるなんて噂も出てたけれど…)」 京太郎「(それは根も葉もない噂だから信じる必要はない)」 京太郎「(あの日、俺に相談してきた子が、高久田が休み始めた時期からずっと休んでいるのも無関係だ)」 京太郎「(いや、関係あるのかもしれないが、きっとあの子が高久田の事を看病しにいってるって程度)」 京太郎「(見舞いに行っても、家にはおらず、親も行方を探してる最中らしいが…)」 京太郎「(あの殺しても死なないような高久田の事だ)」 京太郎「(きっと何処かで上手くやっている事だろう)」 京太郎「(…そう信じないとやってられねぇよ)」 京太郎「(一応、彼女と高久田の繋がりは警察にも言ったけれど、まったく信用して貰えなかったからな)」 京太郎「(…俺にできる事は…あいつが無事である事を祈る事だけ)」 京太郎「(それ以外にあいつの為にしてやれる事はあまりない)」 京太郎「(何せ、今、俺がいるのは…)」

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