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「――先輩! 加治木せんぱーいっ」 放課後、広い屋上に上って探し人の名前を呼ぶ。 真面目でしっかり者といった印象とは裏腹に、どうやらゆみは昼寝をするのが趣味らしい。 そのためか昼休みや放課後には屋上で寝ていることが多く、いつの間にかそれを起こしにいくのは京太郎の役目となっていた。 「……あ、先輩、今日はそこで寝てたんすか。早く起きてください、風邪ひきますよ」 「……ん……」 今日の眠りは一段と深く、軽くゆすった程度では起きそうにない。 ぺちぺちと軽く頬を叩いてみても功を成さなかった。 (……それにしても、ホント綺麗な寝顔だよなあ) 普段は殆ど隙がない先輩の無防備な寝顔を見られるのは、自分だけの特権。 そう思うと胸が高鳴るが、まるで異性として意識されていないかのように感じられて複雑でもあった。 ふと気づくと、部活が始まる時間が近づいていた。 これ以上見惚れている場合ではないと我に返り、肩に手をかけて大きく揺すろうとする。 「せんぱ、」 すると、突然強い力で腕を引っ張られてしまった。 何が起こったのか一瞬理解できず、抵抗が遅れる。 その結果、ゆみに抱きしめられる格好になっていた。 「え、え……えええっ!!? ちょっ、せんぱっ……」 じたばたともがくが時既に遅し。 どうも寝ぼけているらしいゆみは、京太郎を抱きしめる力をぎゅっと強めて、決して離そうとしない。 「ん……こら、あばれるんじゃない……」 「いや先輩、何と勘違いしてるのか知りませんけど俺です、須賀ですっ! だからあのお願いしますその、いったん離してくださ」 「……? すが……? なんでここに……」 「なんでっていつも通り起こしにきたんです、そんで、あの」 「……そうか、須賀が来てくれたのか。なら、もう少しだけ……」 「……えっ?」 それは、いったいどういう意味だろう。 寝ぼけ半分の言葉とはいえ、ほんの少しだけ心に引っかかった。 だが、今はそんな言葉を気にしている場合ではない。 昂ぶる感情を無理やりにでも抑え、どうにかゆみを起こさなくては。 高校1年生にしては大きく恵まれた身体を持ち、中学時代にはハンドボールをやっていた京太郎と、背は少し高いが、あくまで平均的な体格の女性であるゆみ。 流石に力で負けるわけはないのだが、あまり暴れると怪我をさせてしまうかもしれないと思うと本気を出せず、うまく抜け出せない。 無論、それだけが理由ではないのだが。 (いや、まあ正直役得っつーか……結構やわらかいし、じゃなくてさあ! こんなとこ誰かに見られたら変な誤解されかねんッ……!!) そう、どうにも邪念が振り払えない。 誰かに助けを求めたいが、こんな姿を見られたくもなく。 もはや京太郎には、諦めてゆみが目覚めるのを待つしかなかった。 その間、誰もこないことも祈りながら。 「…ん、……すが……、……すぅ……」 「……!」 たとえ寝言でも、名前を呼ばれたら意識せずにはいられない。 どきどきと鼓動は早まるばかりで、男として情けないとは知りつつも、こんなに心を許されている事実に頬を緩めずにはいられなかった。 「――俺としては、もう少し警戒してほしいんですけどね……」 辛うじて自由の利く右手で、そっと先輩の頭を撫でる。 少しくすぐったそうに震える仕草が愛おしくて仕方がない。 いつか。 今は無理でも、いつかきっと。 温かい陽射しが降り注ぐ中、気付けば京太郎も心地よい微睡みに身を任せていた。 ――――― 「……どういうことっすか、これ……」 「ワハハ。見事なまでにいちゃついてるなー」 「えっと、そろそろ起こした方がいいのかなあ……。邪魔しちゃ悪いかなあ……」 「う、うむ……、あれ、桃子はどこに?  ……桃子っ!? 待って、そっちは危ない!!」 カン!

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