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いちご「ふぅ……」 アイドル、と言うよりかは雀プロと歌手活動の兼任を初めてから10年近くが経過した。 その月日はまさに矢のように過ぎ去っていった。 いつの間にか私も20代の後半……俗に言うアラサーになってしまっていた。 京太郎「お疲れ様です。コーヒーで良かったですか?」 いちご「あっ、ありがとう京太郎くん……」 マネージャーをしてくれている京太郎くんとも長い付き合いだ。 仕事を持ってきてくれるのは勿論、送迎をしてくれたり、困ったときには相談にも乗ってくれる。 本当に……彼には世話になりっぱなしだ。 彼がいなかったら……とっくのとうにアイドルという仕事に対して音を挙げていた事だろう。 いちご「ねえ、京太郎くん……」 京太郎「何ですか?」 いちご「ウチな…………」 そこで一瞬、言葉が止まる。 言ってしまえば後戻りはできない。 あんなに覚悟した筈なのに……いざ言うとなるとこんなに怖いものなのか。 でも…………言わなければならない。 いちご「アイドルを、辞めようと思うとるんじゃ……」 京太郎「…………そうですか」 いちご「え──?」 あっさりとした応えに、逆にこちらが呆けてしまっていた。 京太郎「いえ、何となく近々そんな話があるんじゃないかなって思いまして」 いちご「……なして?」 京太郎「そうですね……何て言うんでしょうか、最近の佐々野さんは悩んでいるというか、上の空になってる気がして」 いちご「ほうか……」 良く見てくれてるんだなあって、改めて感心してしまう。 本当、私なんかには勿体無いくらい優秀なマネージャーさんだ。 彼になら、心の内を吐露することもできるだろう。 いちご「なんなのかのぉ……歌やグラビア、バラエティ…… あんなに楽しいって思っとったのに、今は──」 それは何時からなのだろうか。 ごく最近では無いし、そんなに昔の話でも無い。 本当に何時の間にか、気が付いた時には辞めたいと思っていた。 京太郎「因みに、アイドルを辞めたら何かしたいことはあるんですか?」 いちご「ほうじゃのう…………」 少しだけ考えてから いちご「普通の女の子に戻りたい!」 京太郎「プッ……」 いちご「あー!今、笑ぅたのぉ!」 京太郎「す、すみません……アハハッ、キャンディーズですか?」 いちご「アイドルなら、一度は言ってみたい言葉じゃろ?」 京太郎「一度しか言えませんけどね」 それもそうだと、私も一緒になって笑いだす。 どうしたことだろうか、さっきまで言い出すことに大してあんなに憂鬱だったのに、今ではむしろ気分が晴れ渡って愉快に感じるほどだ。 京太郎「そうそう、俺も一度言ってみたい言葉があるんですよ」 いちご「なんやろ?」 京太郎「ちょっと待っててください、えーっと確かここに入れておいて……」 京太郎くんはハンドバッグに手を突っ込むと何やらゴソゴソと探し始めた。 京太郎「佐々野さん」 いちご「あ、あらたまってなんじゃ?」 京太郎「俺はこれからも佐々野さんを全力で支えていきたいと思います。 だから、これからは俺だけのアイドルになって俺にそのマネジメントをさせてください……!」 そして、白い指輪ケースを差し出された。 いちご「えっ……これ、まさか……!?」 京太郎「受け取って貰えませんか?」 これは、つまり、給料3ヶ月分がどうのとかいうかの伝説の…………!? 今日は何という日なのだろうか。 アイドルを引退したいという告白をしたら、逆にこんな衝撃的な告白をされてしまって…… でも…………だけど いちご「……ウチを離したらいかんけぇ?」 京太郎「っ!……はい!!」 健やかなるときも病めるときも 喜びのときも悲しみのときも 富めるときも貧しいときも “死が二人を分かつまで” カンッ!

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