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「そんな……っ!?」 ぬるりとした感触が手のひら全体に伝わった。 「ぐうっ……案外痛ぇもんだなぁ、畜生っ……」 鬼はまるで軽い愚痴でも吐くようにそうぼやいた。 「態と……ですね?」 私は尚も血の滴る短刀を強く握りながら鬼に問うた。 「さあね……」 「何でですか……あなたの力ならこんな刃を退けることなんて容易くっ!」 「それじゃあ、駄目だろうが……ぐぷっ」 鬼は笑いながら、されど血反吐を吐きながら話し続けた。 「あなたは……あなたは何も悪いことをしていないのに……」 「そうさなぁ……」 「どうして……あなたはそんなにも優しいの?」 「鬼が優しくちゃ、駄目なのかい?」 「…………」 巫女はただ黙ることしかできなかった。 酒呑童子や茨木童子など、鬼と言えば手のつけられない暴君であると相場が決まっていた。 曰わく人に仇なす者であり、退治すべきであると…………それが常識であり、巫女もそうやって教育されてきた。 しかし、今にも息絶えそうなこの鬼はどうだろうか? 巫女は鬼に、彼に何度となく命を救われた。 彼女だけでは無い、鬼に命を救われた人間は決して少なくなかった。 されど……世間は鬼を許してくれなかった。 「遠い唐の話なんだかな」 「カラ……?」 「海の向こうの国の事だ。 そこでは…………“鬼”という字は霊魂だとか神様を意味するんだとさ」 「神様、ですか……」 「神様だってよ、良い神様もいれば暴れん坊の神様もいるんだろ?」 「ええ…………スサノオノミコトは暴君だったと伝えられています」 「だったらよ、俺みたいに風変わりな鬼がいたって別にいいじゃねえか」 「………………」 そんなことを言われたら何も言えないではないか…………巫女は心の内でひっそりとひとりごちた。 人間にも鬼に感謝する者もいれば鬼だからという理由だけで排除しようとする者もいた。 結局のところ、人も鬼も関係ないのだ。 大事なのは……その在り方。 「俺は……鬼のくせに人の輪に入ろうとしちまった。まあ、その罰だろうねぇ…………」 「それの……どこが何が悪いんですか……っ!」 「人は人の中で、鬼は鬼の中でしか生きらんねぇんだ。 ずっと今までそうやって過ごしてきて、これからもそうなんだろうなぁ」 「…………」 人も所詮、群れなければ生きていけない生き物に過ぎないのか。 自分達とは違う異物を排除してしまう弱い生き物………… それが、人間か? 「だから、お前も早く人間のところにお帰りよ…………」 「もう少し…………」 「…………ん?」 「いえ、最期までここに……いさせてください」 「…………勝手にしな」 巫女は鬼の金色に輝く髪をかきあげ、優しく撫であげた。 「綺麗な髪……まるで、あなたの心を表している様」 「そうか?俺はお前の混じりっけの無い黒い髪の方が好きだけどなぁ……」 「こうやって…………」 「あん?」 「お互いに良いところを見つけあえれば、争うこと何てしなくても良いのに…………」 「そうだな…………だけど、それが一番難しいことだわなぁ」 鬼は眼を瞑り、何かを考えるように巡らせてから、ポツリと呟いた。 「もし次があるなら…………平和な世だといいなぁ」 「そうですね……私も、できることならその隣に…………」 「嗚呼…………」 くぐもった声には血が混じり、もうすでに虫の息であった。 それでも、もう一言…… 「じゃあ、先に…………」 「はい、いってらっしゃい…………」 そして鬼は息絶えた。 「そんな……っ!?」 ぬるりとした感触が手のひら全体に伝わった。 「ぐうっ……案外痛ぇもんだなぁ、畜生っ……」 鬼はまるで軽い愚痴でも吐くようにそうぼやいた。 「態と……ですね?」 私は尚も血の滴る短刀を強く握りながら鬼に問うた。 「さあね……」 「何でですか……あなたの力ならこんな刃を退けることなんて容易くっ!」 「それじゃあ、駄目だろうが……ぐぷっ」 鬼は笑いながら、されど血反吐を吐きながら話し続けた。 「あなたは……あなたは何も悪いことをしていないのに……」 「そうさなぁ……」 「どうして……あなたはそんなにも優しいの?」 「鬼が優しくちゃ、駄目なのかい?」 「…………」 巫女はただ黙ることしかできなかった。 酒呑童子や茨木童子など、鬼と言えば手のつけられない暴君であると相場が決まっていた。 曰わく人に仇なす者であり、退治すべきであると…………それが常識であり、巫女もそうやって教育されてきた。 しかし、今にも息絶えそうなこの鬼はどうだろうか? 巫女は鬼に、彼に何度となく命を救われた。 彼女だけでは無い、鬼に命を救われた人間は決して少なくなかった。 されど……世間は鬼を許してくれなかった。 「遠い唐の話なんだかな」 「カラ……?」 「海の向こうの国の事だ。 そこでは…………“鬼”という字は霊魂だとか神様を意味するんだとさ」 「神様、ですか……」 「神様だってよ、良い神様もいれば暴れん坊の神様もいるんだろ?」 「ええ…………スサノオノミコトは暴君だったと伝えられています」 「だったらよ、俺みたいに風変わりな鬼がいたって別にいいじゃねえか」 「………………」 そんなことを言われたら何も言えないではないか…………巫女は心の内でひっそりとひとりごちた。 須賀京太郎は産まれながらにして金色の髪を持っていた。 両親は日本人の特徴に沿った黒髪であり、親戚筋に白人や金髪の者がいた形跡も無い。 アルビノや染色異常などが疑われたがその身体は優良児という他になく、むしろ他より一つ抜きんでていた。 「異常だ」と奇異の目で見られることはしばしばあったが……しかし、完全に排斥されるような事もなく両親の愛を一心に受けて育った。 須賀京太郎のその姿を受け入れるだけの器を、今の世は持ち合わせていたのだ。 そして紆余曲折の後、須賀家は居を鹿児島へと移し………… 彼女と出逢った。 小蒔「京太郎くんは、鬼ってどんな存在だと思いますか?」 京太郎「鬼……ですか?」 小蒔「ええ、鬼です」 神代小蒔という少女も、ある意味では変わっていた。 金髪に日本人にしては巨大な体躯を持つ京太郎に対して、普通の人間であれば初対面では一歩引いた対応をされてしまうのが常であった。 しかし、神代小蒔は……そんな事は意に介さんとばかりに初対面の頃から京太郎に対して普通に接してきた。 いや……むしろ親しげに、と修飾すべきである程に。 そんな彼女の風変わりな問いについて、京太郎は真面目に考え、応えた。 京太郎「そうですね……鬼って悪いやつって相場が決まってるじゃないですか?」 小蒔「物語では、お約束ですね」 京太郎「でも俺は鬼は悪者だって、一方的に決め付けるべきじゃ無いんじゃないかなって思うんですよ」 小蒔「それは……どうしてですか?」 京太郎「何時だったか、何処かで聴いたことがある話なんですけどね」 小蒔「はい」 京太郎「中国では、鬼という字は精霊だとか神様を表す言葉だったそうです」 それをどこで聴いたのか、実は京太郎は覚えていない。 テレビだったか何かの書籍だったか、もしくは人伝に聴いたのか………… だけど、どうしてかその話はすんなりの京太郎の中に根付いていた。 京太郎「神様だって、悪い神様もいれば良い神様もいるじゃないですか。 だったら……逆に良い鬼がいても良いんじゃないかなって、俺は思うんです」 小蒔「ぷっ……うふふふふ!」 突然笑い出す小蒔に京太郎は面食らう他に無かった。 京太郎「え……どうしたんですか?!」 小蒔「うふふ……それ、私が前に教えた言葉ですよ」 京太郎「あれ、そうでしたっけ…………え、何時?」 小蒔「何時…………でしたっけね?」 京太郎「ちょっとぉ…………」 謎が氷解したかと思えば、コレである。 変なことに詳しい小蒔であれば知っていても可笑しくはないが…………果たして、京太郎は“彼女”から聴いただろうか? 小蒔「そうですね……昔、随分と昔の話だったと思います」 京太郎「忘れちゃうくらい、昔の話ですか…………」 小蒔「それでも、覚えていることもたくさんあります」 話が急に転じた。 繋がっているようで、まったく脈絡の無い話だが、京太郎は少し軽い溜め息と苦笑を作っただけで同意した。 京太郎「そうですね……願い事も叶いましたし」 カンッ!

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