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「原村さーん、準備できましたのでスタンバイ御願いしますー」 和「あ、はいっ」ガタッ 私は原村和、26歳です。 弁護士として法廷の場で腕を振るう一方で、とあるバラエティ番組のレギュラーに抜擢されていたりと、タレントも兼用するような生活をしています。 「原村弁護士は美人ですけど、そう言う噂ないですよね?実際いかがです?」 和「いえ、そんな……今の私は多忙ですので、仕事一筋です」 「おー、流石ですねぇ!」 こう言う話題を振られるのが、こう言うテレビ番組では普通なのは分かっています……でも最初はデリカシーがないなと嫌に思っていました、もう慣れましたが。 「お疲れさまでした、原村さん。またあの司会者、貴女をいやらしい目でみてましたよ……本当に最低ですよねっ!」 和「大丈夫ですよ、そう言うのにも慣れましたから。それより、次の現場に向かいましょう」 「はい、分かりました」 忙しいため臨時で雇ったマネージャーの方です。 非常に良く働いてくださいますし、私に気遣ってくれたりと優しく紳士な方だと思います。 しかし……。 「原村さん、僕の事は本気で受け入れてもらえないでしょうか?」 和「……ごめんなさい、貴方の事は嫌いではないですけど……」 「……分かりました、でもまだ諦めませんから」 私に好意を持っていて、既に何度も機会を狙って告白してきています。 そう言う意味では一緒にいるには少し居心地が悪いです、本当に仕事は出来る方なのですが……。 バタンッ 和「……疲れましたね……」フゥ… 自宅であるマンションに戻り、やっとまともに一息つけました……。 仕事の為に纏っていたスーツを脱ぎ、早々にシャワー浴びた後、夕食は外で食べていたために私はそのままベッドに収まりました。 和「(……仕事自体は充実していて不満も大きくはないはずなのに……何故こんなにも虚しいのでしょう……)」 ベッドに入って、改めて冷静に自分を見返すと、忙しいだけでは自らの心が満たされる事が無いことにふと気付きました。 和「(私が本当に……求めて……いたもの……)」 今自分の中にない、自らを満たすもの……それが何なのかと考えましたが、疲れによる眠気がそれに勝って、視界が暗闇に落ちていきました……。 「……か……どか……?」 暗闇の中、突然声がして目を開くと……そこは私がかつて見た光景、清澄高校麻雀部の部室。 私はそこで佇むように存在していて、目の前には部室に備え付けられたベッドの隣で誰かに呼び掛けている青年を見ていました。 和『須賀君……』 私の声は反響するものの、目の前の彼には……須賀京太郎君には聞こえた様子はないです。 和『(そうですか……これは夢なんですね)』 自分が夢の中にいるんだろうと、朧気に理解し、事の成り行きを見守ることにしました。 「和……起きろよ、和……」 「ん……須賀君?」 和『これは……』 彼がベッドに寝ていた私に声をかける……そんな事はそこまでないので、いつの時の事か判別するのは容易でした。 これは高校三年生の秋、もう部室も見納めかもしれないと咲さんや優希……そして須賀君と共にここを覗きに来た日……昼食の後かつ受験勉強の疲れがあって私はうっかり眠ってしまったんです。 「ご、ごめんなさい……咲さんと優希は?」 「家から電話で呼び出しあって急いで帰るって行っちまった……んで用事なしな俺が残ったと言うわけだな」 そして起きた時には二人は先に帰っていたため、現在の部員を帰して彼は一人この部室に残っていたのです。 「申し訳ないです、本当にご迷惑を……」 「あ、いや……謝る必要ないぞ?俺も目的があって残ったわけだしな」 「?」 私が謝ると、彼は自分が残った別の理由を語りだしました。 「和はさ、弁護士になるために受験勉強を必死に頑張ってる……だからこう言うのは邪魔だよなって思って卒業まで胸にしまって置こうとしてたけど……このチャンス逃したら、言う事自体が叶わなくなるかもって思ったから、言うぞ?」 「は、はい……」 この時の私は本気で彼が何を言おうとしているのか、全く分かりませんでした。 鈍感……と言われても仕方ないかと思いますが、実際にはそう言う事に免疫がなかったからでしょうか。 「俺は……お前の事が……原村和の事が……異性として好きです」 「……えっ?」 そして突然の彼の告白……私は困惑していました……無論恋愛とか、異性とかに関して考えた事なんて殆ど無かったからです。 「……わりぃ、突然過ぎたよな……しかも寝起きにこんなこと……だけどいつも和は誰かが隣にいたからさ、二人きりになるチャンス、もう今日しかないって思ったから」 「……」 和『……』 昔の私にとって、彼は異性の中では特別仲の良い友人といった認識でした。 しかし、恋愛に目を向けた事がない私には彼をそう言う風に見ることが出来ませんでした。 「ごめんなさい、須賀君の事は友人として見ています……本当にごめんなさい」 「……そっか、ありがとな……ちゃんと答えてくれて」 私が断った時、彼は本当に悲しげに……今にも泣きそうな表情になりましたが、それを堪えて私を今まで通りの接し方で家まで送ってくれました。 和『私は……私は……』 今にして思えば、彼は数少ない本当に信頼できる異性の友人でした。 流石に完全に彼に下心がないとは言えませんが、私だけではなく麻雀部の皆の為に他の誰かが出来ないことまで一人必死に頑張ってくれました。 その頑張る姿を見て沢山の子が須賀君を慕っていたと思います、それでも……私を選んでくれた……。 和『私は……後悔してるんですね……』 そんな一途な彼を、あんな素敵だった彼を振った……今にして後悔していました。 あの頃のキラキラしていた日々と、今の多忙なだけの毎日を比較して、一気に気落ちして床に広がる闇に引き込まれていく。 和『いや、嫌です……こんな場所、嫌です……!』 助けを求める様に手を伸ばした。 今更遅いのは分かっています、けど私にはもうそうするしか足掻く術はなかったんです……。 和『助けて……須賀君……!』 もがいてももがいても闇に引き込まれるのは止まらず、どんどん堕ちていく。 夢の中ですら何もかも真っ暗になった……そう思った時。 チュンチュン…チュチュチュチュン… 夢から覚めました……天井に手を伸ばしたまま。 和「……私は……後悔していたんですね……」 自らを抱き締めて、身体を震わせる……布団に入っていたはずなのに、酷く寒かった。 和「好きです……須賀君……」 私の言葉は、防音の壁の中に吸い込まれて、虚しく消えていった。 カンッ?

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