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 今日は珍しく胡桃先輩と二人きりらしい。部室に居たトシさんから他のメンバーが所用で早く帰ってしまったことを聞いたとき、少し吃驚してしまった。 自分と胡桃先輩は、元から家同士が近くにあり親同士の交流も存在していたことから仲は悪くなく、今のところ宮守麻雀部の他の部員よりは距離が近かった。 と言ってもあくまで親同士の交流というだけで、胡桃先輩とは昔からちょくちょく遊んだか遊んでないかという記憶しかなかったから入った当初は教えられるまで胡桃先輩だと気づけなかったが。 やけに小さい女の子ということでどこかで見た覚えがある程度にはおぼえていたが。  よくよく考えれば胡桃先輩と二人きりになるのは本当に久しぶりだな、と考えていると徐に胡桃先輩が動きだすのが見える。 こちらへと向かってくる胡桃先輩を見ながらよく制服のサイズがあったと半ば上の空で考えていると、胡桃先輩は俺に用があるのか目の前で止まってしまった。 「京太郎、もっと姿勢正して!」 「?! は、はい!」  森閑とした空気の中、急に喝を入れられたら反射的に反応してしまうもので、いきなり何だ? という疑問が浮かぶ前にだらけた体勢から一気に角が出来上がるようきっちりと姿勢を正した。 そんな俺を満足そうに見上げたあと、俺のふともも辺りをまるで布団の皺を整えるかのようにぽんぽんと叩く。 胡桃先輩は自らの小さな両手を腰辺りに添え可愛らしく、ふすっと満足げに鼻から息を出すと膝の上によじ登ってきた。  思考停止を兼ねてしばらく真顔でこちらを見つめてくる胡桃先輩を眺めていると両腕を左右に広げ、 「んっ!」 と謎のアピールをかましてきた。 「あの、胡桃先輩……?」 「なに?」  顔を少し横に傾け、両腕を広げたままはて、何か質問かといったような態度でこちらを見遣ってくる。身形も合わさりとても愛らしいのだが、やはり言動が理解できない。 いきなり膝上に上がってきて、徐に両手を広げ何かをアピールする先輩なんて日本中どこ探しても胡桃先輩ぐらいだろう。 そして、よく見ると両腕がぷるぷると震えている。地味に体勢の維持がきついのが見て取れる。 「何で俺の膝の上で両腕広げてんですか?」 「ちゃんと支えてってこと。腕も疲れてきたしはやく!」 「え、えぇ……」  申し訳ないが降りてもらおうと脇に手を差し込んだ瞬間頭に軽い衝撃が走った。 「いてっ! ちょっ、なにするんですか!」 「今降ろそうとしたでしょ。久しぶりの幼馴染同士の触れ合いを無下にするなんて……。 と、そんなことは置いといて、ほら、ちゃんと手を私の背中に回して支えて!」  両腕をぐいぐいと引っ張ってくるその様はどこか、遊んで遊んで! とかまってちゃんをする小動物に通ずるものがある。 両腕を引っ張るのをやめると、ふぅ、と一つ溜め息を吐きなにやら意気込んでいるのが目に入る。一体何をするつもりだろうとしばらく観察していると、俺の胸に顔を埋めて両手をホールドするように巻きつけてきた。 (コアラ……?)  抱きしめられて初めて実感したが小さな外見からは想像もできないほど、感触が柔らかく、ほんのりと温かくて抱き枕に丁度よさそうだ。なんとも、今は抱き枕にしている側ではなくてされている側なのだが。  やはり、胡桃先輩もインターハイ前ということで気が張っているのだろうか。普段から世話になっているのでしてあげられることはしてあげたい。 仕方ない、と思いつつ片腕を胡桃先輩の背にやり、指示通りに支えることにした。華奢ではあるが、しっかりと肉付いていて女性であることが感じられる。 そして気づいたが、支えるというより抱きしめるといったほうが第三者視点から見ても、普通に自分から見ても自然である。 「ね、京太郎。インターハイ終わったら……」 「……?」 「いや、なんでもない! そんなことより、ほらもっと強く抱きしめて!」  胡桃先輩自体が抱きしめると言ってしまったのは聞かなかったことにしよう。今はこのままで、二人きりの時間を満喫することにした。 結局、トシさんが部室に来るまでずっと抱き合っていて、それが翌日何故か知れ渡り全員に同じ事をすることになってしまったのだがそれはまた別の話。

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