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55 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage おつおつ!] 投稿日:2012/08/27(月) 22:36:45.72 ID:AW4XrHS10 小蒔「ほら!京太郎さん見てください!海ですよ!海!」 8月も中旬、いよいよ夏真っ盛りという頃合いに至り、暑さは留まるところを知らない。 …が、個人的な意見ながら、避暑にかこつけて様々な娯楽に興じる事が出来る分、引きこもるしかない冬より幾分ましだろう。 ついでに、自分はまさにその季節の恩恵の真っただ中にある。 京太郎「…おー、人でいっぱいだな」 言いつつ、視線をあちらこちらに巡らせる。 …というのはフリだ。愛すべき恋人の水着姿を目に焼き付けなくて何とする。 我がすてでぃー神代小蒔にかかれば、そこいらのヒトヒトヒトなどうぞーむぞーのなんとやらである。 京太郎「とりあえず海に入ろう。時間がもったいないしな。…ほれ、浮き輪もビーチボールもある」 小蒔「! は、はい!頑張ります!」 京太郎「はは、何気張ってんだよ」 相変わらずではあるが、彼女なりの頑張りどころが分からない。 まあ、そこも魅力の一つだ。 京太郎「…さ、行こうぜ」 小蒔「…!は、はぁい…」 俺が手を取ると、小蒔は顔を真っ赤にして俯いた。 …やっぱりボディタッチは苦手なんだろうか?水着の披露タイムは大丈夫だったんだが。 手を引き、じゃばじゃばと素早く水の中へ歩みを進める。 京太郎「――ほいっ!ドボン!」 小蒔「待っ!じゅんびうんど…きゃあ!」 京太郎「浅瀬の砂浜だし大丈夫だって!わはは」 下調べは万全である。 小蒔「…ふふ、やりましたね!…ていっ!」 京太郎「ちょっ待、ボーぶっ」 軽く突き倒しただけなわけだが、仕返しとばかりにビーチボールを投擲してくる小蒔。 俺が持ってたはずなんだけどな。あんな大きいモノをいつスられたんだろう?この姫様あなどれず、割とスリの才能が有るのかもしらん。 小蒔「まだまだですよ!あははっ!えいっ」 京太郎「…うわぁぉッ!」 体当たりで追撃が来た。ぺちゃりと肌と肌が張り付く感覚もそこそこに、俺と小蒔はもんどりうって海中に倒れ伏すことになった。 …あれ?ボディタッチ? 京太郎「くげぼっ!ふふぁはは!辛抱なんねえな!おらっ」 小蒔「きゃー!あはは!うふぁ…わぷっ」 そこからはグダグダである。持ってきた道具達が寂しく海を漂う合間で、俺たちは散々じゃれあうハメになった。 ビーチボールは無くした。 耳に心地いい音色を上げて、寄せては返すを繰り返す白波を眺める。 落ちて行く夕日を前に、横並びの影法師をふたつ引きながら、俺と小蒔は砂浜に座っていた。 京太郎「……」 小蒔「……」 人影は既にまばらだった。静寂に気まずさはなく、時間はゆっくりと流れていく。 口を開いたのは小蒔だった。 小蒔「…あの、京太郎さん」 京太郎「んー?」 返事の意味を込めて唸る。 小蒔は少し気恥ずかしそうに逡巡する素振りを見せると、やがて続けた。 小蒔「…今日は、ありがとうございます。連れてきてもらっちゃって…私、迷惑じゃなかったですか?」 京太郎「とんでもない。無理言って連れ出したのは俺だしな。お礼を言うのはこっちだよ」 言い、なるべく気障に決めようと口の端で笑ってみる。そういうものですか、と、くすりと笑い返してくれた。 …よからぬ衝動が押しよせた。ただ愛おしくて、どうしようもない。 視線を外し、一拍置いて、小蒔はさらに続けた。 小蒔「京太郎さんは、楽しかったですか?」 京太郎「ああ。勿論。…小蒔は?」 小蒔「私は…」 ぐっと何かを噛みしめるように、間がおかれた。 小蒔「――楽しかったです。とっても。」 …心の内を表すような、今日一番の笑顔だったと思う。 小蒔「小さいころから、家柄で。学校に親しい友だちは居ませんでした」 小蒔「あ、分家の皆とは仲良しだったんですけどね。親友だとも思ってます。…でも、その中でも扱いには明らかに差が有って」 小蒔「…だから、こんなに…全部忘れて、いっぱいはしゃいで楽しんだのは…」 小蒔「…生まれて初めてだったかもしれませんね」 京太郎「…そっか」 良かったよ。と、小蒔の笑顔に恥じない様に、努めて笑顔で返した。 良い顔が出来ていただろうか。あんまり自信はない。 静寂の質が変わったのを、肌で感じた。 京太郎「…小蒔」 小蒔「…京太郎さん」 呟いたのはどっちが先だったろうか。 先に手を伸ばしたのは、どっちだったろうか。 京太郎「大好きだよ」 小蒔「大好きです」 放った言葉は、同時だった事だけ覚えている。 初めてのキスは、潮の香りがした。 おはり
  小蒔「ほら!京太郎さん見てください!海ですよ!海!」 8月も中旬、いよいよ夏真っ盛りという頃合いに至り、暑さは留まるところを知らない。 …が、個人的な意見ながら、避暑にかこつけて様々な娯楽に興じる事が出来る分、引きこもるしかない冬より幾分ましだろう。 ついでに、自分はまさにその季節の恩恵の真っただ中にある。 京太郎「…おー、人でいっぱいだな」 言いつつ、視線をあちらこちらに巡らせる。 …というのはフリだ。愛すべき恋人の水着姿を目に焼き付けなくて何とする。 我がすてでぃー神代小蒔にかかれば、そこいらのヒトヒトヒトなどうぞーむぞーのなんとやらである。 京太郎「とりあえず海に入ろう。時間がもったいないしな。…ほれ、浮き輪もビーチボールもある」 小蒔「! は、はい!頑張ります!」 京太郎「はは、何気張ってんだよ」 相変わらずではあるが、彼女なりの頑張りどころが分からない。 まあ、そこも魅力の一つだ。 京太郎「…さ、行こうぜ」 小蒔「…!は、はぁい…」 俺が手を取ると、小蒔は顔を真っ赤にして俯いた。 …やっぱりボディタッチは苦手なんだろうか?水着の披露タイムは大丈夫だったんだが。 手を引き、じゃばじゃばと素早く水の中へ歩みを進める。 京太郎「――ほいっ!ドボン!」 小蒔「待っ!じゅんびうんど…きゃあ!」 京太郎「浅瀬の砂浜だし大丈夫だって!わはは」 下調べは万全である。 小蒔「…ふふ、やりましたね!…ていっ!」 京太郎「ちょっ待、ボーぶっ」 軽く突き倒しただけなわけだが、仕返しとばかりにビーチボールを投擲してくる小蒔。 俺が持ってたはずなんだけどな。あんな大きいモノをいつスられたんだろう?この姫様あなどれず、割とスリの才能が有るのかもしらん。 小蒔「まだまだですよ!あははっ!えいっ」 京太郎「…うわぁぉッ!」 体当たりで追撃が来た。ぺちゃりと肌と肌が張り付く感覚もそこそこに、俺と小蒔はもんどりうって海中に倒れ伏すことになった。 …あれ?ボディタッチ? 京太郎「くげぼっ!ふふぁはは!辛抱なんねえな!おらっ」 小蒔「きゃー!あはは!うふぁ…わぷっ」 そこからはグダグダである。持ってきた道具達が寂しく海を漂う合間で、俺たちは散々じゃれあうハメになった。 ビーチボールは無くした。 耳に心地いい音色を上げて、寄せては返すを繰り返す白波を眺める。 落ちて行く夕日を前に、横並びの影法師をふたつ引きながら、俺と小蒔は砂浜に座っていた。 京太郎「……」 小蒔「……」 人影は既にまばらだった。静寂に気まずさはなく、時間はゆっくりと流れていく。 口を開いたのは小蒔だった。 小蒔「…あの、京太郎さん」 京太郎「んー?」 返事の意味を込めて唸る。 小蒔は少し気恥ずかしそうに逡巡する素振りを見せると、やがて続けた。 小蒔「…今日は、ありがとうございます。連れてきてもらっちゃって…私、迷惑じゃなかったですか?」 京太郎「とんでもない。無理言って連れ出したのは俺だしな。お礼を言うのはこっちだよ」 言い、なるべく気障に決めようと口の端で笑ってみる。そういうものですか、と、くすりと笑い返してくれた。 …よからぬ衝動が押しよせた。ただ愛おしくて、どうしようもない。 視線を外し、一拍置いて、小蒔はさらに続けた。 小蒔「京太郎さんは、楽しかったですか?」 京太郎「ああ。勿論。…小蒔は?」 小蒔「私は…」 ぐっと何かを噛みしめるように、間がおかれた。 小蒔「――楽しかったです。とっても。」 …心の内を表すような、今日一番の笑顔だったと思う。 小蒔「小さいころから、家柄で。学校に親しい友だちは居ませんでした」 小蒔「あ、分家の皆とは仲良しだったんですけどね。親友だとも思ってます。…でも、その中でも扱いには明らかに差が有って」 小蒔「…だから、こんなに…全部忘れて、いっぱいはしゃいで楽しんだのは…」 小蒔「…生まれて初めてだったかもしれませんね」 京太郎「…そっか」 良かったよ。と、小蒔の笑顔に恥じない様に、努めて笑顔で返した。 良い顔が出来ていただろうか。あんまり自信はない。 静寂の質が変わったのを、肌で感じた。 京太郎「…小蒔」 小蒔「…京太郎さん」 呟いたのはどっちが先だったろうか。 先に手を伸ばしたのは、どっちだったろうか。 京太郎「大好きだよ」 小蒔「大好きです」 放った言葉は、同時だった事だけ覚えている。 初めてのキスは、潮の香りがした。 おはり

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