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「健夜「せめて思い出に須賀る」7」(2015/08/17 (月) 20:53:06) の最新版変更点
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「もう、浴衣くらいちゃんと着ようよ……」
「え、私……?」
「ん? 咲、もうちょっとそっち行って。」
「え~? お姉ちゃんこそ場所取りすぎだよぉ……」
「これは姉特権。」
姉妹揃って扇風機の前で陣取ってる。
せめて帯くらい締めようよ……
部屋に戻る途中お説教も兼ねて注意しておく。
「女の子なんだからもうちょっと慎みをもって……」
「ごめんなさい。」
「わかった。」
「気をつけるじぇ。」
じゃないと私みたいなズボラな女になるよ。
部屋に戻ると竹井さんが既に寛いでいた。
温泉入るとき見えなかったけどいつの間に……
「あれ、もうあがったの?」
「というか小鍛治先生は浴衣に着替えないんですか?」
「いやーこの後何か動くかもしれないから私服のままでいいかなって。」
浴衣は良いんだけどね?
でもね、なにかと私服は楽なわけですよ。
緩めのウェストゴムとか貧相な体を誤魔化してくれるだぼだぼの服だとか。
そういう事情もあってか私は浴衣には着替えていない。
しかし染谷さんの表情が何やら下卑た顔つきになっていく。
あれ? 何か嫌な予感がするぞ……?
「よーし! みんな! 小鍛治先生をひんむきんさい!」
「ええぇぇ!?」
「ちょ!? やめてよー!」
「先輩命令は絶対だじぇ!」
こっちは先生だよ!
というかまずい! アラサーのだらしない体が見られるのはまずいって!
そう思う間も無く着替えさせられてしまった……
私のお着替えなんて誰得だよ……
というかこーこちゃんと同じレベルだこの子たち!
「ただいまー……っと。」
「ふぅ……重かった……」
そこに現れたのは重い荷物を運んできた京太郎君だった。
まずい、前に一緒にお風呂入った事は有ったけどその時はまだ私10代の体なんだけど!
今のアラサーボディは本気でまずいって!
「なにやってんすか。」
「京ちゃん、見ちゃだめ。」
「あーはいはい。」
照ちゃんに咎められた京太郎君があっさり引っ込んでいく。
何だその反応は!?
女の半裸を見たんだからもうちょい反応してくれてもいいじゃない!
私が無理矢理浴衣に着替えさせられた後は何事も無かったように練習が始まる。
今卓に着いているのは竹井さん、染谷さん、片岡さん、京太郎君の四人だ。
片岡さんはいつも通りにロケットスタートを決めたが東二局を過ぎてから失速。
今のところは普通に打ってるけど竹井さんに不穏な動きあり。
染谷さんは上手い事立ち回ってる感じかな。
「立直。」
竹井さんの発声と共に牌が曲げられ点棒が置かれる。
片岡さんも染谷さんも明らかに警戒している。
だが警戒の仕方が両者で差がある。
片岡さんは立直されたから警戒している。
でも染谷さんは竹井さんが立直したから警戒しているような感じだ。
付き合いの差や経験の差がここに出ている。
「これ通りますか?」
そう言いながら京太郎君がわざわざ危険牌を捨てる。
明らかな危険牌を捨てるように教えたつもりは無いけどこれは正解。
普段は使わないけど危険を察知してここで感覚に任せて打つ京太郎君を褒めてあげたい。
明らかな危険牌を通したおかげで片岡さんや染谷さんも安牌を合わせ打っていく。
そしてやがて流局。
「聴牌。」
「聴牌。」
「不聴だじぇ。」
「不聴じゃ。」
片岡さんと染谷さんが不聴罰符を支払う。
もう一方のお二人さんは片や無表情、片や不敵な笑みを浮かべていた。
女の子がしていいギリギリの表情だよ、それ。
更に次の局、竹井さんが仕掛ける。
「立直。」
234556m456p11678s
からの6萬切り。
147mの三門張ではなく5m1sのシャボ待ちを取った。
これは読み辛いかとも思ったが京太郎君は少し考えた後、難なく躱す。
一人が危険牌を躱すと残りの二人も回れ右して躱し出す。
これはこのままだと流局かなと思って京太郎君側に回って様子をみる。
3345m8999p123456s
3萬切って立直すれば78p待ちである。
だが京太郎君は突如不自然な打牌をした。
打1索。
明らかに不自然な打牌。
「その牌当たり。」
当然ながら竹井さんは手牌を倒す。
してやったりと思ってるのか竹井さんの口端は上がっている。
ああ、やってしまった。
京太郎君が、ではなく竹井さんが。
次の局のオーラス。
僅か4巡目で勝負が着く。
三巡目の段階で京太郎君が立直をした。
その時点で京太郎君の方から何かが飛び立った。
狙いは竹井さん。
案の定竹井さんは当たり牌を切ってしまう。
「ロン、3900。」
その瞬間、鳥の形をした熱風が駆け抜ける。
火の鳥が竹井さんを狙い済まして突っ込んだ。
あくまでイメージだけど。
前の局で直撃を貰ったり点数を削られるとその減らされた点数分を取り返す火の技。
それがカウンターの火の鳥。
藤田さんが手を焼いた返し技である。
竹井さんは悪待ちをして見事に京太郎君を嵌めてやったと内心ほくそ笑んだんだろうけど残りの局と点数の計算をした京太郎君がわざと差し込む。
そして次の局返し技を発動させた京太郎君が竹井さんを狙い打って逃げ切り。
嵌めたと思った相手に仕返しされるときついんだよね。
若干かわいくむくれっ面な竹井さんの新たな課題発見。
そのあとも面子が入れ替わり立ち替わりして打つが京太郎君に稼ぎ勝ったのは宮永姉妹だけだった。
京太郎君の火の鳥の厄介なところは立直した後に危険牌を出されたときだ。
だけど当たり牌を取れば次の局にカウンターを貰う。
だからと言って見逃した場合は自分でツモるしかない。
そして直撃じゃないからと言ってカウンターが発動しないとは限らない。
払った分だけ返さないといけないのだ。
この戦術に嵌ると二進も三進も行かなくなってしまう。
だが対策は極単純である。
返されないように一発でトばすか。
もしくは返されてもいいようにツモで稼ぎ勝つかである。
そもそも乱発出来るような技ではないので稼ぎ勝つのは難しくはないがそこは自分の腕や運と相談だ。
「それでは皆揃ったわね?」
「じゃあ……いただきます!」
「「いただきます!」」
夜になると皆で夕食を取る。
竹井さんが音頭を取って皆で手を合わせると一斉に食べ始めた。
私はといえば皆が食べているとなりで日本酒を片手に晩酌していた。
「小鍛治先生、あんまり呑みすぎないでくださいよ?」
「明日も早いんですから。」
部の長たる竹井久さんに注意されたが「大丈夫大丈夫~。」と返しておいた。
こういうときくらい羽目外してもいいじゃない、勤務時間外だし。
それにしても美味しいご飯に美味しいお酒、堪らないねこれは。
ご飯も食べ終わり生徒たちは早々に寝ることになった。
流石に男女が同じ部屋で寝るのはまずいし、一部屋に女子6人は狭いので3:3:1に分かれることにした。
因みに部屋割りは竹井さん、染谷さん、片岡さんの部屋と私、宮永姉妹の部屋。
残念ながら京太郎君はお一人様だ。
全員が消灯して布団の中に入ったことを確認して部屋に戻る。
何だか修学旅行の引率に来た先生になった気分だ。
正確には合宿なんだけどね。
自分たちの部屋の明かりを消して宮永姉妹が寝静まった頃を見計らって部屋を抜ける。
そして私はというと夕飯のお酒のロスタイム突入である。
お酒を片手にロビーで一杯。
まだ季節は先だけど夏の月見酒は美味しいものだ。
お酒をそこそこやっているとロビーに人がやってきた。
京太郎君だ。
「どうしたの京太郎君、眠れないの?」
「ええ、そんなとこです。」
「健夜さんはこんな時間にお酒ですか?」
「明日早いから気をつけてくださいね。」
「もう京太郎君までお母さんみたいなことを……」
「私だってちゃんと歴とした大人なんだからそのくらい分別つけるよ。」
「ははは、すみません。」
「健夜さんはまだ飲んでいるんですか?」
「ん~、もうちょっとだけ?」
「あ、もしかして京太郎君一人で寝るのが寂しいとか?」
「あ~、それもありますけど出来れば健夜さんに特訓をつけてもらおうと思って。」
「中学のときのやつがまだ途中だったでしょ?」
「ん、そういえばそうだね。」
「じゃあ京太郎君の部屋でちょっと打とうか。」
そんなこんなで私たちはお酒を片手に京太郎君の部屋に向かう。
京太郎君の部屋は一人で寝るには広すぎるほどだった。
はっきり言っちゃえばこっちなら六人一緒に寝れるのではないのかと思うほどである。
そう思っていると卓を用意した京太郎君が声を掛けてきた。
「健夜さん、手積みでいいですか?」
「うん、いいよ。」
自動卓は音がうるさいので手積みでやった。
久し振りの手積みだ。
酔ってはいるが私の手は滑らかに動いてくれる。
酔ったときほど普段自分の所作の練度が伺えるものだ。
私たちはなるべく音を立てないように牌を混ぜて積んでいく。
さて、今から特訓するわけですが、京太郎君に今必要なのは何かな?
火の鳥もきっちり使えるようになってるし更にそこから付け足すのも手ではある。
しかしこの子は不思議な子だ。
この子とは出逢う度にその性質を変化させていく。
そしてそれは親も生い立ちも。
前と同じことになることが滅多に無いというのも不思議である。
他の子は割とどの世界でも同じなのにね。
気付いたら朝でした。
どうやら酒の勢いに任せて特訓していたらしい。
それにしても頭が痛い……完全に二日酔いだ……
そこいらに転がっているお酒の缶やら瓶やらを片しながら顔を洗う。
布団の中でぐったりとしている京太郎君が気掛かりでは有るけど先生として生徒たちを起こさないといけない。
女子部屋に行くと既に皆は起きていてジャージに着替えている。
なんでジャージ?
その答えは竹井さんが号令と共に出してくれた。
「これから早朝ランニングよ!」
「小鍛治先生も着替えて!」
「ええ……」
朝日が煩わしく鳥の囀りがうるさい。
消化しきったはずの胃の中がシェイクされてひどい気分だ。
吐き気を抑えながら何とか走り切ると私は木陰にへたり込んだ。
う……きもちわるい……
二日酔い最悪……もうお酒は呑まない……
少なくとも一週間は……
あと普段の運動不足が祟って足腰に来た……
そのあと蛙と一緒に川に支流を作ってしまった。
蛙との合唱が終わった後歯磨きをして口を漱ぐ。
色々すっきりした。
部屋に戻って特訓再開である。
まず片岡さんには課題が結構ある。
算数の課題とか。
これは竹井さんの発案なんだけど点数計算が余り得意でない片岡さんのために用意したらしい。
私はそれプラス余った時間にトランプ計算するように指示を出しておいた。
「咲と照はネト麻よ。」
「「え。」」
「家、パソコンなんて無かった。」
「え?」
「うん、打とうと思えばお姉ちゃんや家族で打ったり京ちゃんや健夜さんと打っていたし。」
そういえば必然的に四人集まっちゃうから宮永姉妹はネト麻打たせてなかった。
わざわざネト麻で打つ必要なんて無かったし。
宮永家にパソコンない発言を受けた竹井さんが言う。
「大丈夫、ほら、須賀君。」
「ふふふ、やっと俺の出番ですね……」
促された京太郎君が用意しだす。
袋から取り出したるはデスクトップパソコンと私の私物であるノートパソコンである。
ああ、そういえば車にそんなものを乗っけてたね。
照ちゃんが疑問の声を上げる。
「京ちゃん、二つともノートパソコンでよかったんじゃないの?」
「部にはデスクトップしかなかったんだよ……」
「と言うか重かった……」
「よしよし、えらいぞー。」
ぼやいた京太郎君に片岡さんが慰める。
咲ちゃんと照ちゃんは若干デジタルに弱い面があるから京太郎君が頑張って持ってきた部のパソコンを使わせてネト麻をやらせることに。
「打ち方は須賀君が教えてあげて。」
「はい、ほら咲、照さん。」
「やり方教えるぞ。」
「うん。」
「は、はい。」
こうして練習が始まる。
最初は苦戦している宮永姉妹だったが割りとあっさり照ちゃんは受け入れてた。
咲ちゃんは機械に弱いのか悪戦苦闘している。
照ちゃんはパソコンに慣れてるのかな?
そういえば中学校にあったパソコンって何で壊れてたんだっけ……
ああ、思い出した、福路さんのアレが一番のオカルトだったね。
打っている途中、京太郎君から質問された。
「あの健夜さん。」
「俺はネト麻やらなくていいんすか?」
「京太郎君は問題ないよ。」
「元々デジタルも打てるから。」
「それに照ちゃんとかが来ないときネットで打ってたでしょ?」
「確かに京太郎は割かし理詰めの打ち方じゃな。」
「時折セオリーから外れとるけど。」
「自分では気付かなかったな……」
「まぁ自然に覚えさせたからね。」
「デジタルを感覚で打てるくらいには。」
「そもそも照も咲も優希も抜けてるから抜けられないわよ。」
「須賀君まで抜けたら面子足りないじゃない。」
「それもそうか。」
とはいえ時々照ちゃんと京太郎君と私は交代しながら打っていた。
照ちゃんが入ったら私が抜けて部員を見たり。
私が入ったら京太郎君が抜けてそのままパソコンで打ってたり。
そんなことをしているうちに片岡さんと咲ちゃんから音が上がる。
「牌が見えないよ……」
「全然進まないじぇ~……」
「咲、ネト麻にオカルトは効かない。」
「お姉ちゃん……どうすればいいの?」
「……考えて打つ。」
「苦戦してるみたいね。」
「咲も照さんもネト麻どころかゲームの麻雀すらしたことないはずだし。」
「いい経験になるといいね。」
現段階で底上げしないといけないのは片岡さん、照ちゃん、竹井さん、そして染谷さんである。
特に片岡さんは今のところ一番経験が浅いのか実力が一番下だ。
一体どうなることやら。
「そういえば俺、部長から指示出しされてないんですけど。」
「貴方は小鍛治先生から指示出されているからいいじゃない。」
「というか私じゃどうこう出来るレベルじゃないわよ。」
片岡さんが卓に入ると中々上手く行かないのか凹み始めてきた。
時には私が抜けて部屋を出て行くと生徒同士上手くいくかもね。
そう思って差し入れがてら飲み物を買いに行って戻ると片岡さんが元気になって打っていた。
何かあったのかな?
その後も好調に打っていた片岡さんが逆転トップに返り咲いたりしていた。
「はいこれ、差し入れにジュース買ってきたよ、皆で分けてね。」
「お菓子は?」
「この後ご飯があるから買って来てないよ?」
「そんな……」
「まぁそう落ち込まんで宮永先輩、これから打ち上げじゃから。」
そうして今日の全体練習は終わり、打ち上げにすることにした。
昨日と同じように皆食卓に並んでいただきますと言う号令が掛かると寿司の取り合いが始まる。
参加者は照ちゃんと京太郎君と染谷さんと片岡さんの4人だ。
咲ちゃんと私と竹井さんは呆れながら食べていた。
その後は腹ごなし兼体を絞るために温泉やサウナに入った。
宮永姉妹と片岡さんと一緒に。
しかし羨ましいものだ。
10代とは違って体に結構反動来るからね……
食べた分は消費しないと……
お風呂から上がると宮永姉妹と片岡さんは茹で上がって布団の上で倒れていた。
何でそんなに入っていたのかは謎だけど。
私は全員が寝たことを確認したら京太郎君の部屋に行った。
今日の最後の特訓である。
「京太郎君、特訓するよ。」
「待ってました!」
「そんなに大きな声出したら皆が起きちゃうよ?」
「あ、すみません。」
「それと別にそんなに畏まらなくてもいいからさ。」
「今は二人きりだし。」
「なんなら昔のように私の膝の上に座る?」
「おいおい、勘弁してくれよ健夜さん、俺もう高校生だぜ?」
「逆に私が座るくらいに大きくなっちゃったもんね。」
「手だってほら、あんなに小さくて楓みたいな手だったのに今は私より大きくなって。」
私はそういって京太郎君の手と自分の手を重ねてみた。
「いつの話だよ、俺だって日々成長してるんだから。」
「それよりも特訓の方お願いします。」
「はい。」
私たちは京太郎君の新たな技のために夜通し打っていた。
途中寝惚けた照ちゃんが部屋にやってきて三人になったり。
照ちゃんを探しに来た咲ちゃんも加わって結局四人になったけど。
何だかんだありまして京太郎君の進捗は大分進みました。
合宿が終わり、その後何日もしないうちに県予選がやってきた。
一応その間も京太郎君の特訓もやったので何とか形になったけど別に使わなくても勝てるでしょ。
そして迎えた県予選当日。
私は部員を車に乗せて会場に向かう。
着くとそこには多くの学生と麻雀関係者が集っていた。
中には龍門渕と風越がいるね。
まぁ福路さんと天江選手以外はどうと言うことはないと思うけど。
さてさて、どうなることやら。
藤田さんが解説に来ているとのことだったので軽く挨拶しにいく。
子供たちのことは竹井さんと染谷さんや京太郎君に任せれば問題ないだろう。
なぜそこに三年生である照ちゃんが入ってないのかはお察しである。
「こんにちは、藤田さん。」
「あ、小鍛治さん。」
「こちらには仕事ですか?」
「うん、ちょっと子供たちの引率に。」
「解説じゃないんですか……」
「学校の先生も悪くないよ?」
「そこにケチつける気はありませんけど事務所の社長が寂しがってましたよ。」
「そういえば今年かー、冬季オリンピック。」
「ところで小鍛治先生?」
「ん? なに、藤田プロ。」
「今年の目標は?」
「勿論、団体戦と男子女子個人で優勝。」
「大きく出ましたね。」
「でもやってくれると思うよ、あの子たちなら。」
「確かに。」
「それでは小鍛治さん、私は仕事に戻りますんで。」
藤田さんはくすくすと笑いながら戻っていった。
私も生徒たちの元へ戻るとしよう。
生徒たちが戻ると何か脱力している。
というか肩を落としている?
何事かと思って聞いてみると咲ちゃんが逸れて照ちゃんが勝手にお菓子を買いに行ったとのこと。
何やってるんだあの姉妹は。
全員総出で探し当てると一応涙目の咲ちゃんとお菓子を食べてる照ちゃんと周りに注意しておく。
照ちゃんは王者の貫禄というか何というか、とにかくお説教なんて何処吹く風でお菓子を頬張っていた。
それから少しして竹井さんが部員を集めて説明を始めた。
ちなみに私が仕事しなくていいのは彼女のおかげでもある。
実に楽ちんです。
「みんな、オーダーを発表するわよ。」
「先鋒、照。」
「ん。」
「次鋒、私。」
「中堅、優希。」
「はいよ!」
「副将、まこ。」
「ふむ。」
「で、大将は咲。」
「わ、私が大将?」
「そうよ、部の中で一番実力がある貴女達姉妹が先鋒と大将。」
「こう見えて私、貴女の実力を買ってるんだからね?」
「は、はい。」
その後も竹井さんが大会のルールを細かく説明していく。
咲ちゃんと照ちゃん、そして京太郎君の三人は大会の大まかのところはわかっているし、大会の空気にも慣れているはずなので心配はしていない。
むしろ一番気をつけないといけないのは不戦敗。
特に照ちゃんは前例がある分気をつけないと……
あと咲ちゃんもさっき逸れてたね。
そして先鋒戦が始まる少し前。
京太郎君に送り迎えをさせながら照ちゃんにやる気を出させるような言葉を掛けるように指示を出しておいた。
彼が彼女になんと言ったかは定かではないがやる気十分の照ちゃんは十二分に役目を果たしてくれる。
先鋒戦で相手校がトび終了である。
あーあ、可愛そう。
これしばらく対戦した子、麻雀打てないだろうな。
全く誰だろうね、こんな風に育てたのは。
それから決勝までは照ちゃんが大体50000点以上のリードを出して突き放していた。
私の指示で敢えてとばさなかったのは、流石に経験を積まさないといけない子がいるからである
今の照ちゃんなら多分「全部照ちゃん一人でいいんじゃないかな。」状態が出来る。
少なくとも県予選決勝までは。
途中手の開いてた私と京太郎君で買い物に行った帰り、風越が勝ち上がった瞬間を見た。
そこには人垣が出来ていたけどどうやら福路さん率いる風越が和気藹々としているらしい。
何が起きているのか京太郎君の背ならば見えるのだろう、誰かと目が合ったのか鼻の下を伸ばしながら手を振っている。
ちなみに私は150台なので見えません。
まぁ誰に手を振っているかなんて考えなくても分かるけどね。
どうせ憧れのお姉さんでしょ。
お昼を食べにやってきた食堂。
中では沢山大会参加者で賑わっている。
そこを早めに席を取っておいた京太郎君がこっちに気付き手を振って呼んでいる。
席に近づくと気付いたのだけどそこには藤田さんも座っていた。
まぁ知らない仲でもないし不思議ではない。
「お邪魔してます小鍛治さん。」
「藤田さんもこれからお昼なんだ?」
「ええ、食べに来た時見知った顔が居たのでご一緒させてもらおうかと。」
そう言いながら藤田さんは京太郎君の顔を一瞥する。
事務所でよく打って貰ったとは言え、何となく気が合う二人だよね。
思い出したことを話題にして振る。
「そういえば藤田さん、うちの教え子と雀荘で打ったんだっけ。」
「そうですよ、この間知り合いに『打ってくれー』って泣き付かれて会ったのがこの三人でしたからね。」
藤田さんがおどけた風に言って宮永姉妹と京太郎君に視線を送る。
京太郎君と咲ちゃんは笑っているが照ちゃんは完全にスイーツの虜で話は聞いてないようだった。
若干竹井さんの顔も不機嫌そうだったのも付け加えておく。
ご飯も食べ終わると藤田さんが仕事に戻るらしく席を立った。
そのときに注意もされた。
「龍門渕の天江衣と風越の福路美穂子。」
「そう簡単にはいかないと思いますよ。」
福路さんの脅威に関しては照ちゃんがよく知ってる。
藤田さん言葉を受けた照ちゃんは口には出さないけど言われるまでも無いといった感じの顔をしている。
決勝は今日行われるわけじゃないけど、はてさてどうなることやら。
県予選準決勝が終わるとすっかり遅くなっていてみんなを送る前にラーメン屋に寄った。
「いただきます。」
「タコスラーメンってないのか?」
「流石にタコはねぇなぁ。」
「今日は私のおごりよ。」
「おかわりもあるからじゃんじゃん食べちゃって。」
「そんなこと言いおって。」
「どうせ小鍛治先生に奢らせるんじゃろ?」
「あら、そんなことはないわよ、まこ。」
「いやいや、流石に生徒に奢らせるわけにはいかないよ。」
「さっすが健夜さん! 太っ腹!」
「私のアラサーボディは関係ないよ!」
軽くコントしながら麺が伸びない内に食べていく。
その間に反省会というかそういうものが自然と開かれていた。
「今日思ったより打てなかったじぇ。」
「あ、それ私も。」
「わしもじゃ。」
「咲ちゃんは大将だからなー染谷先輩は副将だし。」
およそ回らなかったことへの不満と言うか肩透かしに対する脱力感から来る愚痴だろうか。
そんな言葉が出てきたのだろう。
それに対して竹井さんがぴしゃりと言う。
「先鋒で張り切りすぎた照が悪い。」
「次鋒ではっちゃけた久が悪い。」
照ちゃんも負けじと言い返す。
またいつもの問答が始まった。
この二人仲は良いんだけど喧嘩友達と言うかそんな関係に近いと思う。
「まぁまぁ、照さんも部長も落ち着いてください。」
「むぅ……京ちゃんがそう言うなら。」
「そうね。」
「優希や咲や染谷先輩もそんな愚痴ること無いですって、どうせ決勝では打つことになるんだしさ。」
「すまんな、京太郎。」
「お前さんのことを考えるとわしらはまだええほうじゃの。」
「そうですよ、俺なんか個人戦まで打てないんすから。」
確かに京太郎君暇してたよね。
明日は何かすること用意しておこう。
決勝戦当日。
私は控え室に皆を置いて部屋を出た。
ちょっとした関係者との挨拶とついでの花摘みである。
先鋒戦が始まる頃に控え室に戻ると空気がおかしかった。
モニターでみる照ちゃんはやたら怖い顔をしている。
竹井さんがぼやいている。
「照の目、完全に殺る気ね。」
「ねぇ……何で照ちゃんあんなに怒ってるの……」
私は京太郎君に聞いてみた。
そうすると京太郎君が答えてくれた。
「いやその……実は照さんを送るときに龍門渕の先鋒にあったんだけど……」
「その時照さんの持ってたお菓子を差し入れと勘違いして食べちゃったんですよ。」
「ああ……」
「これはご愁傷様じゃな。」
『生かして返さん!』
『お菓子の恨みを特と知れ!』
『これはお菓子一本分!』
『おおっと!? 清澄の宮永照選手、怒りの倍満です!』
アナウンスが照ちゃんの和了りをコールする。
照ちゃんが二回、三回と和了って行く。
しかも高火力で。
怒りのせいか、それとも戦術の内か。
連続和了を取らなかったのは敢えてだとは思うけど。
なぜならあの場にはライバルの福路さんが居るから。
尚も龍門渕から和了る照ちゃん。
それを見た竹井さんが質問する。
「……ねぇ須賀君、照は何本場までいくと思う?」
「照さんはプリッツ派なんで入ってたお菓子の本数で考えると30本ぐらいまで行くんじゃ……」
「ただまぁ、風越の先鋒も只者じゃないのですんなり行くとは限らないですね。」
「案外冷静なのね、須賀君は。」
「それとも先鋒の人が気になるのかしら?」
「元先輩っすから、ただまぁ応援するのは照さんのほうですけどね。」
『ポ、ポン!』
『おっとここで龍門渕、鳴いて来た!』
「須賀君、どう思う?」
「鳴いてずらしたんでしょうね。」
「前に健夜さんから流れを読んで変える人が居るって聞いたことありますから。」
「有効な手ではあるとも思いますけど、照さん相手だと……」
『ポン!』
『だが宮永選手、鳴き返す!』
『ロン! 18000!』
「こうなります。」
「なるほど。」
「というか何で俺聞くんですか……咲や健夜さんでもいいでしょうに。」
「あら、昨日暇してたのは誰かしら?」
「俺ですね。」
「それに復習も兼ねてやってるだけよ。」
「……お気遣い痛み入ります。」
『半荘終了! 清澄前半戦で大きくリードしました!』
後半戦が始まる前に京太郎君にお菓子を持って行かせた。
流石に勘違いで人のお菓子を食べてしまったとは言え井上選手がかわいそうだったから。
モニターで見ていると京太郎君だけではなくライバルである福路さんからもポッキーを貰っていた。
さっきまでとは打って変わって幸せそうな照ちゃんの顔がモニターで中継されていた。
怒りは大分収まったとはいえそれでも若干龍門渕を睨んでる。
そろそろ許してあげようよ。
井上選手が涙目になってるよ。
京太郎君はお菓子を上げた後福路さんと会釈していた。
憧れの大好きなお姉さんと会えたとはいえなんともだらしない顔である。
これ中継されてること忘れているんじゃないかな?
そうしているうちに後半戦が始まった。
『ロン、16000。』
『おっと、宮永選手先ほどの前半戦と同じくまた和了りました!』
『ツモ、4000オール。』
『今度は福路選手! これは反撃の狼煙でしょうか!』
若干うるさく感じる実況は置いといて福路さんが動き出した。
これから上手く動かなければ流石の照ちゃんもまずい。
『ポン!』
『チー!』
『井上選手、連続で鳴いています!』
『ロン、18000。』
『またしても福路選手の和了! 宮永選手との点数差が縮まっていきます!』
ほら、掌の上で踊らされてしまう。
照ちゃんがもっと冷静なときならそんな風にならないのに。
あーでも、鶴賀学園が空気で、龍門渕涙目だけど先ほどまで照ちゃんが派手に和了ってたから徹底マークされているね。
ここからは如何に逃げ切るかが勝負どころかな。
『先鋒戦終了!』
『風越は圧巻の153200点!』
『続く清澄は148300点!』
『三位鶴賀は風越に削られて63500点!』
『去年全国出場の龍門渕はまさかの35000点で四位です!』
対局室から戻ってきた照ちゃんが涙目で語る。
「美穂子に稼ぎ勝てなかった……」
「しかもあのでかい人にはお菓子取られた……」
「もう泣きたい……」
そうかー、泣きたいか……
でも龍門渕と鶴賀はもっと泣きたいと思うよ……
続いて次鋒戦、出るのは我らが部長の竹井さん。
下手したら決勝戦がここで終わるかもしれない……
そんな思いを抱きながら見送ると咲ちゃんが竹井さんに懇願していた。
「あ、あの部長!」
「トばさないで! かつ一位でお願いします!」
「咲、勝負は時の運よ。」
「だから何があっても文句は言いっこなしでお願い。」
「ええ~そんな~……」
「咲。」
「お姉ちゃん……」
「我が儘言わない。」
「あんなひどい事したお姉ちゃんには言われたくないよ!?」
「あ、あれは……お菓子が悪い。」
「んもう!」
照ちゃんは分が悪くなったと感じたのかお菓子を食べながら京太郎君の隣に座って凭れ掛かった。
ああ、もう、京太郎君の膝にお菓子のくずが掛かってるよ?
次鋒戦が始まる。
次鋒戦では各校からうちがマークされているがそれをひらりひらりと躱して竹井さんは風越をピンポイントで狙っていく。
+3900、+5800、+2000とうちが風越を削っていく。
どうやらマークされているのは風越も同じようである。
風越は風越でツモや直撃で削られていき龍門渕や鶴賀に点数を与えてしまった。
先鋒にエースを据える事はよくあることとはいえ少し目立ちすぎたようだね。
それからも風越の苦戦は続く。
これなら悪待ちを使わなくてもいいね。
切り札を切る時はちゃんと見極めないと。
そうしているうちに次鋒戦は終了して結果は……
龍門渕は58300点。
鶴賀は88200点。
風越が111000点の。
清澄142500点だ。
勝負は時の運とか言いつつもきっちり後輩に経験を積ませる気であるところは竹井さんらしいとも思える。
途中四暗刻が鶴賀から出たのはびっくりしたけどそれでも大きく崩さない。
むしろマークして危険を避けたり、逆に大胆に攻めて風越や鶴賀のペースを崩す。
伊達に麻雀部の部長はやってないって事かな。
少しすると竹井さんが戻ってきた。
「あー、肩が凝ったわ。」
「須賀君、飲み物とお菓子と肩揉んで。」
「はいはい。」
「あの、部長。」
「ん~? な~に咲?」
「ありがとうございます!」
「いいのよ、それに勝負は時の運だって言ったでしょ?」
「たまたま運よくそうなっただけよ。」
「京太郎! タコス予備あるか!?」
「おうよ。」
「よくやった!」
「えらく用意がええのう?」
「どうせ優希のやつが早弁でタコス減らすかなと思って用意しておいたんです。」
「お前はよく出来た犬です!」
「んなこたいいからさっさと行って来い。」
「いってきま~っす!」
片岡さんが走って対局室まで向かっていった。
今の点差なら早々トぶことはないと思うけど東場は致命傷にしかねない破壊力があるから竹井さんの調整が無駄になる可能性もある。
何しろ彼女は点数の移動計算が怪しいから。
片岡さんの試合がある程度進むとお昼を買いに行っていた京太郎君が帰ってくる。
割と遅かったので理由を尋ねてみた。
すると迷子を見つけたので案内していたとの事。
君は何かと迷子に縁が有るね。
事前に片岡さんへ出した注文は極単純なもの。
『出来るだけ稼いで失速したらベタオリか安手で流せ。』
それ通りにやってくれた片岡さんは最初に40000点近く稼いで10000点吐き出す。
それを二回やった。
つまり計60000点ほどの稼ぎ。
結果としては各高校の点数は……
龍門渕は堅実な打ち方で52500点。
鶴賀は守りが上手かったがツモで削られ63500点。
風越は場慣れしていない選手だったのか周りの勢いに呑まれて失点し78900点である。
うちは片岡さんが頑張って注文を守ったおかげで205100点だ。
トップのうちと二位の差は126200点差。
まだ二人分打てるとは言ってもかなり厳しくなってる。
折角竹井さんが上手く調整したにも関わらずこれである。
しかも副将は試合巧者の染谷さんに大将は咲ちゃん。
多分クソゲーと言われても仕方ない。
お昼ごはんを食べた後、副将戦が始まる。
対局室に向かう染谷さんにアドバイス。
『南場過ぎたらロンは禁止。』
『あと龍門渕より鶴賀に注視する。』
たった二つだけど染谷さんは要領も察しも良い方だからこれで問題ない。
慌てず騒がず、目立たず、さりとて相手を活かさず殺さず。
それが染谷さん。
副将戦、始まります。
染谷さんは探る。
相手を探り河を視る。
そこからアナログとロジカルの組み立てが始まる。
『ロン、3200ですわ。』
『風越による龍門渕への振込み!』
『最初に和了ったのは龍門渕透華選手!』
それから染谷さんはちょこちょこ和了っていく。
清澄へ風越が放銃。
龍門渕へ風越が放銃。
清澄へ龍門渕が放銃。
染谷さんが的確に河を形成していくので周りは和了りづらくなっていた。
後半、鶴賀に対し龍門渕が放銃。
全くの無警戒の所に突き刺さる。
これを視て染谷さんは驚いた表情をした後、察したように口角を上げる。
次の瞬間染谷さんはメガネを外して頭に乗せる。
あれで見えないものを見えるようになれば苦労はしないが染谷さんは振り込まなかった。
だからと言って直撃を取れたとはいえないけど。
龍門渕が鶴賀に二回振り込んだ後、風越は他の三校に削られていく。
染谷さんの打ち方がデジタルにシフトして鶴賀を見抜く。
『そいつじゃ。』
『7700の一本付けで8000。』
まだ隠れ切れていなかったらしい東横選手の尻尾を掴んで叩き込んだ。
多分デジタルのシフトと鶴賀に注視している事、それに眼鏡を外したのと隠れ切れていなかったことが直撃に繋がった。
東横選手はその後も鳴りを潜めて染谷さんを警戒していたが普通の打ち方にシフトして風越から点を奪う。
そして副将戦オーラス。
『おお、すまんツモった。』
『8000・16000じゃ。』
『どうやら分はわしらにあったようじゃのう。』
『副将戦終了!』
『清澄が緑一色で和了りました!』
『龍門渕は稼ぎましたが清澄や鶴賀に削られ43200点。』
『鶴賀も盛り返すも役満の煽りを受けて64400点。』
『風越は全校から削られて33400点。』
『そして清澄、役満を和了って259000点で他を全く寄せ付けません。』
『これはもう清澄の勝利が確定でしょうか。』
副将戦を終わらせて帰ってきた染谷さんが疲れたといった感じで喋りだす。
「いや~、小鍛治先生のアドバイスが無かったら振り込んでたとこじゃった。」
「本当はもうちょい稼ぐつもりじゃったんだがのう。」
「よく言うわよ、50000点オーバーを叩き出したくせに。」
そう言った竹井さんはやれやれと言った感じで首を振った。
残るは大将戦のみ。
うちの大将は咲ちゃん。
しかも259000点持ち。
これはひどい。
咲ちゃんが対局室に向かう際京太郎君が送ってくれることになった。
京太郎君は世話焼きだね、それじゃあダメな女の子増えちゃうね。
でもこのまま行ったら京太郎君が私の世話してくれるから将来安泰。
あ~女としてダメになるぅ~。
不意に咲ちゃんが向き直って聞いてきた。
「健夜さん。」
「私団体戦って初めてなんですけど終わった後って何を言えばいいんですか?」
そういえば悉く先鋒や次鋒がトばしてしまったから咲ちゃんまで回ってなかったっけ。
特に言うこともないし普通に「ありがとうございました」でいいんじゃないかなとも思ったけど。
可愛い教え子の質問だ、多少緊張を解す為にも何かアドバイスしておこう。
「『楽しかったですね』とか。」
「若しくは『また打ってください』とかでいいんじゃないかな?」
「わかりました、ありがとうございます。」
そう言った咲ちゃんはぺこりとお辞儀して京太郎君に連れて行かれた。
数分して京太郎君が戻ってくると持ってきたノートパソコンを開きだす。
しかも照ちゃんを誘ってネト麻をしだす始末。
余りのことに思わず竹井さんが聞いた。
「二人とも咲の試合を見ないのかしら?」
「大丈夫ですよ、咲は負けませんから。」
「ん、それよりも多分下手したら見ないほうがいいかもしれない。」
「今の咲は浮かれているから普通の人は精神衛生上よろしくない。」
「照にそこまで言わせるなんて……」
「二人とも薄情だじぇ。」
「絶対の信頼があるからとも言えるが……それよりも先輩の発言が気になるのぉ。」
何となく分かった。
そうこうしている内に大将戦が始まる。
もしここで咲ちゃんが負けたら罰として私結婚してあげるよ。
大将戦の東一局が進み咲ちゃんが一向聴から動かない。
天江選手から点を取って勝ち進もうと言うオーラが画面越しにひしひしと伝わってくる。
咲ちゃんが少し悩んで切る。
『ロン、12000。』
『龍門渕の天江選手、跳満の和了です!』
振り込んだ咲ちゃんの顔を見るとにっこりと喜色満面笑みを浮かべていた。
サキチャンヨカッタネ、イイオトモダチガデキソウダネ。
東二局。
『ポン。』
速攻で鳴いて行く咲ちゃん。
ずらされた分を元に戻す天江選手。
明らかに実験で和了りを潰している。
四面子一雀頭だからどうやっても鳴けるのは一人四回まで。
しかも咲ちゃんには加槓があるからさらに鳴ける回数が増える。
槓すると嶺上牌が繰り上がって海底牌がずれる。
咲ちゃんはそこを理解して海底を握り潰す気だろうね。
『ツモ、海底ドラドラです。』
咲ちゃんは何で皆和了らないの?って顔をしている。
多分和了らないんじゃなくて和了れないんだよ。
天江選手すごい驚いてるよ。
東三局。
『ポン。』
またもや鳴いて攻めていく咲ちゃん。
明らかに槓を想定した鳴き方だったので鶴賀の選手が狙っている。
咲ちゃんが加槓するのかと思ったが手を止めて別の牌を切った。
そうだね、散々福路さんと照ちゃんと京太郎君相手に槓対策を講じられてたもんね。
今更槍槓に何か掛からないね。
一巡後別の牌を暗槓して嶺上牌を摘み取る。
聴牌したあと敢えて待ちが少なそうな方を切る。
しかもその後槍槓狙っていた相手に直撃。
咲ちゃん相手の手牌読みすぎ!
その後のDieジェストはひどいものだった。
槓して削る。
普通に和了って削る。
直撃して削る。
減らしすぎたら露骨な差込で延命処置。
麻雀打てなかったことに相当不満抱えていたんだろうね。
いかにも『今まで楽しめなかった分取り返すぞ!』って表情でした。
前半戦が終わる頃には龍門渕が2600点、鶴賀は2300点、風越は咲ちゃんから延命を受けての300点。
ただただむごい。
まだ後半戦は始まってないのにカタカタと三人は震えている。
一人は俯き、一人は涙目で。
そして最後の一人が何かブツブツと呟いている。
マイクでは拾えなかったけど唇を読んで理解した。
『トばすならトばせよ……』だそうだ。
まるで裁判を待つ被告人のような三人に同情は湧くけど我慢してとしか言いようがない。
そして時間が来て後半戦というか公判が始まった。
東一局。
咲ちゃんは和了らない。
全員和了らない。
しかも全員不聴。
これに腹を立てたのか咲ちゃんからオーラが飛び出ている。
なんというか「さっさと和了れよ」と言ってるようなオーラだ。
やたら三人がびくびくしてる。
ああ、他の人が和了らないと点数動かないもんね……
そこから無理矢理咲ちゃんが他の人を和了らせていく。
そのまま南場に突入。
そして南二局が過ぎた頃一気に回収し始めた。
解説実況までもが絶句していた。
そして迎えたオーラス。
「カン、ツモ、1300・2600です。」
「ありがとうございました。」
「「あ、ありがとうございました……」」
カタカタと震えて目の光がなくなった鶴賀。
涙を流しながら俯く龍門渕。
突っ伏して身動き一つない風越。
最終点数は清澄400000点ピッタリ。
他の三校オール0点。
しかも咲ちゃんは個人で前半戦135800点稼ぎ、後半戦だけを見ると30200点で±0である。
知ってる? 咲ちゃんこれでまだ本気出してないんだよ……?
だって家で打ってたときは裸足だったもん。
こんなにひどい状況になったのはすこやん悪くない。
フラスト溜めさせた姉と部長の二人のせい。
すこやん悪くない。
そうしてすっきりした咲ちゃんが冷静になって周りを見ると自分がやったことに対する惨状が分かったのか何か言葉を出そうとする。
多分フォローのつもりなのだろうけどかなりテンパっていたものだった。
「そ、その……」
「ま、麻雀って楽しいよね!?」
「もっと一緒に楽しもうよ!」
その言葉に天江選手も池田選手も加治木選手も驚き慄いていた。
流石の私でもその状況では追い討ちになるからその言葉のチョイスはしない。
何か言葉を掛けようとした結果がこれ。
魔王咲ちゃんここに爆誕である。
将来が有望だなぁ……