「淡「雲の切れ間に」京太郎「星が瞬く」1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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須賀京太郎にとって東京という土地は、憧れと、驚きと、そして若干の嫌悪を抱かせる場所であった
長い期間開かれるインターハイ。その最中選手たちはずっと麻雀に明け暮れるのかというと、決してそうではない。
地方から集まった生徒たちは高いビルにはしゃいだり、迷宮のごとき駅の内部に辟易したり、たまに漂う奇妙な異臭に鼻をつまむ羽目になったり、形は様々ではあるがエンジョイしているものが多い。
特に試合に出る選手たちは息抜きという名目で遊びまわるものも多いようだ。
そんななか、須賀京太郎は麻雀に明け暮れていた。
「……ぉ、ツモ。500.1000」
「あちゃ、逃げ切られたか……」
「ふぅ、危なかった」
僅差で逃げ切った京太郎は手元のスコアシートに対局の結果をサラサラと記し、手持ちのカバンに押し込んだ。
「いやぁ、結構やるねあんた」
「いや、マジで運が良かったよ。白の暗刻が配牌で来てたからな」
上家の学生と軽く感想を交え、時計の針にちらりと目をやる。5時を少し回ったばかりである。
「ん、そろそろお暇するかな」
京太郎は席を立ち、支払いを済ませて、雀荘を後にした。
(東京のいいところは、ノーレートの雀荘がたくさんあるってところだな……)
地元でノーレート雀荘といえば、京太郎は一つ上の先輩染谷まこの家、roof-topしか京太郎は知らない。
しかしさすが東京というべきか、メジャーなゲームで、学生にも大流行の麻雀を行うためのノーレート雀荘はそこかしこにある。
おまけに今はインターハイの真っ只中。付き添いできた部員やら、見学に来て熱に当てられたものやらで街は溢れかえっている。
雀荘に入り席に着けばものの数分で四方が埋まり、すぐにゲームを始められる。数をこなすには絶好の環境に、京太郎は歓喜した。
始まりは、長野県で行われた大会にて、一回戦で敗北したことだった。
悔しかった。歯噛みした。しかしそれは理性で抑えられる範囲であった。
自分たちの大会もあるのに、しっかりとアドバイスをくれた先輩や同級生の面々に申し訳が立たなかった、しかしそれは顔を出せぬほどではなかった。
前よりも麻雀に費やす時間が増えた。しかしそれは可能な範囲、常識の範疇であった。
じわりじわりと麻雀という競技の熱が京太郎を蝕んでいたが、それはまだ仄かな光を発し始めた、熱してる最中の生鉄だった。
それに一気に火が通り、バチバチと火花を散らすほどの熱を帯びさせたものは、インターハイの第二回戦、清澄、宮守、永水、姫松の戦いだった。
痺れた、といった表現がおそらく当てはまる。京太郎は仲間たちの戦いを、対戦相手の強さを、間近に見せつけられた。
そして、その激しい戦いの最中にこんな考えが脳裏をかすめた
『俺もあんな戦いをしてみたい』
闘争心に火がついたら居ても立っても居られない。
二回戦インターハイ五日目、試合が終わった直後に京太郎は街へ飛び出した。最低限の荷物だけを持って雀荘に駆け込んだ。
そして、店から締め出される時間まで対局に夢中になった。
体の中の熱をできる限り吐いた京太郎は、しかしまだ体の内側に燻る火種に高揚しながら、呟いた。
「楽しいじゃんか」
前々から知っていた、とは言わない。
こんなに楽しいのは初めてだった。明確な目標を持った麻雀は楽しかった。
『彼女たちのように打ちたい』
その熱だけが、京太郎を変えた。
「明日は準決勝、か」
それなりに遠くの雀荘にいた京太郎は、ホテルまでの帰路をのんびりと歩いていた。
「……なんか、差し入れでも買ってくかな」
今頃メンバーは明日戦う対戦相手の対策会議でも開いていることだろう。甘いお菓子あたりをもって激励に行こう。
そう思った京太郎は、長野のものよりもだいぶ小さいコンビニへと入った。
「いらっしゃいませ」
店員の無機質な挨拶を聞き流し、お菓子コーナーに目を通す。
(んー……なにがいいかな?きのこたけのこは余計な争いが生まれたらやだし……アルファート……とか、あとは雨なんかもいいかもな)
適当に量のあるものを引っ掴みカゴに放り込んでゆく。そして会計に向かう前に、雑誌コーナーに立ち寄ってみた。
(お、最新号だ)
思えば今日は愛読する雑誌の発売日だったか。
これ幸いと雑誌を手に取りパラパラと京太郎は目を通す……
……
……アア
……アアアアア
(……ん?)
ふと、なにやら叩きつけるような音が聞こえる。思わず読みふけってしまった京太郎は顔を上げた。
そこは、ガラス越しの滝が見えた。
「……うわ、マジかよ」
雨である。土砂降りである。天地を逆さまにしたとはこのことか。
5秒で全身が濡れ鼠になるであろう夕立の中を慌ててかけてゆく人や傘をさす人、水を弾き飛ばす車が行き交っている。
「……あ、やべ」
京太郎はコンビニの入り口近くに目を向けた。そこには傘コーナーがあったが、黒いビニール傘一本しか見当たらない。
「やばやば」
雑誌を戻し、傘へと駆け寄る。この雨の中を走って帰るのは避けたいところだ。
最後の一本を手に入れようと京太郎は腕を伸ばし……
「ふぃ~やばかったー!」
突如水の塊がコンビニの中に飛び込んできた。
なにやら黄色と白が混ざったような……水っぽい何かである。京太郎や店員が目をぱちくりするのを意にもせず、水塊はバチャバチャと体を振っている。
「えーと、タオルと、傘傘……」
思いの外かわいらしい声をしているその水はまず近くのタオルに目をつけたようで、それを手に取った。そして反対側に設置されていた傘にも目をつけてを伸ばし……
「ん?」
目があった。それはもうバッチリと
垂れ下がった濡れそぼった前髪から覗く瞳は、その惨めな惨状とは反対にキラキラと輝いていた。
さながら星のようだ、と京太郎は思案する
お互い傘に手を伸ばした姿勢で、少しの間、見つめ合う
「……どうぞ」
京太郎はおそらく女であろう相手に、最後の一本を譲った。流石にここで傘を取ってしまってはカッコが悪いと、男の子のプライドが叫んだのだ。
「ほんとに?ありがとっ!」
髪の隙間から覗く……多分、整った顔立ちの女はにっこりと笑うと傘を手に取り、レジへと向かった。
(仕方ない、走って帰るか……)
京太郎は苦笑し、ガラス戸の外へ目をやる。雨の勢い未だ止まず。明日風邪を引くことにならなければいいが……と考える。
相手レジで会計を済ませた後、出入り口でかるく屈伸をする。そして、コンビニの外へ……
「えー、お会計800円になります」
「はーい……あ」
「……お札、ずぶ濡れ、小銭もない」
「……申し訳ありません、その……それ、お札、ですか?」
「……わからない」
深くため息を吐いて、京太郎は再びレジへ向かった
「やーありがとー!助かったよ!まさか財布の中身がずぶ濡れなんて想像もしてなかった!」
タオルでゴシゴシと髪を拭う女を京太郎は……先ほどより若干引きつった苦笑で応じた。
「いやいやいいよ。傘を譲ったついでだ」
「ごめんね、お金出させちゃって。絶対返すから!」
一通りぬぐい終わった彼女はまだ湿った髪を手櫛で整える。すると……10人いたら12人が美少女というであろう美貌か姿を現した。
眉目秀麗だのなんだの様々な褒め言葉が当てはまるであろう顔立ちの中で、一際目が魅力的だった。
夏の満天の夜空のような輝きを宿すその瞳は、見るものを捉えて離さない。
「お、おう……」
部活仲間も美少女が多いが、それとは別で、明朗快活でありかつ、美術品のような美しさを持つ不思議な魅力の少女だった。
「ねぇ、名前と連絡先教えてよ。また連絡するから」
「おお、俺は須賀京太郎。今携帯出すから待ってろ」
美少女に連絡先を聞かれる、という時点で京太郎は先ほどの傘タオル計800円の支出の価値はあると思った。若干舞い上がりつつ、京太郎は懐から携帯を取り出す。
「ふーん、キョータロー、覚えたよ!私は大星淡!ちょっとまって、スマホスマホー」
濡れそぼった服を漁り、淡も携帯を取り出した。
お互いの連絡先をいざ交換しようとして……
「……携帯、つかない」
「……」
深く深く、京太郎はため息を吐いた
結局京太郎は、口頭で電話番号を教えた後に恐ろしいほどの土砂降りの中をホテルに向かって全力疾走していた。
大星淡の二の舞にならないように、店員にビニール袋を数枚貰い、それで何重にも貴重品や買った品を包むという工夫を凝らしてある。
一緒の傘で行く~?という淡の提案は大変、それはもう大変魅力的であったが京太郎と淡のホテルは真反対の方角にあり、とても往復する暇はなかった。
「はしるーはしるー、おれーたーちー……」
中学時代のハンドボールで鍛えた体力にはまだ余裕があるが、容赦なく降り注ぐ水が体温を奪っていき、おまけに視界も悪い。今日は麻雀ではそれならに勝てたが、厄日と言わざるを得なかった。
ようやく宿にたどり着いた京太郎。
透明の自動ドアの向こうでずぶ濡れの京太郎を店員が少し嫌そうな顔で見たが、しまってあったタオルで体を拭い始めるとすぐ笑顔になった。
(やれやれ、水を滴るいい男にもサービスは無しか?……なーんて)
とりとめのない考えをしながら服に染み込んだ水を絞り出し、肌に張り付いた水滴その他もろもろをぬぐい落とす。
(……果たして、連絡し返してくれるかね?)
連絡先を互いに交換すればよかったが、京太郎は淡の電話番号を聞けなかった。なんと自分の番号を暗記していなかったのである。
絶対連絡すると淡は言っていたが……
(まぁ別にいいか、800円くらい)
800円で美少女に恩を売り、その報酬は夕立の中のランニング、少々どころではなく気落ちするが、表情には出さない。
「さて、冷えちまったし風呂でも入るか」
それなりにさっぱりした京太郎は、水ががぼがぼとなって気持ちの悪い靴を踏み鳴らしホテルの中へと入った。
…
……
「あら、須賀くん」
「んぉ?」
大浴場近くで風呂上がりの牛乳を一気飲みしていると後ろから声をかけられた。
振り返ってみれば、我らが清澄麻雀部の部長にして策略家、竹井久の姿があった。手にはタオルの入ったカゴを抱えている。
「もうお風呂入ったの、早いわね」
「はは、ちょっと集中砲火を受けまして……そういう部長こそ」
「夕飯前にさっと入っちゃおうと思ってね」
時計を見てみると短針は6を長針は2を指している。
こうなると入浴時間は40分程度、風呂上がりのケアを含めるともっと余裕がなさそうだ。女性は長風呂と思っていた京太郎は少しポカンとする。
「いやだって、暑い部屋に五人寄り集まってあーだこーだ頭働かせたら汗かいちゃったんだもん」
少し恥ずかしそうに久は笑う。試合中は大胆不敵にして相手の裏をかき思考を引っ掻き回す、悪待ちの部長とは同一人物とは思えないほど、その仕草は可愛らしい。
「で、どう?今日も雀荘で打ってきたんでしょう。勝てた?」
「まぁまぁ、といったところですか……その話は後の方が良さそうですけと?」
「え?あぁそうね、流石に時間が……また後で、みんなでお話ししましょ」
じゃねー、といって久は女湯へと駆け込んで行く。
軽く手を振って見送った京太郎は、瓶をカゴにつっこみ自分の部屋へと戻った。
「……ん?」
ホテルで自分にあてがわれた、女子メンバーとは距離のある部屋。
京太郎は充電器を差し込んであった携帯電話を開いてみると3件の着信履歴があった。
三軒全部同じ番号で、約2分おきに掛け直されていてそこから電話は来ていない。
「……」
なんとなく電話をしてきた人物がわかった京太郎は、何の疑いもなくその電話番号へと電波を飛ばした。
……数回ほどのコール音が響き、その後
「はいはーい大星淡でーーーす!!」
左耳から右耳へ点棒が貫いていったような大音量である。たまらず京太郎は頭を離し顔をしかめた
「あれ?もしもーし、きょーたろーだよねー?もしもーーーし」
「聞こえてるよ、てかうるせぇ、大星淡さん」
「なんだー、聞こえてたなら返事してよー!こちとら何回も電話かけたんだからねー!」
やかましいやつである、たまったものではない。
「はいはい申し訳ない……で、淡さん」
「気さくに淡様と呼んでくれて構わないよ」
「大星さん」
「……淡でよろしく」
「おうで、淡。何の用……ってのはわかってるけど、しっかり連絡してくれたな」
「あったりまえじゃん!恩はしっかり返すもの!仇と同じくね!」
少々喧しいものの、京太郎はこの淡のさっぱりとした物言いが嫌いではないようだ。少しだけ口角を上げて会話を交える。
「でー、コンビニで京太郎がいってたホテルの名前で調べたら場所はわかったんだけどさ、今日はこんな雨だし明日は準決勝があるから、ちょっと無理そうなんだよね。明後日まで東京にいる?」
「おう、勿論……ん?」
受け答えの後、少し考える。
明後日まで、というのは問題ない。明日の準決勝、清澄は必ず勝つだろう。万が一、いや那由多が一決勝に進出できないとしても、個人戦に出場する咲と和の付き添いでまだまだこのホテルに居座ることになる。
問題は……
「準決勝?」
「そ、準決勝。淡ちゃんは高校100年生の大将だから忙しいのだ!」
そう、準決勝である。言い草からして応援ではなく選手として出場するということであろう。そして、大将という言葉……
「白糸台の、大星淡?」
「え、今気づいたの?」
まったくである、勉強不足である。今この瞬間まで須賀京太郎は大星淡が白糸台の大将ということまで気がつかなかった……否、そういえば特集雑誌に名前が載ってるのを見たと思うし、清澄の会議においても名前を聞いたような気がする。
「……いやすまん、そんなやつと偶然コンビニで知り合うとは思ってなかったからな」
「んー、まー、それはしょうがないかー。この私と知り合うという幸運で頭の中が全部白になっても無理はない!」
「いやそういうんじゃなくてフツーに忘れてた」
「……」
沈黙。
「ともかく!そっちの都合がいいなら明後日にはお金持って届けに行くから、電話に出られるようにしておいてね!以上!じゃねー」
そして唐突に電話は切られた。言いたいことを言われるだけ言われて終わった……いや、何度か冷たい返しをしたが
「……偶然ってあるもんだな」
携帯を再び充電器へ。京太郎は奇妙な出会いに驚きを感じながら、ホテルの食堂へと向かった。18.52分。もうすぐ夕食である。
ここのところ毎日食べてはいるが、ホテルの飯というのはうまいものである。スコールめいた雨の中マラソンでカロリーを多めに消費した京太郎はそれを補わんとかたい腹筋を押し上げるほどに胃の中を埋め尽くした。メンバーに冷たい目で(除、タコス。むしろ京太郎より食う)見られた気がしたが、知ったことではない。
そして、食後の女子メンバーの部屋。
「さあ!明日の準決勝に向けて最終ミーティングを行うわよ!」
「……あれ、これ俺がいていいんすか?」
「いいですよ、同じメンバーなんですし、ね」
持ち込まれたホワイトボードを前に京太郎含めたメンバーがリラックスした様子で座する。
昼間、京太郎が不在の間に対策案をまとめあげていたのだろう。各々がそれを読み返し確認する作業である。
「あぁそういえば、差し入れにお菓子買ってきたんだった。どうぞ」
「なっ……ゆ、夕飯の後にチョコだなんて……京ちゃん、ひどいよ……」
買い揃えた菓子の袋を破いてくと悪鬼羅刹を見るような目で咲が睨んできた。
「いや、じゃあ食うなよ」
とか言ってると、染谷先輩は俺に頭を下げ
「わしはいただこうかの。甘いもの欲しかったとこじゃ。ありがとな京太郎」
和ははにかんで軽く会釈し
「私もいただきます。すいません須賀くん」
部長は……すでに手を伸ばし
「お~、たけのこの里がないのはあれだけどいいチョイスねー!」
「……私も食べる」
咲も流された
「最初っからそういえばいいんだよ」
「おう私もいただくじぇ!よくやったぞ犬!」
「おめーやっぱダメだ」
「は?」
「……イヤーッ!」
突如!ユーキ=サンは体を跳ね上げ立ち上がりキョータロ=サンにパンチ!
「グワー!」
そのまま2人はもつれ込みカラテの応酬!!血中タコスを込めた技がぶつかり合う!
「なにやってんのよあんたたち……」
「放っとけ、すぐ戻るじゃろ」
じゃれ合う二人をよそに四人はミーティングを再開。優希は完全にマウントを取り京太郎の腋を容赦なく擽る!
「おらおらー!焼き鳥にしてやるー!」
「やめ、やめっ……うははは、やめっ優希……!!」
「あぁそういえば須賀くーん」
「はーい」
「おわっ!」
部長の呼びかけに即応じた京太郎は優希をかかえて立ち上がった
「なんすか部長」
「お、おまっ、おろせ京太郎!バカ!」
ぽこぽこと京太郎を叩く優希を肩にかかえて部長の方を向く京太郎。
「いや。実は……ちょっとお願いしたいことがあってね」
「なんすか?」
「あした、須賀くんも、会場に来てくれるわよね?」
「そりゃもちろん」
「おろせー!このー!」
全身全霊をかけて応援……と行きたいが大声を出すわけにはいかない。チームメンバーとともに控え室で選手を見守る予定である。
「そこでさ……ちょっと、頼みにくいんだけど。もう一つの準決勝の偵察に行って欲しいの」
「もう一つの?」
もう一つの準決勝といえば、Aブロックの白糸台、阿知賀、千里山、新道寺の戦いである。
「言うまでもないけど、私たちは優勝する」
する、という物言いに京太郎は久の意志の強さを改めて感じる。この大会に、誇張なしに全てをかけているのだろう。
「そこで一つ、不安要素があるの。白糸台の大将、大星淡」
「え」
先ほど電話で話した相手の名前が上がり、少しだけ京太郎は動揺した。
「白糸台の新一年生、突如として大将として抜擢された超新星……データが少なすぎるのよ」
「うむ……探したんじゃが、奴の牌譜が本当に数えるほどしか見つからなかった」
そんなすごいやつだったのか、と今更ながら京太郎は思う。
「須賀君には、大将戦だけでいいから、向こうの試合を見てきてもらって、向こうのチームの牌譜……できればなにか癖のようなものをつかんできて欲しいの。申し訳ないけど……お願いできるかしら」
「え、あぁ、勿論です」
半ば反射的に京太郎はそれを了承した
対策会議という名の雑談タイムは、夜9時には終了となった。明日に備えて早く寝るらしい。
自室に戻った手持ち無沙汰な京太郎は麻雀の指南書を寝そべりながら読んでいた。
「……五索の中央を削れば四索に……イヤー無理だなこれ……」
しかし、どうにも頭に入ってこない。胸の奥のモヤモヤとした感覚が邪魔をしてくるからだ。
「……偵察、ねぇ」
悩みの種は部長の頼みであった。
Aブロック準決勝の大将戦の、特に大星淡の偵察。
京太郎は思案する。部長の頼みは当然のことである、と。優勝にかける思いは、きっと誰よりも強いはず。
となれば、未知数の実力を持つ白糸台の大将、当然不安要素として警戒するはずだ。
その牌譜や打ち方を知りたがるのは当然であるし、それで自分を頼ってくれるのはありがたい。
たしかに大将戦を応援することはできなくなるが、自分は清澄が勝ち抜くことを信じて疑っていない。
では、と考える。自分は何を、もやもやうじうじとしているのか、と
あれ、鳥が違うな……ちょいといじって正解探すから気にせんといて
答えはすぐに分かった。どうやら自分は大星淡の偵察という役目に対して罪悪感を持っているらしい。
今日知り合ったばかりで、恩を売ってやって、また会う約束をした……と、たったそれだけの、知り合い未満にも当たるほぼ他人の、しかもおそらく清澄が最後に戦うであろう対戦相手である。
牌譜をとる、打ち筋の研究、それは全く卑怯なことではない。強者とは常に対策を練られるものだ。
そう、まったくもって不自然ではないし、何も問題はない行為である。
「……でもなぁ」
にもかかわらず京太郎はチクチクと針に刺されるような罪悪感に苛まれる。
知り合いになってしまった、ということが何よりも大きいのかもしれない。
傘を譲った時や、名前を名乗った時の輝くような笑顔の淡に対して、まるでコウモリのような行為を働くことに、不快感がこみ上げてくる。
「……寝よ」
しかし、優先するのは清澄だ。部長の頼みだ。そこは譲れない。
京太郎は考えるのをやめ、指南書を放り出し、布団へと潜り込んだ。
そして、翌日である。天気は快晴、だが室内競技である麻雀には関係がない、むしろ会場の外で茹だるような暑さに辟易することになる。
「あっちぃ~……おはよ~ございま~す……」
「おお京太郎……おはようさん。暑いのぉ……」
朝八時すでに気温は30度を上回っている。廊下で鉢合わせたまこもあまりの暑さにうんざりとした顔をしていた。
「部屋ん中は良かったんじゃがのう……長野と違って暑さがいやらしいわ……」
「本当ですねぇ……部長達は?」
「今頃慌てて身だしなみ整えとるわ。わしは一足早く起きて朝風呂を楽しんできた」
なんとも準備のいいことである。要領の良さは我らが部活の中で一番かもしれない。
「じゃあ、朝ごはんいただきましょうか」
「そうじゃの……」
「はぁ……」
「エライ目にあったわね……」
控え室への道をたどりながら、がっくりと肩を落とす。まさか唐突なタックルを受け、さらに人混みの視線を浴びることになるとは思わなかった。
「しかし……須賀くん?さっきのは、大星淡……さん?」
「そうですね、本人も言ってましたし」
「……知り合いなの?」
小首を傾げて久が問うてくる。疑問に思うのも当然だろう、なぜ縁もゆかりもない同士であろう二人が知り合いなのか。
「実は双子ちゃんで両親の離婚に巻き込まれたとか?」
「ないです」
「親戚とか?」
「ないです」
「まさか遠距離恋愛?!」
「ない」
「……須賀くんまさか弱みを」
「ねーーですよ!!」
久の知的好奇心溢れる質問責めに簡潔な答えを返す。ここで言い淀んだらそこにつけこまれてからかわれることこの上なしだ。
「まぁジョークはともかく……一体何があったの?この数日でしょ?知り合うとしたら」
「まぁ、そうですけど……」
京太郎は昨日起きた淡との出会いを話す。コンビニで出会ったこと、金を貸したこと、電話連絡しあったこと……
「お人好しねぇ須賀くん」
そして、第一声がこれである、しかしぐうの音も出ない
「相手がバカ素直でよかったわよ本当に、フツー連絡なんてしてこないで借りパクされるわよそんなの」
「仰る通りです……」
「どーせ相手が可愛いからカッコつけたかったんでしょう」
「いえ、一目見たときは濡れ女子かと思いました」
「……なんで貸したの?」
「気まぐれでしょうか」
「……」
呆れはてた目で見られた。善行を行ったはずなのになぜ……京太郎は唸る
「で……須賀くん。そんな知り合いの大星淡の偵察、できる?」
途端に鋭い目つきで久は問うてきた。不安要素を少しでも削りたい故か
「ええ、できます」
しかし、京太郎はきっぱりと返した。
「出会って1日2日のあいつよりみんなを優先するのは当然だし、それに……」
「さっき自販機に頭ぶつけられた恨みがありますからね」
「あなた器が大きいのか小さいのかよくわからないわ」
……
…………
………………
「……そろそろ、か」
スマートフォンをチラリと見た京太郎は立ち上がる。Aブロックの準決勝はBブロックより少し早く始まった。そのためBブロックよりも大将戦が始まるのも早い。
「じゃあ、行ってきます」
「おお京太郎、頼むぞ」
まこに一言告げて画面を食い入るように見つめる一年娘三人に気づかれぬようコソコソと控え室を後にする。
鞄から取り出したるはノートとシャーペン
「こいつにザーッと記録してくりゃいいんだよな」
牌譜の記録は散々やった、問題はない。
少し離れた大型モニターの前、すでに多くの人が集まっているが幸い一つだけ席が空いている。
「隣失礼します」
「んー……」
ぐったりとした白髪の女生徒の隣……少しスペースを空けた に腰掛け、画面を見つめる。
ちょうどタイミングよく大将戦のサイコロが振られた頃で、席に着く四人の中に、見知った顔の大星淡もいた。
(さて……高校100年生の麻雀、見せてもらうぜ淡)
8割型麻雀への熱意、1割ほど恨みを込めて、一つは一つの挙動すら見逃すまいと、京太郎は記録を開始した。
闘牌描写はキングクリムゾンッ!!!!家庭は吹き飛び結果だけが残るッ!!!!
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/ ノ〈 i i >ニ| | ´y' ! |
.' / 〉 / j / ノ<i| | 〔___! ト、〕
. 〔′| `ー‐' /// | | i| Υ─| | .′
}}}
家庭が吹き飛んだ!!
……
終わった。
長い対局だった、京太郎は背もたれにもたれかかりぐっと背伸びをする。
結論から言うとわけがわからなかった。
大星淡の麻雀には、訳のわからない何かがあった。
およそ常人には理解できないものだ、と
手元の記録を見てみる。牌の切り出しだけを見ればまるで初心者だが、ほぼ全ての局で結果がついてきている。
他家が必ず5向聴以降から始まるだの、ダブリー連発だの、カンドラ丸乗りだの、まるでイカサマか超能力者だ。
パタリとノートを閉じ、溜息を吐く。
「こりゃ負けねーや」
確信を持って呟いた。
(さて、帰るとするか)
清澄の方はどうなったろうか、まだ試合が終わっていなければいいが……
京太郎はスッと立ち上がる。座りっぱなしだったせいで筋が伸びきっている。グッと背伸びをし……
「ん?」
足元に、何かが落ちていることに気がついた。白くてふわふわとした何か……
「……?」
拾い上げてみるとチャリンと金属音がなる。よく見てみると鍵が付いていた。
このフワフワはキーホルダーか何かだろう。
「落し物か」
落ちていた場所的に隣の席に座った誰かのものだろう。ふと、席に着くとき隣にいた白くてフワフワの、ちょうどこのキーホルダーのような髪型の女生徒が思い浮かぶ。
「……みつけちゃったらしょーがねーな」
部長の言う通り相当にお人好しの甘ちゃんのようだ、と自虐をし、京太郎は人が流れて行く方とは逆向きに歩き出した。
歩く途中にふと思い出す。
あの女生徒、どこかで見たことがあると。
「……たしか、二回戦の先鋒の」
小瀬川白望、だっただろうか。先鋒戦を一位通過したことと、基本道理ながら、たまにしっちゃかめっちゃかな手の入れ替えをしていたはずだ。あまり意識していなかったから気が付かなかったようだ。
「……でも、だからって」
冷静に考えればこの広い会場の何処にいるかもわからない彼女にキーホルダーをどう届けに行けばいいのだろう。
んー、と唸り、考える。
「落し物センターにでも行くか、はたまた……ぁ」
と、考えているうちに『目印』を見つけた京太郎は、我ながら運がいいとそこへ走り出した。
「すいません」
高い高いそれに声をかけるとびくりと震えたソレはくるりと振り向いた。見下ろされるなどいつぶりのことだろうか。赤い瞳に見据えられる。
「え、えー、と、私、かなー?」
威圧感のある風貌とは裏腹にオドオドと可愛らしい声で応答する彼女。大将戦である意味一番目立っていた人物はさすがに忘れなかった。
「はい、宮守の姉帯豊音さんですか?」
「そ、そうどけどー……」
なにやら怯えられているが、それは置いておく。
確認が取れたところで京太郎は懐から先ほどのキーホルダーを取り出した。
「これに見覚えありませんか?」
「あー!」
それを見た途端、長い腕を伸ばし豊音が手を……正確にはそのキーホルダーをつかんできた。流石に京太郎も怯む。
「これ……ど、どうしたの?」
「先ほど拾いました。まぁ色々と心当たりがあって、もしかしたら……と声をかけてみたんです」
「ほ、本当?ありがとー!」
「うおお!?」
両手を握られブンブンと振り回される。おそらく握手だがその威力からプロレス技に分類してもいいかも、と京太郎は思う。
「って!こーしちゃいられないってー!」
「うぉあ!?」
そして腕を掴まれたまま急に豊音は走り出した。
(はっや!?)
ハンドボール時代散々全速力で走り回った京太郎すら引きずられないのがやっとの速度、やはり体格の差なのか。
「えーとえーと……ここかなー!」
「うぉう!?」
そして突如立ち止まられ、ブレーキも間に合わず転ぶ羽目になった。豊音を巻き込まないので精一杯だ。
「ってて……」
「え? あっ!?ご、ごめんねー、怪我は、ない?」
「は、はい、まぁ」
慌てて身体中をペタペタと触って怪我の有無を確認してくる豊音。コミュ力不足ではなく特殊なコミュ力をもっているのだなーと悟る
「ここは……え、さっきと真逆の位置に」
地図を確認すると先ほどいた会場東部分のちょうど反対にいる。結構の距離があるのだがそれだけ早かったということだろう。
「……なにしてんの?」
「うおっ」
突如背後から声がする。慌てて振り向くと、二回戦で見覚えのある連中が勢ぞろいしていた。
「あー……こんにちは」
「え……あ、こんにちは」
何とも微妙なふいんき(なぜか変換できる)のなか、正面にいたやたらと背の低い子に挨拶をする。
向こうも状況を把握できないまま挨拶を返した。
「あ、みんなー、えっとねー、この人がシロの落し物を見つけてくれたんだよー!」
「……落し物?」
満面の笑みで告げる豊音に当人のシロはうねうねとした眉をひそめた。
「シロ!ワキガアマイ!」
「エイちゃんそれ違う。シロ、何落としたの?」
「わかんない……」
お団子の人、たしか……塞、だっただろうか。
モノクルが印象的な副将だったはず。
「えーと、これなんすけど」
パッパッとズボンの埃を払った京太郎は手に握ったキーホルダーを差し出す。
「アー!?」
それを見て大声をあげたのが金髪の……エイスリン、次鋒だったか。
「シロ!ヒドイ!」
「……あー」
「あぁ、君隣に座った」
「え、今そこっすか?」
シロ……白望、だったかは、ひどい猫背のまま京太郎にゆったりと歩み寄りそのキーホルダーをつまみ上げる。
「……私のだってよくわかったね」
「なんか似てたので」
「え、毛玉に似てるってなに……まぁとにかくありがと」
なんとも微妙な表情のまま白望に軽く頭を下げられる。これで解決、と京太郎は五人の方を向く。
「それじゃあ、俺はこれで……」
「シロ!オロカモノ!グショー!ナマケモノ!」
ポコポコと効果音がつきそうな殴打を連発するエイスリン、それを背中で受ける白望。なんとも微笑ましい光景である。それをポカンと見つめていたら引き際を見失った。
「こら二人とも!煩い!ちゃんとお礼言って!ほら!」
「あーもう……いやなんかありがとね。あれあの子が白望にプレゼントしたものだからさ。君が見つけてくれてよかったよ」
「いやそんな」
塞にぺこりと頭を下げられた。京太郎は年上に頭を下げられたことに思わずひるむ。控え室になるべく早く戻りたいこともあり、少しばかり焦りがでた。
「ちょーお礼とかしたいんだけどー。名前とか連絡先とか教えてよー」
美人のお姉さん型に連絡先を聞かれるなど普段はあり得ないことではあるが、早く清澄の元に戻りたい。やんわりと断るタイミングを京太郎は……
「……」
「……え、なんすか?」
気がつくと白望はじーっと京太郎を、見つめていた。
その頭の中を覗き込むように、瞳を、じーっと
「……お礼に、アドバイス」
「へ?」
「何かに迷ったときは、身近な大人を頼ること。それとこれ」
意味深なことを告げたのちに白望はどこからか一つ、ペロペロキャンディを取り出した。
「こいつをあげよう」
「は、はぁ……」
なにやら他の四人が顎が外れそうなほどに大口を開けてみているが、これはチャンスか。すかさず京太郎は身を翻した。
「じゃ、じゃあ俺はこれで!それでは!」
あのまま時間を浪費したら何を言われるかわかったものじゃない。注意されない程度の小走りで京太郎は駆け出した。
「……シロが、見知らぬ男にあんな風に話すなんて」
「あまつさえ、ダルがらずにアドバイスやお礼の品を送るなんて」
「ちょーちょーびっくりだよー……」
「Apocalypse……」
「ひどい言い草だ……」
白望は相変わらずだるそうに、しかしその届けられたキーホルダを大切そうにポケットにしまった。
「大切なものを届けてもらったし……ちょうど私が適任だったし」
「適任?」
「……迷い子のお世話」
「で、その落し物の持ち主を探して、結構遅れた、と」
「そうです」
「お人よしねぇ……」
「流石にどうかと思うのぉ」
「早く帰って来れば咲さんの大将戦見れたのに」
「ひどいよ京ちゃん」
「バーカバーカ!」
「皆さんすいませんでした。優希除く」
控え室に戻ってきたらこの有様であった。試合が終わっても待っていてくれたらしい、ありがたい話だ。
「見つかったから良かったものの……普通に大会運営の係りの人に持ってけばよかったのに」
「返す言葉もありません」
ウカツ!な行動であったことは京太郎も自覚がある、素直に頭を下げて謝った。
「まぁこの辺にしとこうかの、久。決勝進出決まったことだしな!」
「そうでしたね!みんな、本当におめでとう!」
心の底からの、祝福だ。
中堅戦までを見ていた京太郎は相手が強いことはよくわかっていた。しかし、優勝候補の一角臨海を抑え、トップで決勝進出が決まったことは正真正銘快挙である。
「で、須賀くんの方は首尾はどうだった?フラグ立てるのに夢中で忘れてたなんてなしよ~?」
「ふらぐ……?」
首をかしげた京太郎であったが、とにかく偵察結果のノートを差し出した。
「ありがとう。どれどれ……おお、よく表情とかも見て観察してるわね!」
驚いた、という風に久は言うと食い入るようにノートを見つめた。他の四人もどれどれとより集まる。
「……須賀くん、他家が全員五シャンテン以降から始まったというのは」
「マジだ。二半チャン全部、そうだった」
「……信じられない」
オカルトを一切合切認めない和も思わず顔をしかめる。データに現れている以上、そこには確率を超えた何かがあることを理性でなく本能で感じたのかもしれない。
「噂で聞いたのマジだったんじゃな……」
「なんなんだじぇこいつ、ダブルリーチをほぼ毎回してるし!」
「うー、思ってたよりやばげね……」
かきつくように覗き込む優希を制しながら久は頭を抱えた。想定の数倍恐ろしい魔物であることは明確だ。ノートのデータからは表情に出やすいこと以外何も弱点がない。
「わ、私勝てるかなぁ……」
思わず、咲が弱音を吐く、それに反射的に京太郎は言葉を返した。
「絶対勝てる」
五人が、目を丸くして京太郎を見つめた。
「試合を見てきた俺が保証する。ぜーったいに勝てる」
「……身内贔屓?」
「客観的な判断でも同じですね。間違いなく勝てます。咲が負ける要素がありません。それよりも阿知賀の大将の方がまずいかも、そっちを注視したほうがいいです」
阿知賀の大将と聞いて和が少し反応したがスルー、京太郎は確信を持ってそう告げた。
「……そこまで信頼してくれるなら裏切れないわね。根拠は、何?」
「友情パワー?」
「……胡散臭くなったわ」
「……そりゃないよ京ちゃん」
「なんでだ!?」
会場を後にしたメンバーは旅館へ徒歩を進めていた。明日の中日を挟んでいよいよ大会も決勝戦だ。
対策会議はどんなにしてもしたりない……が、ともかく今日はもう休みたかった。すでに日が暮れかけている。
「いやー、疲れたわね、激戦だったもの……」
「肩凝ってかなわんわ」
ずいぶん軽くなった荷物を抱えて京太郎は後ろをついて行く。ふいに、進行方向の地平から上がりかけた月を見て奇妙な思考が頭をかすめた
(あいつ……淡は今どうしてるかな……)
ーーーーー
例によって大量のホテル飯を胃に詰め込んだ京太郎は、いざ部屋に戻りベッドに横になると教本を広げた。
明日、自分にできることはない、そして今日1日ずっと牌に触っていないせいでもはや我慢の限界だ。
明日は早くから、開店時間から雀荘に駆け込んで麻雀に明け暮れるとしようと思う。
しかしそれとは別の考えが、須賀京太郎の脳内に麻雀教本の知識を刻むことを阻害していた。
大星淡のことである。
確か明日が金を返すと約束した日であったか。しかしそっちはもはやどうでもよく、京太郎は今、淡が何を考えているのかがこの上なく気になっていた。
(あそこまで強いと、いったい普段何を考えているんだろう、戦う相手が何に見えてるんだろう……大将戦で、ある意味負けてしまってどんな気分なのだろう)
色めいた考えなど微塵もない、麻雀が強い人への疑問であった。
内にくすぶる麻雀への熱意があらぬ方向へと向かおうとしている。
無論そんなことを本人を前にして言う気はさらさらないが、なんとなく、スマートフォンを手に取り、真っ黒な画面をじっと見つめた。映るのは漆黒の中にきらめく自慢の地下の金髪である。
と、突然スマホが手の中で震えだした。
「お?」
番号を見てみると、登録されていない番号である、一体誰なのか……変な電話だとやだなぁと思いつつ京太郎は通話をタッチした。
『もしもーーしきょーたろーー?』
なんとも間の抜けた声が響いてきた。今朝自販機に頭突きをかます羽目になった原因、大星淡の声である。
「あん?淡か?」
『そうそう!出てくれてよかったー。昨日の電話ってホテルの公衆電話からしたからさー。今日急いで新しい携帯を買いに行ったんだ!前のやつ古かったし丁度いいかも!』
I's phone6.7の音質を聞いておどろけーと宣ってくるが、音質はこちらのスマートフォンの依存なので向こうの携帯の性能の一端も知ることができないようだ。
「そらまたご苦労さんだな」
『でしょー?親にも携帯壊して怒られてさー……あぁ、そうそう、今朝はごめんねー、あの時お金返そうと思ったんだけどさー、スミレに捕まっちゃってさー』
「スミレ……白糸台の次鋒か」
『そーそー!もー、自分は甘いもの我慢しないくせに他には厳しいんだから~!そんなんだから体重計恐怖症になるんだよね!』
散々な言い草だと京太郎は思う。普通部下が誰かの頭を自販機にぶつけさせてる現場を見たら怒るのが当たり前だとは思うが。
「まぁそれはともかく、なんの用事だ?」
あぁそうそう、と淡は思い出したかのように、世間話を打ち切り要件を告げた。
『明日さ、どうせなら一緒に遊ばない?』
「明日ぁ?お前、決勝は?」
『ミーティングは今日の夜と明日の夜、それ以外はフリーなんだよねー』
なんとも余裕溢れるスケジュールである。部長が聞いたら闘志に火がつきそうだ。対抗してこちらもオールフリーにするとか言い出しかね……かねる、か。
『でさー、京太郎も麻雀やるんでしょ?私がみっちりと指導してあげてもいーんだよ?それ以外にもー!ゲーセンとかー、マンガとかー!』
「優雅なこった……てか、金は?」
『乾かした!』
「……」
Q.金は?
A.乾かした!
歴史に残る珍解答であることは間違いないであろう。
事情を知ってる京太郎以外ではお前は何を言っているんだとなること請け合いである。
『ねーいーでしょー?せっかくの機会だから他の学校の、それも他県の人!遊べるなら遊びたーい!』
「……本当に珍しいやつだなお前」
『ほえ?』
「なんでもねーよ」
ここまで人見知りしない性格なのは珍しい、東京の人は全員他人に無関心で交通事故の現場を写メる奴ばかりだと思っていた京太郎は本当に淡が東京生まれの東京育ちか疑問になってきた。
「わかった、付き合うよ。俺も明日は雀荘に入り浸ろうと思ってた。強い奴と戦えるならこっちからお願いしたいくらいだ」
『お、いうね!もしかして強い?』
「すごくよわい」
『えー、なにそれ口先だけ~?口先マーン』
「やかましい。で、俺は10時頃には雀荘行きたいんだが」
『じゃあ10時頃にあのコンビニで待ち合わせしよーよ!』
「おうわかった。後でこの番号でLIMEの申請送っておくからさ、登録しといてくれ」
『はいよー!じゃあ明日ねー!』
通話が終わった。騒がしい声が途切れ、部屋の中に空虚なエアコンの音がかすかに響く。
「本当になんつーか、面白い奴だな」
一人呟く。しばらく黒くなったスマホの画面を眺めた後、それを充電器につないでまくらの傍に起き、京太郎は再び教本を読む。
先ほどまで頭の中を埋めていた余計な思考は、既に消え去っていた。
翌日、京太郎は六時には起きて朝風呂を堪能し、ストレッチののちに朝食をしっかりと食べた。ここで7時半。
そこから部屋で持ってきた荷物の整理及び纏めた牌譜をファイルに整理、そして近くのスーパーでメンバーはの差し入れを購入、この時点で9時、そして待ち合わせのコンビニに九時半にはついた。
この行動は別に京太郎に気合が入っていたわけではなく、差し入れの購入以外は基本的な行動であった。
そして集合時間よりも早く集まるのもハンドボール部時代の癖だ。
「少し早く来すぎたか」
私服の京太郎はクーラーの効いたコンビニ内で適当な漫画雑誌を手に取った。暇つぶしにはちょうどいい。
コンビニの外には様々な人が歩いて行く。スーツを着た如何にもなサラリーマン、無駄に化粧を重ねたおばさん、赤いジャケットにもみあげのすごい人もいれば、和服を着たちびっこも通る。
視界の端でそれを捉えながらもほとんど意識せずに漫画を読む。大して面白くもないそれでも暇はつぶせる程度には役に立つ。
しかし、視界の端にキラリと何かが光り反射的に京太郎は顔を上げた。
窓の外、以前会った時とは違う、柔らかく艶やかな金髪をたなびかせた、大星淡が窓の外からこちらを見つめていた、満面スマイルのおまけ付きだ。
すこしだけドキリとしたことを頭の奥底にしまいこみ、京太郎は漫画をしまうとてきとうなガムをひとつ買い、コンビニの外へ出た。
「おはよう京太郎!」
「おお、おはよう淡」
コンビニから出た京太郎にさっそく淡が元気いっぱいの挨拶をしてきた。
日本人離れした美貌とはミスマッチなはずのにこやかな顔だがそれがまたかわいい。美人は得である。
「おぉー……ねね、靴の裏見せて」
「は?」
「裏!」
いきなり訳のわからない要求だ。片足を上げてくいっと足首を曲げてやる。
「……あれー、スパイクないね」
「この季節にスパイク付きの靴はく奴がいるか」
「長野県民でしょ?」
「長野県民をなんだと思ってやがる」
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| . :| . :i '. ヾ い;::::::jj 八∨乂 _;ノ:ノ . :/ . : |: . : .`ー-田舎モン!
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}}}
「……ガム食うか」
「食べる!」
包み紙を剥がし、一つくれてやる。なんの疑いもなく淡は口に入れた。
「……から!辛い~!」
「田舎モンっていった罰だ」
「ひょおはほおほはは~!!」
ペシペシと叩かれるが大して痛くない。いいザマだ。
渋い顔をした淡が落ち着くまで適当にぶらつく。ぷくーっと顔を膨らませた淡がようやく口を開いた。
「あー、辛かった」
「俺はそれくらいが好きなんだ。で、電話で話した通り、最初は雀荘でいいか?」
「んー……そだね、コテンパンにしてやるから!」
ウネウネと髪をうねらせながら不敵な笑いを浮かべる淡。どうやら辛口ガムで随分とヘソを曲げてしまったようで、本当にコテンパンにされそうだ。
「はは……手加減しないなら願ったり叶ったりだな」
「ほほー、いうねー、口先マンのくせに~」
「そこから得るものがあるかもしれないだろ」
折れない心とか、とは続けない。負けること前提で進めるのはあまりよろしくない気がする。プライド的な意味で。
というわけで、二人は近くの適当な雀荘に入った。決勝戦前の中日なだけあり、多くの学生で溢れかえっている。
「んー……あ、卓空いてる」
「お、本当だ」
空っぽの卓で対面になるように2人は席に着いた。この様子ならすぐに残りも埋まるだろう。
「ラッキーだね!」
「あぁ、待つかと思ったんだけど……」
しばらく待っているうちに空いた席に一人、また一人とつき、四方が埋まる。ついに開幕だ。
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「回ニニO
_--ー「T「 ̄\ /二\
「 l L_コュ 凵 ヽ |(::::::::::)|
L 」コー゙゙゙゙゙ ̄ ゙゙゙̄ーヽ`二´.|
/二\,, /: : : : : : : : : : : : : : : : :ヾ\ 〆)
. |(::::::::::)レ: : : : : : : : : : : : : : : : :: : : : : ヽ>ヽ
.ヽ`二/: : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ: : : : : : :.ヽ
. ヾ : :/: : : : : /: : : : : : : :ハ -/-ト: | 、.: : : : : : |
`フ: : : : |: : :|ーヾ: : : : :| i/ |:/ ヾ: : : : : : :|
|: : /: : |: : ハ: | ヽ\: :ヽ __´ |: : : : : : ヽ
|: :ハ: : : ヽ:| ヾ __.  ̄ ,,=≡ニ=,,. |: : |: :|: : :ヽ
V >、ヽヾ ,,=ニ≡ /// ノ: : レ: : : : ヾヽよろしくおねがいします!
. /: : : : :.| ´ _´___ ∠: : : : |: ルレ
. |: :|: : : :|./// ト--ー゙| ,,. |: : :/レ
|: | : : : :ヽ ヽ _ノ_,,-i::´fヨヽ |
レヽ: : :ト: :ド ̄ ̄日フヽ |:::::::::::::ヾ
ヽ_:ヾ >::::::____::,ー 、::/ヽ
 ̄ ド:( { .|ベ/ ヽ
| ヽヽ__ゝーノソ> ト___
| (`ー(ー´ \. ハ::::::::ヽ
ヽ | ∧ ,ヘト::::::::o|ヽ
ヽ| トoヾ_へ\\::::| |
ヽ_/ ヽoヽ ,,ゝ弋コヾ|
─- 、 、
, -───-ヽレ_
, ´ ` 、
/ \
. , ' 丶
. / ヽ
. i ,ィ ,ヘ l
| / !.{ ヽ \ ヽ |
l ,イl| ヾ;、 \ ` ー-ゝ、_ 、 |
i l. i / ヾゝ `''ー  ̄_ニ;三=ーヽ . | |
. ヽ ヽ!T'==-_、 `‐ `〒‐'fr;ゥj´ _j j リヽ し1!
\` l `'´ hタヽ --゚‐'_ `T!´r) } ,リ
}. l  ̄ /j ` リ r 'ノ ラ
._.ノ l. ヾ:- 、_ニ1 ノよろしくお願いします
`ー;ァ. ヽ -ー‐一 ゞー- ,∠ _
` ー ゝ、 ` r‐;-‐`''"~ ̄ |
_,.> 、__, -‐',コ | |
「f´ ̄ ∠∟-‐''´ | | ,. =‐ |
| | | | | / -='
| | , j ,>ヽ /_ -‐`ー─
_,.ゝニゝ/ / `ー---‐ '´ 〉〉 / '´
 ̄ ノ/ .レ' f ,ニニン /
. くく ./l | | / / ̄ ̄ ̄
}}}
「よろしくお願いします」
「よろしくね~」
全員挨拶が終わり、卓へと向かう。すると、突然対面に座る淡の雰囲気が変わった。
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. , ´ ` 、
/ \
//: ..:: ....:.:ヽ
//:.:.:.:/.:. ..:.:.:.:.:.∧
// :.:.:´:.:.:.:.:....:.:.: ... .......:.:.:.:.:.:.:.:、: ',
.1} } .:./ .: ::::/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ト;.:.:.:.:',:.:.:.:.:.:. ', .',
. 7ミニ彡 .:/:.:.:// / ://}.:.:/ ,' .ヽ:.:. .',.:. 、.:.: |..:.∧
__ { ,'.| /}/:.:.://:/:.:.:.:.:..´/. ./ ./ / V...ノ:.:.:.',.:.:|.:.:|:∧
. /7} ヽ{| ./.ノ.:.:.:./:/.:.:.:.:.:./ メ;..':.:/. .V.;.:.:.:.:.}:::|.:.:|:.トヘ
. {人_ .ヽ_ミx´,:.:.:./:/:.:.:.:ーx_ //ァ/ ./イ:.:.:.:.:.|.:.|.:.:|:.:ヽ.ヽ
. ゝ  ̄...:.:.:., |:.:./:.:':.:.:./ _≧≦_.´ ._x≠キ":.:.:.|.:.|.:.:|:.:.:.:》 〉
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}}}
まだサイも回していない段階で既に真剣そのものな表情になっている。モニターで見た大将戦でもこんなに本気《マジ》の表情を見せただろうか。
(たぶん……さっき言ってたコテンパン、か?)
しかしその瞳の奥に悪戯心のようなものが見え隠れしている。さっきのガムの仕返し、といったところか。他二人はとくに気づいた様子もなく卓に向いているのでこのオーラは自分にだけ向けられているらしい。
(まいったね、こりゃ……)
処理が終わり、各々が自分の配牌を取っていく。
すべて理配し終えた段階で京太郎は思わず溜息を吐いた。
(マジで五向聴だ)
他の二人も表情が浮かばない。どうやら例の力が発動している……らしい。
六向聴ではないだけマシと割り切り、京太郎は手を入れ替えてゆく。決勝の様子から、自摸配まで弄くるパワーではないらしく、入れ替えは順調に進んでいく。
しかし……
「んー……」
7巡目ほどの、あの手からかなり早いテンパイにたどり着いた京太郎はチラッと対面の淡を見た。視線にも気付かずにジッと卓上を見つめている。
引いた三索を加え、二萬を切ればテンパイだ。しかしどうにも、気が進まない。
(俺がテンパイしてんのにこいつがテンパイしてねーのか?)
まさかダマテンで狙っているのではなかろうか、という疑念が浮かぶ。どちらにしろまだ東一局、焦らなくてもいいかと京太郎は淡には安パイの三索を切った。
二萬も通らない牌ではない故、和に見られたらどやされるだろうが。
しかし下家が次に二萬を切ってもそれはあっさり通った。
(ありゃりゃ)
予感が外れたか、と京太郎は頬をかく。
次順、あっさり京太郎は三索をひいた。オカルトは信じるが自分にそんな力はない、と知っている京太郎はどちらかといえばデジタルよりだ。もう大丈夫と安心して、不要牌の二萬を切り落とした。役は安い、リーチはしなくても……
「ロン」
「……え?」
宣言、その方向を向くと淡がニヤリと笑って牌を倒していた。
「えーと、3900!」
「あ、あぁ……」
マジで?という心情で京太郎は点棒を淡に渡した。まさかこんな露骨に狙い撃たれるとは……と思ったあたりで、他の二人がとくに変な様子はないことに気づく。
(……あぁ、そういえば)
よく考えれば下家が二萬を切った後安心した京太郎は淡を注意してみていなかった。その時に手を入れ替えたのかもしれない。
(俺のミス、か……)
淡に狙い撃たれたのではないかというバカバカしい疑問を京太郎は振り切り、さあ次だと親の一本場の卓に向いた。
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, ⌒ ー  ̄ ̄ 、
/_,. - \
/´ / /⌒\ ヽ
, ´ , V :.
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/ イ { ':|_,斗| | 、_l__/_ィ |l∧
/ ,: ∧ | {∧{ { 、 /}/}/ } /∧|
/ イ / {∧{ 、__,.V {∨ 、_,/ イ}' `
 ̄´ V∨乂l \ ムイ/
从 ' 八/はぁ……
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i . / 」_ ′/ | | i| . i
. i | j/, /イ`メ、 | 小 || ト.!
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ノ i| V j 抖竿ミ ノ ノ ,ノイjノ | i
___ ____彡' , i| i| j 八|:x:x: /ィ竿ミ 刈 | }
 ̄¨ え≠ / 八 i|/l | | :x:x:/ ノ | ′あー楽しかった!
/ -‐ ' ハ 八 ト、 ヘ.__ ` 厶 イ ノ
/ __,.斗‐=≠衣 ヽ八\ 丶.__ソ . イ(⌒ソ イく
jア¨¨^\ \ \ >-=≦廴_ ア /ノヘ\
斗ァ'′ \ \ ヾ. \___ ⌒ヾく<,_ `ヽ )ノ
/圦 | 、\ ヽ 、∨tl `ヽ . ∨ V\ i
{ `| Vi:\ ハ i } | } i } ∨,} }
≧=- | 辻_V\`i} i } | /} iハ} 辻ノ
ノ ¨〕V//リ iノ ////V〔 ¨〕
}}}
結果的に京太郎は負けた。ぼろ負けした。ネギトロにされてしまった。
その四人で4回卓を囲んだが、京太郎の結果は4着3着4着2着。
別に淡は京太郎だけを狙っていたわけではなかった。他の二人も特別強いわけではなかった。
しかしラスを二回引いたぶっちぎりのドベの京太郎に対し、淡は全局一位。まさしくコテンパンである。
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/l ,,,;;-―''"::: ̄ ̄ ̄::::::::`ヽ、
l::|/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::二`ヽ、
ノ/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
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/::::::::::::::::::_::::::::::::::::::::l ` _/::\\ ィ" ヘ::::::::::::::::::::::::ヽ
|::::::::::::::::/ ┐):::::::::::::::::`ァ ヽ、 `<_l! ` ´ \::::::::::l:::\:lくそ!トーレスめ!トーストにしてやる!
、_ ノ: ::::::::::: :| r.〈::::::::::::::::/ ` 、 ∠、 |::::::::::|::::、:::|
\´::::::::::::::::::::l ヽ \::___チ `〈_:ノl!ノ::::::::ノ:::::|:::|
Y::::::::::::::::::::\_ `ー __ 、 ノ .|:::::::::::::::|::| ||
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_ノ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;フー、 | \ ー /::::、::/
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;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ // `ヽ.」
;;;;;;;;;;;_;;;;;;/ // /`ヽ、
-―'" \\ .// / / l__
. \\ .// / / /;;;;;;;;;\
\\ // / / /;;;;;;;;;;;;;;;;;\
}}}
お昼時になり他の二人が卓を離れたため京太郎と淡も雀荘を出る。
「いやぁー……京太郎、マジで弱かったねー」
「うるせーよ牌を見透かしたみたいに狙い打ってきやがって……」
「わざとじゃないしー」
ルンルン気分の軽い足取りで歩く淡とは対照的に京太郎は沈んだ気分でそれについて行く。
「かてねーとは思ってたけどここまでボコボコにされると自身失うぜ」
「ふふーん、この高校100年生の淡ちゃんに勝とうなど、一年生のきょーたろーじゃ99年はやいのさ!」
ビシィッ!と指で刺されてもぐうの音も出ない。ぐぬぬと唸った京太郎は何かいい返さねばと口を開いた。
「つ、次は負けねーからな!」
「……え?」
とたんに、淡の動きが止まった。
「次……?」
「え、ダメ?……あ、そうか、大会終わったらもうお互い遠くだもんな、でもネトマなら」
「いやそーじゃなくて」
京太郎の言葉を遮り、淡がポツリと呟く。
「また、してくれるの?麻雀」
「あぁ、そりゃ勿論」
「……そう」
「うーん……まぁ、いいか」
スッと顔を上げた淡は先ほどまでの明るい表情に戻ると、またずんずんと歩き出した。
「じゃあお腹減ったし、なんか食べようよ」
「奢らねーぞ」
「え?そりゃそうでしょ、学生同士だし。何食べるー?ラーメンとかどう!ラーメン!」
「……本当に、お前は珍しいやつだよ」
「ほえ?」