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「京太郎「俺の日記」53」(2015/08/06 (木) 19:20:03) の最新版変更点
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特別編、阿知賀ver
とある執事との出会い
その人と出会ったのは、人生でもっとも怖いもの知らずになれ、そしてもっとも馬鹿になれる時期、中2の時だ
あの頃は薬局前のゴム製品の自販機の存在だけで盛り上がれ、い○ご100%を学校に持ってきた奴は勇者になれた。全巻持ってきた真の勇者もいた
そして男達は皆、エロ本やAVを手に入れるために、全力だった
当時の俺は親父が良く言えば寛容、ぶっちゃけドスケベでエロ方面に理解があった、ということもあり、親父秘蔵のブツを借りることも、
レンタルビデオ屋で親父のカードを借りて、AVを借りることもできる、でき、同級生よりもある意味進んでいたと言えるだろう
そうやって友人達で貸し借りをしたり、頼まれたジャンルの物を借りてきて、一緒に見たりしていた
そうやって過ごしていたが、どうしても気になった存在があった
それは、自動販売機だ
ある時は山の麓、またある時は町中の人気のないところにポツンと存在した、エロ本、もしくはAVの自動販売機
トタンか何かの小さい小屋に24時間営業と書かれたそれは、何故か俺の記憶の片隅に残り続けた
極稀に友人達との話題に上がることこそあったが、ぼったくられる、ヤクザが商品を補充している、等の様々な噂により、なんとなく近寄りがたいものだった
しかし、そこは中2。怖い噂より、好奇心、そしてエロへの探求心が上だ
ある夜、俺はついにそこへと行った
誰にも言わず、しかしワクワクしながら自転車で向かった
近くに自転車を停めて、辺りに誰もいないことを確認し、俺は意を決してその小屋へと入った
小屋の中は思ったより何も無い空間だった
ただ、いかがわしいパッケージが並び、やけに高い値段の自販機2台、そこにあった
ついに、ついに俺はやるんだ
そうして俺が財布に手を伸ばした瞬間だった
「それは止めた方がいいですよ」
不意に横から聞こえた声だった
誰もいないことを確認したはずだったのに、聞こえてきた
慌てて横を向くと、ジーンズにポロシャツという、ラフな格好の男の人が、そこに立っていた
「失礼。あぁ、あなたが未成年だから、等という無粋な真似をする気はありません」
その男性は俺を手で制したまま、続けた
「おそらくあなたはまだ中学生でしょう。するとおこずかいも限られる……ここへ来る勇気は称賛に値しますが、中学生でそんなハイリスクなことをするのはお勧めできません」
「ハイリスク……ですか?」
初めて会った人だったが、俺はつい聞いてしまった
「えぇ……こういう自販機のものは、大概が普通に売っているものより高額です。さらにパッケージで選ぶことすらできない……」
「最悪の場合、高額使った結果、おぞましいものを手にすることになる……そんな悲劇を、中学生に経験させる訳にはいきません」
「だったら……だったら俺がここに来た意味はどうなる!?」
声を荒げてしまうのを、抑えられなかった
「勇気を出して……ここまで来て……大金を使う覚悟をして……でも、直前で何も買わずに帰った……それじゃ何の意味もないじゃないか!!」
その男性は俺をじっと見ていたと思うと、静かに、しかしはっきりと、拍手した
「……その勇気とその覚悟……それだけでも、とても価値のあるものです」
「そんなものを持っている、あなただからこそ、悲劇を経験させ、道を踏み外すようなことはさせたくない」
「うっかり見たもので性癖が歪んでしまったり、トラウマになってしまったりするものも、少なくないのです」
悲しそうに目を閉じるその男性
過去に一体何を見たのだろうか
ひょっとして、踏み外してしまった友人でもいたのだろうか
「……よければ、これを受け取ってください」
「こ、これは……」
その男性がどこからともなく取り出したもの……それは、メイドもののエロ本……しかも、かつて俺が見たことが無いほどのクオリティだった
「あなたの勇気、そして覚悟……これを受け取るに値します」
「いいんですか?」
「えぇ……あなたは漢(おとこ)と呼ぶべきものを見せてくれました」
「……ありがとうございます!!」
心から頭を下げ、俺はその男性とともに、その場を去った
帰り道、歩きながら俺達は話した
年齢、性格、性癖、様々なものが違う俺達だったが、俺達は分かりあえていた
この日、俺は生涯における親友に出会えたのだった
後になってから、俺はその男性……ハギヨシさんに聞いた
「あそこがハイリスクだと知って、なぜあの日、あそこに居たんですか?」
「……漢(おとこ)には、例えハイリスクでも、それに身を投じたくなる瞬間があるのです」
「それが、どんな結果であろうと、ね」
その背中は語っていた
君もそうだろう、と
ああ……そうだとも
それから1年とちょっと経った時
俺は長野から引っ越す前に、なんとなくその自販機の場所へと向かった
しかし、そこには何も無かった
まるで、元々なにも存在していなかったように、トタンの小屋は無くなっていた
俺はなんとも言えない切ない想いを抱え、帰った
そして思う
1度くらい、買ってみたかったなぁ……
カンッ!!