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「京太郎君…行っちゃうの?」 「京太郎君…寒い」 「ごめん…いつか帰ってくるから」 ガタンゴトンと音が鳴り京太郎の体を少し揺らす。 揺れたといっても微かな動きだったが京太郎を眠りから起すには十分だったらしい。 何やら懐かしい夢を見たせいかこれからの事に胸を躍らせる。 京太郎宛てに手紙が届いたのは大学を卒業する半年前だ。 送り主は、奈良に住んでいた親戚のお爺さんからだ。 「それにしても…俺が旅館の経営者ねぇ?」 その手紙には京太郎に経営していた旅館を任せると書かれており、遺書にも書かれていたらしい。 少し前にお爺さんは死んでおり京太郎もよくお世話になった為、悲しく泣いたものだ。 「なんとかなればいいけど…」 手紙を見ながらポツリと呟く、昔から旅館の手伝いをしていた為そういった仕事に関する勉強はしてきた。 だがそれは経営者としてではなく、使われる者のほうだ。 些か不安が残るが京太郎が拒否をすれば別に人に権利が移ると聞いた瞬間何も考えず即答で受けていた。 あの旅館が…思い出の旅館が他の知らない人に渡るのが我慢出来なかった。 「…さて、迎えに来てるはずだけど」 京太郎は電車から降りると街を見渡す。 手紙には迎えを寄越すと書かれていたが…暫く京太郎が辺りを見渡していると1人だけおかしな人が居る事に気づく。 それを見て京太郎は少しばかり眉をひそめるも納得し歩き出す。 「あなたが松実旅館からの迎えの人ですか?」 「えぇ…そうですね」 古めかしい着物を着た長い黒髪が似合った人だった。 どことなく昔に会ったことあるなと思った、記憶に引っかかる。 「覚えてないの?」 「あー…んー…」 相手の女性は、京太郎の目線に気づき綺麗な顔が悲しみに代わった。 その悲しそうな顔を暫く見て京太郎は気づく…今さっき夢の中で見たじゃないかと思い京太郎は罰悪そうにした。 「…お久しぶり、玄」 「京太郎君!」 旅館の孫娘で京太郎の幼馴染の松実玄だった。 玄は京太郎に名前を呼ばれると悲しそうな顔から一変嬉しそうな顔になり京太郎へと抱きついた。 抱きついた玄から人の心を落ち着かせる石鹸の香りと豊満な胸の柔らかさで少しばかり顔をにやけた。 「素晴らしいおもちで…」 「むーいきなりそれはひどいと思うのですのだ」 私もおもちは好きだけどと呟きながら頬を膨らませる。 指でその頬を押すとぶすーと息が漏れ京太郎はそれに笑った。 「もう!」 「あはは…わりぃわりぃ、それじゃいこうぜ」 「うん」 2人は旅館へと歩き出した。 歩いている途中で様々な事を聞いていく。 「つまり……3年間で旅館ランキング100位に入らないと正式な経営者として迎えられないのか」 「うん、一応私やお姉ちゃんがサポートするけど…結構大変かも」 資金は1億…部屋の構造、お店、宣伝費用、人手…様々な事を脳裏で考える。 もう少し経営について詳しい人が必要だと思い知り合いに頼むことにした。 親友でもあり師匠でもある、あの人が仕えるお嬢様ならノウハウを知っているだろう。 「経営は…知り合いに教えてもらうか」 「んーお土産屋とかは私の友達が経営してるから助けてくれるかも」 「後は…娯楽も必要だな、お風呂とかだけでもいいけど」 そんな事を話しつつ2人は旅館へと赴く。 旅館は、京太郎の記憶にある物と細部まで同じものだった。 懐かしさが込み上げて来て目に涙が少し溜まる。 それを玄に悟られないように京太郎は袖で涙を拭き、玄の紹介してくれた従業員1人1人に挨拶をしていく。 ある程度すると玄は何やらお風呂の設備の方へと京太郎を連れて行く。 そこにはボイラー施設があり、1人の女性が薄い灰色のつなぎを着て作業をしている。 「お姉ちゃん!京太郎君来たよ!」 「え?」 つなぎの女性は長い髪の毛を揺らし此方へと振り向いた。 その顔に京太郎は見覚えがある、彼女は…… 「宥姉…お久しぶり」 「京太郎君?」 呼ばれた宥は目を見開きわなわなと震えだす。 暫くすると我に返りゆっくりと近づくとぎゅっと京太郎を抱きしめた。 「本物の京太郎君だ」 「宥姉は相変わらずちっこいな」 身長が低く京太郎の胸板の所までしかない宥の頭をゆっくりと撫でた。 玄が横でずるいと言ってるが今は無視だ。 「ここにいるってことは受けるんだ」 「あぁ…ここが他の人に手に入るのは嫌だしな、それに約束したろ?」 「覚えてくれてたんだね」 「勿論…ただいま、宥姉、玄」 「「おかえり、京太郎君」」 2人は綺麗な笑顔で答えてくれた。 「私が着ましたわ!!」 「……電話でも良かったのに」 時にはお嬢様が乗り込んできたり 「ボーリング…とかどうかな」 「娯楽としてはいいかもな」 ボーリングを経営している玄達の友達からの提案 「それじゃチラシ配ってくる!!」 「えぇ!?穏乃ちゃんはお菓子を!」 「はやっ!?」 旅館経営を助けてくれる仲間達 「あーやばい、私病弱やった」 「あわーん、こっち面白そう」 「ちょっと!?そっちは駄目です!誰かー救急車呼んで!」 様々なお客様などがやってくる 「ところで…京太郎君がここを継いでくれるってことは私達を貰ってくれるんだよね!」 「え?」 「えっと…私達は2人でいいけど正妻は決めないと」 玄と宥の言葉で京太郎は眼が点になる。 2人が顔を真っ赤にし体をもじもじとさせ此方を見ている。 京太郎の顔に一粒の汗が流れた。 「「ねぇ…京太郎君、どっちを選ぶの?」」 カンッ

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