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須賀京太郎中三の春。 「クソっ、誰かそいつを止めろっ!」 「無理だよ止められねえ! 速いし、それにっ……高すぎる!」 京太郎「ククッ……フハハッ。遅いな、そして脆すぎる。条件はクリアされた。ゴール前のディフェンスは誰もいない……。さあ、喰らえ! 空破絶風撃ィ!」 彼は、色々な意味で絶好調だった。 「須賀? 須賀ねえ……あー、そうだな。うん、いい奴だと思うよ。斜め上だけど」 「京太郎? 面白いじゃんあいつ。あそこまで振り切れると逆にね」 『真似? それはしたくない』 そんな同じ部活の仲間の言葉を耳にして、京太郎は中体連ハンドボール県大会決勝前にして心が折れた。そして、それまでの自分の過ちに気がついた。 邪気眼、中二病。形容する言葉は幾つかあれど、兎も角中学時代の彼は思春期特有のそれに取り憑かれていた。 一度過ちに気付いてしまってはもう遅い。それまでの自身の振る舞いを思い出してはベッドの中でジタバタと。自身が書いていた「黒の英雄へ至る道」(著者ゼロ・カイル)という個人ブログを読み返しては椅子のスプリングでギッタンバッタン。 そんな中、高校進学の時期に両親から転勤に伴う引越しを告げられたのは彼にとって僥倖だった。 最早中学時代の自分を知っている場所にはいられない。周囲が気にしていなくとも、京太郎本人の精神衛生上の問題だ。過去を掘り下げられネタにされたら死んでしまう。割と本気で。 それならば、誰一人知人のいない場所で一から真っ当な人生を送り直すべきではないかと彼は決心した。 京太郎「それで、引っ越すって何処に?」 返ってきた言葉は「岩手」の二文字。 高校一年の春、須賀京太郎は宮守高校へ進学することとなった。 ……心残りは、中学時代にみっちり自分の趣味を教育した一人の女の子の存在。だが、彼女も近い将来、眼が覚めるだろうと根拠のない願望を抱いて、京太郎は見ないふりをした。 さて、高校に入るにあたって部活動は何にすべきだろうか。京太郎は考える。ハンドボールはパス。古傷を抉られるから。……それ以前にハンドボール部自体宮守に存在しなかったのだが。 球技全般も出来れば避けたいところ。過去が彼を追いかけて香ってきそうだから。 さて、そうなると文化系の部活に入るべきなのだが、そうなってくると選択に困る。出来ることならキチンとした目標がある部活に入りたい。どうすべきだろうか。 学校案内の冊子を捲りながら、部活紹介のページの端に載っていた文字が、京太郎の眼に残った。 京太郎「麻雀部……」 それは、世界的にも有名なテーブルゲームの一つ。麻雀のプロ、インハイも存在し、知名度は抜群の遊戯だろう。全くの素人である京太郎が簡単なルールと幾つかの役の名前を知っている程度には。 京太郎「国士無双、緑一色、嶺上開花……」 京太郎「カッコい……いやいや違う、そうじゃなくて。誰もが知ってる競技だし。目標に出来る大会もあるし! それだけだから! それだけだってば!」 自分一人しかいない自室で誰に対して言い訳しているのかは謎だが、ともあれ京太郎は麻雀部への入部を決心した。 そして入学式当日。一連の式典を終え、前回と同じ轍を踏まないよう、滞りなくクラスでの挨拶を無事やり過ごした京太郎は麻雀部の顧問を探しに職員室へと足を運んだ。 京太郎「すいません。麻雀部の顧問の先生いますか?」 職員室の扉を開けて、言葉を飛ばして見れば、それに反応したのは二人の女性。 一人は、片目にモノクルを着けた柔和そうな老婦人。もう一人は……。 京太郎(デカっ) 身長182cmある自身よりも更に頭一つ、二つ分大きな黒づくめの女性だった。 トシ「……入部希望者かい?」 京太郎「そうです。一年の須賀京太郎です」 豊音「ホントっ!? 私と一緒だー! ちょーうれしーよー!」 トシ「今日は千客万来だね。私は顧問の熊倉トシ。こっちは三年の……」 豊音「姉帯豊音だよー。須賀くん……でいいかな? 私も君と同じ新入部員だよー」 大きいのに何処か小動物っぽいその動作に癒されながら、京太郎は名字呼びに頷いた。 京太郎「こちらこそよろしくお願いします姉帯先輩。それにしても……」 大きいですね。そう言おうとした所で、京太郎は言葉を飲み込んだ。女性相手に身長について触れるのは無作法ではないかと理性が働いた。 京太郎「真っ黒な服ですね」 土壇場でのハンドリング。服のセンスに触れるのも中々危ういことではありそうだが、身長についてよりはマシだろう。それに、豊音自身も満更でもなさそうに表情がより一層華やいだのだからいい選択肢だったのだろう。 豊音「えへへ、かっこいいでしょ。黒一色って」 ふわりとロングスカートを翻して、豊音はその場でくるりとターンを決めた。艶やかな黒髪も光を反射しながら宙を舞って、微かに甘い香りが京太郎の鼻腔をくすぐった。 ……豊音の言った言葉には、素直に頷けないものが含まれていたけれども。 京太郎「……そうですね。かっこいいですよね。黒」 本心である違う本心じゃない黒とかないわー全然かっこよくないわー。過去の古傷が京太郎の心を軽く引っ掻く。黒がかっこいい。黒づくめともなるとそのかっこよさは倍率ドン、更に倍だ。だが素直にそれを認めたくはない。 一方褒められた豊音はより喜色満面といった様子で。「だよねー♪」と声を弾ませている。そして、テンションの上がった豊音は、バッと右手で片目を隠し左手を前に突き出したポーズを取り。 豊音「闇の炎に抱かれて消えろっ!」 京太郎「え゛っ」 豊音「どうかなっ、どうかなっ、今のポーズかっこよかったかなっ」 もしも尻尾があればパタパタと子犬のように振り回していただろう豊音を前にして、京太郎は固まった。 何処かで聞いた、いや、書いた覚えのあるフレーズ。そう、正確には「黒の英雄へ至る道」にて書いていた一種の決まり文句。 京太郎「え ゛ーっと。姉帯先輩、今のは一体……」 豊音「ちょーかっこいい挨拶だよー!」 そう言うと豊音はポケットから携帯を取り出して、画面を京太郎に向けた。 京太郎「……あばばばば」 そこに開かれていたページは、「黒の英雄に至る道」だった。 京太郎「……消したはずなのに」 豊音「そうなんだよー。ちょーかっこいいブログだったんだけどちょっと前に消えちゃったんだー。これは個人的に保存してたんだよー。……それにしても須賀くん」 京太郎「ひゃいっ!?」 まずい。「消した」と言ってしまった。姉帯豊音はブログの元読者。身バレする!? 入学初日に邪気眼患者バレ!?  京太郎の背中から冷や汗が噴き出した。 豊音「ひょっとして……須賀くん」 違います作者じゃないですゼロ・カイルじゃないんですゼロレクイエムもギアスの力も闇の魔剣ソーディアン・ディムロスも持ってないです。 豊音「ひょっとして……須賀くんもこのブログの読者!?」 京太郎「違いますっ!」 豊音「……」 京太郎「……」 豊音「そっかー、違うのかー。残念だなー」 京太郎「いやっ違くて?」 豊音「えっ? やっぱりこのブログ読んでたの?」 京太郎「……いや、読んだことないです……」 豊音「そっかー。すっごくかっこいいのに、ちょーざんねんだよー」 トシ「……おほん。二人とも、そろそろ部室に連れていきたいんだけどいいかい」 豊音「あっ、すいませんついつい嬉しくなっちゃって」 部室までの道中、如何に「黒の英雄に至るまで」が素晴らしかったか、格好よかったか、豊音から語られて京太郎は虫の息になっていた。 つづかない

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