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京太郎「またこんなとこで本読んでんのか」<第3話>」(2015/06/15 (月) 11:13:35) の最新版変更点

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http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420351389/ 『この本でいいか?』 私が本棚の高いところを睨み付けていたら、彼は手を伸ばして目当ての本を取ってくれた。 同じクラスで、隣の席の男の子。 名前は確か……須賀京太郎くん、だったかな。 『よろしくな、宮永』 クラス委員決めの時。 私は風邪で休んでいてその場にいなかったので、勝手に決められていた。 図書委員だから、別に不満はなかったけど。 少し驚いたのは、彼も図書委員になったこと。 ジャンケンで決まったって、彼は言ってた。 『え……家、隣だったのか』 少し、驚いたような顔。 言われてみると、彼と一緒に帰ったのは初めてだった。 彼はハンドボール部で、私は麻雀部。 こうして帰るタイミングが重なるのは、珍しかった。 『照』 『名前で、いいよ』 『改めて、よろしくお願いします?』 『ふふ……』 『よろしくね、京ちゃん』 『良かったらさ、今度の試合見にこないか?』 ハンドボール……のルールはよくわからないけど。 練習試合の中で、背が高めの京ちゃんはよく目立っていた。 将来はスポーツ選手になったりするのかなって、『この時は』思ってた。 『ん? ま、レギュラーだし自信はあるけど……考えたことはねぇなあ』 何となく進路の話をしてみたら、返ってきたセリフ。 あれだけ目立ってたら引く手数多な筈なんだけど、どうも自覚はないみたいだった。 ……なんて、考えてたんだけど。 京ちゃんが特別に目立っていたわけじゃなくて――私が京ちゃんしか見てなかったんだって、気が付いたのはもっと後の話。 『ほら、危ないぞ』 本を読みながら通学路を歩いていたら、京ちゃんが私の手を引いた。 数歩先にある段差。このまま歩いていたら、足を引っ掛けて転んでしまうところだったみたい。 『ありがとう』 『なら本はしまえよ。また転ぶぞ?』 そしたら、京ちゃんがまた引っ張ってくれるでしょ? そう言ったら、京ちゃんは私のおデコを軽く小突いた。 『ばーか』って、京ちゃんは笑って。 それからずっと、京ちゃんは私の隣で手を握ってくれた。 そして、今。 あの日みたいに、京ちゃんは私の手を取って。 京太郎「俺と、結婚してください」 私の指に。 ダイヤモンドの、指輪をはめた。 驚きとか、喜びとか。 色んな気持ちがぐちゃぐちゃで、爆発して。 何かを言いたくても言葉にならなくて。 「……はい!」 私は、泣きながら、頷くことしかできなかった。 ……さて。 普通なら、めでたしめでたしで終わる話なんだけど。 「おめでとうございますっ!!!」 焚かれる無数のフラッシュに、けたたましいシャッターの音。 我に返って現状を振り返ると。 「……あっ」 ここは、優勝記者会見を終えた後の、廊下だった。 自分で言うのもなんだけど、私は新人プロとして大きく注目を浴びている。 こんな時に、パパラッチが食いつかないわけがなかった。 マイクやカメラを向けられても、いつもみたいに気の利いたコメントは言えない。 「よっと」 固まっている私の腰に手を伸ばして、京ちゃんは私を抱き上げた。 お姫様だっこ。密かに菫が憧れていた状態。 注目を浴びる京ちゃんは、そのままカメラの前で、見せ付けるように――私に、キスをした。 再度、湧き上がる歓声。焚かれるフラッシュ。 「すいません、ちょっと通りますよ」 京ちゃんは私を抱き上げたまま、群がる報道陣の波をかき分けるように進んでいく。 情けなかったり、ヘタれることも多いクセに。 今夜の彼は、凄く強引で。 お陰様で、この後の予定を全てすっぽかしてしまった。 その後も、色んなことがあった。 私をアイドル的に売り出そうとしていた人が頭を抱えたりだとか。 先輩と試合をすると、必ず私が優先的に狙われたりだとか。 子どもが牌のおねえさんにハマったりだとか。 ストーカーみたいな人がいたりとか。 とにかく、色んなことが目まぐるしくあって。 私が転びそうになった時は、いつも京ちゃんが引っ張ってくれた。 ――春の日差しは暖かく、風は涼しい。 同窓会で久しぶりに訪れた母校の屋上から見る景色は、結構変わっていた。 アレから何年も経っているから、当たり前だけど。 やっぱり、寂しいと思う気持ちはある。 卒業アルバムの写真と、眼下のグラウンドを比べて見ても、細かいところが変わってるし。 流石に年をとったなぁ、と実感する。 ……こう言うと、恐ろしい顔をする先輩方を見てうちの子が泣くから、口には出せないけど。 ……でも、絶対に変わらないこともあって。 「また、こんなとこで本読んでんのか」 後ろから、苦笑と溜息。 振り向かなくたって、例え声がなくたって、誰だかわかる。 私はアルバムを閉じて、ゆっくりと振り向いた。 「それじゃ、行こっか――京ちゃん」 カンッ

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