「京太郎「またこんなとこで本読んでんのか」<第2話>」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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――拝啓、残暑の候うんたらかんたらで。
咲「せ、セックス!?」
将来の義妹の第一声がコレだったんですが――こんな時、俺はどんな顔すりゃいいんだろうか。
残念ながら、どう頑張っても引きつった笑いしか出て来ない。
今回のインターハイ決勝戦。
照にとってはチャンピオンの座を守る防衛戦であるのと同時に、もう一つ重要な意味を持っていた。
『よろしくお願いします……!』
強い闘志を瞳に宿し、チャンピオンを見据える宮永咲。
3年間、照の隣で色々な魔物クラスの女子を見てきたけれど、アレはモニター越しでも響くものがあった。
そんな妹さんと、一対一で話してほしいと、照は言った。
確かに、考えてみれば。
このまま照との関係が続けば、将来的には義理の妹にもなる相手。
深い付き合いになるわけだし、仲良くするのは大事だ。
それにいくら麻雀が強くて『魔王』だなんて渾名が付いてるからといって、私生活でも恐ろしいヤツだとは限らない。
照との長い付き合いを通して、それはよく身に染みている。
『大丈夫。咲も京ちゃんもいい子だから』
そんな照の言葉に見送られて、妹さんが待つという喫茶店に訪れたら――待ち受けていたのは、さっきの言葉。
京太郎「……えーっと……」
咲「あ、あぅ……い、今のは、違くてぇ……!」
完全にオーバーヒートしている妹さん。
目はグルグルに回っているし、顔は湯気が出そうなくらい真っ赤っかだ。
理不尽なレベルで麻雀が強いヤツはどこかしら変なヤツが多かったが、こんな子には会ったことがない。
放って置くとガチ泣きしそうな妹さんを宥めるのにかなりの時間を費やして。
京太郎「落ち着いた?」
咲「ごめんなさい……」
シュンと縮こまる妹さん。
心なしか角みたいな髪先も萎れているように見える。
京太郎「まぁ……どうせ、照が変なこと言ったんだろ?」
咲「……はい」
個人戦の後に妹と仲直りした照は、これ以上ないくらいに上機嫌だったし。
昂るテンションのままに、あることないこと吹き込んだに違いない。
だから、その――妹さんのバックからチラッと覗く官能小説の表紙らしきものも、きっと俺の勘違いなんだろう。
「お姉ちゃんの彼氏って……どんな人なの?」
姉と仲直りして、色々なことを話して。
咲が一番気になることを聞いた時、照は少しだけ驚いたように目を見開いた。
照「知ってたの……?」
咲「うん……ごめん、見ちゃったんだ……キス、してるとこ」
それも、ディープなヤツを。
照「……ん」
ほんのりと、照れて頬を赤くする姉の姿はかなりレアである。
昔、一緒に暮らしていた頃ですらあまり見れるものじゃなかった。
咲「お姉ちゃん?」
照「……京ちゃんはね、いつも私を助けてくれたよ」
咲「そうなんだ……優しい人なんだね」
照「うん……お調子者で、情け無いところもあるけど」
照「でも……私の、大好きな人」
出会った日のこと、一緒に出かけたこと、部活でのこと、結ばれた日のこと。
つらつらと恋人とのことを述べる姉の顔。
それは文字の世界でしか知る事がなかった、恋する乙女の眼差し。
この姉にこんな顔をさせる男の人は、どんな人なんだろう。
咲の興味は、どんどん強くなっていく。
照「それでね」
咲「うん!」
色恋沙汰とは縁の遠い環境にいるとはいえ、咲も一人の女子高生。
気が付けば、身を乗り出すように姉の話に聞き入っていた。
照「アッチの相性も抜群なんだ……!」
咲「……うん?」
アッチとは、ドッチだろう。
すっとぼけたい気持ちはあるけど、姉がそれを許さない。
照「初めての夜は、決勝の後だったんだけど――」
どう返したものか、と咲が悩んでいる間に姉は変なスイッチが入ってしまったらしい。
聞いてもいないのに、情事の様子をこと細かく、無駄に文学的な表現を添えて教えてくれる。
咲(……ってか、決勝後って……)
咲が感動やら興奮やらで寝付けなかった夜、姉は愛しの彼としっぽりすっぽり致していたらしい。
……そこはかとなく、残念な気持ちが胸の中を塗り潰した。
……まぁ、姉の情事については置いといて。
件の彼――『京ちゃん』が優しい人であることに間違いはないようである。
咲「私も……会ってみたいな、その人に」
照「……」
咲「お姉ちゃん……?」
照「あげないよ」
咲「いらないよ」
妹を何だと思っているのか、この姉は。
そんなこんなで、姉がセッティングしてくれた日の朝。
咲(将来の義兄さんだし……しっかり挨拶しなきゃ)
この時の咲の思考は、何も問題がなかった。
咲が選択を間違えたとすれば、待ち合わせまでの時間を、近場の本場で潰そうとしてしまったことである。
立ち寄った本屋で欲しかった本の新刊を見つけた咲は、やや上機嫌で店内を歩き回る。
咲(……まだ、結構時間あるなぁ……)
普段よく立ち寄るコーナーを隅々まで見渡して、それでもまだ時間に余裕がある。
好奇心のままに店内を見回して、ふっと目に付いた本の煽り文。
――理想のカップル、身長差――
先日の姉の言葉を思い出すまで、時間はかからなかった。
普段なら気にも留めないその本を、手に取ってパラ見してみる。
咲(身長差かぁ……お姉ちゃんが160くらいだから……あの人は180くらいだよね?)
そんなことを考えながら、ページをめくっていく。
咲(一番キスしやすい身長差が12cmで……理想のカップルが15cm……)
咲(へぇ、お姉ちゃんとあの人、身長差は理想じゃないんだ……)
咲(あ、あった……これかな。身長差、22cmは……!)
咲「い、一番セックスがしやすい身長差……」
後悔、先に立たず。
咲「……こほん」
誰に聞かせるでもなく、わざとらしく咳払い。
そっと本を棚に戻して、浮かんできた想像を振り払うように再び店内を歩き回る。
だがしかし、先日の姉の熱弁もあって中々イメージは消えてくれない。
イメージを消そうとすればするほど、思考は残念な方向に傾いていき――
咲「……なんで私、こんなの……」
気が付いた時には、鞄の中には一冊の官能小説が。
イメージを引きずったまま、待ち合わせ場所で待つこと数十分。
煮詰め立った頭で義兄への挨拶を考えても、当然思考はまとまらない。
朝には落ち着いていた筈の心が、今になってさざめき出す。
焦り、緊張、恥ずかしさ、色んな気持ちがグルグルに煮詰まって、爆発した結果が――
咲「せ、セックス!?」
……後に。
『私に、そんな妹はいない』と。
目を逸らしながら、彼氏にそう語る元チャンピオンがいたそうな。
カンッ