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697 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/16(土) 22:03:32.12 ID:BmNtfbDHo [21/33] [プロローグ:阿知賀] ――――人間は一人では生きてはいけない。 そんな当たり前の言葉を言われても、ピンと来ない。 そういう時がある。 大抵は自分勝手に生きているような人間に対して言われることが多い言葉ではないだろうか。 例えば社会。 国を構成する要素である経済は人の繋がり、会社の繋がり、国同士の繋がり。 そういった循環によって回っている。 経済が良くなればその中に居る人間には多くの金が舞い込み、悪くなればその逆だ。 だが、人は一人ではそれすらも無い。 都会の街並みの中に一人だけしかいないのは、無人の孤島に居るようなもの。 しかも、救助が無いと確定した、だ。 例えが大雑把すぎて流石にそこまでということではないが、彼女・松実玄はそれに近しい心境にあった。 彼女が取り残されたのは、過去という名前の孤島。 皆がここ、阿知賀子供麻雀部に揃っていた……そんな過去。 普段の生活は、寂しくはない。 大好きな姉も、旅館の皆もいる。 クラスの友達だって、いる。 だけど、彼女の胸に空いた穴は埋まるほどじゃなかった。 一人は寂しい。 一人は辛い。 一人は悲しい。 誰かと居たい。 皆と居たい。 ここに居たい。 あの頃のようでありたい。 ―――そう願い、玄は今も部室を守っていた。 何時でも、皆が帰ってこれるように。 玄「……今日も、しっかり掃除しないと…」 春休み。 長期間の空き期間があっても、掃除に玄は来ていた。 何時ものことだ。 ……その部室に、先客さえ存在しなければ、という前置きがつけば。 京太郎「すいません、勝手に入っちゃって……ここ、麻雀部…ですよね?」 709 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/16(土) 22:21:50.35 ID:BmNtfbDHo [22/33] それを言葉として表現するなら、どうだろうか。 運命の出会い、とでも言うべきなのだろうか。 いや……当初、玄に恋心は無かった。 あるのは、驚愕だったろう。 見覚えの無い学ラン……中学生だろうか? 身長は男の子らしく、(男子平均くらいだろう)すらりと高い。 女子生徒でも一番高い子だって抜けないんじゃないだろうか。 何所か垢抜けず、だけど滲み出るように見せる大人っぽさ。 そんなアンバランスな雰囲気……のような物を持ってる。 そんな子だった。 かっこよく言うなら─────その少年はまるで老人のようだった……なんて、そんな感じじゃないだろうか。 別にチキンランしてからヤクザが入り込んでる雀荘に舞い降りた天才じゃないけど、そんな感じ。 ああ、そうか。 この言葉がぴったりくる。 【成るべくして成った】 例えば、玄に手牌にドラが来るように。 子供が何れ大人になるように。 少年、須賀京太郎は……この麻雀部に来るべくして来たんじゃないだろうか? そんな、確立した未来、定まった道、敷かれたレール。 言い方は色々あるけど、そんなことはどうでもいい。 奇妙な空白が二人の間にあった。 京太郎は困ったように、首を傾げる。 対して玄も、当初こそ驚きに固まってはいたが、途中で冷静を取り戻していた。 だけど、口を開けば出てくるのはしどろもどろな言葉ばかり。 ここは今使ってなくて、でも麻雀部で、いつかはまた再稼動して、それで、それで、それで。 そんな、なんでか必死な、言葉。 玄が話し終えて、京太郎が一言謝り携帯を取り出す。 会話短く、携帯は閉じられる。 もう帰らなきゃいけないと、京太郎は言った。 そうして、去っていく背中に玄の口から「あっ…」と、声が漏れる。 短い出会いですらある、別れの寂しさ。 ここが麻雀部の部室だったからかも知れない。 思わず、しょぼくれてしまう。 そんな時だった。 京太郎が振り返った。 京太郎「また、来てもいいですか?」 そんな言葉を、伝えるために。 721 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/16(土) 22:33:07.95 ID:BmNtfbDHo [23/33] ――――また、皆が集まった。 玄は普段と違う気分で部室の掃除に向かう。 本格的に始動するのは週明けから。 自動卓を長いこと使っていなかったから、その整備のためだ。 ふんふんふん、と。 鼻歌軽く、玄は行く。 ドアを開いて、清掃用具を出そうとロッカーへ。 その途中で気づく。 部室がやけに綺麗なことに。 そして、こちらに近づく足音に。 ドアが開く音が聞こえる。 そこに見えるのは、今年から共学になった阿知賀高校の男子制服を着た、金髪の少年。 目と目が、逢った。 京太郎「―――お久しぶりです」 玄「――――うん!久しぶり、だね!」 [プロローグ:了] 735 名前:ドラゴンスレイヤー ◆VB1fdkUTPA[!蒼_res] 投稿日:2013/02/16(土) 22:50:38.92 ID:BmNtfbDHo [24/33] 竜華「須賀君殺してウチも死ぬー!!」 怜「やめーや竜華」 ――――なんというか、判断に困る夢を見た。 俺は白いタキシードを着て、聞こえてくる声に身震いしている。 あれ、おかしいな。 俺、今日って結婚式なんだけど、葬式じゃないんだけどなー? そんな身の安全を心配する俺に、同じく部屋に居たセーラさんが笑っていた。 怜さんは隣の部屋でメイクをしていて、それの付き添いに今は清水谷さんと船久保さんが付いている。 俺の部屋には、何でかセーラさんと泉がいた。 ……仮にも新郎の部屋に女性が居るなんて、どうなんだろう。 そう思ったりもしたが、いらない世話というものだ。 セーラさんは聞こえてくる会話に笑いを堪えておれず、泉は人のジャケットを着て「大きいな~」とか言ってる。 あれだ、子供だ。 全員、子供。 あれから幾年か過ぎても。 千里山高校時代から誰一人、変わってなかった。 それが良いことなのか悪いことなのか。 いや、悪くはない。 こうして思い出になった過去と今も付き合えているのだから、当然だろう。 「須賀様―――いえ、“園城寺”様、お時間です」 京太郎「―――はい」 結婚式の係員の穏やかな声がかかり、俺は椅子を立つ。 近づく足音が聞こえて、視線を向ける。 泉が俺の着るタキシードのジャケットを抱えて、傍に居た。 泉「………うん、おめでとうな」 京太郎「………ありがとな」 ジャケットを羽織り、俺は片手を上げる。 その背中に小さく、手を振る泉。 俺と泉が子供の頃には、色々あった。 色々と、だ。 さっき、今も子供だと、俺は言った。 泉は、あの頃から……少しは、前に進んでいてくれるんだろうか…? 750 名前:ドラゴンスレイヤー ◆VB1fdkUTPA[!蒼_res] 投稿日:2013/02/16(土) 23:05:25.18 ID:BmNtfbDHo [25/33] 怜「おまたせや」 京太郎「いえいえ」 神父様か司祭様かは知らないが、俺はその前に並ぶ。 怜さんも、並ぶ。 交し合うのは短い言葉だ。 気心知れた、それでいてこれからまた深くなる仲。 妙に緊張する。 そんな緊張は怜さんも同じなのか。 指輪をつけようと、手を握ると震えているのが分かった。 息を飲んで、吐く。 それだけで落ち着けた。 ああ、そうだ。 怖いのは、俺だけじゃない。 妙な不安は、感じてしまうものだ。 特に、人生の変更点だと。 「では、誓いのキスを」 妙に時間がかかったせいか、その言葉が急かしているように聞こえた。 俺は顔にかかったベールを取る。 薄く化粧された、怜さんの顔。 互いが微笑んで、唇を―――― 761 名前:ドラゴンスレイヤー ◆VB1fdkUTPA[!蒼_res] 投稿日:2013/02/16(土) 23:12:57.64 ID:BmNtfbDHo [26/33] 【8月14日:朝】 京太郎「――――ん?」 なんで俺、枕にキスしてんだろうか。 目覚めはそんな疑問に満ちていた。 なんの夢だったんだろう、あれ。 思わずベッドの上で胡坐を組んで首を捻るが、答えは出ない。 ……って、ここって何所だったっけ? 部屋を見回す。 ホテル、だな。 ……あ、そっか。 俺は阿知賀が全国に進んだから、それの付き添いで来たんだったか。 どうにも寝ぼけていかん。 俺はそんなことを考えつつ、髪をぼりぼりと掻く。 ………しかし、さっきの女の子。 少し大人っぽかったけど、あれって前にパーキングで逢った千里山の園城寺さんだったような…。 【8月14日:朝】 全国大会会場。 お茶を買いに遅れてた俺は、前を行く皆を最後尾から追っていた。 見つけた、あの後姿は皆だ。 俺は急に足止まる皆に思わず首を捻る。 それは瓦解しないまま、俺の視界にそいつは映った。 一言で言えば、無表情。 そんな顔の、あいつ。 ああ、そういや麻雀部に入ったって何時ぞや龍門渕へ練習試合に行った時に言ってたような。 それが清澄だって……まさか。 京太郎「さ、咲ぃ!?」 咲「――――え、京ちゃん?」 な、なんでこいつがここに? つか、咲って麻雀打てたのか!? ああくっそ、最近なんか物忘れ激しいぞ俺!? そう額に手をやると、皆が俺を見ていた。 なんか化け物を見るような、そんな目で。 ……え、何この疎外感? そう俺が思わず思うと、咲が俺の手を握る。 縋るような、そんな目だ。 ああ、なるほど。 俺は理解して、部の皆に声をかけた。 京太郎「すいません、こいつ迷子みたいなんで俺連れていきます」 穏乃「あ、ちょ、待って京太郎!私も行くー!!」 玄「あわあわあわあわ!?わ、私も!!」 京太郎「え!?何で!?」 付いてくる二人に思わず俺がツッコミを入れてしまう。 いや、別にいいんだけれども。 なんというか、穏乃は妙に視線鋭い。 玄さんはあわあわとしつつも付いてきてるし。 咲は涙目だし。 ……なんでだろうか。 俺、保育園とかの先生になった気分だぞこれ。 問題なのは、全員が高校生だという点か。 824 名前:ドラゴンスレイヤー ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/16(土) 23:50:11.48 ID:BmNtfbDHo [30/33] 【8月14日:昼】 玄「京太郎君!あの子とどんな関係!?」 京太郎「幼馴染っす、玄さん」 宥「こ、怖い幼馴染さんだね」 松実宥さん、松実玄さん。 この二人は姉妹だ。 二人とも苗字が同じなので名前で呼ばせて貰っていて、代わりにと言うにはなんだが、俺のことも好きに呼んで貰っている。 姉の宥さんは、実に特徴的だ。 この夏に、セーター、マフラー、手袋を装備しているのだ。 そう、この人は極端な寒がりなのだ。 時期的にもはや視界テロなんじゃないかと思う装備だが、まぁなんとも可愛らしく震えているので許せてしまうだろう。 ちなみに、夏にこれなので冬はもっと酷いらしい。 そんな宥さんの妹であり、俺が初めて出会った玄さん。 この人は言うならば、明るい。 その一言に尽きるだろう。 ポジティブで、前向きで、おもち好き。 思わず握手してしまったことは記憶に新しい。 ちなみに二人とも結構なものをおもちである。 とまぁ、そんな二人と共に、俺は今部屋に居た。 なんてことはない。 他の皆がそれぞれの小用で居ないだけだ。 そこに、玄さんが勢いよく踏み込んできた。 それだけだ。 玄「幼馴染?」 京太郎「ええ、昔長野に住んでて、あいつとは結構な付き合いですよ」 玄「ふーむふむふむ、なるほど」 宥「玄ちゃんと、皆みたいだね」 皆、というのは新子とか穏乃のことだろう。 ここの部は昔馴染みが多い、そんな場所だと聞いているし。 玄さんは納得したのか、未だに視線は妙に鋭いながらも身を引く。 ……しかし、あれだな。 なんでそんなこと聞くんだろうか? 穏乃みたいに、その原村って子のことを聞く訳でもなしに。 うーむ? 【8月14日:夜】 仲のいい姿。 それはどの性別、どの年代、どの国籍であろうと、見ていて気持ちいいものである。 幼い子供たちが仲良く遊んでいるのを見れば自然と笑みが零れる。 少年少女が青い春を過ごしている姿は爽やかさを感じさせる。 大人同士に感じる無言の絆はそこに確かにあると感じれる。 老人同士の繋がりは、綿で包まれるような暖かさがある。 まぁ、つまり。 仲の良い女の子同士っていいよね、って話なだけだ。 憧「宥ねぇの髪櫛してあげる~」 宥「あ、憧ちゃん、くすぐったいよ」 きゃっきゃうふふ。 実に古典的効果音がこうまでぴったりだとは思いもしなかった。 現在時刻は夜中の20時。 夕食も終え、眠る前の自由時間、というような時間がこれから続く頃合だ。 そんな中、麻雀卓が設置されたレクリエーションルーム兼俺の寝室には、今二人がいる。 宥さんと、ちょっと勝気な印象を受けるオシャレな女の子の、新子憧。 穏乃に見せて貰った過去の写真からは考えれない超成長をしている女の子である。 まぁ、そんな勝気な女の子とほわほわ雰囲気の宥さんがじゃれあう光景。 それは実にすばらな光景である。 こう、あれだ。 自然と頬が緩むとか、そんな表現がぴったり来るんじゃないだろうか? 俺がそう思っているとじとっとした視線を感じる。 憧「………変態」 京太郎「なんでや!!」 憧「今宥ねぇのこと変な目で見てたでしょ!!あと何その関西弁!」 京太郎「いや知らんし」 勝手に出ただけだし、うん。 俺はそう言うとまたまた胡散臭いものを見る目を向ける憧。 さばさばとしていて、同年代ということもあり軽く名前を呼ぶくらいの仲ではあるが、こういう時のこいつは警戒心が高い。 なんというか、男が極端ではないが苦手。 そんな感じだ。 宥さんのあわあわと、慌てたような声。 それを皮切りに妙な空気は発散されたが、やれやれ。 なんか疲れたぞ、俺。 71 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 14:34:13.49 ID:GIzEylCQo [10/61] 【8月15日:朝】 全国大会。 その一回戦は一位高校のみが勝ち抜くことになっている。 この時点で半数近くの高校が、全国の舞台に散る。 それは阿知賀も同じことだ。 阿知賀の狙い。 差はあれど、決勝の舞台に立つこと。 それが全員の共通の願いだ。 まぁ、穏乃は清澄の原村さんと出会うため。 逆に、俺の向かい側に座る鷺森さんは、恩師であり憧れである、赤土先生のため、らしいけど。 灼「……須賀君」 京太郎「はい、どうしました?部長」 灼「いや……うん、何でもない」 京太郎「は、はぁ……」 俺はこの人とどうにも距離感を掴み辛いと思っている。 この人が何処までも素直になるのは赤土さんや皆の前だけ。 俺にはちょっと余所余所しいというか、慣れてない雰囲気を感じるのだ。 まぁ、それは憧も同じなんだけれども。 朝。 奇妙な空白の時間を俺は灼さんと過ごしている。 あと10分もすれば皆が集まって、大会会場に行くんだろう。 そんな、何をするにしても中途半端な時間。 会話でもできればいいのに。 そんなことを考えていると、「あの」と。 鷺森さんが声をかけてきた。 灼「……ありがと、ね」 京太郎「え?」 いきなりのお礼。 それに俺は思わず聞き返す。 鷺森さんは言葉を選ぶように、探すように一拍をおいて、続けた。 灼「部の雑用……須賀君が受け持ってくれたから、私たちは練習だけに意識を向けれた」 灼「だから……ありがとう」 そう、少し困ったような笑顔を見せる鷺森さん。 そんな、不器用なお礼。 それを受け取った俺は小さく、頭を下げてその言葉を受け取ることしかできなかった。 99 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 15:14:56.42 ID:GIzEylCQo [13/61] 【8月15日:昼】 ドラゴンロード大爆発。 画面の向こうに写る玄さんを見て皆は大きく感性を上げていた。 ドラというのは簡単に役を上げれる便利なものだ。 それを玄さんは4つも5つ6つも乗せる。 タンヤオと合わせば常に満貫か跳満、またはそれ以上を狙えるのだ。 分かっていてもどうにも出来ない。 そんな感じだろうか。 穏乃「いっけー玄さん!」 憧「うっひゃー、やっぱり怖いわあの火力…」 宥「玄ちゃん、頑張って……」 それぞれが思い思いの声を上げる。 穏乃は勢いよく。 憧は過去を思い返すように。 宥さんは薄く微笑みながら。 共通してあるのは、誰もが玄さんを信じている、ということか。 俺は声を上げている様子を見てそっと席を立つ。 お茶でも入れてやろう。 穏乃と憧にはアイスティーでいいか、宥さんはホットで。 手つきはもはや息をするように動く。 お茶だけじゃなく、コーヒーだって淹れれるのは妙な下っ端根性か。 そう思っていると、後ろに気配を感じた。 ゆっくりと振り返れば、穏乃、憧、宥さんが俺の手元を見ている。 京太郎「……あのー?」 穏乃「いやー良い匂いがして……」 憧「アンタ、サテンかなんかでバイトしてたの?」 宥「あったかーい……」 あははと笑う穏乃。 呆れたような表情の憧。 沸いたヤカンに手を寄せて温もりを得る宥さん。 そんな、思い思いの感想で俺へと声をかけている。 いや知らんし。 俺はそう言うしかないんだけども。 118 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 15:41:20.44 ID:GIzEylCQo [17/61] 【8月15日:夜】 一回戦突破。 実に御目出度いことだ。 俺は歓声に沸く皆の笑顔を見つつ、そんなことを思っていた。 次の試合まで時間がある。 気を引き締めて、また練習する。 そうでもしなきゃ、全国は戦えない。 それは誰もが知っているが、赤土さんが言うと重みは一層あった。 そんな喧騒は過ぎ、皆がそれぞれの部屋に帰った頃。 俺は未だに部屋に居た鷺森さんにお茶を出しつつ、俺もソファーに座っていた。 京太郎「お疲れさまです」 灼「あ、ありがとう」 京太郎「いえいえ……それ、牌譜ですか?」 灼「そう、千里山の」 京太郎「千里山……」 そうか、2回戦はシードの千里山と戦うことになるのか。 まだもう一つの高校は分からないけれども、考慮しておいて損はないだろう。 しかし、千里山か……。 京太郎「江口さんの火力も怖いですけど、園城寺さんの能力も怖いですね。リーチ・一発・ツモを高い確率で付けてきますから」 灼「うん、それが怖い……え?」 京太郎「清水谷さんは聴牌と火力の両立してますし、船久保さんは膨大なデータから相手を抜き出すのが得意、二条さんは堅実に安定した打ち筋ですしね」 「………あれっ、私って須賀君に牌譜見せたっけ?」 京太郎「え?」 これ、今日ハルちゃんに貰った奴なのに。 そう、目を丸くして告げる鷺森さん。 ああ、あれか。 俺がお茶を淹れてた時、赤土さんと一緒に居なかったのはそれか。 しかし、口を開けばこうもぺらぺらと出て来るんだ、俺。 しかも赤土さんの考察に近しいものもあるし。 灼「須賀君、見てるところは見てるんだね……」 京太郎「えっと……あはは…」 うーむ? 154 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 16:15:06.17 ID:GIzEylCQo [21/61] 【8月16日:朝】 ふと目が逢う。 そんな時、人は足を止めることがある。 全国大会会場。 穏乃、憧と共に試合を見にきた俺はそんな状態にあった。 視線の先。 あれは、千里山の二条さんだろう。 探せば近くに船久保さんも居る。 そんな確信すら覚えていると、こっちに来るのが見えた。 泉「確か、阿知賀やったっけ」 京太郎「えっと……」 穏乃「二条さん、でしたよね?千里山の」 泉「せや、ウチは二条泉。2回戦よろしくなー」 憧「どーも」 表面上にこやかに。 しかし内面ではどう思っていることやら。 そんな空気がある。 同じ一年生。 阿知賀がこれからも全国に進んでいけば。 そして千里山も全国に進んでいけば。 また合間見える、そういう関係だろう。 しかし、あれだ。 妙に居心地悪い。 二人の間の空気が重いというか、なんというか。 対抗心というのは自分を高めてくれるスパイスなのだが、過剰すぎると敵を増やすだけだ。 穏乃と俺が思わず二人に視線を向ける。 京太郎(おい穏乃……この空気、どうにかできねぇか?) 穏乃(べ、別に殴り合いになってるわけじゃないんだし…) 京太郎(この空気自体が苦手なんだよ!) そもそも、俺は女の子同士が争う姿なんてのは苦手だ。 というか、吐きそうになる。 なんでか知らないけど。 俺は胸の辺りを押さえつつ、とりあえず今が過ぎることをただ願いのだった。 265 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 19:11:11.05 ID:GIzEylCQo [32/61] 【8月16日:昼】 宥「はわ、はわわわわ……」 穏乃「ゆ、宥さん!?どうしました!?」 宥「こ、ここ…寒いよ……」 憧「あー……」 そらそうだよね、夏だしね。 試合を見れるモニターは人も多いし、当然エアコンは全開だ。 その風がもろに当たっているんだろうか。 穏乃「じゃ、じゃあ私のジャージを…」 憧「はいストップ」 京太郎「はーい駄目ですよー」 穏乃「ええ!?なんでさ!!」 京太郎・憧「「なんでじゃない!!」」 その下に何も着てないからだド阿呆。 俺は思わず憧と同時にツッコミを入れる。 しかして、その間も宥さんは震えている。 仕方ない、か。 京太郎「宥さん、出ましょうか」 宥「きょ、京太郎君?」 京太郎「無理して寒いとこに居て体調崩しても損ですから」 憧「そうね……ってことで、あっちで記録してるハルエに後任せよっか」 穏乃「りょうかーい!」 メールを一文打って、俺は3人と外に出る。 暑いな畜生。 そう思わずにはいられない。 だがそれでも宥さんには非常にありがたい環境らしい。 ほわっと。 なんというか、ほっこりした顔になっているのが目に見えて分かった。 なんというか、あれだ。 暑がりじゃないのって、便利だなぁ。 暑いのだって、脱げる枚数に限度はある。 でも寒がりなら上に重ねて着れるし、それにある程度はまとめが効く。 ……でも、夏に厚着は、視界テロだよなぁ…。 322 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 19:46:06.36 ID:GIzEylCQo [39/61] 【8月16日:夜】 灼「お疲れ様」 京太郎「お疲れ様っす」 今日の試合結果。 それによって対戦相手が決定した。 これからはそれの対応に追われることになるんだろう。 鷺森さんも、そんな一人だ。 ウチの部活には所謂参謀タイプの学生はいない。 データを集めて傾向を考える。 そういうことは出来ても、複雑な考察を練るようなタイプじゃないのが全員だ。 一番特化しているのは、やはり赤土さん。 あの人は社会人リーグという中で揉まれてきた、バリバリの実戦派だ。 何処までも結果が全ての世界。 そこで過ごしたあの人は、鋭い“嗅覚”みたいなものを持っていた。 灼「まぁ、私もハルちゃ……先生の教えを信じてるから」 京太郎「頼りになりますしね」 灼「うん…」 こくりと、小さく頷く。 鷺森さんは赤土さんに憧れている。 いや、ある意味では自身の骨となっているような人だ。 だからこそ、赤土さんが経験した10年前。 それにかける思いは強い。 全国にかける意志も強い。 勝利に貪欲。 前に進むことに貪欲。 決勝に向かうことに貪欲。 だからこそ、責任感も強い。 こんな人だから、部長として進められているのかも知れない。 393 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 21:37:38.47 ID:GIzEylCQo [45/61] 【8月17日:朝】 晴絵「須賀くーん」 京太郎「赤土さん?」 晴絵「お、ここに居たの……って、灼も?」 灼「あ、ハルちゃん…!」 鷺森さんと明日、第二回戦用の資料まとめ。 その最中に部屋に来たのは、阿知賀の監督であり顔でもある、赤土さんだ。 10年前のインターハイ。 そこで魅せた多くの対局から“阿知賀のレジェンド”と呼び声高い。 実際、あのトッププロの一人である瑞原プロから勧誘を受けるほどだ。 その実力は想像できるだろう。 そんな赤土さんが俺を探していた。 はて、なんだろうか? 俺は少なくとも試合はない。 となると雑用かとも思ったが、雑用自体はほとんど終わらせている。 ということは、だ。 京太郎「……個人的な用事ですか?」 晴絵「おっ、鋭いねぇ~」 灼「個人的な用事って……ハルちゃん、何するの?」 晴絵「いやー、ちょっと今度さ、恩師の先生と夜会う約束しちゃってねー」 あはは、と笑う。 つまりは、皆の頭数とかそういうのをしっかりと見ていてほしい。 そういうことだ。 監督代行、みたいなもんだろうか。 それ自体はなんの問題もない。 俺は二つ返事で答えて、赤土さんを見る。 鷺森さんの憧れ。 確かに、こんな人が明るく魅せてくれたら…。 うん、それはきっと、気分いいだろうな。 そんなことを思う。 鷺森さんの場合は、それが今も強烈に印象ついている。 そういうことなんだろう。 444 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 22:43:08.22 ID:GIzEylCQo [49/61] 【8月17日:昼】 京太郎「ま、監督も大人だしな、付き合いはあるかー」 俺は朝の会話を思い出しつつ、自分の部屋へと向かっていた。 昼食を終えた後、やることはない。 胃に血液が集中するので集中力が薄くなるから休憩。 それが一番らしい。 俺は別に麻雀を打つわけじゃないんだけど。 そんなことを思いつつ、レクリエーションルーム兼俺の部屋に入る。 予算の都合でこうなってるけど、まぁ本来は定員外の俺だ。 文句なんて言えまい。 鼻歌交じりに俺は部屋に入る。 そこで、固まった。 誰かの寝息。 それが聞こえたからだ。 京太郎「……憧?」 憧「すぅ……すぅ……」 寝息の正体発見。 俺のベッドで一人丸まって眠る憧の姿が、そこにはあった。 つか、困る。 なんか人のベッドで寝られるとすっごい困るぞ。 いや、ここはホテルだから俺の家のベッドじゃないからいいんだけども。 それでもこう……あれだ、あれなのだ。 くそ、良い言葉が思いつかない。 京太郎「おおい、憧ー」 憧「ん……んみゅ……」 京太郎「……起きろー」 ゆっさゆっさ。 俺は憧の肩を押すように揺する。 しかし、反応は悪い……つか、眠りが深すぎないか? そう思いつつ、揺らすこと数分で反応が変わる。 突然と、目を開くという反応に。 京太郎「おう、おはよう」 憧「………え…」 京太郎「ん?」 憧「え、エッチ馬鹿スケベ変態!!何してんのよー!!」 京太郎「何もしてねぇよ!!」 479 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 23:15:35.56 ID:GIzEylCQo [53/61] 【8月17日:夜】 京太郎「ったく、あんにゃろうめ」 未だにかみ合わせズレてるんじゃ? 夕食を終えた俺は未だにある違和感に昼間の出来事を思い返させられていた。 憧が寝てた。 起こした。 テンパッた憧にビンタされた。 俺は泣いた。 うむ、実に分かりやすいではないか。 泣けるぜ、畜生。 まぁ、いいか。 これだけされれば今晩寝る時に妙な意識しないでいいし。 そう思いつつ、俺は部屋に。 レクリエーションのための場でもあるので誰かいないか、少し物音を確認。 紙を捲くる音。 それだけが聞こえている。 京太郎「入りますよー……って、鷺森さん?」 灼「こんばんは、須賀君」 京太郎「こんばんは……牌譜ですか、それ」 灼「そう、副将になっている選手の奴」 ふぅむ、と俺。 重点的にチェックされてるのはやっぱり千里山か。 でも、船久保さんは……。 京太郎「船久保さんはスタイルというより、相手のデータから想定される展開を自分の中で構築して打っていく人ですね」 灼「そう……特色が無い、徹底的なカウンターみたいな感じ……もし勝っても、2回戦でデータを取られると思う」 京太郎「ですねぇ……」 あの人、悪い笑みしてるもんなぁ。 そう俺が思わず冷や汗をかく。 そんな俺に、鷺森さんは続けた。 灼「でも、対策自体は簡単……相手のデータを、上回り続ける」 京太郎「それは……」 灼「うん、難しい……でも、強くならなきゃ……全国の壁は、高いんだから」 そう呟き、手のひらを握る。 ぎちっと、グローブをつけた鷺森さんの姿が見えるほど、鋭く。 目線は、明日へと向けられていた。 508 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/17(日) 23:36:08.47 ID:GIzEylCQo [57/61] 【8月18日:朝】2回戦当日 お姉さん。 そう呼ばれる人が居る。 この阿知賀では一年生は俺、穏乃、憧。 二年生は鷺森さん、玄さん。 そして三年生の宥さんだ。 お姉さん。 つまりは年上を示して呼ぶ呼称。 それはある意味では体の豊満さも必要だろう。 というか必須だ。 必須なんです。 別に悪い意味ではないが、鷺森さんはお姉さんキャラだけど、体格のせいでお姉さんっぽくないのである。 玄さんは別、実際に妹だ。 となると、この部ではお姉さんと言えば宥さんを指して言う言葉にだった。 2回戦の副将戦。 それをモニターで見つめる俺たち。 休憩時間ということで玄さんが差し入れを届けに行っている。 そんな空白の時間。 それを埋めるように試合映像のリプレイが流れている。 今大会も、県大会も。 宥さんはずっと+収支だ。 つまり、負け知らずである。 自然と、穏乃や憧の視線は宥さんに向く。 そんな、お互いが笑って構い合う光景。 それはどうにも微笑ましいものだと一人納得。 視線をもう一度向ければ、恥ずかしそうに微笑む宥さんと目があってしまった。 宥「あはは……私がお姉ちゃんだと、京太郎君はお兄ちゃんかな?」 京太郎「へ?」 憧「はい?」 穏乃「へー」 宥「うん、だって京太郎君、あったかいし……」 あったかい。 そう言った瞬間、憧の視線が向く。 やだ、怖い。 変な意味ないから、それに覚えもないから。 867 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/20(水) 22:02:16.62 ID:jpg5K08zo [5/20] 憧「宥ねぇに手出したら殺すから」 京太郎「出さねぇよ!?」 つーかどういう意味でだ! 手を貸しただけでアウトとかだったら笑えないぞ。 そんな意味をこめて見返すと、睨み返される。 ああうん、ごめんなさい。 こういうときって何でか男が全部悪いことになるんだよな。 知ってたよ、ああ! 穏乃「憧ー、手出すって?」 憧「えっ!?そ、それは…」 穏乃「いいじゃん、教えて教えてー」 京太郎「教えて教えてー」 憧「死ね」 京太郎「売店行ってきます!!!」 冗談じゃねぇ、殺されるわ本当に。 870 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/20(水) 22:07:17.71 ID:jpg5K08zo [6/20] 【8月18日:昼】2回戦当日 大将戦。 阿知賀は2位を追う形で穏乃へと繋いでいた。 交代で鷺森さんが帰ってくる。 何処か、しゅんとしていた。 「ごめん」と。 部屋に入って、そう口を開く。 灼「あの、“でー”って子にやられちゃって、ごめん……」 京太郎「い、いや、あんな馬鹿ヅキ予想できませんよ!」 宥「う、うんうん」 憧「灼さん、そう気を落とさないで……」 画面に視線を向ける。 穏乃が写った。 灼「……頑張って」 宥「うん、頑張って」 憧「頑張れ、シズ!」 京太郎「ああ、頑張れ……!」 揃い揃って、静かに声を紡ぐ。 応援しかできない。 そうしか言えない。 なんというか、いいな。 こういう光景。 見ていると、ほっとする。 そうだよ、これだ。 俺が見ていたい光景はこういうのだ。 平和だな、と思う。 今、決戦の場に居る穏乃は心穏やかじゃないだろう。 だけど、俺は妙に平和だと、そう感じていた。 大丈夫だ。 大丈夫。 京太郎「穏乃は、負けない」 試合が始まる。 結果は、誰にも分からない戦いが。 始まる。 904 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/20(水) 22:26:04.96 ID:jpg5K08zo [10/20] 【8月18日:夜】2回戦当日 宥「玄ちゃん、何言ってるの…?」 憧「さぁ?」 京太郎「さぁ…?」 阿知賀は2回戦を突破した。 乾杯(麦茶で)を終えた俺たちはそれぞれ思い思いに過ごしている。 穏乃は今は赤土さんと話中。 鷺森さんもそれを聞いているというか、赤土さんを見ていた。 そんな中、俺は玄さん、宥さん、憧さんとお茶を手に話中。 会話自体は平凡なものだ。 何をどうするか、とか。 あれがどうだった、とか。 そういうものだ。 しかし、朝にあんなことはあったが、毎回思うんだけど憧とよく話が合う。 俺が興味あることをもうやってたり、そんな感じに。 おかげで会話が弾む弾む。 実に小気味いい感じだ。 宥さんにお茶のお代わりを入れつつ、俺は椅子に座る。 玄さんの傍にもうちょっとお菓子を寄せて、会話を続ける。 そんな、無言で自然と行う動作。 それを3人が見ているのと、目が合う。 955 名前:玄米 ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/20(水) 22:46:11.58 ID:jpg5K08zo [15/20] 京太郎「……あの、何です?」 憧「……別にー」 宥「う、うん」 玄「ですのだ」 三人揃って目をそらす。 なんなんだよ、これ。 俺、なんかしたか? 26 名前:ヤンデレスレイヤー ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/20(水) 23:12:00.31 ID:jpg5K08zo [2/5] 【8月19日:朝】19 大会は基本的に、二日間に分けてA,Bブロックの試合をやる。 たとえば昨日、18日はAブロック2回戦の日。 19日の今日はBブロックの2回戦だ。 穏乃たちはそれぞれ朝早く、個室で準備を済ませている。 準決勝。 その対策のためにだ。 特に―――千里山。 そして、王者白糸台。 その両方と、当たることになるのだ。 憧「って言っても、私の相手ってあの江口セーラに、役満使いの渋谷尭深かぁ……」 穏乃「清水谷さんに大星さん……」 玄「み、宮永照さんに園城寺さん……」 3人「「「……頑張ってください」」」 玄「お、お任せあれ!だよ…」 アカン。 実にアカンぞこれ。 新道時は北九州最強の強豪、千里山は全国2位の強豪、白糸台は全国1位の王者。 例えるなら中盤でラスボスが身構えてたって感じじゃないかこれ。 特に玄さんなんかは拙い。 非常に拙い。 例えるなら仮面ラ○ダー5○5でオル○ェノクの王相手にライオト○ーパーで挑むくらい拙い。 見れば、穏乃も憧も、何を言うべきか考えている。 そんな顔をしている。 玄「う、うぅ…」 そんな目に涙貯めないでください、玄さん。 何か案があるなら出してますから。 憧「ハルエ、何か考えてるかな?」 京太郎「だといいんですけどねぇ……って、そういや今夜赤土さん居ませんよ」 穏乃「え、本当?」 京太郎「あ、はい。何でも恩師に会うとかなんとか」 玄「どうしよう~…」 ……本当に、どうしよう? 157 名前:ヤンデレスレイヤー ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/21(木) 22:25:09.06 ID:bHxODcdPo [5/15] 【8月19日:昼】 とにもかくにも、情報収集だ。 俺は少しでも皆の役に立つため、一人会場へと向かっていた。 Bブロック2回戦の試合……決勝に進めば、何れ当たる相手たち。 阿知賀とて、目標は決勝。 結果は全国優勝を狙っているのだ。 考えて悩んでるだけより、行動するべきだ。 そう思う人は俺以外にも居る。 バス停でバスを待っていると、同じように制服を着た鷺森さんとばったり出会ったのだ。 灼「あ……須賀君も、会場に?」 京太郎「ええ、まぁ。これくらいしか出来ませんし」 灼「そっか……ううん、ありがとうね」 京太郎「いえいえ」 短い会話、それ自体は本当に少ないものだ。 そんなことを思いつつ、俺は時計を見る。 後、3分くらいでバスが来るだろう。 そんななんともないことを考えると、ふと、見えた。 一人は、なんとも表現しがたいあくどい笑みを浮かべそうなメガネの女性。 もう一人は、そんな少女と肩を並べて涼しげな顔をする女性。 全員とも、鷺森さんと関係ある人物だ。 浩子「……あれまぁ」 哩「どげんこんなことに……」 灼「船久保さんに、新道寺の…」 哩「白水哩、準決勝ば副将で会うことになる」 京太郎「って、マジっすか……」 阿知賀、千里山、新道寺。 そのそれぞれの高校の副将が勢ぞろいだ。 なんとも、タイミングが凄いというかなんというか。 行き先は同じらしく、バスが来れば皆乗り込む。 乗客の関係で、全員後ろの席に……なんで、俺四人掛けの真ん中にいるんだろう。 京太郎「あ、俺立っときますね」 哩「立たんでよか」 灼「立たないでいいから」 浩子「立たんでええよ」 京太郎「あ、はい」 ……針の蓆!! 186 名前:ヤンデレスレイヤー ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/21(木) 22:59:52.20 ID:bHxODcdPo [9/15] 【8月19日:夜】 年長者。 俺は今、卓を囲むメンバーを見てふとそう思った。 俺を除けば、2年生の鷺森さんと玄さん。 3年生の宥さんと、年上の人ばかりだ。 しかし、この3人が卓に入ると、実に山がきつい。 玄さんはドラを集めるし、鷺森さんはピンズを多く持っていく。 宥さんは赤い牌を集めてて、そんな感じの取り合いだ。 妙にソーズばっか集まるのは、そういうことだろう。 ……あれ?これって……。 灼「聴牌」 宥「聴牌だね」 玄「聴牌ですのだ」 京太郎「て、聴牌っす」 皆が牌を開く。 しかし、俺は少し戸惑っていた。 いや、上がれなかったけど、うん。 灼「……どうしたの?」 玄「あ、ちゃんと聴牌してる……えっ」 宥「あわ、あわわわわ」 対面の鷺森さんが首を傾げる。 手牌を覗き込む松実姉妹。 その両者が共にあわあわと反応。 うん、まぁあれなんだ。 京太郎「緑一色っす……」 灼「……私たちが打つと、やっぱり偏るね、うん」 は、ははははは。 笑いしかでないぞこれ。 毎回この面子で打つとソーズで染まるなぁって思ったけど、そういうことか。 俺にもなんかの能力発揮したかと思ったぞこれ。 382 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/25(月) 21:17:03.11 ID:NE2j6i/Ao [6/32] 【8月20日:朝】……昼と夜は鶴賀と風越の皆さんと練習ですのよ 朝から買い物。 それはどうにも想定外というか、うん。 あれだ、実に予想外だった。 何でも、宥さんのマフラーが解れてしまったらしく、俺はそれを繕うための毛糸と道具を求めて買い物に来ていた。 勿論、というか。 お願いしたから宥さんも当然のようについてきてるんだけれども。 しかし、馬鹿みたいに暑い。 まだそれなりに早い時間だってのに、東京ってのはなんとも言えない熱気があった。 まぁ、宥さんはそれがほどよいらしい。 今では少し笑みを浮かべるくらいに上機嫌だ。 まぁ、いいか。 交通機関を利用すると、この時期はどうしても涼しげな場所ばかりだ。 散歩ついでに、くらいの気持ちでいいんじゃないだろうか? 京太郎「とりあえず、応急措置程度にやっておきましょうか」 宥「うん……でも、京太郎君、すごいね。編み物も出来ちゃうんだ」 京太郎「いやー、何でですかね」 はっはっは、乙メンでも目指しますか。 そう冗談めいて言うと宥さんはクスクスと笑う。 っと、ここか。 駅前にある100円ショップ。 応急措置だから、引けば解けるくらいの穴塞ぎだ。 そんなに高い道具を揃えなくてもいいだろう。 そう思い、足は店内へと向かう交差点に。 渡り切った直後に、バス停のベンチにぐったりと倒れている白色と、目があった。 シロ「………」 京太郎「………」 夢の中で、会ったような…。 って違う違う。 あんまり見詰め合ってても変だろ、うん。 視線を戻して、前へ進む。 衝撃。 誰かとぶつかった衝撃があった。 ……ふにゅん? 小蒔「あっ、やっ……きょ、京太郎様…公の目が……」 ………ふにょん?

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