「h55-62」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

h55-62」(2014/11/16 (日) 07:44:33) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

夏が終わった。 団体戦準優勝という結果は残せた。 だが、私はなにかイヤな予感がしていた。 なにか大事な事を見落としているような、だけど、それに気づけば今の自分で居られなくなるような、そんなイヤな予感。 「……なんなのかしらね。」 今日は学生議会も無い、麻雀部も休みだと聞いている。だからだろうか?部室のベッドに横たわりながらこの違和感の原因を探っていたのは。 「あれ?ぶちょ……竹井先輩。どうしたんすか?今日は部活無いっすよ?」 「あー……ちょっと考え事をね?そういう須賀くんこそどうしたの?部活も無いなら部室に寄る用事も無いんじゃ……?」 ……まただ。この違和感。須賀くんを見るとこの感じは途端に強くなる。咄嗟に被った『竹井元部長』の仮面に綻びは無いだろうか?彼にこれ以上の迷惑は……『これ以上』? 「あ、俺は部室の掃除と買い出しっす。俺は麻雀弱いからせめてこういうところで……竹井先輩?」 『ソレ』に気づくな。と叫ぶ自分が居る。『ソレ』に気づいてしまえば自分は壊れてしまうから。 『ソレ』を認めろ。と叫ぶ自分が居る。『ソレ』は自分が起こした事なのだから。 「あ、あぁ……」 「竹井先輩?大丈夫ですか?」 そんな優しい目で私を見ないで、二律背反の私には、その優しさは致命の蜜(どく)なのだから。 「ごめん……なさい……」 ホロホロと涙が零れるのを感じる。そうだ、私は…… 「逸材が居るからとか……言い訳して……私は……あなたの一年を奪ってしまった……!」 最初の一年、私は一人だった。名字が変わっても人の口に戸はたてられない。上埜という悪名は一人になるには十分だった。 次の二年、私達は二人になった。まこという理解者を得て私達は奔走した。でも駄目だった。たった二人の部活。私は全国という大舞台への憧れに身を焦がした。 最後の三年。私達は六人になった。逸材ばかりの一年生達。これなら全国を目指せる!その欲望に私は目が眩んだ。 一年生には麻雀部にただ一人の男子が居た。彼は弱かった。全国を目指すなら彼に優先的に教える事はできなかった。 ……そう、私は彼を切り捨てたのだ。全国という大舞台への憧れを誰よりも知っている筈だったのに、同じ地平に立てない悔しさを誰よりも知っている筈だったのに……! 正直に言って、ぶちょ……竹井先輩が俺の前で泣くなんて事は俺には想像もつかない想定外も想定外の事態だった。 それに言っている事も俺には正直分からない。なぜ先輩が謝らなくちゃいけないんだ?だって、先輩は…… 「先輩?なんで先輩は俺の一年を奪ったなんて思ってるんすか?」 泣き出して座り込んでしまった竹井先輩をつい抱き締めて頭を撫でてしまう。それはきっと、その泣き顔が見てられなかったからだと思う。 「だって……私、須賀くんにろくな指導も……してないし……!合宿も一人だけ置いていった……!いつもの部活でも……!須賀くんをずっと雑用でコキ使ってた……!」 あー、うん。そういえばそんな事もあったな。確かに合宿の時は寂しかった。でも…… 「先輩?いや、部長。」 あえて竹井先輩ではなく竹井部長と呼ぼう。きっとそれがいい。 「俺は部長達が全国の大舞台で輝いてるのを見て嬉しかったです。そりゃ全自動卓を運ばされた時は疲れましたし、合宿に置いてかれた時は寂しかったです。 ……でも、それ以上に楽しかった。咲や優希、和やまこ先輩、そして部長。皆がのびのびと麻雀してるのが見ていて楽しかった。俺が雑用を引き受けてコイツらの楽しそうな顔が見れるんなら、雑用の百や二百ソッコーでおわらせてやる!ってくらい嬉しかったっす。 だから……部長もいつも通りニヤッと笑っててください。しおらしい部長も可愛いですけど、俺はいつもの部長の方が好きですし。 ……俺が雑用してたのは部長に押し付けられたからじょないっす。俺が自分でやりたいから率先してやってたんですよ。」 だから泣かないでください。言葉にはしない。だけどきっとそれでいいんだ。 須賀くんは私を許してくれた。だけど、私は私を許せない。だから、須賀くんにおねがいした。 「ここでリーチするのは危険よ?この場合は多少攻めてが遅れるのは容認してオリも視野に入れていきましょう?」 「あー、なるほど。今までだとリーチの危険性とかそこまで考えてませんでした。この前教わった通りっすね。他家の河見れば相手がアガリ寸前ってのが分かるっすね。」 私は須賀くんに個人指導をさせて貰う事にした。ほっといたツケ……と言っても須賀くんは受け取らないだろうから、その言い分は私の胸の中にしまってあるが。 推薦でほぼ決まりだからヒマ潰し。彼にはそう言ってある。実際に推薦も決まっている。でも、今はそんな建前もどこかに言ってしまう程に須賀くんへの指導が楽しくなっていた。アガれば喜び、トベば泣く。表情がコロコロ変わる須賀くんは見ていて飽きない。 「……もしかして本気になっちゃったかなー?これは」 「?どうしたんすか?竹井先輩」 「ん?別にぃ。ちょっと須賀くんを全国まで送っていきたくなっただけよ」 「え゛っ」 私と彼の夏は……きっと今始まった。 カンッ!

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: