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「はぁ…今日の男はハズレだったなぁ…」 肌寒くなってきた秋空の下、私は独りごちる。 確かにその男は真面目そうな雰囲気ではあった。 しかしそこから隠しきれない下劣な感情がにじみ出ており、視線もどこか下の方を向いていた。 端的に言うならば「どうにかしてこの女とヤりたい」という欲望に満ちていた。 いやいや、男はみんなこんなもの、それだけじゃ良し悪しは判断できないと思って若干引きつった笑顔をしつつしばらくは付き合ってみたものの 本を流し読みして身に着けたような薄っぺらい知識を自慢げに語るわ、良いのは見てくれと値段だけなさして美味くもないレストランに連れて行くわ、 挙句に「俺はどうやら君に酔ってしまったようだ」と臭いセリフを欲望を隠そうともしない笑みを張り付けながら手を仰々しく握ってきたのだ。 「その酔いの原因はあのクソみたいな味のワインのせいだっつーの」とどれだけ言いたくなったことやら。 ともかくそこでとうとう限界が来てしまった私は男の制止の声も振り切り、帰路へとついて今に至る。 「あ~あ…どこかに味が分かって、落ち着いてて、出来ればお金持ちで、性欲に忠実じゃない男はいないもんかしらねー…」 まぁそんな男はいるわけは…いや、金持ちではないが一人いたか。 「たっだいま~。ご飯まだ残ってる~?」 ドアを開けて開口一番そう言うと中から足音とともに返事が返ってきた。 「ああ、お帰り憧。明日の弁当のおかずにしようと余らせてはいるけど…飯は食ってくるんじゃなかったか?」 「それがねー、聞いてよ京太郎。あいつの連れてくレストランの食べ物、若干焦げてるわ市販調味料の味がするわ髪の毛が混入してるわ…ワインもワインで香りだけ良くて味はうっすいわで散々でさー… 『君って結構小食なんだね』ってアンタの連れてきたここのご飯がクソ不味いだけよって何度言いたかったことか…」 あぁ、思い出すだけで腹が立ってきた。くそう。 「ははは…そりゃ災難だったなぁ。だったらすぐに暖めるけど…外寒かったろ?風呂沸いてるから先に入るか?」 「うーん…やっぱ先に食べたいかも。小走りで帰ってきたからお腹空いた」 小走と言えばやえさん、元気にしてるかなぁ…ここ最近全然地元に帰ってないからわからない。 プロ雀士になったとは聞いたけど。その時も噛みっ噛みだったので必死に笑いをこらえつつ「おめでとうございます」としか言えなかった。 閑話休題。 「じゃあついでにホットワインでも用意するよ。…ああ、もちろんちゃんとしたワインで、な」 彼はにやつきながらそういうと私の怒りの矛先が向く前に台所へと引っ込んだ。 若干もやっとしたものの私のわがままで働かせているため、大人しく着替えることにした。 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇ 彼と出会ったのは数年前、大学を卒業して社会に出始めたころ。 大学時代から付き合っていた男と別れた夜、飲んだくれて酔いつぶれた私を家まで運んで介抱してくれたのが始まりである。 …なんというか、我ながらすごく情けない話ではあるのだが。 その時の彼も今と同じように性欲のかけらも見せず、ただただ私の体を心配してくれていた。 酔っていた私は「結構カッコいいしもうこの人でいっか」とやはり情けない考えを抱いた私は特に抵抗もなしに家へと連れ込んだのである。 まぁ、結果から言うと手は出されなかった。 和ほどとは言わないけれど、胸も高校時代から成長していたし男の好きそうな仕草も勉強していた。 だからそこらの男ならつい手を出さずにいられないだろうと正直思っていた私の自信は見事に砕かれたである。 その翌日、彼の作ってくれた味噌汁を飲みながら(私のよりも無駄に美味しかったのがさらに粉々に砕いてくれた)「どうして手を出さなかったの?」と聞いたところ、 「どんな綺麗な人が無防備でも俺は同意も無しには絶対手を出さない。ヘタレって言われようとこれが俺の誠意だから」 と、真剣な表情で言った。その真摯な雰囲気の彼を見た時少し濡れたことは一生の秘密である。 そんな衝撃的な出会いを経て、話してみると意外と趣味があったり、生活嗜好も似ていたり、近所にある私の住みたかったが家賃で断念していたマンションに住んでいたことを知ったり、 一部屋が広いし部屋数もあるしどうせならと彼にシェアハウスすることを提案したりで今に至るわけだ。 ここまで言うと「はいはい男自慢乙」と言われそうだが、私と彼は別に付き合っているわけではない。 これは同棲ではなく単なる同居なのだ。彼との関係も、セフレでもなく恋人でもなく、はたまた夫婦でもなく、単なる同居人。 なので彼は彼で女性とお付き合いをしているし私も私で良い男を探している…まぁ、私の方はさっぱりなわけであるが。 「というか、あいつがやたらに出来すぎるせいで最近男を見る目が肥えてきた気もするのよねぇ…」 私は再びため息をついた時、件の出来すぎる男から声がかかった。 「これで私が行き遅れたら、責任とって結婚しなさいよねー」 自分でも無茶苦茶な言い様だと思う考えを口にしながらも、私は今日も彼の料理に舌鼓を打つことにした。 カンッ

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