「h52-36」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

h52-36」(2014/08/18 (月) 20:50:57) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

露天風呂。混浴風呂。阿知賀のみんなと行って、あわよくば誰か…なんてことを考えなかったわけじゃない。 ガラガラと戸を開く音が聞こえた時に、岩の影に隠れてしまったのは…理由は分からない。罪悪感、羞恥心、スケベ心? もしあの時飛び出していたら、俺は、知らなくて済んだんだろうか。 湯気の向こうに二人の影。柔らかいシルエットは女性のもので、薄い靄の向こうでも、特徴的な色合いの髪。 そんな二人を判定できる極めつけは……やっぱり、声だろう。 「おねーちゃん! 見て、貸切だよ!」 「うん…すっごくあったかそうなお風呂…」 元気な声の妹と、落ち着いた声の姉。温泉に縁深い二人がここに来たことに、なんだか少し笑いそうになる。 しっかし…見えそうで、見えないってのがいいよな。心の瞳で未来を見てみようってなもんだ。 ここで二人の行動が分かれるのも面白い。妹のほうは髪まできっちり洗いだして、姉の方は軽く体を洗うと温泉へと体を沈ませる。 いや…距離的に細部は全然見えないんだけど。岩が遠すぎるぜ… 「ねー、おねーちゃん」 「ふあー…なあに…?」 キュッ、と。水栓の閉まる音が、酷く大きく温泉に響いく。 冷たい、冷たい音を立てて。 「――京太郎くんのこと、好きなんだよね」 固くて冷たい声が、温泉を叩くように響いて、消えた。 二人がどんな顔をしてるかなんて、俺からは窺うことはできない。ただ、笑いあっている雰囲気じゃない事だけは分かる。 出ることもできず、俺はただ岩の影から二人の会話を聞くだけしかできなくて。 張りつめる空気を変えることも、千切れそうな絆を結びとめることもできなくて。 「……」 「おねーちゃん、京太郎くんにジュースお酌したり、スリッパ整えたりしてたよね」 「…いつものクセだよ」 …俺も、そう思ってた。思おうとしてた。 昨日の晩に隣でジュースの瓶を傾けてくれたことも、浴衣の裾を押さえながらスリッパを足元に運んでくれたことも。 「嘘だよね。それ、おねーちゃんの仕事じゃないもん」 黒い髪を濡らしたままで伏せた顔。上げることなく紡がれる言葉は、なぜか、明るい色を帯びていて。 「なんだかおねーちゃん、積極的になったねー」 「……うん」 「あは、おねーちゃん」 「なに…?」 息が、止まる。 洗面器に並々注がれた水がひっくり返る。そうなると当然、入っていたものは、落ちるに決まってる。 そう――姉の真上から、冷水が音を立てて落ちるのは当然のことで。 「……なに積極的になってるの?」 「おねーちゃんはいつもみたいに、引きこもって何もしなくていいんだよ」 「指を咥えて見てればいいの。昔、麻雀教室の時だってそうだったんでしょ?」 「水でも被って反省してね…それじゃ、私、もう出るから」 唾を飲むことも、息を呑むこともできなくて。 ただ、妹のほうが迷いなく出口へと歩いていくのを、湯煙越しに見つめる事しかできなかった。 一人残された姉のほうも俯いて、前髪からはポタポタと水を落としている。 俺の中にはもう、岩から出るとか、そんな考えは全くなくて。ただここから出て行ってほしい、その思いだけが積もり積もっていく。 「……なにが」 不意に、嫌になるほどの静けさを破る声が聞こえた。 「自分に自信が無いから…そんなこと、するんだよね…」 「私には勝てないから、陰険で、馬鹿みたいなことして…」 「……つまんない子」 「でも…あんなのでも、妹だもん…」 ゆっくりと上がったその顔は。 「いいよ…アプローチでもなんでもすれば…」 「その後で、ゆっくり貰うから…くすっ」 湯煙の中で、確かに笑っていた。 カンッ

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: