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窓の外を見遣れば、ざばざばと空から大きな雫が降り注いでいた。  朝方は太陽が眩しく照りつけ、暑い位の天気だったというのに、降り出した雨は止む気配を一向に見せない。  今朝テレビで見た天気予報だと一日中晴れで、降水確率は10%だった筈だ。  所詮天気予報、当てにならないなぁと、憂いを含んだ溜息が零れた。  宮永咲は、雨が好きではなかった。  けれどそれは、雨に特別嫌な思い出がある訳ではなく、単純に干した洗濯物が乾かないとか濡れてしまうとか、そんな他愛もない理由からだった。  そう――――今日までは。  今は明確に雨が嫌いだ。今日嫌いになった。嫌いにならない理由がなかった。  折角、さり気なく自然に彼を誘って。  折角、今日のために色々とシミュレーションをして。  折角、少しだけ背伸びをした御洒な服を着てみて。  折角、なけなしの勇気を振り絞って――告白しようと決意したというのに。  二人で楽しく遊んだ後、夕日に照らされた浪漫あるシチュエーションで切り出す。  そんな風な予定を組んでいたにも関わらず、土砂降りの雨のせいで台無しだ。  昼からのやや遠出をする予定が、全て潰されてしまった。  ついてないなぁと、再び溜息を零し、手に持ったスマートフォンを見る。  画面には通話履歴。一時間程前に彼――須賀京太郎から電話が掛かって来た履歴が表示されている。  通話の内容は勿論、酷い雨だから遊びに行く日を延期しようという旨であった。  陰鬱な雨の音を聞いていると、一度は振り絞った勇気が萎んでいく。  今日は偶々運が悪かっただけだと、自分に言い聞かせてもみるものの――迷ってしまう。  伝えられなくても、このままの関係でも良いんじゃないかと、思ってしまう。   (京ちゃんは私の事をどう思ってるんだろう……)  ただの仲の良い友達だろうか。  それとも手のかかる妹の様な存在なのだろうか。  告白をしたら、いつもの様に優しく笑って――しかし困ってしまうのだろうか。      ――解らない。  彼の本当の気持ちが解らない。  彼の気持ちも解らないまま、時間だけが流れている。  どう考えてみても答えは出なかった。  唯一つ解るのは、今自分が彼に恋焦がれている事だけだった。 (あれからどれ位、近づく事が出来たのかな……)  昔を思い出して今を想う。  これまでに悲しい事もあったけれど、彼と過ごす日々は凄く楽しくて――。  気が付けば、いつの間にか彼の笑顔に焦がれて、このままでは嫌になって、どうしようもない位に切なくて――。  近づいてみたかった。触れてみたかった。そう願うようになっていた。  でも――今までの関係を壊してしまう事も怖かった。  そう、怖い。壊されてしまう事が。弱い所を見せるのが。  顔色伺って、ぎこちなく笑う、そんな無様な自分を曝け出すのが怖い。  優しい人だと思われたくて嘘を付く、そんな自分が傷つかない為だけの優しさを見破られるのが怖い。  失望され嫌われる事が本当に、本当に怖かった。 (痛い……)  積もり積もった想いに――胸が重い。  張り裂けそうな程膨らんだ――この想いが痛かった。  想いは言葉にならずに内から外へと変換され――涙が滲んだ。  締め付けられる胸の痛さに耐えられなくなり、クッションへ顔を埋める。  そのまま何となく足をばたつかせてみるも、気分が晴れる事はなかった。   「何やってるんだろ、私……」  顔を埋めたままそう呟いた時、インターホンが一度鳴った。  どうせ勧誘か何かだろうと、無視を決め込む。  しかし再度インターホンが鳴り――それも無視していると、今度は何度も連続で鳴り響くようになる。     「――――もうっ!」  我慢できなくなり、埋めていた面を上げて身を起こし、大股で玄関に向かう。  手酷く断ってやろうと、意気込んで勢い良く玄関を開けた。 「よう、咲」  シュタっと片手を上げ、軽そうな挨拶をする彼――須賀京太郎が、そこにはいた。 「――えっ、京ちゃん……何で」 「あー、いや、別に用事がある訳じゃないけど、予定潰れて暇だろ? だから遊びに来た」  続いて、「それに電話口で沈んでるみたいだったしな……」と、バツが悪そうに呟き目を逸らす彼。 「そ、そうなんだ……」 「ま、そーいう事だ。邪魔するぞ」  返事を待たず、勝手知ったるとばかりに、ずかずかと玄関から上がって進む彼の背中を見ていると、何だかおかしくなってくる。  堪え切れずに、くすりと笑みが溢れた。  同時に、先程の優しい言葉を思い返す。  現金なもので、何だか胸が暖かい。  迷ったりしたけれども、やっぱり伝えたいなと、自然に浮かんでくる。 「ちょっと待ってよ、京ちゃん!」  だから慌てて、彼の背を追いかけた。  色んな想いを、たった一つの言葉に乗せて、今日伝えよう――そう嘘偽り無く思いながら。  ある雨の日の、明日も変わらず続いていくだろう二人の一幕。  しかし、一つの恋が確かに動いた――――新たな二人の始まりの物語。  『京ちゃん、私ずっと前から――――』                                                               ――槓
窓の外を見遣れば、ざばざばと空から大きな雫が降り注いでいた。  朝方は太陽が眩しく照りつけ、暑い位の天気だったというのに、降り出した雨は止む気配を一向に見せない。  今朝テレビで見た天気予報だと一日中晴れで、降水確率は10%だった筈だ。  所詮天気予報、当てにならないなぁと、憂いを含んだ溜息が零れた。  宮永咲は、雨が好きではなかった。  けれどそれは、雨に特別嫌な思い出がある訳ではなく、単純に干した洗濯物が乾かないとか濡れてしまうとか、そんな他愛もない理由からだった。  そう――――今日までは。  今は明確に雨が嫌いだ。今日嫌いになった。嫌いにならない理由がなかった。  折角、さり気なく自然に彼を誘って。  折角、今日のために色々とシミュレーションをして。  折角、少しだけ背伸びをした御洒な服を着てみて。  折角、なけなしの勇気を振り絞って――告白しようと決意したというのに。  二人で楽しく遊んだ後、夕日に照らされた浪漫あるシチュエーションで切り出す。  そんな風な予定を組んでいたにも関わらず、土砂降りの雨のせいで台無しだ。  昼からのやや遠出をする予定が、全て潰されてしまった。  ついてないなぁと、再び溜息を零し、手に持ったスマートフォンを見る。  画面には通話履歴。一時間程前に彼――須賀京太郎から電話が掛かって来た履歴が表示されている。  通話の内容は勿論、酷い雨だから遊びに行く日を延期しようという旨であった。  陰鬱な雨の音を聞いていると、一度は振り絞った勇気が萎んでいく。  今日は偶々運が悪かっただけだと、自分に言い聞かせてもみるものの――迷ってしまう。  伝えられなくても、このままの関係でも良いんじゃないかと、思ってしまう。   (京ちゃんは私の事をどう思ってるんだろう……)  ただの仲の良い友達だろうか。  それとも手のかかる妹の様な存在なのだろうか。  告白をしたら、いつもの様に優しく笑って――しかし困ってしまうのだろうか。      ――解らない。  彼の本当の気持ちが解らない。  彼の気持ちも解らないまま、時間だけが流れている。  どう考えてみても答えは出なかった。  唯一つ解るのは、今自分が彼に恋焦がれている事だけだった。 (あれからどれ位、近づく事が出来たのかな……)  昔を思い出して今を想う。  これまでに悲しい事もあったけれど、彼と過ごす日々は凄く楽しくて――。  気が付けば、いつの間にか彼の笑顔に焦がれて、このままでは嫌になって、どうしようもない位に切なくて――。  近づいてみたかった。触れてみたかった。そう願うようになっていた。  でも――今までの関係を壊してしまう事も怖かった。  そう、怖い。壊されてしまう事が。弱い所を見せるのが。  顔色伺って、ぎこちなく笑う、そんな無様な自分を曝け出すのが怖い。  優しい人だと思われたくて嘘を付く、そんな自分が傷つかない為だけの優しさを見破られるのが怖い。  失望され嫌われる事が本当に、本当に怖かった。 (痛い……)  積もり積もった想いに――胸が重い。  張り裂けそうな程膨らんだ――この想いが痛かった。  想いは言葉にならずに内から外へと変換され――涙が滲んだ。  締め付けられる胸の痛さに耐えられなくなり、クッションへ顔を埋める。  そのまま何となく足をばたつかせてみるも、気分が晴れる事はなかった。   「何やってるんだろ、私……」  顔を埋めたままそう呟いた時、インターホンが一度鳴った。  どうせ勧誘か何かだろうと、無視を決め込む。  しかし再度インターホンが鳴り――それも無視していると、今度は何度も連続で鳴り響くようになる。     「――――もうっ!」  我慢できなくなり、埋めていた面を上げて身を起こし、大股で玄関に向かう。  手酷く断ってやろうと、意気込んで勢い良く玄関を開けた。 「よう、咲」  シュタっと片手を上げ、軽そうな挨拶をする彼――須賀京太郎が、そこにはいた。 「――えっ、京ちゃん……何で」 「あー、いや、別に用事がある訳じゃないけど、予定潰れて暇だろ? だから遊びに来た」  続いて、「それに電話口で沈んでるみたいだったしな……」と、バツが悪そうに呟き目を逸らす彼。 「そ、そうなんだ……」 「ま、そーいう事だ。邪魔するぞ」  返事を待たず、勝手知ったるとばかりに、ずかずかと玄関から上がって進む彼の背中を見ていると、何だかおかしくなってくる。  堪え切れずに、くすりと笑みが溢れた。  同時に、先程の優しい言葉を思い返す。  現金なもので、何だか胸が暖かい。  迷ったりしたけれども、やっぱり伝えたいなと、自然に浮かんでくる。 「ちょっと待ってよ、京ちゃん!」  だから慌てて、彼の背を追いかけた。  色んな想いを、たった一つの言葉に乗せて、今日伝えよう――そう嘘偽り無く思いながら。  ある雨の日の、明日も変わらず続いていくだろう二人の一幕。  しかし、一つの恋が確かに動いた――――新たな二人の始まりの物語。  『京ちゃん、私ずっと前から――――』                              ――槓

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