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「h49-20」(2014/06/24 (火) 20:09:28) の最新版変更点
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窓の外を見遣れば、ざばざばと空から大きな雫が降り注いでいた。
朝方は太陽が眩しく照りつけ、暑い位の天気だったというのに、降り出した雨は止む気配を一向に見せない。
今朝テレビで見た天気予報だと一日中晴れで、降水確率は10%だった筈だ。
所詮天気予報、当てにならないなぁと、憂いを含んだ溜息が零れた。
宮永咲は、雨が好きではなかった。
けれどそれは、雨に特別嫌な思い出がある訳ではなく、単純に干した洗濯物が乾かないとか濡れてしまうとか、そんな他愛もない理由からだった。
そう――――今日までは。
今は明確に雨が嫌いだ。今日嫌いになった。嫌いにならない理由がなかった。
折角、さり気なく自然に彼を誘って。
折角、今日のために色々とシミュレーションをして。
折角、少しだけ背伸びをした御洒な服を着てみて。
折角、なけなしの勇気を振り絞って――告白しようと決意したというのに。
二人で楽しく遊んだ後、夕日に照らされた浪漫あるシチュエーションで切り出す。
そんな風な予定を組んでいたにも関わらず、土砂降りの雨のせいで台無しだ。
昼からのやや遠出をする予定が、全て潰されてしまった。
ついてないなぁと、再び溜息を零し、手に持ったスマートフォンを見る。
画面には通話履歴。一時間程前に彼――須賀京太郎から電話が掛かって来た履歴が表示されている。
通話の内容は勿論、酷い雨だから遊びに行く日を延期しようという旨であった。
陰鬱な雨の音を聞いていると、一度は振り絞った勇気が萎んでいく。
今日は偶々運が悪かっただけだと、自分に言い聞かせてもみるものの――迷ってしまう。
伝えられなくても、このままの関係でも良いんじゃないかと、思ってしまう。
(京ちゃんは私の事をどう思ってるんだろう……)
ただの仲の良い友達だろうか。
それとも手のかかる妹の様な存在なのだろうか。
告白をしたら、いつもの様に優しく笑って――しかし困ってしまうのだろうか。
――解らない。
彼の本当の気持ちが解らない。
彼の気持ちも解らないまま、時間だけが流れている。
どう考えてみても答えは出なかった。
唯一つ解るのは、今自分が彼に恋焦がれている事だけだった。
(あれからどれ位、近づく事が出来たのかな……)
昔を思い出して今を想う。
これまでに悲しい事もあったけれど、彼と過ごす日々は凄く楽しくて――。
気が付けば、いつの間にか彼の笑顔に焦がれて、このままでは嫌になって、どうしようもない位に切なくて――。
近づいてみたかった。触れてみたかった。そう願うようになっていた。
でも――今までの関係を壊してしまう事も怖かった。
そう、怖い。壊されてしまう事が。弱い所を見せるのが。
顔色伺って、ぎこちなく笑う、そんな無様な自分を曝け出すのが怖い。
優しい人だと思われたくて嘘を付く、そんな自分が傷つかない為だけの優しさを見破られるのが怖い。
失望され嫌われる事が本当に、本当に怖かった。
(痛い……)
積もり積もった想いに――胸が重い。
張り裂けそうな程膨らんだ――この想いが痛かった。
想いは言葉にならずに内から外へと変換され――涙が滲んだ。
締め付けられる胸の痛さに耐えられなくなり、クッションへ顔を埋める。
そのまま何となく足をばたつかせてみるも、気分が晴れる事はなかった。
「何やってるんだろ、私……」
顔を埋めたままそう呟いた時、インターホンが一度鳴った。
どうせ勧誘か何かだろうと、無視を決め込む。
しかし再度インターホンが鳴り――それも無視していると、今度は何度も連続で鳴り響くようになる。
「――――もうっ!」
我慢できなくなり、埋めていた面を上げて身を起こし、大股で玄関に向かう。
手酷く断ってやろうと、意気込んで勢い良く玄関を開けた。
「よう、咲」
シュタっと片手を上げ、軽そうな挨拶をする彼――須賀京太郎が、そこにはいた。
「――えっ、京ちゃん……何で」
「あー、いや、別に用事がある訳じゃないけど、予定潰れて暇だろ? だから遊びに来た」
続いて、「それに電話口で沈んでるみたいだったしな……」と、バツが悪そうに呟き目を逸らす彼。
「そ、そうなんだ……」
「ま、そーいう事だ。邪魔するぞ」
返事を待たず、勝手知ったるとばかりに、ずかずかと玄関から上がって進む彼の背中を見ていると、何だかおかしくなってくる。
堪え切れずに、くすりと笑みが溢れた。
同時に、先程の優しい言葉を思い返す。
現金なもので、何だか胸が暖かい。
迷ったりしたけれども、やっぱり伝えたいなと、自然に浮かんでくる。
「ちょっと待ってよ、京ちゃん!」
だから慌てて、彼の背を追いかけた。
色んな想いを、たった一つの言葉に乗せて、今日伝えよう――そう嘘偽り無く思いながら。
ある雨の日の、明日も変わらず続いていくだろう二人の一幕。
しかし、一つの恋が確かに動いた――――新たな二人の始まりの物語。
『京ちゃん、私ずっと前から――――』
――槓
窓の外を見遣れば、ざばざばと空から大きな雫が降り注いでいた。
朝方は太陽が眩しく照りつけ、暑い位の天気だったというのに、降り出した雨は止む気配を一向に見せない。
今朝テレビで見た天気予報だと一日中晴れで、降水確率は10%だった筈だ。
所詮天気予報、当てにならないなぁと、憂いを含んだ溜息が零れた。
宮永咲は、雨が好きではなかった。
けれどそれは、雨に特別嫌な思い出がある訳ではなく、単純に干した洗濯物が乾かないとか濡れてしまうとか、そんな他愛もない理由からだった。
そう――――今日までは。
今は明確に雨が嫌いだ。今日嫌いになった。嫌いにならない理由がなかった。
折角、さり気なく自然に彼を誘って。
折角、今日のために色々とシミュレーションをして。
折角、少しだけ背伸びをした御洒な服を着てみて。
折角、なけなしの勇気を振り絞って――告白しようと決意したというのに。
二人で楽しく遊んだ後、夕日に照らされた浪漫あるシチュエーションで切り出す。
そんな風な予定を組んでいたにも関わらず、土砂降りの雨のせいで台無しだ。
昼からのやや遠出をする予定が、全て潰されてしまった。
ついてないなぁと、再び溜息を零し、手に持ったスマートフォンを見る。
画面には通話履歴。一時間程前に彼――須賀京太郎から電話が掛かって来た履歴が表示されている。
通話の内容は勿論、酷い雨だから遊びに行く日を延期しようという旨であった。
陰鬱な雨の音を聞いていると、一度は振り絞った勇気が萎んでいく。
今日は偶々運が悪かっただけだと、自分に言い聞かせてもみるものの――迷ってしまう。
伝えられなくても、このままの関係でも良いんじゃないかと、思ってしまう。
(京ちゃんは私の事をどう思ってるんだろう……)
ただの仲の良い友達だろうか。
それとも手のかかる妹の様な存在なのだろうか。
告白をしたら、いつもの様に優しく笑って――しかし困ってしまうのだろうか。
――解らない。
彼の本当の気持ちが解らない。
彼の気持ちも解らないまま、時間だけが流れている。
どう考えてみても答えは出なかった。
唯一つ解るのは、今自分が彼に恋焦がれている事だけだった。
(あれからどれ位、近づく事が出来たのかな……)
昔を思い出して今を想う。
これまでに悲しい事もあったけれど、彼と過ごす日々は凄く楽しくて――。
気が付けば、いつの間にか彼の笑顔に焦がれて、このままでは嫌になって、どうしようもない位に切なくて――。
近づいてみたかった。触れてみたかった。そう願うようになっていた。
でも――今までの関係を壊してしまう事も怖かった。
そう、怖い。壊されてしまう事が。弱い所を見せるのが。
顔色伺って、ぎこちなく笑う、そんな無様な自分を曝け出すのが怖い。
優しい人だと思われたくて嘘を付く、そんな自分が傷つかない為だけの優しさを見破られるのが怖い。
失望され嫌われる事が本当に、本当に怖かった。
(痛い……)
積もり積もった想いに――胸が重い。
張り裂けそうな程膨らんだ――この想いが痛かった。
想いは言葉にならずに内から外へと変換され――涙が滲んだ。
締め付けられる胸の痛さに耐えられなくなり、クッションへ顔を埋める。
そのまま何となく足をばたつかせてみるも、気分が晴れる事はなかった。
「何やってるんだろ、私……」
顔を埋めたままそう呟いた時、インターホンが一度鳴った。
どうせ勧誘か何かだろうと、無視を決め込む。
しかし再度インターホンが鳴り――それも無視していると、今度は何度も連続で鳴り響くようになる。
「――――もうっ!」
我慢できなくなり、埋めていた面を上げて身を起こし、大股で玄関に向かう。
手酷く断ってやろうと、意気込んで勢い良く玄関を開けた。
「よう、咲」
シュタっと片手を上げ、軽そうな挨拶をする彼――須賀京太郎が、そこにはいた。
「――えっ、京ちゃん……何で」
「あー、いや、別に用事がある訳じゃないけど、予定潰れて暇だろ? だから遊びに来た」
続いて、「それに電話口で沈んでるみたいだったしな……」と、バツが悪そうに呟き目を逸らす彼。
「そ、そうなんだ……」
「ま、そーいう事だ。邪魔するぞ」
返事を待たず、勝手知ったるとばかりに、ずかずかと玄関から上がって進む彼の背中を見ていると、何だかおかしくなってくる。
堪え切れずに、くすりと笑みが溢れた。
同時に、先程の優しい言葉を思い返す。
現金なもので、何だか胸が暖かい。
迷ったりしたけれども、やっぱり伝えたいなと、自然に浮かんでくる。
「ちょっと待ってよ、京ちゃん!」
だから慌てて、彼の背を追いかけた。
色んな想いを、たった一つの言葉に乗せて、今日伝えよう――そう嘘偽り無く思いながら。
ある雨の日の、明日も変わらず続いていくだろう二人の一幕。
しかし、一つの恋が確かに動いた――――新たな二人の始まりの物語。
『京ちゃん、私ずっと前から――――』
――槓