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――某日。宮永家。 宮永咲は学校を休んでいた。 風邪を引いて、熱が出てしまったせいだ。 午前中はぐっすりと眠れていたのだが、現在はうつらうつらと短い周期で、微睡みと覚醒を往復している。 閉じたカーテンの隙間から差し込む黄昏色が、瞼を撫でた。 きっと今は夕刻なのだろう。そう思う。 熱は随分と下がった気がする。 少しばかり怠いが、朝方感じていた悪寒や気持ち悪さは、なくなっていた。 ……そういえば、晩御飯はどうしよう。 ……もう少ししたら自分の分だけでも作ろうかな。 そうこう、曖昧な頭のまま、取り留めもなく考えていると――ふと、咲は気付いた。 自分の部屋に人の気配がする事に。 咲「ん……」 気怠く目を開け、寝返りを打つ。 見慣れた天井。 見慣れた自室。 見慣れた――金髪の少年が、視界に入る。 咲「あ……」 京太郎「――あ」 咲「きょう、ちゃん?」 京太郎「……わりぃ、起こしちまった」 朧気だった意識が、はっきりと引っ張り戻された。 同時に――顔へ血が昇るのもわかった。 寝起きを見られたという事もあったし、寝癖とか、自身がみっともない事になっている可能性に、思い当たったからだ。 咲「えっと、京ちゃん、なん、で?」 京太郎「なんでって……お前今日休んだだろ?ほら、見舞いってやつ」 咲「あぅ……、その……、先に連絡くらいはくれても」 京太郎「携帯にかけたけど出なかったしなぁ。ま、鍵の場所は知ってるし……ポカリここに置いとくぞ」 今日の彼は随分と優しい。 いや、普段も優しくないわけではないのだが。 いつもは大抵どことなく、からかってくる風情なのだ。 それが鳴りを潜め、ただ優しい。 京太郎「ま、邪魔なら帰るけどな」 咲「……もうちょっと、一緒にいて欲しい」 咲はそう零した。 素直な、純粋な気持ちだった。 彼は「そっか」と返すと、鞄から週刊漫画を取り出し、椅子に腰掛けている。 暫くの間、ゆっくりとした穏やかな時間が流れた。 気不味いわけではない、むしろ落ち着く時間だ。 咲はそう感じた。 ……二人っきりだし、何となく良い雰囲気な気がする。 ……これはもしかしてチャンスなのではないだろうか。 漫画を読んでいる彼を何気なく眺めていたら、ふと、そんな考えが頭の片隅に過ぎる。 咲「……きょ、きょう、ちゃん」 京太郎「おう、どした?何か欲しいもんでもあるのか?買ってくるぞ」 咲「えっと……」 呼んでみたはいいが、逡巡してしまう。 ……こういう時は、どうしたらいいのだろう。 気の利いた、かつ、自分の気持ちを奥ゆかしく伝えれそうな台詞か、何かを――。 記憶の海を高速で検索。 ――そういえば。 と、部長こと竹井久と須賀京太郎の、部室でのやり取りに思い当たる。 『知ってる?ライオンって狩りも交尾もメス主体なのよ?オスが狩りに長けているとかは幻想なの』 『いきなりっすね、部長……その心は?』 『須賀くん、この前読んでた“牌王伝説ライオン”をマネするのはやめなさい。豪運とかないんだし。高め狙いのみは禁止。いいわね?』 『アッ、ハイ』 ……うん、変な癖をつけるのは良くない。部長の言う通りだろう。 ――じゃなくって、この豆知識的に考えれば、これでいける筈。 宮永咲は、そんな感じで、ある結論を下した。 わりとおかしい論理をもって。 風邪のせいで、頭が茹だっていたのだろう。多分。 実際、問題点は何個かあったのだが、宮永咲はそこに思い当たっていなかった。 ――そうして。 意を決し――。 咲「が、がおー」 ――と、告げてみた。 ちなみに、棒読みであった。 京太郎「……」 咲「……」 静寂を伴った時間が流れる。 常識的に考えれば、何を言いたいか伝わるわけもないだろう。 控えめに見ても、変な娘である。 事実、京太郎は呆気に取られた様子で、ぽかんとしていた。 咲「うううううううぅ、ゴメン、京ちゃん忘れてっ!」 布団を引っ張りあげ、顔を隠しながら誤魔化した。 「まったく」――と、布団越しに、呆れたような声が聴こえる。 密閉された空気が、やたらと熱い。 この熱さは、きっと風邪のせいだけではないだろう。 京太郎「……そういや、今日おじさんは?」 質問と同時に伝わるベッドの揺れ。 彼がベッドに腰掛けたのだろう。 咲「……お仕事でちょっと遅くなるって」 ひょこりと、隠していた顔を出した。 まだ頬が熱を帯びているのは、自覚しているが――風邪を引いてるのだから、特に可笑しく思われないだろう。 京太郎「あー、まじか」 ついで、ふむ、と思案している様子。 京太郎「――じゃあ、晩飯は俺が作るぞ?おかゆでいいか?つか、それ位しか出来ないけどな」 咲「いいの……?」 京太郎「遠慮するなって。俺とお前の仲だろ?」 そんな風に優しく言われれば、断れる筈がない。 嬉しいと、思わない筈もない。 ほとんど――有頂天になってしまう。 ――だから。 咲「京ちゃん――ありがと」 そう言った咲の顔には――心の底から嬉しそうな笑みが広がっていた。 ちなみに、京太郎が部屋から出る時。 「まあ、『がおー』って誘ってくれるのはいいけど、“そういうの”は風邪が治ってからな」 と、やや恥ずかしげに投げ掛けた言葉に、咲は茹だってしまい――落ち着くのに暫し時を要したとか。 ――槓っ! またどうでもいい話ではあるが、後日。 京太郎は風邪を引いてしまい、学校を休んだ。 うがい手洗いはしっかりしましょう、という事だろう。 特に風邪を引いてる相手と、口内粘膜同士で接触したら尚更だ。 つまり、まあ――自業自得、ただそれだけの話である。 ――もいっこ槓っ! ※二人は付き合ってますが、突き合ってはいません

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