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姉帯京太郎には過去の記憶がない。 ただ、自分がこの村の生まれではなく、 どこか遠いところからやってきたのだ、ということだけは何となく確信していた。 薄暗いあぜ道を、泣きじゃくりながら、背の高い女に手を引かれて歩いている光景。 それが、自分の思い出せる一番古い記憶。 「きょーうくんっ♪」 「おわっ」 そして、こうして物思いに耽っていると、必ず姉の豊音が抱きついてくる。 体格差もあり、京太郎の体はすっぽりと豊音の両腕の中に収まってしまう。 豊音の体は冷たかったが、いい匂いがして、柔らかくて気持ちが良い。 「きょうくんは、どこにも行かないよね?」 『きょうちゃんは、どこにも行かないよね?』 不安そうに揺れる赤い瞳。 その向こう側に、誰かが写っているような気がするけれど。 「……俺は、どこにも行かないよ。豊音が一番だから」 「えへへーっ♪」 何よりも今は、この姉のことが大事だ。 背伸びをして頭を撫でると、豊音は嬉しそうにはにかんだ。 カンッ
姉帯、京太郎には過去の記憶がない。 ただ、自分がこの村の生まれではなく、 どこか遠いところからやってきたのだ、ということだけは何となく確信していた。 薄暗いあぜ道を、泣きじゃくりながら、背の高い女に手を引かれて歩いている光景。 それが、自分の思い出せる一番古い記憶。 「きょーうくんっ♪」 「おわっ」 そして、こうして物思いに耽っていると、必ず姉の豊音が抱きついてくる。 体格差もあり、京太郎の体はすっぽりと豊音の両腕の中に収まってしまう。 豊音の体は冷たかったが、いい匂いがして、柔らかくて気持ちが良い。 「きょうくんは、どこにも行かないよね?」 『きょうちゃんは、どこにも行かないよね?』 不安そうに揺れる赤い瞳。 その向こう側に、誰かが写っているような気がするけれど。 「……俺は、どこにも行かないよ。豊音が一番だから」 「えへへーっ♪」 何よりも今は、この姉のことが大事だ。 背伸びをして頭を撫でると、豊音は嬉しそうにはにかんだ。 カンッ

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