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宥さんの卒業式から20日後、
この街を出て行く彼女のために俺達は鷺森レーンに集まって
壮行会と称したボウリング大会を開いていた
「アンタら全員でかかってきなさい!」と啖呵を切った晴絵先生を大きく突き放して
我ら麻雀部一行は大勝利をおさめた
灼さんは憧れの人と仲間達、どちらに与するか悩みに悩んで
「店側の人間だから中立な立場で試合を見守…」と安全圏に逃げていた
「ぐ、ぐむぅ…恩師に対してやってくれたわね…!だが、覚えてなさい…!
このビューティーハルエを倒しても、第二第三の赤土晴絵が立ちはだか……」
「そういうのいいから、ハルエ」
「約束だからご飯奢ってくださいよー!」
憧と穏乃が容赦なく追及する
「だ、大体卑怯よ!京太郎がアベレージ190以上だなんて聞いたことないし!」
「正直、一年足らずでこんなに上達するなんて教えていた私も驚き…」
「はっはっは!部員のことを把握しておくのが顧問ってもんじゃあないんですかい先生!」
「むきー!ここぞとばかりに高笑いする姿が腹立つー!翻数計算覚えるのに2ヶ月はかかってたくせにー!」
「ふっふっふ、京太郎君は凄いんです!麻雀は覚えが悪くても他のことなら一流なんです!」
「玄ちゃん……京太郎君が落ち込んじゃってるよ…」
「…………」
「わわわっ!そ、そんなつもりじゃなかったんだよ京太郎君!ご、ごめん!ごめんね!」
「きょっ、京太郎!大丈夫だって!私も頭悪いから小さい時、まともに計算できるまで3週間はかかっちゃってたし!」
「………………」
「シズ……もういじめるのやめてあげたら…?」
「慰めてたのに!?」
ウィークポイントをちくちくといじられながら鷺森レーンをみんなと一緒に出る
無言のまま、二次会への道を歩く
玄さんも穏乃も不思議と静かだった
宥さんが卒業して、この街からも出て行ってしまった風景を想像して何だか落ち着かないのかもしれない
残った俺達も進級し、新しい出会いを迎えるだろう
楽しみな反面、不安も大きかった
それに麻雀部に誰も入らなかったら?
……そんなことも頭をよぎってしまう
ためいき出て消えていく
いたたまれなくなって空を見上げた
すると…
「雪だ…」
「わぁ……!」
細かく真っ白い結晶が風にあおられ、よたよたと落ちてきていた
今年は1月にあまり振らなかった分なのか、少し降雪の時期がずれ込んでいるらしい
この阿知賀の土地も松実宥との別れを惜しんでいるのだろうか
ちょっとした奇跡に浸っていると、歌声が聞こえた
「ジングルベル♪ジングルベル♪鈴が鳴る♪」
久しぶりに見た白い空模様を見て、気分が高揚した誰かが歌いだしたのだろう
3月の奈良に響くクリスマスソング、
「鈴のリズムに♪」
「光の輪が舞う♪」
「ジングルベル♪ジングルベル♪」
気づけばみんなで合唱していた
宥さんが少し泣いていた
時間が止まってしまえばいいのに、ここにいる全員がそう願っているはず
でも、みんな前に進まなきゃいけない
「ねえ京太郎君…」
宥さんが歌うのをやめてこっそり俺に近づいてきた
「私、忘れたくないよ……みんなと過ごした素敵な時間、
そして京太郎君との約束も…」
「宥さん…」
俺との約束
卒業式の前、宥さんに誓った言葉があった
「俺、去年は部活で芽が出なかったけど…
でも2年になったら後輩が誇れるような先輩になって…一人前の雀士になってみせます!」
そして、ふざけてこう付け足した
「男としても一人前になったら……その時はあなたを迎えに行きます!」
励ますためのウケ狙いの言葉だ
実際、宥さんも「ふふっ」と笑ってくれたから上手いことウケたと思う
「私のことを迎えにきてくれるの待ってるから……」
「え?」
「お姉ちゃーん、早くおいでー!」
「京太郎も急いだ急いだ!おいてくぞー!」
「はぁーい、いこうか京太郎君…」
「え、あ、はい…」
宥さんが小走りにみんなのあとを追う
頭が切り替わらないうちに彼女は追いついた
「ほら、早くこいってー!」
またも催促がかかる
俺は早足で追いかけながら、
この3月の雪が降る中の阿知賀メンバー達の最後の集合する姿を目に焼き付けた
カンッ