「京太郎「紅生姜のない牛丼屋」⑧」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

京太郎「紅生姜のない牛丼屋」⑧」の最新版変更点

追加された行は青色になります。

削除された行は赤色になります。

+http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379321075/
 
+
+
+8・
+
+京太郎「さあ、今日も牌ちゃんと戯れに、牌の世界に行こう」
+
+ 部室に一番乗りした京太郎は、卓の上に整理された牌に触れる。
+
+ 触れた瞬間に感じる、頭から血が抜けるような感覚にも随分と慣れた。
+
+京太郎「到着っと……」
+
+ 辺りを見まわす。
+
+京太郎「あ、いた。おーい、牌……」
+
+ 声をかけようとしたところで、あることに気づく。
+
+京太郎「え……牌のそばにいるやつ、誰だ?」
+
+ 牌のそばにいたのは、遠目にもわかるイケメン高身長な男だった。
+
+京太郎「は……? ちょ……どういうことだよ」
+
+ 頭が働かない。どうしてこんなことになっているのか。
+
+ 牌は、楽しそうな表情でその男と会話していた。
+
+京太郎「……いや、別に……あいつが誰と話してようが俺には関係ないし」
+
+ そうだ。牌と京太郎の関係はただのライバル関係なのだ。
+
+ 牌が誰と仲良かろうが、それはどうでもよいことなのだ。
+
+ ――だけど。
+
+京太郎「……帰ろう」
+
+ 話しかけることは出来なかった。
+
+京太郎「咲……俺の白でお前の萬子の混一色に放銃してもいいか?」
+
+京太郎「う゛ん゛、い゛い゛よ゛(裏声)」
+
+友人「……何やってんのお前」
+
+ 誰もいない教室。
+
+ そこでの一人小芝居を見られていた。
+
+京太郎「ゆーと! 見て分かんないのか? 咲を麻雀に誘う練習だ!」
+
+友人「へー、別のことを誘ってるようにしか見えなかったわ」
+
+京太郎「真剣にやってたのに」
+
+友人「はぁ……まったくお前は。もっと普通に誘えばいいだろ」
+
+京太郎「うっ……そうなんだけど、恥ずかしくってさ」
+
+友人「普通に話すみたいに誘えばいいだけだっつーの」
+
+京太郎「あ、そうだ、ゆーと。麻雀部に入ってくれ」
+
+友人「いいぜ」
+
+京太郎「優しい」
+
+友人「今の感じで咲ちゃんを誘えよ」
+
+京太郎「難易度高い」
+
+友人「ヘタレめ」
+
+京太郎「言い訳できねえ」
+
+友人「じゃ、ちょっと練習してみるか。俺を咲ちゃんだと思え」
+
+京太郎「咲はもっとかわいい」
+
+友人「うるせえ、さっさとやれ」
+
+京太郎「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる! 入部しろ!」
+
+友人「自由意志を尊重しろ」
+
+京太郎「安心しろ! ――俺、須賀京太郎は不可能の力と共にここにいるぜ!」
+
+京太郎「俺が咲の入部を受け止めてやる! だからお前は入部届を持っていけ!」
+
+友人「壮大過ぎる」
+
+京太郎「一緒の部に入部して、友達に噂とかされると恥ずかしいし……」
+
+友人「もはや誘ってねえ」
+
+京太郎「な゛ん゛で゛入゛部゛し゛な゛い゛ん゛だ゛よ゛! ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
+
+友人「文字数稼げて便利!」
+
+ いよいよ咲を誘う時がやってきた。
+
+ 特別なセリフも気障な口説き文句もいらない。
+
+ ただ普通に言えばいいだけだ。
+
+ 外で本を読んでいる咲を見つけた。
+
+友人「さあ、行け!」
+
+京太郎「あ、明日にしないか?」
+
+友人「行け!」
+
+ どんと押された。
+
+京太郎(ええい、ままよ!)
+
+京太郎「咲~!」
+
+咲「京ちゃん」
+
+京太郎「まーじゃ……」
+
+咲「まーじゃ?」
+
+京太郎「まあ、じゃあ、学食へ行こうぜ!」
+
+咲「その間投詞いる?」
+
+
+ 食堂。
+
+ 咲にレディースランチを注文してもらってる間に友人に首を絞められた。
+
+友人「何やってんだお前は」
+
+京太郎「く……苦しい。だ、だってさ」
+
+友人「だってじゃねえ」ギュウウウウ
+
+京太郎「しまってるしまってる! ここで決める! ここで決めるから!」ゴキゴキゴキ
+
+咲「はい、レディースランチ、持ってきたよ」
+
+京太郎「おーう……サンキュー……」ギュウウウ
+
+咲「仲いいね、二人!」
+
+京太郎「これが、仲良くしてるように……見えるのか」ゴキゴキギュウ
+
+咲「じゃれてるだけでしょ?」
+
+ それはひどい。
+
+ 友人は一旦その場を離れ、遠くから俺達を見守ることにしたようだ。
+
+ 正直友人にはこの場にいてアシストをして欲しかったのだか、この件は俺一人で片付けるべき問題らしい。
+
+京太郎「咲……あのさ」
+
+咲「おいしい?」
+
+京太郎「あ、美味いぜ」
+
+咲「それはよかった」
+
+京太郎「…………ういっす」
+
+ タイミングが見つからない。
+
+ あれ、勧誘ってこんなに難しいことだっただろうか?
+
+ ……いや、これは俺のせいだ。
+
+ 俺が咲に特別な感情を抱いているから、こんなふうになってしまったのだ。
+
+ 今は咲への感情は切り離そう。
+
+ 大切な友人を部活に誘う。それだけのことだ。
+
+京太郎「咲、麻雀部に入らないか」
+
+ 溜めもせず、情緒もなく、京太郎はそう言った。
+
+咲「……ごめん京ちゃん、麻雀キライだから」
+
+京太郎「キライってことは、麻雀、出来るんだ?」
+
+咲「まあ、そうなるけど」
+
+京太郎「なら、大丈夫だ」
+
+咲「大丈夫って……」
+
+京太郎「どんな理由で麻雀が嫌いになったのかは知らねーけど、うちの麻雀部なら大丈夫」
+
+京太郎「あそこなら、あのメンバーなら、たとえ嫌いでも――楽しく麻雀を打てる」
+
+咲「……よくわかんないよ」
+
+京太郎「えっと、つまりだな……あの、その」
+
+咲「でも、京ちゃんがそう言うなら、そうなのかもね」
+
+京太郎「咲……」
+
+咲「いいよ、わかった。行ってみる」
+
+ 部室。
+
+ 新メンバー友人と見学の咲を連れてやって来た。
+
+京太郎「みなさんいますかー!!」
+
+本藤「しっ、須賀! 静かにしろ」
+
+京太郎「ど、どうしたんです?」
+
+本藤「部長が眠っていらっしゃる」
+
+京太郎「はあ」
+
+本藤「怖いから起こしてはならない」
+
+ 本藤先輩、トラウマ克服できてねえ。
+
+本藤「っと、客か?」
+
+ でかい図体、威嚇するような面で本藤先輩は言った。
+
+ 咲のやつ、怖がらねえよな……?
+
+咲「宮永咲です。よろしくお願いします」
+
+ なんの緊張もない様子で、咲はお辞儀をした。
+
+ そういえば咲は他人に物怖じしないタイプなんだっけか。
+
+友人「こここここんにちは! うううううう梅原友人です」
+
+ ……よっぽどこっちのほうが怖がってた。
+
+和「お茶入れますね」
+
+咲「あっ……さっきの――」
+
+京太郎「お前和のこと知ってんの?」
+
+和「先ほど橋のところで――」
+
+八坂「悪いね、ちょっとこいつに用事があるから先に打っといて!」
+
+京太郎「やっさん?」
+
+ 和の言葉を全部聞く前に、やっさんに腕を引っ張られ、部室の外に出た。
+
+京太郎「どしたよ」
+
+八坂「……あいつはなんだ」
+
+京太郎「どっちのことだ」
+
+八坂「宮永さん」
+
+京太郎「咲か……友だちだけど」
+
+ フラれた相手だとは言えない。
+
+京太郎「……どうしたやっさん、顔色、悪いぞ」
+
+八坂「分かんないのか、お前には」
+
+京太郎「え?」
+
+八坂「……化け物だぜ、あいつ」
+
+京太郎「なっ……」
+
+八坂「いや、魔王か……?」
+
+ 麻雀の強い人間が発する何か。
+
+ それは悪魔だとか魔物だとか、にも例えられる。
+
+京太郎「いやいやいや、ちょっと待てよ。俺もそういうのを感知する力があるんだぜ? でも咲からは特に何も」
+
+八坂「隠してるんだ」
+
+京太郎「…………」
+
+八坂「いや、隠れているのかもしれないな。意図的にか偶発的にかはわからないけど、強さが隠れている」
+
+京太郎「なんでお前はそんなことがわかるんだ」
+
+八坂「同種の物を見たことがあるからだ」
+
+京太郎「同種の……もの?」
+
+八坂「あの日――俺が麻雀をやめた日――見たんだ。あれに似た、なにかを」
+
+ 部室に戻り咲の打ち方を確認する。
+
+京太郎「(……まじかよ)」
+
+八坂「(わざと手を安くしたな。何のためだと思う)」
+
+京太郎「(一位にならないため……とかか)」
+
+ 咲が麻雀を嫌った理由はわからない。だが人が麻雀を嫌いになる理由は限られている。
+
+ その定番といえば、自分が勝つと他の人の機嫌が悪くなる、とかか。
+
+八坂「(一位にならないため、か。それもあるが……それだけじゃない気がする)」
+
+京太郎「(えっ!?)」
+
+八坂「(もう一局見よう)」
+
+ ――そこから始まる物語は、咲と和の物語。
+
+ その日、咲は3連続プラマイゼロを達成したのだった。
+
+ その日の放課後。
+
+一太「部員、九人揃ったのかい」
+
+京太郎「えっと、副会長さん。お久しぶりです」
+
+一太「君ならやると思っていたよ。麻雀部再建」
+
+京太郎「……あと一人、男子が足りてませんよ」
+
+一太「僕を、入れてくれないか?」
+
+京太郎「え?」
+
+一太「君がいれば、会長はもう悲しまなくて済む」
+
+京太郎「よくわからないですけど……入部なら大歓迎ですよ」
+
+ ――こうして、男子も女子も団体戦に出られることになった。
+
+ 一週間後。
+
+ 通学路の途中、京太郎は草むらに隠れて観察していた。
+
+友人「……何してんの、お前」
+
+京太郎「指」
+
+友人「……は?」
+
+京太郎「いま、和が小指にキスしたんだ」
+
+友人「おう」
+
+京太郎「昨日、咲と和は指切りをしてたんだ。隠れて見てた」
+
+友人「本格的に気持ち悪いなお前は」
+
+京太郎「あれは百合名場面名鑑収録『あなたの触れた場所がじんじんするの……』だ!」
+
+友人「もしかしてこれから先、原作にそって百合百合してる様子を観察するだけの話になるのか!?」
+
+京太郎「いいな、それ!」
+
+友人「よくねーよ。あと2週間しかないんだぞ。盛大に何も始まらないにもほどがあるわ」
+
+ 学校。
+
+咲「じゃあお昼一緒に食べようねー」
+
+和「はい、ではまた」
+
+京太郎「咲……おまえ……和と仲良くなったのか」
+
+ 百合ップル誕生への歓喜で、京太郎はそう言った。
+
+咲「うんっ」
+
+京太郎「お……俺もお昼ご一緒してよろしいですか」
+
+ もちろん、百合の観察のためである。
+
+ 合宿をしよう。
+
+ そういうことになった。
+
+ そして合宿の前日。
+
+ 京太郎はある場所にやって来ていた。 
+
+ 百合オンリーイベントである。
+
+ 合宿の日程と重ならないか心配であったが、ギリギリ一日ずれていたのだ。
+
+京太郎「買うぞー! 超買うぞー!」
+
+ pixivで追ってる好きな絵描きさんの新刊を素早く買う。
+
+ しかし、京太郎にとっての本番はこれからだ。
+
+ それは新人の発掘である。
+
+ この業界は常に新しい人が入ってくる。
+
+ そこにある金の卵を探す。やりがいのあることだった。
+
+京太郎「とりあえず、まずは好きなカップリングの同人誌から見ていくか」
+
+ 絵柄も好みな「はるちは本」を発見。
+
+京太郎「あの、読んでみてもいいですか」
+
+女性「どうぞ!」
+
+ ……うん、やっぱり好みの絵柄だ。
+
+??「すみません、俺も読んでみていいですか」
+
+女性「はい!」
+
+ 他に客が来たようだ。
+
+京太郎「あ、俺、邪魔ですか? すみません」
+
+本藤「いえいえ、そんなことは」
+
+ 紙袋を両腕にいっぱい抱えた、いかつい顔の男が、そこにいた。
+
+ まさしく本藤先輩であった。
+
+京太郎「…………」
+
+本藤「…………」
+
+京太郎「き、奇遇ですね」
+
+本藤「お、おう、そうだな須賀」
+
+??「ちょっとあんたら、そんなとこで立ち話してるんじゃねえよ」
+
+京太郎・本藤「あ、すみませ」
+
+八坂「…………」
+
+ つんつん頭の、小柄でツリ目な少年が、そこにはいた。
+
+ 疑う余地なく、やっさんだった。
+
+京太郎・本藤「……」
+
+八坂「や、やあ!」
+
+京太郎・本藤「……あ、この本、一部ください」
+
+女性「ありがとうございます! やった、完売だよイッチー!」
+
+一太「本当ですか!? やりましたねササヒナ先生」
+
+京太郎・本藤・八坂「おっす」
+
+一太「    」
+
+京太郎「……」
+
+本藤「……」
+
+八坂「……」
+
+一太「……」
+
+ あのあと、四人は互いに連携し合い、目当ての同人誌を買い漁った。
+
+ ほとんど無言でである。
+
+ 会場の出口で、その空気に耐え切れなくなった本藤先輩がようやく口を開いた。
+
+本藤「……お前ら明日の合宿の買い物は終わったか」
+
+八坂「あ、まだっす」
+
+京太郎「じゃ、今からみんなで買いに行きますか!」
+
+一太「いいですね、梅原くんも誘いましょう!」
+
+ 三十分後。
+
+友人「みんなで集まって買い物って……。女子じゃねーんだから」
+
+ ぶつくさ言いながらも集合場所にやって来た友人。
+
+友人「お、いたいた。もうみんな集まってんのか」
+
+ 四人は、何か会話をしているようだった。
+
+ タッタッタッと小走り気味に四人に近づき、耳を傾ける。
+
+八坂「女にも性欲はあるんだよ勝手な童貞の妄想を押し付けんな !!」
+
+京太郎「プラトニックラブをバカにしてんのかボケ! 距離感を楽しむものだろうが!」
+
+一太「ひたすらにイチャイチャラブラブしてりゃいいんですよ!」
+
+一太「現実感やら修羅場やらシリアス展開やら、そういうのは作者の自己満足ですよ!」
+
+本藤「笑わせるな! 葛藤や修羅場を乗り越えてこそ真実の愛に辿り着けるのだ!」
+
+本藤「そこに至っていない百合なぞ見せかけ! お前の意見こそ本当の自己満足なのだ!」
+
+八坂「そう、肉体関係まで描かなくても良いみたいな風潮が広まったせいだ!」
+
+八坂「それでアリバイ百合とかいうただの金儲け作品が量産されたんだ!」
+
+友人「よし、帰ろう!」
+
+ こんなやつらと同じ場所にいられるか!
+
+ 俺は一人で買い物するぞ!
+
+京太郎「来たか、ゆーと!」
+
+ 見つかった。
+
+友人「帰ります!」
+
+本藤「今からカラオケ店で朝まで『百合ソング大会&百合談義』をするのだ。貴様には審査員になってもらうぞ」
+
+友人「いやだああああああああああああ」
+
+一太「僕が一番正しいことを証明してみせましょう」
+
+八坂「はっ、笑わせるぜ先輩。今から宗旨変えの準備をしといたほうがいいですよ」
+
+京太郎「つーか――……」
+
+ ――梅原友人はこの日、未来永劫絶対に百合作品を読まないことを心に誓ったのだった。
+
+ ――ただし、ゆるゆりは除く。
+
+ 次の日。合宿の日。
+
+ 合宿棟に向かう前に、京太郎は牌の世界に来ていた。
+
+京太郎「……よう」
+
+牌「京太郎!」
+
+ 牌の笑顔。
+
+ それを見た瞬間、心がチクリとした。
+
+ 牌が見知らぬ男と会話をしていた場面を思い出したのだ。
+
+京太郎「……すまん! 今から合宿なんだ。今日はもう帰る!」
+
+牌「ちょっと待ってよ!」
+
+ 牌に腕を掴まれた。
+
+京太郎「……どうした」
+
+牌「最近、なんか変だよ」
+
+京太郎「……気のせいじゃないか?」
+
+牌「ち、違うもん」
+
+ 牌が握っている場所がじんじんする。
+
+京太郎「ごめんっ!」
+
+ 手を振りほどき、元の世界に戻る。
+
+京太郎「はあ、はあ、はあ……」
+
+ 部室で卓に掴まりながら、呼吸を整える。
+
+咲「大丈夫、京ちゃん?」
+
+京太郎「咲!? 合宿棟に行ったんじゃ……今の、見てたのか」
+
+咲「道に迷っちゃって……いま来たばかりだよ。大きな音が聞こえたからびっくりして」
+
+京太郎「そ、そうか」
+
+咲「京ちゃん……辛そうな顔してるよ?」
+
+京太郎「……んなことねーよ」
+
+ 誤魔化すしかなかった。本当のことを言うわけにもいかないし。
+
+咲「……信じてあげて、京ちゃん」
+
+京太郎「咲……?」
+
+ 事情がわからないはずなのに、咲はそう言った。
+
+ もしかしたら何となくバレているのかもしれない。
+
+ まさか俺が牌の世界に行ってるとまでは思わないだろうが。
+
+ ……そうだ。ちゃんと聞こう。誰と話していたのか。その人とどんな関係なのか。
+
+ 勝手に勘違いするのはやめよう。
+
+
+ 次の日。合宿中。
+
+ 早朝に合宿棟を抜けだした京太郎は部室に向かった。
+
+ 牌に会いに行くためだ。
+
+ 旧校舎にはまだ誰もおらず、静かな空気が薄気味悪かった。
+
+ 卓の上に並べられた牌に触れようとして、手が止まった。
+
+京太郎「まだ怖がってるのか、俺は」
+
+ 真実を知るのが怖い。
+
+ 出来るのならば真実を知らないままで生きていたかった。
+
+京太郎「なんたるヘタレ具合だよ、俺は……!」
+
+ 目を瞑って、勢い良く牌を握りしめる。
+
+ 
+ 牌の世界。
+
+ 最近はどんどんと明るくなっていった牌の世界も、最近また少し暗くなった気がする。
+
+京太郎「牌……」
+
+牌「……来てくれたんだ」
+
+ 視線が合う。
+
+ どうしようもなく逸らしたくなったけど、我慢した。
+
+ 目を逸らしてはいけない。
+
+ 逸らした瞬間にまた勇気を失ってしまいそうだった。
+
+京太郎「牌、聞きたいことがある」
+
+牌「……なに?」
+
+京太郎「10日ほど前、お前が会話してた男、あいつ誰だ?」
+
+ 聞いてしまった。
+
+ 怖い。
+
+ どうしてなのかわからないけど怖い。
+
+ 牌は、ゆっくりと口を動かした。
+
+牌「お兄ちゃんだけど?」
+
+京太郎「………………」
+
+牌「?」
+
+京太郎「……お兄ちゃん?」
+
+牌「うん」
+
+京太郎「あ……は……はははは!」
+
+牌「え!? 笑うとこ!?」
+
+ なんだ、なんだ、そういうオチか!
+
+ うじうじ悩んでいたのがアホらしい。
+
+ さっさと聞いてしまえば楽だったのに。
+
+京太郎「……よかった」
+
+牌「京太郎……」
+
+京太郎「牌……」
+
+ 自然と、二人は体を近づけあった。
+
+ そして――お互いの身体が触れ――。
+
+卓「妹を貴様には渡さーーーーーーーーーーーーん!!」
+
+ 触れる前に突き飛ばされた。
+
+卓「この獣め! 我が妹に気安く触れるとは!」
+
+牌「あ、卓兄! おはよ」
+
+卓「うへへへへ、おはよ我が妹よ」
+
+京太郎「何だお前は!」
+
+卓「我か? 我は《麻雀 卓》! 配牌を操る神なり!」
+
+京太郎「配牌を操る、神?」
+
+卓「敬い給えよ!」
+
+京太郎「なーるほど……なぁ……」
+
+卓「なんだ!?」
+
+京太郎「お前かあああああ! 俺の配牌を8シャンテンとかいう糞配牌にしたのは!!」
+
+卓「そのとおりだが?」
+
+京太郎「だが? じゃねえ! さっさと治せ! ろくに麻雀できねーよ!」
+
+卓「我から妹を奪おうとする蛮族にはピッタリの誅罰だ」
+
+京太郎「悪魔あああああああああ!」
+
+卓「野蛮人がああああああああ!」
+
+牌「二人とも元気だねー」
+
+ 牌はニコニコしていた。
+
+牌「卓兄、京太郎の配牌を良くして、とまでは言わないけど、普通に戻してあげてよ」
+
+卓「な、なぜだ我が妹よ! どうしてこんなやつの味方をする!?」
+
+京太郎「へっ」ドヤッ
+
+卓「ええい、うっとおしい!」
+
+牌「お願いだよ」
+
+卓「く……」
+
+牌「お・に・い・ちゃ・ん?」
+
+卓「任せ給え!!」
+
+ あれが兄という種族か……。なんと業の深い……。
+
+卓「我が妹の頼みだから仕方なく貴様の配牌を普通にしてやったが……よく覚えとけ! これは貴様を認めたわけではない!」
+
+京太郎「わかってるよ」
+
+卓「貴様に妹はやらん!!」
+
+京太郎「わかりましたってば、お義兄」
+
+卓「おいいまてめえなんつった」
+
+京太郎「つーかマジモンの兄妹なのか」
+
+牌「んーとね、神様になってから兄妹になったんだよ。牌と卓は兄妹関係になる決まりなのだ」
+
+卓「我は本物の妹と思っておるぞ!」
+
+京太郎「オーケーオーケー」
+
+卓「ええい、聞けいっ!」
+
+ ……さてと。
+
+ ここらで一つ、片をつけよう。
+
+ 今あるピースで思い出せることは全て思い出した。
+
+京太郎「さて……そろそろ覚悟を決めるか」
+
+牌「覚悟?」
+
+京太郎「逃げていたことに立ち向かう」
+
+ 合宿の起床時間は7時半。
+
+ 現在は6時半。あと1時間ある。
+
+ 京太郎は自分の家に向かった。
+
+京太郎「母さん」
+
+母「どうしたの、京太郎。合宿中でしょ」
+
+京太郎「俺が小学校1年生だった頃のことを、教えてよ」
+
+母「……そっか。もう、いいのね」
+
+京太郎「もう子どもでいられる年齢でもないしな」
+
+母「ちょっと待ってて」
+
+ 京太郎の母は薄いアルバムを持ってきた。
+
+母「これが、その時の写真よ」
+
+ アルバムを受け取る。
+
+ 薄くて小さいアルバムなのに、ずしりと重く感じた。
+
+ ゆっくりアルバムを開く。
+
+京太郎「……ああ、そうか……やっぱり、そうなのか」
+
+ そこに写っていたのは四人の子ども。咲、照、京太郎、そして――牌ちゃん。
+
+京太郎「いや――牌ちゃんじゃない――みなも――宮永みなも」
+
+ あの日、8年前。飛行機事故で命を落とした少女。
+
+ 咲の従姉妹である少女。
+
+ 俺が――。
+
+ 初めて好きになった少女。
+
+8・終