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4・
京太郎「別に俺、メイド服でもいいですよ」
まこ「いや、そりゃぁちぃと……」
京太郎「ていうか、メイド服の方がいいです」
まこ「別にそがぁに頑張らのぉても……」
京太郎「ぶっちゃけ、メイド服が着たいです」
まこ「本音はそれか!」
長期的な麻雀ブームの到来により、雀荘も増加傾向にある。
それにつれて雀荘同士の客取り競争は激化しており、サービスの多い雀荘も最近では珍しくなくなってきた。
ペット雀荘。カラオケ雀荘。レストラン雀荘。添い寝雀荘。膝枕雀荘。ネットカフェ雀荘。
商売って大変である。
そして、雀荘「Roof-top」はメイド雀荘であった。
京太郎「メイド雀荘なんだから俺もメイド服を着てしかるべきですよね」
まこ「執事服を着んさい」
京太郎「メイド服がダメなら全裸でも……!」
まこ「執事服を着ろ」
京太郎「……うっす」
しぶしぶ執事服を着る。メイド服のほうが良かったけど、それでもやはり普段しない格好というのは新鮮だ。
執事服を着ると、不思議と気持ちがシャンとした。
紳士的な性格になったかのようだった。
まこ「お、ええのぉ。似おぉとるよ」
京太郎「ふふ、ありがとうございます。染谷先輩のメイド服も美しい! 私、ドキッとしました」
まこ「な、なんかキャラが変わっとらんか?」
京太郎「そうですか? 私は、いつもどおりですよ。普段と格好が違うので、そういう風に見えるのかもしれませんね」
まこ父「君が今日のバイト……須賀君だね。ふむ……私の若いころにそっくりだ」
京太郎「そうなんですか? 光栄です」
まこ父「麻雀の修行も兼ねてるんだったか?」
京太郎「はい。バイトで修行というのは誠実さに欠けるかもしれませんが……」
まこ父「はっはっは、構わないよ。……実はね、私も高校生だったころ、ここで君と同じようなことをしたんだ」
京太郎「バイトしながら修行、ですか」
まこ父「そのときこの雀荘の看板娘だった染谷奏――それが今の私の妻だ」
京太郎「婿入りですか? ロマンチックな話ですね」
まこ「な……なんか恥ずかしぃけぇ、あんたら、やめぇ」
まこ父「奏の父――つまりまこの祖父も似たような経験があるらしい」
京太郎「なにか……運命のようなものを感じますね」
まこ「ひょっとしてこれわしで遊んどる?」
客A「すみませ~ん! アイスコーヒーアリアリで!」
客B「あ、俺はナシナシ頼むわ」
客C「こっちはアリナシー」
客D「アリアリこっちにもひとつ」
客E「二人目と同じやつ、よろしゅう」
客F「じゃあこいつの逆をひとつ」
客C「やっぱりアリとナシ逆にしてくれる?」
客A「俺も逆にしてもらおうかな」
客G「どん兵衛お願い!」
客H「ソースかつ丼」
客I「かつ丼にとき卵じゃなくソースかける野蛮人が! あ、レモンステーキお願いします」
客J「レモンステーキはステーキじゃない。佐世保市民はおかしい。冷茶ひとつ」
客K「私は熱茶をお願いしようか」
客L「ここまでで一番多く注文されたやつをひとつ」
客M「それじゃ僕は二番目に多く注文されたやつにしようかな?」
京太郎「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
暗記ゲームかよ。
暗記力にはそこそこ自信があるけど。
客N「わー今日は執事さんがいるー! 私今日この人と打つー!」
京太郎「ご指名ありがとうございます」
客O「ふっ、執事か。たまには趣向を変えて執事と打つのも悪く無い」
京太郎「ありがとうございます」
客P「ちょっと執事さん。手袋かじってみてください」
京太郎「はい」
客P「……イイッ」
京太郎「ありがとうございます」
5半荘終了。だが10半荘ぐらいやったような疲れだった。
京太郎(今日の成績は……連対率4割、トップは0……ノーレートじゃなかったらタダ働きになるところだった)
客Q「店員さん、本走、入ってくれよ」
京太郎「はい、ただいまー……って、あっ」
客Q「よう、京ちゃん」
それは京太郎の新しいクラスメイトである八坂という少年だった。
京太郎「やっさん……麻雀打つんだな」
八坂「遊びだけどな」
京太郎「麻雀歴は?」
八坂「秘密」
京太郎「強いのか」
八坂「俺にとって麻雀は遊びだから……」
京太郎「強いんだろ?」
八坂「……どうしてそう思う」
京太郎「纏っているオーラが強者のそれだ――なんて言えたらかっこいいんだけどな。俺はそういうの見えないし、ただの勘だ」
八坂「頼りにならない勘だな。……俺は弱いよ」
サイコロを回す。親は八坂だった。
八坂「正直、諦めてたんだ」トンッ
京太郎「なにを」
八坂「麻雀」
京太郎「……へえ」
八坂「ありがちな挫折を経験してな。本当にありがちでつまんない挫折を」
京太郎「麻雀が嫌いになったってか」
八坂「お前は好きなのか」
京太郎「……………………」
八坂「まあいい。別に嫌いになってなんかいねえよ。ただ麻雀を真剣にやるのがアホらしくなっただけだ」
京太郎「真剣にやったほうが楽しいだろ」
八坂「思ってもないこと言うなよ」
京太郎「ははは……ひどいな」
八坂「俺はな、去年までクラブチームに入ってた」
京太郎(やっぱりか……)
八坂「恵比寿のJrユースだ」
京太郎「!」
八坂「俺はプロになりたかった」
京太郎(おい……おいおいおい、まじかよ……。只者じゃないって気はしてたけど、Jrユース出身とはな……)
Jrユースとは中学生対象のプロ養成組織。恵比寿はあの小鍛治健夜が過去に所属していた強豪チームだ。
そこのJrユースのメンバーということはつまり、麻雀のエリート中のエリートということ。
京太郎「かんべんして欲しいぜ……負けてもへこたれない精神とか、俺にはねーのに」
他者を圧倒する強運も。
負けても次に向かおうとするガッツも。
……麻雀が好き、とかいう言った者勝ちな言葉も。
八坂「お前の麻雀歴は」
京太郎「一年とちょっと、お前とは比べ物にならないくらい短いよ」
八坂「嘘だろ、それ」
確信めいた言い方だった。
京太郎「勘、か?」
八坂「違えーよ。見たことあるんだ、お前を」
京太郎「………………」
八坂「ジュニアチームでな」
Jrユースが中学生対象のプロ養成組織なら、ジュニアは小学生対象のプロ養成組織だ。
八坂「確かあれは長野のジュニアチームだった」
八坂「たった一度だけ戦って――それ以降そいつに会うことはなかった」
八坂「あのとき俺は誰よりも強かった」
八坂「小学生に敵はいないと思ってた」
八坂「井の中の蛙の典型だな」
八坂「だけど、お前に――負けた」
八坂「運が悪いとか、調子が悪いとか、そういう言い訳もできないほど完敗だった」
なにも、答えられない。
言葉がなかった。
八坂「……配牌6シャンテンから和了る確率は10パーセントを切るとも言われてる」
八坂「お前の配牌は6シャンテンと言っても最悪な方の6シャンテン」
八坂「七対子がなきゃ8シャンテンのクズ配牌。和了る確率は5パーセントも無いんじゃないか?」
八坂「本来、お前は一回も和了れないのが正しいんだ」
八坂「なのにお前は、負けてるとはいえ和了れてる」
八坂「それはお前が強いから」
八坂「配牌運は最悪。ツモ運も凡人並」
八坂「だけどお前は、それ以外のパラメータがマックスなんだ」
八坂「麻雀漫画でよくいるよな? すごい観察眼を持つやつ」
八坂「相手の視線移動、発汗、理牌の動き、どこから捨てたか、文字で書くだけなら簡単だからみんなが使いたがる設定」
八坂「言うまでもなく、リアルじゃほとんどありえない、出来るわけがない、そういう観察眼」
八坂「そんな馬鹿げた技術を馬鹿なお前は本当に身につけちまってるんだ」
八坂「当然、点数期待値の計算を完璧にこなして、どこで押すか引くかを理解してな」
八坂「言うまでもなく強くなりえたのに」
八坂「それを無に帰す配牌の運の悪さ」
八坂「苦労も努力も水の泡と化す悪運」
一呼吸おいて、彼は言った。
八坂「……お前、いったい何をした」
八坂「何をしでかしたらそんなことになる」
八坂「なぜお前は麻雀をやめた」
八坂「8年前、なにがあった」
京太郎「……さあ、知らね」
八坂「知らないってことはないだろ」
京太郎「……誤魔化してるわけでも、煙にまこうとしてるわけでもないぜ? そんな昔のことはもう忘れた」
八坂「ふーん、忘れた、か」
京太郎「でも1つだけ言っとく。長野のチームをやめたのは、たぶん引っ越しが原因だ」
八坂「引っ越し?」
京太郎「小2の頃に長野から奈良の方へ引っ越したんだよ。それが原因でやめたんじゃねーの」
八坂「まるで他人事のようだな」
京太郎「奈良に行く前のことはもう記憶も薄いし……なによりその頃を思い出そうとすると頭が痛くなる」
八坂「やっぱりなんかあったんじゃねえか」
京太郎「知らない。あったのかもしれないし別に何も無かったのかもしれない。無理に思い出そうとは思わない」
八坂「ふん、ならいい」
そのとき京太郎は二萬五萬の両面待ちでテンパイ。
珍しく役がすでに一つあったためリーチをかけない。
リーチすべき局面ではあったが、そのとき京太郎は八坂の力を見たいと考えた。
リーチをかけてしまうとその力を見過ごすかもしれなかったのだ。
八坂「カン」
二萬でカン。京太郎の和了り牌が一種類消えた。
八坂「追加のカンだ」
五萬でカン。これで現在の形からは和了れない。
京太郎(三萬と四萬の使い道がほとんどなくなった……。これがやっさんの当たり牌なら……恐ろしい打ち手だ)
京太郎(試してみたい)
選択したのは三萬。四枚見えてる五萬から考えてもっとも妥当なはずの牌。
八坂「ロン、6800」
京太郎「70符……こんなに符が怖いと思ったことはないぜ」
そして今日のバイトはこれで終了。
いろいろあった一日だった気がする。
牌の世界。
今日も来た。
部室に一番乗りして牌に触れ、この世界に来るのが京太郎の日課だった。
京太郎「ひさしぶり」
牌「昨日も来たじゃん」
京太郎「24時間ぶり」
牌「……うん」
一番最初に来たときより、この世界は少し明るくなった気がする。
深海から少し海面に上昇したかのような。
いや、比喩はいらない。
この世界は海の中を模した世界だった。
暗くて分かりにくいが泡があり、変な形の魚がいる。
息苦しいとかそういうのはなく、水族館にいる感じ。
京太郎「今日はBDプレーヤーとまどマギを持ってきたぞ」
牌「まどマギ!? SFの皮をかぶった百合ものとして有名な、あのまどマギ!?」
京太郎「そうそう、ガチ百合アニメとして人気なまどマギ」
牌「グッジョブ!」
京太郎「任せろ」
牌「ちょ、これの使い方は? BDプレーヤー使うの初めて!」
京太郎「あ、これはな」
牌「近づかないで!」
京太郎「無茶言うな」
いけすかない神様にささやかな仕返しをしてやろうと後ろから抱きつくように使い方を解説する。
牌「く……屈辱!」
京太郎「こうしないと教えにくい」
牌「うそだうそだ! 嫌がらせしようと企んでるんだ!」
京太郎「んなわけないだろ……俺はそういうことはしないよ」
嫌がらせじゃなくて仕返しだし。
牌「くぅぅ……まどマギのために我慢、まどマギのために我慢……」
京太郎「……一応神様なんだろお前」
牌「一応も何も神様なのだ!」
京太郎「はいはい」
そういえばまどかも神になったわけだし、こういう神様が居てもおかしくはないか。
そして、操作方法を教え終わり、そっと牌から離れる。
牌「体が温い……」
京太郎「はっはっは」
牌「気持ち悪い……」
京太郎「あきらめろ」
牌「まどマギを見て忘れるのだ……」
京太郎「おーう、そうしろそうしろ」
二日目のバイトが始まる。
昨日より慣れたとはいえ、やはり忙しい。
やっさんが来るんじゃないかと待ち構えていたが、姿を現すことはなかった。
三日目。
京太郎「な、なんですか……このメイド服」
休憩時間、京太郎はピンク色と青色の奇妙な改造メイド服を発見する。
まこ「いいじゃろ、それ」
京太郎「だ、誰が着るんですか……これ」
まこ「それがのぉ……誰も着なぃんじゃ。寂しぃわ」
京太郎「百合的には正統派メイド服しか認めない」
まこ「百合的……? 着てみたら良さがわかるゆぅて思うんじゃが」
京太郎「これはないと思いますけどねえ……。あ、ちょっと着てみていいですか」
まこ「着るんかい」
精神を女の子にして、服に袖を通す。
まこ「どうじゃ?」
京太郎「アリですね」
アリでした。
広がっていくストライクゾーン。アウト取り放題になりそうで怖い。
四日目。
女性A「ソースかつ丼はないだろ! カツ丼好きをバカにしている!」
女性B「そっちこそ! んな心の狭さでかつ丼好きを名乗るなんて、おこがましいにも程がある! ソースカツ丼のほうが旨いのよ!?」
女性AB「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」
まこ「京太郎」
京太郎「はい」
まこ「行ってこい」
京太郎「嫌すぎる……」
結局二人をなだめるために麻雀を打ち、京太郎はミンチにされる。
京太郎「これじゃ出来上がるのはミンチカツ丼……これが話のオチじゃないことを祈る、ぜ……」ガクッ
結局二人は「カツ丼ってなんでも美味しいよね」という結論に到り、二人仲良く外へかつ丼を食べに行った。
疲れ損である。
五日目。
今度は牌の世界。
ちなみに三日間ほど牌がアニメに夢中で、話しかけてもほとんど返事をしなかったので、語るに語れない。
牌「私、まどか教の信者になる!」
京太郎「こらこら神様」
牌「まあそれは冗談として」
京太郎「冗談でよかった」
牌「急いでコミスタとパソコンを買ってきて」
京太郎「……おい、お前」
牌「今ならコミスタを持ってれば無償でクリスタも手に入るんだよ! このサービスもうすぐ終わるらしいから! 急ぐのだ!」
京太郎「時間軸おかしくなるからやめろ」
牌「同人誌描いて……コミケで発表するのだ」
京太郎「コミケ行けないだろ」
牌「大丈夫、私が行くのは天上界のコミケだから!」
京太郎「何やってんだよ神様たちは!」
牌「ブッダさんがいつも開催するんだけどね」
京太郎「オーケー、わかった。バイト代で買ってくるから……そこまでにしておこう」
楽しそうだな天上界。
百合オンリーイベントはあるんだろうか。
牌「まどマギについてだけど」
京太郎「続くのか」
牌「男にうつつを抜かした青いやつが不人気なのは納得だね」
京太郎「いや待てよ不人気だなんて誰が決めたんだ捏造だよそんなのは。『杏さや』も『さや杏』も最高だったろ」
牌「……京太郎ってさ、最初は対立してる系が好きだよね」
京太郎「確かに」
牌「それも良かったけど『ほむまど』には勝てないよね」
京太郎「何でだよ!」
一人分、キャラ不在のまま、激論が始まったのだった。
バイト最終日。
まこ「お疲れさん、よう頑張ったの」
京太郎「一週間、ありがとうございました。……なんだか寂しいですね」
まこ「一生うちで働いてもええよ?」
京太郎「それも、いいですね」
本当に、そう思った。
まこ「この一週間、どうじゃった?」
京太郎「こう言ったら失礼なのかもしれませんけど……楽しかったです」
まこ「失礼じゃない、わしもそう思うとるし」
京太郎「そうなんですか?」
まこ「わしゃぁね、将来この雀荘を継ごうて思うとる」
京太郎「……他のことをやりたいと思ったことってないんですか」
まこ「ある。当然な。昔はわしも『親の敷いたレールは嫌』なんて軒並みなことを言ぅとったし」
まこ「ホンマはここでの仕事が一番好きなんにのぉ」
まこ「ただ反発したいっちゅう理由ばっかしでそがぁなことを言ったんじゃ」
京太郎「何だか、染谷先輩がそんなことを言う姿、想像出来ないです」
まこ「初めはのぉ、この雀荘はお姉ちゃんが継ぐはずじゃったんだんじゃ」
京太郎「お姉さんいるんですか?」
まこ「知らんかったか?」
京太郎「なんとなくお兄さんがいるイメージでした」
まこ「カツオお兄ちゃんなんかおらんわ」
そこまでは言ってない。
まこ「お姉ちゃんはキャビンアテンダントになる、って言ぅて、家を出てったわ」
まこ「今は海外の航空会社のキャビンアテンダントをやっとる」
京太郎「うおっ、海外ですか」
まこ「海外から徐々にステップアップして、日本の航空会社に入るんが普通のルートらしい。今はベトナムじゃって」
京太郎「すごいなぁ……真似できない」
まこ「この前は研修で無人島に行って、『この蛇は食えるから探して捕まえてこい!』やら『この虫は毒があるから倒し方を教える!」
まこ「こうだ! さあお前ら、探して殺して連れて来い!』やら『イカダを作ってここから脱出しろ!』とか言われたらしいわ」
京太郎「わお……」
なんだかイメージと違う。
きらびやかなイメージとは真逆の体育会系的な研修。
京太郎「今どき、そんなの必要なんですかね……。遭難してもすぐに救助が来るでしょうし」
京太郎「なにより、飛行機ってほとんど事故らないんでしょ?」
まこ「そうじゃのう……確か……最後に飛行機が事故を起こしたのは……」
この話をするべきじゃなかったのかもしれない。
深く掘り下げてはいけなかったのかもしれない。
今さら後悔しても遅いのだけど。
そう思わずにはいられなかった。
まこ「8年前。そう8年前じゃな。あれが最後の飛行機事故じゃ」
目の前の景色が目まぐるしく変わっていく。
巻き戻すかのように、意識が過去に過去にへと向かっていく。
血液の流れがはっきりと感じられるようになった。
吐き気がする。
意識は、奈良へ引っ越したあのときに到達した。
京太郎(戻るな……!)
京太郎(これ以上、戻るなっ!!)
思い出せないはずの、消えてしまったはずの9年前。
そこにいたのは見覚えのある少女、見知らぬ年上の少女――。
――そして、牌ちゃん。
京太郎(俺は、昔――牌に会ったことがあるのか?)
止まっていたと思っていた時間は、止まってなんかいなかった。
ずっとずっと、進んでいたのだ。
ただそれを、止まったと信じて投げ出した。自分を騙して消し去った。
彼は、その一つを取り戻す。
4・終